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異世界転移したと思ったら、実は乙女ゲームの住人でした  作者: 冬野月子
第5章 繋がる過去

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05

「――どうして殿下がここにいるのですか」

思いがけない人物の登場に、ルーチェは顔を引きつらせた。


「己の想い人が他の男と踊ると聞いて、黙って見過ごす事など出来ないだろう」

「そんなのいくらでもあるではないですか」

「練習という事は何度も踊るのだろう。ありえないな」

「……仕事はどうしたんです」

「急ぎは終わらせてきたぞ。あとは帰ってからで良いとオリエンスも言っている」

ルーチェとは対照的に笑顔でユークは答えた。

「ですが……」

「いいから始めるぞ」

会話を断ち切らせるようにフェールが手を叩いた。


ルーチェの今後の待遇の事でひとしきり揉めた後、結局しばらくはまだロゼの家で暮らす事となった。

ユークとしては侍女に復帰させて側に置きたいのだが、妃になる可能性のあるルーチェを侍女として働かせるのはいかがなものかとオリエンスが反対した。

また身分が子爵令嬢であるのも今後問題が起きるとして、ならばオリエンスのアズール公爵家の養女とすればいいとなったのだが、今度はユークが『他の男と同じ家に住むなどあり得ない』と、ルーチェがアズール家に行く事を渋った。

フェールも交えて話し合った結果、当面はノワール家で暮らしてお披露目に向けて淑女教育を受けるロゼと一緒にルーチェも学ぶ事になったのだ。

ロゼとしても、一人で学ぶよりも友人と一緒の方が気も楽になるし、ルーチェとしても高位貴族の知識を得る機会となり、また今後本当に王太子妃となるならば妃教育の一環ともなる。

皆に得だという事でまとまったのだ。


そして今日はダンスの練習日で、お披露目でロゼと踊るヴァイスがノワール家に来る事になっていた。

ルーチェの相手はフェールが務める予定だったのだが――何故かヴァイスと一緒にユークも現れたのだ。


ピアノの音に合わせて二組が踊り始めた。

「ほらロゼ! 背筋が伸びていない!」

途端にフェールの叱責が飛んできた。

「指先まで気を抜くなど言っているだろう!」

「なかなか厳しい兄だな」

くるりとロゼを回してヴァイスが言った。

「はい……」

普段はロゼに甘いフェールだったが、こと勉強に関してはとても厳しかった。

ダンスの経験など日本ではなく、そうすぐに踊れるものでもないという言い訳は通用しなかった。――そのおかげで上達が早いと両親は褒めてくれるが、フェールに言わせればまだまだらしい。


ヴァイスももう何年もダンスなど踊っていないと言っていたが、幼い頃から教育されてきたからか、運動能力が高いからか、その動きは安定していてロゼを上手くリードしていた。

視線をもう一組に向けると、ユークはさすが王子だけあってその踊りも優美だった。

ルーチェもあまり踊る機会はないと言っていたけれど、ユークに合わせて淀みなく踊っている。

――二人が踊る姿は華やかで、ゲームで見た画像そのものだった。

(私だけが……下手なんだ)

両親は褒めてくれるけれど、兄の言う通りロゼの踊りはまだまだぎこちない。

お披露目まで二ヶ月ほどしかないのに……これでは家族に恥ずかしい思いをさせてしまうだろう。


「ロゼ? 大丈夫か?」

表情の暗くなったロゼを見てヴァイスが声を掛けた。

「疲れたか」

「いえ……大丈夫です」

ヴァイスを見上げてロゼは笑顔を向けた。

「あまり無理はするな」

「していないです……それにヴァイス様と練習する時間はあまりありませんから」

多少無理をするくらいでなければ上達は出来ないのだろう。


「ロゼは頑張り屋だな」

ヴァイスは微笑んだ。

「しかし、ダンスというのは楽しいものなんだな」

「え?」

「苦痛でしかないと思っていたが。ロゼと踊るのは楽しいよ」

「ヴァイス様……」

振りに合わせてロゼを引き寄せるとヴァイスはそっとその身体を抱きしめた。

「ヴァイス! 近づき過ぎだ」

「……本当に厳しいな」

すかさず飛んできたフェールの声に苦笑するとヴァイスは声の主を見た。

「お預けさせられているんだから少しくらいいいだろう」

「何がお預けだ。まだ婚約していないんだからな」

ヴァイスとロゼが街に出かけた日、帰ってきた二人にフェールと父親の宰相が二人の仮婚約を認めたが、その代わりに本婚約するまでは二人で街へは行かない、キスも駄目だと色々条件を付けられていた。


「面倒くさい小舅だな」

踊りながらユークが声を掛けてきた。

「あれは結婚した後も煩いぞ」

「そうですね……」

「ルーチェの親兄弟は煩いのか?」

ユークはルーチェを見た。

「……うちは放任主義なので」

ルーチェの実家は片田舎にあるせいか、両親も一人いる兄ものんびりとした性格で、ルーチェが王宮に働きに出たいと言った時も『まあ行きたいならば行けばいいんじゃない』と反対も心配もしなかった。

――もしも娘が王太子に目を付けられていると知ったらどう反応するのだろう。

「ではこういう事をしても問題ないな」

言うなりユークはルーチェの腰に回していた手に力を込めて身体を密着させると、ちゅっと音を立てて口付けた。


「……だから……っ!」

「殿下。真面目にやらないならばお帰りください」

フェールの冷たい声がホールに響いた。

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