王都
「あら、目が覚めたかしら?」
目を覚ますとアカネが金髪をかきあげながら声をかけてきた。
「ここは…ハッ、ゴブリンロードは!?」
「大丈夫よ、レイ君。君のおかげで倒すことが出来たよ、本当危なっかしいんだから」
「アカネさん、それは俺のセリフですよ」
二人の笑い声が響いた。
「ところでここは…ベッカちゃんのいる宿屋ですか?」
「正解、あのあと私が身体強化で君を持ち上げて一気にこの宿まで駆け抜けてきたんだから。感謝しなさいよね」
こちらをドヤ顔で見ながら腕を組んでいた。
二人は食堂に向かいベッカちゃんに挨拶をした。
「お兄ちゃんおはよう!元気になった?!」
「うん、おかげさまで。ところでいい匂いがするなぁー」
「今日の朝ごはんはお魚さんだよ!こんなところじゃ滅多に食べられないから食べて食べて!」
チェスター村及びアイゼンブルク王国は辺り一帯が山に囲まれていて海には面していない。
ベッカちゃんによるともう少しいったところに川があって、海から魚が繁殖のために戻ってくるそうだ。
目の前に並んだ魚はほんのりピンクの色をした身で食べるとほんのり塩味がして食欲をさそった。
アカネはうーんこれこれ、この味!というような顔をして悶ながらガツガツ食べていた。
「あー、そうそう、ゴブリンロードを倒したことはとりあえず内緒にしてて。色々面倒だから」
ゴブリンロードの強さはA級冒険者が六人ほど集まってやっと倒すことが出来るレベルの強さだそうだ。
それをこの二人だけで倒したなんてことがバレると色々面倒…ということらしい。
「わかりました。それで俺は王都に向かってる途中だったんですが、アカネさんはどうするんですか?」
「私も王都へ行くわ。ギルドからの依頼の報告だってしたいし」
「じゃあ一緒にいきましょうか」
「えぇ」
二人は宿屋を後にして王都へと向かった。
◇
時は夕刻、草原を抜けて整備された道に入ると巨大な城壁があらわれる。
「あれがアグナハルか…」
なるほど、王都というだけあって巨大な城塞都市というわけだ。チェスター村なんて木の柵でなんとなく囲ってあるだけということか。
王都への入り口へつくと門番に呼び止められた。
「君達、身分証をみせてもらえないかな?」
アカネは自分の持っていたギルドカードを見せると門番は頷いた。
「君も身分証を見せてくれるかな?」
「あのー、すみません、チェスター村から来たばかりでここのギルドで冒険者登録をしようと思って。なので身分証はありません」
「そうなのか、わかった。じゃあとりあえず通行料はもらうよ。ギルドに行ったらギルドカードが発行されるから今度からはそれを見せてくれ」
門番に大銅貨一枚を渡すと王都への門が開いた。
この王都アグナハルは二層構造になっており、中心には王城、ラインハルト=ドレアス=アグナハル十二世が住む。閣僚たちもここに住み、政務を行っている。
その周りに取り囲むように貴族街があり、貴族御用達の高級商店街が立ち並ぶ。
二層目は貴族街の城壁の外にある庶民街。大衆向けの店や、武器防具屋と魔法屋がある。ギルドもその二層目にあり、正面の門から近い場所にあった。
「えーっと、あったあった、ギルドはここよ」
二人はギルドの看板をくぐるとそこには剣士、魔法使い、僧侶、武道家などあらゆる職業についている人達がいた。なるほど、職業ってこういうことなんだな。冒険者は冒険者でも中には剣を使う人が剣士で魔法を使う人が魔法使いっていうわけだ。
「す、すごい人の数!」
「あらー?レイ君夜だからこんなに人が多いのよ。クエスト報告をしに帰ってきてる人が集まってくるからね。」
(というか結構種族がバラバラなんだなぁ。あっちの掲示板のほうには師匠みたいなエルフの人がいるし、こっちのほうのテーブルで談笑してるのは獣人の人達。でも圧倒的に人間のほうが多いみたいだ)
俺はそんなことを考えながらアカネの後ろをついていった。そして受付の順番を待つこと十分くらいでレイ達の番になった。
「あらアカネちゃんいらっしゃい。今日はどうしたの?」
「今日はこのクエストを達成したから報告しに来たのよ。あと、この子の冒険者加入の手続きを頼めるかしら」
「はーい、わかったよ。じゃあアカネちゃんはこっちのカウンターに来てねー。君はここで加入手続きしてね」
アカネは受付の横にあるクエスト報告専用のカウンターへ向かっていった。
俺はそのまま受付のお姉さんから話を聞いた。
「じゃあ冒険者加入についてですが、まず冒険者ギルドについて説明したいとおもいます」
「はい、よろしくおねがいします」
その一 冒険者にはランク付けの制度があり、いかなる場合でも始めはFランクから始まる。ランクアップにはクエストを達成してギルドポイントを溜めること。そしてランクごとにある試験をして合格することによって次のランクへとステップアップできる。
その二 依頼を放棄したり失敗した場合。失敗の場合はギルドポイントが本来もらえるはずのポイントの半分の数字を減点とします。放棄した場合はもらえるはずのポイント分減点と罰金。あまりにも酷ければランクダウンもあります。
その三 他の国のギルドとギルドカードの共有はできないため、それぞれの国ごとにギルドカードを作ること。もしランクを下げずに他の国のギルドへ移転したい場合はギルドマスターの許諾と移りたいほうのギルドで試験をこなすこと。
その四 ギルドは年会費制です。年間で銀貨三枚、つまり三千ペルカを収めること。
なるほど、つまり普通にクエストなどをやっていれば別に困ることは何もないって感じだな。
それと入会金が必要だったので大銅貨五枚を支払った。
「ありがとうございます、わかりました」
「はーい、それでは次にギルド入会手続きなんですが、こちらに名前と年齢等を書いてくださいね」
俺は紙を受取ってレイ=ティンバーと書いた。年齢は十五歳っと。
必須ではないがスキルを書く欄があったので剣術と火、水、風、土、光、無の六属性の魔法を書いた。
用紙を受け取った受付のお姉さんは紙をみてお口をあんぐりあけたあと俺の顔をみて、紙をみて、顔をみてと何回も往復していた。
(なんか変なこと書いたっけな。アカネさんに言われてた合成魔法とか螺旋魔法とかは書いてないぞ?)
冷静さを取り戻した受付のお姉さんは
「は、はい、レイ様ですね、それでは加入試験を行いたいと思います」
「あれ、ランクアップごとじゃないんですか?」
「まず冒険者としてレイ様がどれくらいの腕があるのかを試験します。試験は冒険者の人間と一対一で模擬試合を行い、戦闘方法や試合結果をこちらで判断して適正があるかの確認をします」
「はい、わかりました。試験に何か必要なものはありますか?」
「いえ、レイ様の場合ですと、剣術をお使いのようですのでこちらで試合用の武器を用意させていただきます、それでは試験会場へお連れしますのでこちらへお越しください」
受付のお姉さんはそういうと茶色の三つ編みを靡かせながらギルド内部の地下へ続く階段へと向かっていった。レイはあとを追い付いていった。風にのって少しいい匂いがした。
階段を降りた先には少し錆びた鉄柵で囲まれた闘技場のような広い空間があった。
そこで模擬試合用の剣をうけとり、ロングソードはその場において闘技場内部へと扉をくぐった。
「お、坊主だな。俺の名前はグランだ。冒険者だが時々こうやってギルド加入の試験官をやってるっていうわけだ。よろしくな」
「レイ=ティンバーです、よろしくお願いします!」
「いい挨拶だ!元気がいいのはいいことだ!早速始めるが準備はいいか?」
「はい!よろしくおねがいします!」
グランはそういって剣を構えるとレイも剣を構えた。
「よし、いくぞっ!」
ガキンと剣と剣がぶつかり合う音が闘技場に響く。
グランは完全に間合いの外にいたはずなのに一瞬でその間合いを詰めていて俺は必死にそれを防いだ。
「なかなかいい目をしているじゃないか。じゃあ剣術の腕前はどうかなッ!?」
グランはそういうと物凄いスピードで剣撃を放ってきた。アカネが放っていた刀術をみていたレイは、グランの腕の動き、足さばき、目線を意識して一つ一つ受けていた。がこちらから攻撃する隙がまったく生まれなかった。
(クソッ、斬撃は見えているのにこのままじゃ防戦一方だ…)
突然頭の中に抑揚のない女性の声が響いた。
【自動補助スキル発動・無詠唱スキルを取得しました。思考向上スキルを取得しました】
(無詠唱だって?!それに思考高速化って…)
レイは戦いの最中に取得した思考向上スキルによって短時間ではあるが思考向上、つまり頭の回転が何倍にも速くなった。
(これならいける…!)
頭の中で詠唱するとレイの魔法陣が現れてグランに向かって風刃が飛んでいった。
「何ッ!?」
いきなりの無詠唱魔法に怯んだグラン。レイの魔法はどんどん続く。
(…グランの足元に地震を展開。目潰しとして魔法強化した光球を放つ。こちらの目も潰れてしまうので小さい土壁を俺の目の上に展開して、相手の視界を奪った直後に火炎槍を頭上から地面へ。それすら防ぐのであればグランの背面から氷槍...)
(な、なんなんだ、うおおおおおおッ!!)
物凄いスピードで展開されていく魔法はレイの計算どおりにグランを動かし決着が付いた。
ちなみに火炎槍からはもうグランはその速度についていくことが出来ずまともに食らっていた。
「「そこまで!!勝者、レイ=ティンバー!」」
受付のお姉さんが高らかに俺の名前を呼んだ。
グランはというと結構ダメージを食らっているように見えたがなんのこれしき!あっはっはっはっはと笑っていた。十五歳の坊主だとなめてかかったらとんでもない奴だったと喜んでいるように見えた。
「あのー、グランさん、ありがとうございました!大丈夫ですか?」
「かぁーーーッ、坊主すげーぞ、あんなのどこで覚えたんだ?久々に楽しかったよ、あっはっはっは」
「それはよかったです、グランさんかなり強かったので結構ギリギリでしたよ?」
「坊主、そんなわけないだろう、あんなことしておいて。さすがロランの息子だな、ハッハッハ」
(なんでその名前を知ってるんだ!?)
レイが不思議に思うとグランは
「そりゃー知ってるもなにもロランは俺の兄貴だぞ?そして兄貴と同じ元【紅い風】のメンバーだ」
驚きを隠せないでいたが、なるほど。なんとなく父さんの面影があるし、髪色も茶色で似ている。
「でもなんで俺が息子だってわかったんですか?」
「あぁ、それはギルド申込票に名前を書いただろ?ティンバーなんて名字はそうそうあるもんじゃないし、小さい頃にお前を抱っこだってしたさ。そんでもって年齢も十五ってなりゃぁそりゃわかるさ」
(母さんがこの王都の診療所にいるのはグランさんがいるから安心だし、何かあったとしてもこの人がチェスター村まできて状況を伝えてくれるからっていうわけか。)
そんなことを思いながらギルド加入手続きをするために受付のお姉さんと一緒に上に上がっていった。
「ほら、レイ、忘れ物だ」
後ろからグランが追いかけてきてロングソードを渡してきた。
じゃあな、と手を振りグランは闘技場へもどっていった。
そして念願のギルドカード【レイ=ティンバー】と書かれた銅のプレートを受け取った。




