ダンジョンへ
「えーっと、この洞窟は五階層まであるダンジョンよ。階層が深くなるたびに魔物が強くなったり、数が増えたりするの。たしか最初の一階層目は魔物が出てこないはずだからゆっくり歩いていきましょう。あ、パーティ申請するね」
『アカネからパーティーの申請あります 受託しますか?』というウインドウが視覚の右上に現れたのでレイはそれを受諾した。
(これって普通じゃないよなぁ)
「ここの推奨レベルは10だからレイくんはもうとっくに満たしているわね。あ、そうそう、さっきステータス画面で残りSPがいくつっていう項目があるでしょ?それを各スキルに振るとそのスキルが習得出来るの。試しに何か取得してみたら?色々いじって覚えたらいいわよ」
「わかりました。ちなみになんですがこれって普通のことなんですか?」
「えーっと、私にとってはこれが当たり前よ?これを使わないと新しいスキルなんてレベルアップやクエスト報酬以外に覚える方法は無いわよ」
アカネはTellを飛ばしまくって反応したのが俺だけだったといっていたが、もしかしたらこのウインドウを使えるのは自分だけなのかもしれない。冒険者は純粋にレベル上げによるスキル習得やステータスアップでダンジョンを攻略していたということになる。
(来訪者っていうのは改めてなんなんだろうな…)
スキル習得画面を見てみるとアクティブとパッシブという項目二つに分かれていた。
ウインドウの右上の【?】に指をやるとパッシブスキルは自分の意思に関係なく自動的に発動するスキルで、アクティブは自分の意思で発動しないと効果を発しないものだということがわかった。
そして一度習得したスキルは魔物などを倒して経験値を得ると成長する。
レイが230ポイントあるスキルポイントを使って便利そうなのを取得した。
◆パッシブスキル
【職業 魔法使い】
マジックマスタリー Lv1 魔法の威力が増加します〈増加率1.1倍〉SP消費3
魔法探知 Lv1 魔力の流れを探知することができます SP消費2
【職業 剣士】
ウェポンマスタリー Lv1 全ての武器において装備したときに攻撃力が増加します〈増加率1.1倍〉SP消費3
身体強化 Lv1 全てのステータス値が増加します 〈増加率1.1倍〉SP消費5
◆アクティブスキル
【職業 魔法使い】
魔法強化 Lv1 唱える魔法の魔法位を一段階上げる SP10
【職業 剣士】
十字斬り 十字に敵を切り裂く SP5
(…こんなもんでいいのかな?あとこのユニークスキルっていうのは職業に関係なく覚えられるスキルなのか。それなら・・・。
【ユニークスキル】
鑑定 Lv1 アイテムやスキル、人物などを調べることが出来ます SP消費5
全属性耐性 Lv1 全属性に対して抵抗力が増加します 〈軽減率10%〉SP消費10
成長率増進 レベルアップによるステータスの成長がアップします 〈増加率5倍〉SP消費10
合成魔法 魔法を合成することができる 威力は未知数 SP消費15
魔法制御自由化 魔法を自由に制御できる SP消費10
気配察知 Lv1 周囲にいる生命体の気配がわかるようになる SP消費5
自動保護 スキル保持者の意思を汲み取ったり、命の危険を感じると自動でその状況を打破する SP消費30
(…こんなもんでいいかな?このユニークスキルっていうのは結構凄いな。)
レイはこのユニークスキルというものが"通常では取得不可能で潜在的に個人が所有できる特殊なもの"ということに気が付くのはもっと後になる。
「レイ君、そろそろ地下に降りる階段よ。きっと二階層から魔物がでてくるはず。気をつけてね」
「わかりました、そういえば一階層には魔物が出ないっていうのはなんで知ってたんですか?」
「そういうのは"仕 様"ってやつよ、特に気にすることじゃないわ」
「は、はい、わかりました」
"仕様"という言葉にますますアカネという存在にわけがわからなくなっていた。
二人は二階層目に突入するとアカネの"気配察知"に魔物が引っ掛かった。
「レイ君見える?あそこにゴブリンがいるわ、ちょっといってくるわね」
レイの気配察知にもなんとなく敵がいるのがわかった。
アカネはゴブリンに向かって一直線で飛び出していった。
(あれ、いきなり?ちょっと、作戦とかなにかないんですかー?!)
「燈花一閃!」
鞘から抜かれた刀は刹那に綺麗な花びらのようなものが舞っていた。
そしてゴブリンの目はこちらをみて何をしたんだ?という風に見ていた。そしてこちらに向かってこようとしたその時、胴体から両断されて青い光の粒子になってた。その青い光の粒子は二人の体に吸い込まれていった。
強い。ゴブリンでさえ切られていたのがわかっていなかったくらいの剣速だった。まったく見えなかった。
それはそうとまたおかしなことが…
「アカネさん、あのー、どうして魔物の死体が残らないんですか?」
「それもね、アレよアレ。それよりもどんどん行くわよ!」
もうめちゃくちゃだ。アカネは落ちていた銅貨と魔石をひろうと腰につけていた袋の中にしまった。
そしてレイは言われるがままにアカネについて行く。
もうすぐ三階層という場所につくと、二人の気配察知にまた魔物が引っかかる。
「今度はゴブリンが五体いるわね」
レイは目視できたゴブリン達に先程習得した鑑定で敵を情報を得る。
体が大きく、大剣を持つのがゴブリンリーダー、そして弓を持つゴブリンアーチャー二匹、杖を持っているゴブリンメイジが一匹に、棍棒をもつゴブリンが一匹だった。それぞれレベルは18で、ゴブリンリーダーだけは25という強さだった。
(そういえば適正レベルは10だとアカネは言ってたけどそんなんじゃこいつら倒せないよなぁ)
「援護任せたわよ!レイ君!」
アカネはそういうとまた作戦もなしに飛び込んでいった。
先頭にいたゴブリンの前にしゃがみながら滑り込み足払いして転ばせる。そして地面を蹴りアカネは抜刀し一刀両断。そして左側にいたゴブリンアーチャーに向かって走り出した。
レイもここぞというばかりに背中のロングソードを抜き、右側に陣取っていたゴブリンメイジに向かっていった。
ガキンッと音がして杖で防御され弾かれたがこれも計算のうちだ。左手をフリーにして近距離からゴブリンメイジの腹に叩き込む。
(さっき覚えたスキル、試してみるか…)
「魔法強化・火球」
強化された火球はゴブリンメイジの体を一瞬にして燃やし尽くし、灰は光る青い粒子となって消えた。
まだ成人していなかったころ、猪の魔物と戦っていた自分とは比べ物にならないくらい成長していた。
(これは…、とんでもない威力だな)
ゴブリンアーチャーと対峙していたアカネは放たれた矢を斬り落としながらなかなか近づけずにいた。レイはアカネの援護に向かう。
「風刃!」
放たれた風の刃は矢をどんどん斬り裂いていき、アーチャー達を怯ませた。
「ありがとうレイ君!はぁぁぁ!飛燕双斬!」
アカネはその隙をついてゴブリンアーチャー達に斬撃を飛ばした。高速で放たれた二つの斬撃は交差をしながら地面をえぐって進んでいく。斬撃はゴブリンアーチャーの弓ごと体を切り裂いた。
「よし!あとはリーダーだけね!」
二人はゴブリンリーダーに向かって武器を構え直した。
一瞬にして部下達が殲滅されたことにリーダーは怒り狂っていた。
激しい怒号をあげ大剣を大きく地面に叩きつけた。抉られた地面から石つぶてが飛んでくる。
「危ない!風壁!」
現れた風の障壁が石つぶてをゴブリンリーダーへと跳ね返す。
ゴブリンリーダーは一瞬怯んだが、大剣を構えなおしてアカネに向かって振り下ろした。
ガキンッと強い金属音がする。刀で大剣を受け止めるが両者は拮抗状態。こんな細い腕のどこにこんな力があるのだろうか。
レイはその隙に背後に回り込み、十字斬りを食らわせたがあまり効果はないようだった。
皮膚が異常なほど硬いのだ。
それなら・・・。ロングソードをしまいレイは魔法を詠唱し始めた。
「魔法強化・火球」
ゴブリンメイジを一撃で仕留めた魔法はゴブリンリーダーの背を焼いただけだった。
悲痛な叫びをあげ、大剣から力が抜けたのをアカネは見過ごさない。
「こいつで終わりよ、千鳥!」
超高速で放たれる無数の斬撃がゴブリンリーダーを襲う。硬い皮膚など関係ないといわんばかりの刀技にレイは唖然としていた。
血を払い刀を鞘にしまう音がすると、ゴブリンリーダーの体にあった裂傷が広がっていき、青い光の粒子となっていった。
「ち、ちょっと今回はヤバかったかなー?ハハハハハ・・・」
(全然ちょっとどころじゃないんですけど。この人はいっつもこうなのかな)
それから二人は順調に三階層、四階層と進み、ついに五階層へと辿り着くのであった。




