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異世界転移したと思ったら、実は乙女ゲームの住人でした  作者: 冬野月子
第5章 繋がる過去

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06

「疲れた……」

ルーチェはソファへと身を投げ出した。

「あのエロ王子……何が〝変えていく〟よ。セクハラが増しただけじゃない」

「……でも、確かに変わったらしいわ」

ロゼはソファの空いている片隅へと腰を下ろした。

「真面目に仕事してるってお兄様が喜んでいたわ。それに……これまで自分から女性に触れようとする事は無かったんですって」


「そういう変わり方は求めてないから!」

ルーチェはがばと起き上がった。

「確かに……ゲームの殿下もキス魔だったけど人前ではしなかったしもっとクールだったから!」

ダンスの練習の最中、フェールに注意を受けながらもユークは隙あらばルーチェにキスをしようとしたり必要以上に身体を密着させたりしていた。

耐えかねたルーチェがフェールやヴァイスが引くほどの派手な音を立ててユークの頬を叩いたけれど、むしろ嬉しそうで全く懲りていないようだった。

「でもルーチェと殿下のダンスは素敵だったわ」

思い出しながらロゼは目を細めた。

「さすが〝ヒロイン〟と〝ヒーロー〟ね」

「……それはどうも……」

「私はまだ全然踊れないから……」

ロゼはため息をつくと視線を落とした。

「正直……ダンスって好きじゃないの。思い通りに身体は動かないし、すぐお兄様に怒られるし……」


「……でも、ロゼも楽しそうに踊っていたじゃない」

「――ヴァイス様が、私と踊るのは楽しいって言ってくれたの」

ロゼの口元に笑みが浮かんだ。

「それを聞いたら……気持ちが楽になったの。だからヴァイス様と踊るのは楽しいわ」

「あら、惚気?」

「そういうんじゃないわ」

「――確かに、ダンスを上手く踊れるかは貴族にとって重要だけど。ロゼはずっと領地で療養していた事になっているから多少下手でもいいんじゃないかしら」

顔を上げたロゼを見てルーチェは微笑んだ。

「ヴァイス様と踊っている時のロゼは本当に楽しそうで、幸せそうだったもの」


「……ありがとう、ルーチェ」

「殿下と踊った時もそれなりに楽しそうだったけど。何を話していたの?」

途中、パートナーを変えて踊る事になりロゼはユークと、ルーチェはヴァイスと一曲踊ったのだが、ロゼたちは何やら小声で話をしていたのだ。

「殿下に聞かれたの、ルーチェが好きなものは何かって」

「……何て答えたの?」

「秘密」

ふふっとロゼは微笑んだ。

「贈り物をしたいそうだから、その時のお楽しみよ」

「……怖いんだけど」

「それと、どういう男性が好きかって」

「――それは何て答えたの」


「頼り甲斐のある人、でいいのよね?」

ロゼは首を傾げた。

「……それは、そうね」

「あと殿下の顔は好みだって言っていたと伝えたわ」

「言っちゃったの?!」

「だって自分が好かれる要素があるか、とても気にしていたんだもの……ダメだった?」

ロゼは眉を曇らせた。

「……いや……まあ良いけど……」


「殿下はルーチェに好かれたくて仕方ないみたい」

ロゼはルーチェの顔を覗き込んだ。

「ルーチェは殿下の事、どう思っているの?」

「どうって……エロ王子?」

「それだけ? ドキドキしたりしないの?」

「……うーん……」

ルーチェは首を傾げた。

「何か……行動が子供っぽいというか。ときめかないのよね」

「でも何度も……キス……してるのでしょう?」

そう言うロゼの頬が赤くなった。

「……キスしたのにときめかないの?」

「――そういう雰囲気じゃないし」

ユークにキスされる時は向こうが一方的にしてくるばかりで、ムードや色気といったものはない。

「やっぱりムードって大事だと思うのよね」

「そうね……」

自分へ向けられる好意も……キスも、不快なものではないけれど。

正直、ルーチェはまだユークに対して恋愛的感情は抱けなかった。


「ロゼはお披露目と婚約に向けて順調なのね」

今日のダンスの練習も、その後のお茶の時間も。

ヴァイスがロゼを見つめる視線はとても優しくて、ロゼのヴァイスへ向ける笑顔も穏やかで幸せに満ちていた。

「……うん……」

頷いたロゼの顔が曇ったのを見て、ルーチェは眉をひそめた。


「何か心配?」

「……少し……」

ロゼは視線を落とした。

「ヴァイス様の……お兄様が……」

「――あの怖いって言っていた人?」

ルーチェは面識がないが、ロゼがひどく怯えていたのは知っている。

「……悪い噂があるんですって」

「悪い噂?」

「よくない商人と繋がりがあるとか……」

ロゼは自分の手をぎゅっと握りしめた。

「――あの目が怖いの」

「目?」

「すごく怖くて……思い出すだけでも……」

「ロゼ」

ルーチェはロゼの手に自分の手を重ねた。

「怖いなら思い出さないで」


「私――あの目を知っているの。ずっと昔から……」

「どういう事?」

「……分からないけど……ずっとずっと前から知っているの」

落としたままの視線は虚ろで何も見ていないようだった。

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