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クッキング・僕  作者: 龍淵灯
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10分で3品、簡単おつまみ

 近所のホームセンターにやってきた。鍋を探す前に、出入口横のブックスタンドに並んでいる、料理雑誌を手に取ってみる。主婦向けの本は、包丁さえろくに持ったことのない僕にはレベルが高すぎるようだ。


 しばらく物色していると、文庫本サイズの「うまいおつまみ200」という本があった。酒もまあまあ好きだし、おつまみなら難しくないだろうしおかずにもなるだろうと思い、ページをめくる。

 望んだとおりのものがあった。


酢トマト。

 ① トマトを適当な大きさに切る。

 ② 酢をかける。


 以上で完成だった。

 これなら失敗しようがない。ほかにも、梅干しをほぐしてわさびと混ぜるだけとか、きゅうりを叩いてごま油であえるだけとか、きわめて簡単なレシピが多くあった。後半になれば、それなりに手のこんだものもある。


 最適な本だった。買い物かごに本を投げこみ、台所用品売り場に向かう。いずれはカレーなど作ろうと思って大きめの鍋に眼が行くが、使いこなせないものをそろえていてもしょうがないと考え、直径二十センチのステンレス製片手鍋を買った。


 店を出る。同じ敷地内にスーパーがあった。さっそくあの本のレシピを試したくなる。トマトと酢、梅干しとわさび、きゅうりとごま油を購入した。それから、缶ビールを2本。

 自転車のかごに買い物袋を入れ、スタンドを蹴る。子供のころ、プラモデルを買ってもらって家に帰るときの感覚を思い出した。早く、作ってみたい。


 部屋に帰り、さっそく調理にとりかかった。

 まずは酢トマトである。トマトを洗って、慎重に輪切りにしていく。

 小皿に盛って、酢を回しかける。

 完成。

 すごい。2分もかかっていない。そして、僕が完成させた初めての料理である。

 わくわくしてくる。


きゅうりの即席あえ。

① 洗ったきゅうりを、がっしりしたコップの底で叩く。

② 折る。

③ ボウルに入れて、ごま油と塩をふり、箸で混ぜる。


 もう2品目ができた。才能があるのかもしれない。


梅干しのわさびあえ。

① 梅干しを3つ、種を取る。

② わさびと混ぜる。

 

 この3品を作るのに、10分かかっていない。なのに、それなりのおかずができてしまった。今まで、母の作るようなものが料理だと思いこんでいたが、こんなに簡単に食べ物は作れるのだ。

 冷凍庫から、炊いた後にラップで包んで凍らせた飯を取り出し、電子レンジに入れる。この保存の仕方は、入学前に母に教わった。解凍した白飯を茶碗にもりつけ、初めて作った料理をテーブルに並べ、あぐらをかいた。


 ごくシンプルな料理が、輝いて見える。祝杯の気分で、缶ビールを開けた。


 酢トマト。きゅうりの即席あえ。梅干しのわさびあえ。


 たんぱく質がなにひとつないのは偏っているが、それはおいおいやっていくことにしよう。まずは酢トマトに箸を伸ばす。酢でむせることを覚悟したが、まったくそのようなことはなかった。さっぱりしていて、うまい。ドレッシングにも酢を使うのだから、合わないわけはないのだ。


 ビールをひと口飲む。つい先日まで高校生だったのに、アルコールに慣れるのが我ながら早いと思う。


 次はきゅうりの即席あえである。きゅうりとごま油という組み合わせは経験がなかったが、なかなかいい。むしろごはんが進む。


 さて、最後に梅干しのわさびあえだ。見た目は緑と朱色できれいだが、それぞれの刺激を思うと少し覚悟がいる。ほんの少し取って、おそるおそるなめてみた。


 塩酸っぱさと鼻に抜ける刺激が同時に来た。慌ててビールで流しこむ。一気に半分以上なくなってしまった。洗い流した口の中が、とても気持ちいい。これは、酒を飲みすぎてしまう。注意しないといけない。


 残りは少しずつなめながらごはんのおかずにし、ビールは1本だけにしておいた。

 食べ終わって、息をつく。テーブルの皿はすべて空になっていた。野菜ばかりで物足りなくはあるが、ビールで腹はふくれている。調理ができたということが満足だった。未加工の食材が眼の前にあり、それを料理にできるかできないかというのは、人類としての生存能力にかなり影響するのではないか。


 大げさに言えば、サバイバルの自信がついた。満足感とともに、まぶたがほちほちと下がってくる。今日は、鍋を焦がしてから色々と心身ともに疲れたかもしれない。

 洗い物は明日でいい。着替えもしないで、ベッドに横になった。

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