ロレーヌ、面接を受ける
クラン加入メンバー視点。
暫くの間、更新が月、水、土の週三日を予定。
あたしの名前はロレーヌ。16歳の女盗賊だ。水色のショートヘアは癖が強くて縮れている。顔にはソバカスが残り、体も痩せ型で細い。
……正直な所、女としての魅力が乏しい事は自覚している。
そもそも、あたしは孤児である。早くに両親を亡くし、親戚もいなかった為、孤児院に引き取られた。
そして、孤児院では貧しい生活を強いられて来た。
あたしにオシャレに気を使う余裕なんて無かった。いつもお腹を空かせていたから、発育不良で体も痩せて小柄だ。
今のあたしが魅力に欠けるのも、全ては過酷な環境のせいなのだ。
そんなあたしは、10歳頃から盗賊ギルドに出入りし始めた。簡単なお手伝いをするだけで、お菓子や食事を分けて貰えたからだ。
10歳のお腹を空かせた子供には、ちょっとした食べ物はご馳走に感じた物だ……。
盗賊ギルドでは、ギルド職員や冒険者のオッサン達に可愛がられた。今の新人を見てても信じられない位に親切にされた。
……今だから思うが、小さな子供が働く姿に、荒んだ心が癒されたのだと思う。盗賊なんて職業は、周りの見る目も厳しいからね。
ただ、あたしにとってはチャンスだった。数年間の間に、色々な事を教えて貰った。
食べ物を安く買えるお店や時間、子供でも手に入れられ薬草の群生地、ギルド職員の家庭での弱み等々……。
そんな環境で育ったあたしは、当然ながら盗賊になった。それからも、ギルド職員や先輩盗賊達に、色々な技術を教えて貰った。
最も教えて貰ったのは、気配探知と気配隠蔽の二つ。ソロでも薬草等を採取出来るし、パーティーでも斥候が勤まるからだ。
それはあたしの安全を考えてくれての事だろう。しかし、あたしは次第に、このスキルを別の事に使い始めた……。
それはスリである。あたしは独自に盗むスキルを身に付け、スリの腕を上げて行った。
スリであれば街から出なくて済む。外からやって来る奴なんて、いくらでもいる。薬草採取なんかより、よっぽど稼ぎも良い。
わざわざ危険な外に出る必要なんて無いわけだ。
しかし、何故かそんなあたしが、クランの面接を受ける事になってしまった。
ギルドマスターの言い分では、試しに応募したら通ってしまったと。ギルドマスター自身も驚いたらしい。
失礼な事に、クラン事務局からの依頼で、適当に選んだとの事だ。
しかも、そのクランのリーダーは、賢者ゲイル様のお孫様らしい。書類選考が通った後に知らされたらしく、今さら断れないと泣き付かれた……。
そんな訳で、あたしはやむ無く面接を受ける事になった。ギルドマスターの顔を立てる為である。
あたし自身は、クランに入りたいと思っていない。入れば本格的に、冒険者として活躍しないといけないからだ。
だから、サクッと行って来て、さっさと断られて来るつもりだ。あたしは軽い気持ちで面接場所へと向かった。
「ほぁ~……」
あたしは屋敷を見上げて呆然とする。明らかにでかくて、金の掛かった屋敷だったからだ。
富裕層が住むエリアとは言え、平民の区画にこんな屋敷があったのか……。
「……ロレーヌ様、アレク様がお待ちです」
「ああ、ごめんごめん」
ピリピリしたクラン事務局の職員に、あたしは軽く謝っておく。彼女は軽く顔をしかめ、小さく息を吐いた。
ちなみに、彼女がピリピリしてるのは、あたしが待ち合わせ時間に遅れたからだ。
遅れたとは言え、時間は精々三十分程度。そこまで気にしなくて良いのにね?
「それでは、案内させて頂きます。どうぞ、お入り下さい」
「どうも~。お邪魔しますね~」
あたしは屋敷に足を踏み入れる。キョロキョロと観察すると、内装にも金を掛けてるのがわかる。
カーペットも飾られた絵画も、売れば相当な値になりそうだ……。
そして、とある部屋の前に案内される。その扉の前には、一人のメイドが立っていた。彼女はこちらに頭を下げた後、扉を軽くノックする。
「ロレーヌ様が参られました」
「どうぞ、通して下さい」
中から若い男の声が返って来る。この声の主が、例の賢者様のお孫様かな?
メイドが扉を開き、あたしに入る様に促す。あたしはそれに従って入室する。
そして、そこには三人の青年少女が待ち構えていた。
「アレク様、ロレーヌ様をお連れしました」
「ありがとう御座います。さあ、ロレーヌさん。席にお座り下さい」
「は~い」
ソファーの真ん中に座った青年が席を勧める。真っ白な衣装も着てるし、彼が賢者様のお孫様で間違い無いだろう。
あたしは席に向かってゆっくり歩く。そして、こちらを見つめる三人をじっくりと観察する。
真ん中のアレクってのは、優しげな笑みを浮かべている。余り威厳は感じないけど、あの笑みは作り物臭い気がするな……。
左の青年はヤバい感じがする。年齢はあたしと変わらない位なのに、纏う空気がベテランクラスと同じだ。
今も自然体に見えるけど、いつでも腰のナイフを抜ける体勢にある。彼は怒らせ無い様に気を付けておこう……。
右には小さな女の子が座っている。クランには不似合いな、10歳にも満たない子供である。
今もアレクに引っ付いて、オドオドとこちらを見ている。場違い感が凄いけど、今の所は様子見だね。
あたしが木の椅子に座ると、真ん中のアレクが口を開いた。
「今日はお越し頂きありがとう御座います。条件等のお話の前に、まずは私達の紹介から行わせて頂きます」
「宜しく~」
あたしが軽く返すと、背後で気配が動く。女職員が何かを言いかけて止めたのだろう。
ただ、目の前の三人に反応は無い。アレクは気にした様子も無く話を続けた。
「まずは、私がこのクランのリーダーを勤めるアレクです。既に聞いているでしょうが、賢者ゲイルの孫で、私自身も賢者の職を修めています」
「へえ、凄いね~」
ヘラヘラと笑いながら答える。背後の気配が強まるが、やはり三人に反応は無い。余りにも反応が無さすぎて、少しイラッとくる。
ただ、あたしと同い年くらいで上級職なのは流石だよね。余程、恵まれた環境で育って来たのだろうな……。
「隣の彼はギリーです。Lv50の狩人で、私の乳兄弟でもあります。彼にはこのクランのサブリーダーをお願いします」
「宜しく頼む……」
「よ、宜しく~」
少々ふざけた態度を控え目にする。彼の雰囲気が、あたしを指導したベテラン職員に似ている為である。
彼に叱られた記憶が甦り、ギリー相手に軽い態度が躊躇われるのだ……。
それにLv50って言った? それって、普通は10年位かかるんだよね?
雰囲気から嘘では無さそうだけど、どうなってんだろう……?
「そして、こちらがボクの妹のアンナ。年齢は7歳だけど、Lv15の黒魔術師です」
「よ、宜しく……」
「宜しくね~」
アンナちゃんにはヒラヒラと手を振る。しかし、アンナちゃんには目を逸らされてしまった。
ってか、Lv15の黒魔術師? いやいや、まだ7歳なんだよね? 流石にあり得なく無い?
あたしでもLv14まで一年以上はかかってるんだけどな……。
内心では混乱するも、それを見せずにヘラヘラ笑う。良くわからない相手に、弱味は見せない方が良いからだ。
とはいえ、説明が本当なら、この三人はかなり異常だね……。
「さて、簡単ですが私達の説明は以上です。次にロレーヌさんの話に移って良いですか?」
「うん、良いよ~」
軽薄な笑みを浮かべながら答える。疑問は沢山あるけど、何から聞いて良いかもわからない。
なのでまずは、相手の話を全部聞く事にした。
アレクは満足そうに頷く。そして、手元の資料を見ながら、楽しそうに続ける。
「……中々に面白い生活を送ってますね。盗賊のスキルを使って窃盗ですか。ギルドマスターも手を焼いてるみたいですね」
「なっ……!?」
何でそんな事を知ってるんだ? ギルドマスターが知っていた? だとしても、それを面接するクランに伝えるだろうか?
あたしは警戒を強めてアレクを睨む。しかし、アレクはクスクス笑うだけである。
「しかも、盗んだお金の半分は、孤児院に匿名で寄付ですか。院長も、さぞかし困ってる事でしょうね……」
「な、何で……!?」
どうして、そんな事まで知ってるんだ? 調べようと思って、簡単に調べられる事では無いよね?
それに、そんな事をあたしに聞かせる理由がわからない……。
あたしはゴクリと喉を鳴らす。アレクは戸惑うあたしに微笑みを向ける。
「ロレーヌさんは、孤児院を大切にしてるんですね。孤児院で暮らす子供達も。それに、孤児院長には格別の恩を感じている……」
「…………!?」
アレクの目を見て戦慄する。顔には笑みを浮かべていた。しかし、目の奥には違う感情が感じられたからだ。
……あたしは観察されている。弱味を突き付け、あたしがどう反応するか確かめている。
まるで、あたしを実験動物か何かの様に……。
「……ふざけるな!」
あたしはカッとなって立ち上がる。アレクは驚いた表情を浮かべるが、それすらも嘘臭い。
「賢者の孫だからって、関係あるもんか! 孤児院に手を出すなら容赦しないよ! あたしがあんたを殺してやる!」
あたしが啖呵を切ると、アレクは不快げに眉を寄せる。そして、厳しい視線を扉の方に向けた。
そちらにいるのは事務局の職員とメイドだ。あたしの事を抑えつけるつもりか!?
あたしは慌てて振り返る。ただの面接と思って、武器を置いて来たのは失敗だった……。
「ん……?」
何故か、職員とメイドは固まっていた。目は大きく開かれ、口は半開きである。
そして、二人の目はあたしに向いていない。あたしの背後に向けられていた。
……背中に悪寒が走る。猛烈に嫌な予感を感じ、あたしは恐る恐る正面に向き直った。
そして、あたしも二人と同じく、目を見開いて驚愕した。
「な、あ……」
少女が佇んでいた。
いつの間にか、手には杖が握られている。ゆらりと体を揺らし、その視線をこちらに向ける。
世を恨むかの様な、深い闇を感じさせる瞳で……。
「お兄ちゃんを……殺す……? 貴方は……お兄ちゃんの敵……?」
この子はアンナちゃんなのか?
先程までのオドオドした様子は無く、今の彼女は別人にしか見えない。
その顔には鬼気迫るものがあり、尋常では無い圧力を放っている。
「う、ああ……」
あたしの体はカタカタと震え出す。足に力が入らず、その場に尻餅を着いた。
……この強烈な圧力は、殺気という奴なのだろう。
彼女の放つ殺気に、あたしの本能は恐怖を感じていた。
「敵は殺す……。奪われる前に殺す……。もう、奪わせない……。私の大切な人を……決して、誰にも……」
「ひうっ……!」
彼女が一歩を踏み出す。それだけで、あたしは泣きそうだった。自分の死をイメージしてしまったからだ。
……そう、彼女はあたしを殺せる。
彼女には魔法という力がある。殺そうという意志がある。
そして、何よりも人を殺す覚悟がある。ハッタリで殺すと口にした、あたしとは言葉の重みが全然違っている。
この子は何なのだ? 彼女は7歳の少女じゃないの?
こんな子が、どうして人を殺す覚悟なんて持っているの?
こんな小さな子が、どうすればこんな殺気を放てる様になるの?
次の瞬間、彼女の持つ杖があたしに向けられる。あたしは死を覚悟して、ぎゅっと目を閉じた。
「ごめんなさい、院長先生……」
不用意に挑発しなければ、あたしは死ぬ事が無かったかもしれない。それに、あたしが怒らせた事で、孤児院に被害が出るかもしれない。
あたしがもう少し、考えて行動出来ていれば……。
……しかし、あたしの後悔を他所に、待てども死は訪れ無かった。
不思議に思って目を開くと、そこにはアンナちゃんを抱き締める、アレクの姿があった。
「……お兄ちゃん?」
「大丈夫。ボクは死なないよ」
ぼんやりと見上げるアンナちゃん。それを優しく見下ろすアレク。
そして、アレクはゆっくりと語って聞かせる。
「ロレーヌさんは、勘違いをしただけだよ。自分の大切な人達が傷付けられるとね。だけど、ボクはそんな事をしない。アンナならわかるよね?」
「うん、お兄ちゃんは優しいから……」
「なら、ロレーヌがボクを傷付ける事も無い。しっかりと話し合えば、誤解は解けるはずだよ」
「……うん、わかった」
アレクは気遣う様に、アンナちゃんを座らせる。
そして、自身も隣に寄り添い、彼女をそっと抱き寄せた。彼女が落ち着く様に、その頭を撫でながら。
アンナちゃんは照れた様子で俯く。しかし、アレクからは離れない。むしろ、しっかりとアレクの服を握りしめている。
……なんだ、このシスコンとブラコンは?
空気が一気に甘くなった。殺伐とした空気は、一瞬で霧散した。
あたしが感じた、死の覚悟は何だったんだ……。
あたしは大きく息を吐く。緊張のあまり、息する事も忘れてたらしい。あたしの体から、空気と共に力も抜けて行った。
すると、アレクは苦笑いを浮かべ、職員に声を掛けた。
「ここからは、私のやり方で進めます。……良いですね?」
「はい……。申し訳ありませんでした……」
後ろへ視線を送ると、職員は頭を下げていた。隣のメイドは残念そうな顔をしている。
そして、顔を上げた職員は悔しそうな顔をしていた。しかし、それも一瞬の事で、すぐに無表情を作ってしまう。
「ロレーヌさん、すみませんでした。誤解を招く言い方をしました……」
振り返ると、アレクは頭を下げていた。そして、アンナちゃんの頭も下げさせていた。
「えっと……」
あたしは状況に取り残される。そんなあたしに、顔を上げたアレクが、優しい声で語り掛けて来る。
「まず、ロレーヌさんの大切な人達に手を出さない事を約束します。それで、最後まで話を聞いて頂けるなら、席に座り直して頂けないでしょうか?」
「は、はあ……」
あたしは自分が床の上に座っていた事を思い出す。
この状況で断るだけの勇気は無い。あたしは言われるままに席に座り直した。
「ありがとう御座います。誤解を解く為に、まずはクラン加入に際して、こちらが提示する条件を話させて頂きます」
「提示する条件……?」
支払われる報酬とかの事かな? あたしが首を傾げていると、アレクは微笑みながら頷いた。
「まず、ロレーヌさんへは毎月2万Gが生活費として支払われます。狩りの収穫は全てクランで管理しますが、代わりに武器や防具はクランから支給します」
「毎月2万G……」
あたしはゴクリと喉を鳴らす。あたしにとっては大金だ。スリで稼いでも、そこまで稼げる月はそうそう無い。それが毎月って……。
「更にこの屋敷に部屋を一室用意します。引っ越すかはお任せしますが、ここで生活するなら朝晩の食事も提供します。ああ、この屋敷の風呂も自由に使って下さい」
「ほ、本当に……?」
宿代が浮くし、食費も浮く。屋敷は豪華過ぎて落ち着かないが、お金を考えると魅力的な提案ではある。
しかも、お風呂まで付いてるらしい。話しには聞いた事があるけど、実物なんて見た事も無い……。
「……それと、これが本題です。このクランは孤児院の支援を行いたいと考えています」
「え……?」
「当面は毎月2万Gの寄付を。クランが成長すれば、それに合わせた増額も予定しています。その他にも考えている事はありますが、そちらは院長と相談が必要になりますね……」
「な、何で……?」
アレクの様子は先程までと違う。嘘臭さが消えて、自然な感じで話しているとわかる。あたしも、この言葉なら本心だと信じられる。
……ただ、そこまでする理由がわからない。
あたしは、自分にそこまでの価値が有ると自惚れたりしていない。
見た目が魅力的でも無い。特別な能力も無い。あたしに、そこまでのお金を掛ける理由が無い。
その戸惑いがわかったのだろう。アレクが説明してくれる。少し照れた様子で目をそらしながら。
「祖父から言われたんです。この力を、人の為に力を使う様にと。……ただ、ボクの力は大きくありません。全ての人に手が届く訳ではありません。だから、まずは身内と、その大切な人達を助けたいと考えています」
「身内……? それって、あたしも入るの……?」
身内って言うと、普通は家族に対して使う言葉だ。
クランがどんな物か知らないけど、少なくともパーティーメンバーに使う言葉では無い。
「同じ組織で働く仲間なので、身内で良いですよね? 少なくとも、私はそう考えて付き合うつもりです」
「…………」
ポカンと口を開く。それが普通なのか、アレクが特別なのかわからない。
ただ、あたしにとっては孤児院の皆が身内だ。アレクはあたしの事を、それと同じに扱ってくれるのかな……。
「それで、ロレーヌさんに求めたいのが……」
「うん、良いよ」
「……え?」
あたしの言葉にアレクはキョトンとする。あたしはクスリと笑って彼に告げた。
「あたしは、ここのクランに入る」
「そ、そうですか……?」
アレクは不思議そうに首を傾げる。その様子が楽しくて、あたしはニヘラと笑う。
条件なんて聞く必要は無い。アレクがあたしを身内として扱うなら、あたしに出来ない事を求めたりしない。
それに、今のアレクは院長先生と同じ空気を感じる。彼ならあたしの事を、大切にしてくれると信じられる。
アンナちゃんを大切にするアレク。兄を心底慕っているアンナちゃん。そんな二人を優しく見守るギリー。
彼等の身内になら、なっても良いかなって思える。
「それで、あたしは今日からここに住んで良いの?」
「え、ええ……。部屋の準備は、後ろのメアリーに任せてあります。何か必要な物があれば、彼女に相談して下さい」
「うん、わかった」
扉の方に振り向くと、メイドの少女が頭を下げていた。
彼女の名前はメアリーか。あたしは頭を上げた彼女に、ヒラヒラと手を振る。彼女は微かに笑みを浮かべてくれた。
あたしは再びアレクに向き直る。彼は優しげに微笑んでいた。なので、あたしもニィッと笑みを浮かべた。
「雑用でも汚れ仕事でも、出来る事なら何でもやるよ。これから宜しくね、ボス!」
「はい、宜しくお願い……って、ボス?」
アレクは組織の頭である。なら、ボスと呼ぶのが相応しいだろう。盗賊ギルドではそう教わった。
多分、間違って無いよね……?
ボスは不思議そうな表情だけど、特に否定する感じは無い。なら、問題無さそうだね。
あたしは親しみを込めて、ボスに笑顔を送った。
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