魔物
一年前の魔物との戦闘です。
主人公はまだ弱いです。
2018/05/06 誤字修正 辻褄が合わないものを加筆修正
一年前の冬、その日はとても風が強くて毛皮で作ったマントを羽織らないと凍えそうな、そんな寒さだった。アルフレッドにつけてもらっていた修行が終わった後、家には帰らずに近くにある"ユミルカトルの森"の中で俺は剣を振るっていた。
ユミルカトルの森はある曰く付きの場所であったが人が寄り付かないためレイには都合が良かった。
森に倒れた木があったので、それを加工して作った。
木人形は不細工な格好をしていたが良きレイの相棒だった。
刃渡り六十センチのよく手入れされた両刃のショートソードは少年の手にはまだ大きく、両手で構えてやっと振るうことができるものだった。
(まだまだ、こんなもんじゃ強くなんてなれない…!)
レイは焦っていた。修行を始めること早二年、なかなか目に見えるような上達を感じることが出来ずにいた。師匠からの教えで基礎的な体力作りの走り込みを十キロメートル。剣の素振りを二千回。それを師匠が見ているところで毎日やる。ただそれだけで一日が終わる。
側から見ればダメ師匠という風に取られるかもしれないが、彼はいつもレイを観察し着実に体が成長しているのを感じていた。
レイが真面目に修行というなの基礎体力づくりに取り組んでいられたのもアルフレッドの存在が大きい。
空が赤く染まっていたのも束の間、日が落ちて辺りは暗くなっていた。
(そろそろ自宅に帰らないとサラに叱られるので今日は終わりにしよう)
その時であった。
ガサガサッと音がしたと思うといつのまにか木の影から赤い目が俺を睨んでいるのに気がついた。
(もしかして…魔物?!ダンジョンにしか存在しないはずじゃ…一体何故…)
兎や鹿などの動物を狩るならまだしも、魔物となると命のリスクは格段に跳ね上がる。
(くそ、このままだと村に襲ってくるかもしれない、ここでなんとかしないと…)
ショートソードを両手でしっかり握りしめ、魔物の赤い目を睨み返す。
と同時に目の前の一匹が突進してきた。
(速い?!でもこれなら…!)
レイは向かってきた敵の左の牙に剣を振り抜いた。牙に剣を打ちつけた反動でそのまま自分の体を一回転させ、隙だらけの背中を切り裂く。
魔物の背中からは血が吹き出し、その場に倒れ込んだ。
(よし…、やったぞ!)
ガタガタと震える手を押さえ、まだ辺りを警戒する。
背の高い草に紛れ赤い光が四つあるのが見えた。
(相手はあと二匹。でもさっきみたいにやれれば…!)
今度はレイの方から向かう。
真正面から突撃して左前方にある木を目指した。
レイは木を左足で蹴り、体を逆さに回転させる。
宙返りをしながら二匹目の頭に剣を突き刺した。
返り血を浴びながらもすぐに剣を抜き、血糊を払う。
あと一匹だ。
「喰らえええええー!」
レイは魔物に突進して頭を切り落とした。
「はぁ、、はぁ、、やったぞ…!」
レイは息を切らしながらそう呟いていた。
ショートソードを腰にしまうとその場にレイは座り込んだ。
その時レイは知らなかった。
魔物の生命力は伊達じゃない。
もはや満身創痍であるがその最後の力を振り絞り、レイが最初に倒したはずの魔物は立ち上がった。
そさてレイに向かい渾身の突進。
レイはその足音に気が付いた時にはすでに遅かった。
「…遅いなぁ。どこふらついてんのかしら?もしかしてユミルカトルの森…?」
一方その頃、夜になってもまだ戻らないレイを心配していたサラは、村長である父のロイドと家に二人でいた。
「お父さん、レイを探してくる!」
「ダメだ、あの子は心配しなくてもそのうち帰ってくるだろう」
「でも…レイがいるとしたらユミルカトルの森だと思う?」
「何?!ならば…アルフレッドさんに応援を頼もう!お前は家にいなさい!」
ロイドはアルフレッドを呼びに駆け足で家を出て行った。
サラはロイドの姿が遠くなるのをが見えると一目散に森へ走った。
「何やってんのよあいつ、今までこういうことなんてなかったのに…」
レイは今までどんなことがあろうとも夕食の時間には帰っていたため、サラには嫌な予感がしていた。
(はぁ、はぁ、はぁ。もしレイに何かあったら私…)
冷たい風が吹き付け、サラの体温を少しずつ奪っていく。
ようやく見えてきたユミルカトルの森。
その入り口付近にある大岩にもたれかかるようにレイは血を流して倒れていた。
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次回は5/4の21時です。
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