ロレーヌ、海底洞窟(1F)へ潜る
クラン加入メンバー視点。
暫くの間、更新が月、水、土の週三日を予定。
今日はこのクランで、初めての狩りの日である。目的は依頼や素材集めでは無く、メンバーのレベル上げらしい。
収入を気にしないとか、お金持ちなボスならではだね。
ちなみに、場所は海底洞窟の有る孤島である。先輩盗賊が依頼で行った事があり、聞いた事がある場所だ。
一階は弱めの魔物が多いけど、地下は魔物が強くベテランでないと厳しいらしい。あたし達には当分、縁の無い場所だね。
「さて、中に入る前に作戦を説明しますね」
海底洞窟の入り口で、ボスがメンバーを召集を掛けた。
ルージュとハスティールは緊張した表情で集まる。あたしも同じだから、気持ちは良くわかるよ。
……けど何故か、アンナちゃんはリラックスしていた。
街の中では不安げな様子だったのに、どうして外の方が自然体なのかな?
あたしは凄く気になったけど、ルージュとハスティールは気付いて無い。ボスも気にせず話を続けた。
「まずロレーヌさんは索敵をお願いします。獲物を見つけたら、一撃だけ入れて下さい。その後、魔物は全てルージュさんに押し付けて下さい」
「うん、わかった」
逃げて良いなら何とかなるかな? 反撃は怖いけど、ここまで来た以上は頑張らないとね……。
あたしは腰に差したダガーを引き抜く。炎の魔石が付いた方だ。折角だし使ってみたいけど良いよね?
……チラチラとボスを見たけど、何も言われないから大丈夫そうだ。
「……って、ちょっと待って下さい! 最後ってどういう事ですか? オレは何をすれば良いんですか?」
急にハスティールが叫び出した。ボスの指示が無かったらしい。
……話を聞いて無かったから、ちょっとビックリしたよ。
ハスティールはボスに説明を聞いて、何故かショックを受けた様子だった。
けど、ボスはまったく気にしていない。そのまま海底洞窟に向けて歩き出した。
……何というか、ボスって所々で図太いよね。普段は凄く気遣いをしてるのにさ。
「後は宜しく!」
引き付けたヒトデ型の魔物をルージュに引き渡す。ルージュは大きく頷くと、雄叫びを上げて魔物に向かって行った。
不思議な事にルージュが叫ぶと、魔物が攻撃対象をルージュに変えるのだ。
きっと、魔物も大声に驚いて、あたしへの怒りも忘れちゃうんだろうね。
「プロテクト……バリア……」
背後からボスの支援魔法が掛かる。
先程からこれのお陰で、魔物からのダメージがまったく無い。魔物が攻撃して来ても、透明な壁が防いでくれるのだ。
それに、魔石付きダガーも切れ味抜群だ。
魔物にサクッと切り傷を付けて、ついでに火傷までさせてしまう。力の弱いあたしでも、簡単にダメージを与える事が出来てしまうのだ。
まさに致れり尽くせり。狩りが超楽チンなんだよね。今まで怖がって、狩りに出なかったのが馬鹿みたいだよ……。
「うんうん、順調みたいだね。もう少し奥に向かっても大丈夫そうだ」
ボスはご機嫌みたい。ニコニコと笑いながら、メンバーへの支援魔法を掛け直している。
アンナちゃんも相変わらずリラックスした様子である。しかも、可愛い見た目に反して、サクサクと魔物を倒してくれる。
ルージュは戦いに慣れて無いのか、さっきから魔物相手に苦労してた。まあ、実戦は初めてって言ってたし、ゆっくり慣れると良いと思うよ。
……けど、ハスティールは何をしてるんだろう?
さっきから遊んでるみたいなんだけど。でも、楽しそうに見えないし……遊んでる訳では無いのかな?
「さて、進みますよ?」
あたしが戸惑っていると、ボスか声を掛けて来た。あたしは頷くと、ボスの指示に従って進み出した。
あたしは何故か、ティータイムを楽しんでいた。魔物がウロウロする、海底洞窟の中なのに。
ボスがテーブルやティーセットを取り出し、今は皆にお菓子まで配っている。
まあ、ルージュは疲労困憊って感じたし、あたしもかなり疲れてるから助かって良いんだけど。
出されたお茶もお菓子も美味しいし、あたしに異論はまったく無い。
ただ、時々やって来る魔物を、ボスが片手間で倒してるんだよね。あたし達の苦労が馬鹿らしい位にアッサリとさ。
……うん、何となく理解した。
ボスがレベル上げを優先したのは、今のあたし達では、ボスの足手まといにしかならないからだ。
今のあたし達は、ボスにとって保護対象でしか無い。本当の意味で、ボスの仲間と認められるには、まだまだ先が長そうである。
「ねえ、アンナちゃん。どうしてそんなに強いの?」
「…………?」
あたしの質問に、アンナちゃんのお茶を飲む手が止まる。
質問が理解出来ないみたいで、キョトンとしていた。
「私は強くない……。少なくとも、お兄ちゃんの足元にも及んで無いから……」
「いやまあ、ボスと比べたらね……」
比較対象が間違っている。
ボスより強い冒険者なんて、ヴォルクスでは一握りしかいないはず。それと7歳の女の子を比べる人はまずいない。
「そうじゃなくて、魔物が怖く無いの? 凄く簡単に倒してるけどさ」
「怖く無い訳じゃない……」
アンナちゃんはポツリと呟く。その目をボスに向けた状態で。
「けど、私には力が無い事の方が怖い……。お兄ちゃんが危ない時に、助けられない方が怖い……。だから、私は強くなる為に、魔物を沢山倒さないといけない……」
「そっか。やっぱり、アンナちゃんは強いね」
アンナちゃんの気持ちはわかる。あたしも院長先生に対して、同じ気持ちを持ったからだ。
でもそれで、恐怖を乗り越えられるかは別だ。
あたしは未だに魔物が怖い。失敗して死ぬのが怖い。ボスの魔法が無ければ、今頃は逃げ出していたと思う。
本当は、あたしも院長先生の為に、強くなりたいんだけどね……。
あたしが俯いていると、アンナちゃんが身動ぎする気配を感じた。
あたしが顔を上げると、アンナちゃんの顔が不快気に歪んでいた。
「……ロレーヌは、お兄ちゃんを信じて無いの?」
「へ……?」
ボスを信じて無い? ボスの何を信じて無いって言うんだろう?
あたしが首を傾げると、アンナちゃんはわかって貰えずムッとした。
「この場所はお兄ちゃんが選んだんだよ……? それに、その装備はお兄ちゃんが用意した物だよね……。それで、この狩りではお兄ちゃんが守ってくれてる……。怖がる理由が無いでしょ……?」
「そ、そうかな……?」
ボスが守ってくれるから大丈夫って事だよね? ボスを信じてるなら、不安を感じる必要も無いと。
……いやいや、流石にそこまで信じられないよ。
あたしはボスと出会って三日しか経って無い。まだボスの事をそこまで知ってる訳じゃないしね?
「お兄ちゃんを信じれば良いんだよ。そうすれば、怖い事は無くなる。そして、あたし達は強くなれる」
兄への全面的な信頼である。そして、アンナちゃんはカップに口を付ける。
話しは終わったとばかりに、あたしから視線を逸らした。
「ボスを信じるか……」
多分、それがアンナちゃんの強さなのだろう。
疑う事無くボスの指示に従う。それが出来るから、彼女は迷い無く突き進めるのだ。
今のあたしには無理な事だ……。
ただ、もう少し長くボスと付き合えば、それが出来るのかな? そうすれば、あたしもアンナちゃんみたいに強くなれるのかな?
あたしは期待と不安が混ざる中、ゆっくりと紅茶を飲み干した。
そして、帰りの船の中で、あたしはギルドカードを確かめた。
更新されたカードには、『盗賊Lv16』と表示されていた。
「ええっ! レベルが二つも上がってるよ!? あたしは何のスキルを覚えたんだろう……?」
「恐らくは『急所攻撃』ですね。終盤は手応えを感じなかったですか?」
ボスの言葉に、先程の狩りを思い返す。そして、ふと思い当たる事があった。
「あ、もしかして……!」
何となくだけど、魔物の柔らかい場所がわかる様になったのだ。
それで、そこを狙うとサクッと刃が通る。あれが魔物の急所だったのか……。
あたしの反応に、ボスは満足気に頷いた。
「元々、ロレーヌさんにはスキルを覚えて貰うつもりでした。ただ、気付くとロレーヌさんは、自分で急所を狙い始めたんですよね。やはり、ロレーヌさんには、そちらの才能がありそうですね……」
「えへへ、そうかな……?」
ボスに誉められたみたいだ。あたしは嬉しくなって照れてしまう。
……ただ、そちらの才能って何かな?
ボスの目がキラッと輝いたのも気になる所だ。
「ああ、それと、これを見て下さい」
「へ……?」
ボスはマジックバッグから、沢山のアイテムを取り出した。半分近くは小さな魔石で、残りは魔物の体から取れる素材である。
魔物を倒した後に、ボスが何かしてたのを思い出す。あれは魔物から収集品の回収をしていたのか。
レベル上げが目的って言ってたのに、意外とお金の面もしっかりしてるね。
「明日からロレーヌさんに、素材の剥ぎ取りを教えます。しっかり覚えて下さいね」
「え、あたしがやるの……!?」
確かに通常のパーティーでは、盗賊や狩人がやる仕事だ。手先が器用な職の方が、良質な素材を剥ぎ取れるからである。
ただ、あたしはこれまでに経験が無い。魔物狩りを避けて来たからだ。上手くやれる自信が無いのだけど……。
しかし、ボスはニコニコと微笑んでいた。そして、それを確定事項として話を進める。
「本当はギリーの方が教えるのも上手いんですがね。まあ、私でも標準レベルの剥ぎ取りは教えられるので安心して下さい」
「……えっと、覚えないとダメかな?」
正直、やりたくは無い。魔物の死体に触るのがちょっとね。
それに、剥ぎ取りをすると、刃が血と油でベトベトになるし……。
しかし、ボスは笑みを深めて説明を始めた。
「ロレーヌさんが、魔物の不意打ちに対処してくれるなら良いですよ。私が剥ぎ取りをしてると、その間の警戒が出来ません。ロレーヌさんが、仲間の安全を保証してくれるって事で良いんですよね?」
「いえ、あたしが素材の回収をやります!」
淡々と説明するボスは、ヒンヤリとした圧力を掛けて来る。顔は笑顔なのが余計に怖い。
あたしには、ボスの指示に逆らう事なんて出来なかった……。
ボスは満足気に頷く。そして、数枚の紙を渡して来る。
「海底洞窟一階の魔物と、その回収出来る素材をまとめてあります。今日中に目を通しておいて下さい」
「え、今日中に……!?」
あたしは既にヘトヘトなんだけど……!?
しかし、そこに慈悲は無い。ボスは笑みを浮かべたまま、当然の様に頷いた。
「暗記までは要求しません。ただし、明日から一度は私が教えますが、二度目からは自分でやって貰います。忘れない様に、復習は大切だと思いませんか?」
「そ、そんな……」
つまり、一度教えたら、それで覚えろって事だよね?
……それで、覚えられないなら、帰ってから勉強しろと。
……鬼だ! ここに鬼がいるよ!
「孤児院の皆と院長先生の為にも、頑張って下さいね?」
「イ、イエス、ボス……」
ボスはニコリとほほ笑む。
あたしは恐怖に震えながら、ただガクガクと頷くしか出来なかった。
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