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白のネクロマンサー ~死霊王への道~  作者: 秀文
第三章 クラン結成編

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ルージュ、ゴブリン島の戦い(後編)

クラン加入メンバー視点。

暫くの間、更新が月、水、土の週三日を予定。

 先頭を駆けるゴブリン達に、雷の嵐が吹き荒れる。


 たった一つの魔法で、十匹程のゴブリンが脱落した。後続のゴブリン達は、仲間の無惨な姿に気勢を削がれる。


 この魔法はアンナ殿の物では無い。彼女のサンダー・ストームには、ここまでの威力は無かった。


 この魔法は、賢者であるアレク殿が放った物である。


「ルージュさんはリーダー中心に足止めを。ロレーヌさんは背後に回って後衛の削り。アンナはファイア・ストームで数を減らして」


 アレク殿の指示が飛ぶ。一同は即座に動き出した。


 やるべき事は海底洞窟と変わらない。魔物の数が増え、質が落ちただけだ。


「オオオォォォ! 掛かって来い!」


 ノーマルゴブリンが群がって来る。私は盾を持つ手に力を込め、新たなスキルを使用する。


「シールド・スイング!」


「「「ギャァァ……!!」」」


 横凪ぎに振り回した盾に、五匹のゴブリンが吹き飛んで行く。


 だが、吹き飛ぶだけだ。本来は雑魚であるゴブリンを、一匹たりとも倒せていなかった。


 だが、それで問題無い。このシールド・スイングは、そういったスキルだからだ。


 このスキルは周囲の敵を弾き飛ばし、距離を取るだけのスキルだ。言ってみればただの時間稼ぎ。


 しかし、私にはそこに生まれる数秒が、非常に重い意味を持つ。


 現にこの数秒の時間を利用して、アンナ殿が魔法を完成させた。


「ファイアー・ストーム!」


 密度が高い場所を狙い、アンナ殿の魔法が炸裂する。五匹のゴブリンが炎に呑まれ、焼け焦げて行く。


 そして、前線のゴブリン達は慄き、動きが鈍くなった。


 しかし、ゴブリン達の攻撃手段はそれだけでは無い。


 右手から木の矢が、左手からは炎の矢が飛んで来た。アーチャーとシャーマンによる同時攻撃である。


「はあっ……!」


 私は剣で木の矢を切り払い、盾で炎の矢を防ぐ。木の矢は切り払いに失敗しても、鉄の鎧である程度防げる。


 しかし、炎の矢は火傷を負う可能性がある。それによって、動きが鈍る事を恐れての判断である。多少のダメージは覚悟の上だ。


 そして、目でロレーヌ殿の動きを追う。どうやら左のシャーマンを優先して、仕留めに行ってくれた様だ。


 シャーマンが減ると非常に助かる。この判断力は流石である。


「ふっ!」


 私は一瞬の隙を突いて、目の前のゴブリンを切り伏せる。


 剣技を鍛えていなくとも、只のゴブリン程度は私でも一撃だ。周囲のゴブリン達は、殺気の籠った視線をこちらに向ける。


「さあ、その程度かっ!?」


 私の挑発にゴブリンの怒りが集中する。私はニヤリと笑い、盾を前に構えた。ゴブリン達は怒り狂って武器を振り回している。


 ……ふむ、今の所は順調の様だ。


 ゴブリンリーダーは距離を取って様子を見ており、私に集中している多くはノーマルだ。


 アーチャーやシャーマンの狙いも、私にのみ向けられている。


 ウォークライの効果もある。そして、先程の一撃で、私に攻撃能力がある事も見せた。これで、私を無視するゴブリンはいないはず。


 後の問題は、私の集中力が最後まで持つかどうか。既に二十程のゴブリンが倒れているが、それでもその多くがノーマル。


 しかも、数としても精々が二割といった所だ。


 相手が今のまま、単調に攻めてくれるなら良い。


 しかし、攻め方を工夫されると、この先がどうなるかわからない。決して楽観視して良い状況では無い。


「くっ……!」


 やはりと言うべきか。ゴブリンリーダーがノーマル二匹を脇に固めだした。


 そして、三匹で一つのパーティーは、お互いに距離を保って連携し始める。


 盾でいなそうとも、剣で弾こうとも、時間差で攻撃を仕掛けてくるのだ。


 こうなると全ての攻撃を防ぐ事は難しい。防ぐべき攻撃と、防がない攻撃を選ぶ必要が出て来る。


「はっ……!」


 飛翔した木矢を切り払う。炎の矢よりは優先度が低いが、可能な限りは防ぐべき攻撃だ。


「ふん……!」


 ゴブリンリーダーの剣を、受け流しで回避する。


 ゴブリンリーダーは鉄の剣を持っており、当たり所が悪いと大怪我となる。これも接近戦では、最優先で防ぐべき攻撃である。


「くうっ……!?」


 二体のノーマルゴブリンが、木の棍棒で殴り掛かっていた。鉄の鎧でダメージは軽減させるが、衝撃までは防いでくれない。


 ダメージは蓄積されるだろうが、この攻撃を防ぐのは最も優先順位が低い。


「プロテス!」


 背後から飛んで来る、アレク殿の支援魔法。その効果はダメージ軽減である。


 これでノーマルゴブリンのダメージも、長く耐えられる事だろう。


「おっと……!」


 飛来する炎の矢。タイミングが難しかった為、盾で受け止めダメージを減らす。


 しかし、熱と衝撃は伝わっており、ダメージは多少なりとも蓄積される。


「ぐっ……!」


 更にもう一組のゴブリンリーダーが攻撃に加わって来る。何とかゴブリンリーダーの剣はガントレットで受けるが、ダメージは蓄積される。


 それに加えて、ノーマル二匹の棍棒もダメージとして加わっている。


「シールド・スイング!」


「「「ギャッ……!?」」」


 二組のゴブリン達が吹き飛んでいく。それと同時にアンナ殿が再び魔法を放つ。


「ファイア・ストーム!」


「「「ギャアアア……!!」」」


 ゴブリンリーダーとノーマル二体が焼かれる。ゴブリン達が密集していない為、それ以上の巻き添えは増えなかった。


 これは更に時間が掛かりそうだな……。


「ヒール!」


「助かります!」


 アレク殿の回復魔法だ。これによって、蓄積されたダメージと疲労が抜けて行く。


 この小まめな回復があるからこそ、私は安心して敵の攻撃を受け続ける事が出来る。


 そう、私の勇気ある行動は、アレク殿への信頼の表れでもあるのだ!


 ……とはいえ、この数の多さには辟易とさせられる。


 私の周辺には十匹近いゴブリンが群がっており、更にそれを囲む様に数十匹のゴブリンが控えている。


 この数を全て倒すのに、果たしてどれだけの時間が必要となるのだろう……?


「……なんだ……あいつは!?」


 私の懸念は、違った形で破られた。


 ハスティール殿の叫びが聞こえたのだ。すっかり存在を忘れていたが、アンナ殿の側に控えていたらしい。


 私はハスティール殿の視線の先を見る。そして、驚愕に目を見開く。


 村の奥から現れたのは、巨大なゴブリンである。


 私より一回り大きな体躯を持ち、巨大な長剣に鉄の鎧を身に纏っている。


 更には王冠とマントまで身に着け、周辺には複数のゴブリンリーダーが付き添っている。


 それは正に蛮族の王と呼ぶべき存在だった。


「……ゴブリンキング。やはり、いましたね」


 続いて聞こえて来るアレク殿の言葉。私は更に驚愕した。


 ゴブリンキングの名は、冒険者なら誰でも知る物である。所謂、ボスと呼ばれる存在であり、通常の魔物と一線を画す強さを持つ。


 倒すのであればゴールド級のパーティーが万全の態勢で挑むか、シルバー級のパーティーが三組必要と言われている。


 今の我々には荷が重い相手だ。


 しかし、驚いた事にアレク殿は逃げ出すつもりが無いらしい。それ所か、ハスティール殿は例のスキルの準備に入った。


「ふっ……。やはり、仕留めるのですね……」


 主人の考えに満足し、私は不敵に笑う。


 やはり、アレク殿に逃げる姿は似合わない。如何な強敵が現れようとも、それに立ち向かう。


 それこそが英雄に相応しい選択という物だ。


 ならば、私は従者として、主を支えねばなるまい。ここで準備が整うまでの時間を稼ぎ、ハスティール殿の大技で決めて貰うのだ。


 目の前にはゴブリンによる壁が出来ている。


 しかし、この程度の障壁は、アレク殿なら何とかするだろう。私はただ、己の役目を全うするだけである。


「「「ギャッギャッギャッ……!!!」」」


 王の出現にゴブリン達が沸き立つ。


 興奮した様に跳ねる者がいる。手にした武器を掲げる者がいる。身近な者は地に頭を付けてさえいた。


 奴は彼らにとっての英雄。そして、絶対的な存在なのだろう。私にとってのアレク殿と同じ様に……。


「むうっ……!?」


 唐突に横から刃が閃いた。私は反射的にその攻撃を盾で防ぐ。


 しかし、攻撃はそれだけに留まらない。波状攻撃で複数のゴブリンリーダーが時間差攻撃を仕掛けて来る。


 私は致命傷を避ける為に、盾と剣と鎧を駆使し、相手の攻撃に耐え続ける。


「無様な真似は見せれんよな……!」


 彼らの激しい攻撃に、私は共感していた。自らの主が見ている中で、無様な姿など晒せるはずが無い。


 例え、自身の命を危険に晒そうとも、敵を討つ為の気概を見せねばならないのだ。


「シールド・スイング!」


 密集していた多くのゴブリンが吹き飛んで行く。


 しかし、別のゴブリンリーダーが、入れ替わる様に前へと出て来る。


 その目には、手柄を求める従者の熱が籠っていた。


「シールドバッシュ!」


「グギャ……!?」


 私の盾が、ゴブリンリーダーの頭に直撃する。それによって、ゴブリンリーダーは立ったまま失神してしまう。


 だが、引き連れたノーマルゴブリンは、構わず棍棒を振り下ろす。私はその攻撃を無視し、飛来する炎の矢を防いでいた。


「ぐぅ……!」


 魔法の衝撃が腕に伝わる。それと同時に、棍棒のダメージも胴体に響く。


 しかし、それに構っている暇は無い。私は飛来する木矢を切り払い、ゴブリンリーダーの剣を盾で防ぐ必要があったからだ。


「オオオォォォォ!! まだだ……! まだ、倒れはしない……!!」


 ウォークライでゴブリンの意識を引き付ける。今は離れたゴブリンまで気を配る余裕が無い。


 その為、このスキルを使っておく。アレク殿達に、ゴブリンの意識が向かない様に。


 ゴブリンリーダーの剣が舞う。炎の矢に、木の矢が飛来する。棍棒によるダメージが蓄積されていく。


 だが、私は倒れる訳にはいかない。私が倒れてしまえば、後ろの仲間達に危険が及ぶのだから。


 それだけは盾の誇りに掛け、防がねばならない……。


 そして、一瞬とも、永遠とも思える時間が過ぎ――気が付くと、目の前に炎の柱が立ち上がった。


「え……?」


 何故かゴブリン達はその柱から距離を取る。


 私の側にいるゴブリン達だけでは無い。離れた場所にいるゴブリン達まで、この柱に注意を払っていたのだ。


「何をそんなに……?」


 攻撃の手が止まった事を不思議に思う。離れたゴブリンまで注視している事を不思議に思う。


 そして、ボンヤリした頭でふっと理解した。


「……ああ、これは柱じゃなくて、炎の壁か」


 この炎は私の場所から、ゴブリンキングの手前まで伸びている。ゴブリン達の王へと向けた攻撃と考え、全てのゴブリンが焦ったのだろう。


 しかし、その炎は王へと届いていない。しかも、ただ群れの中央で燃え上がっているだけである。


 そして、皆が茫然と立ち上がる炎を眺める。ゴブリン達も、どうした物かと、困惑した様子でいた。


 そして、少々の時間が過ぎる。炎の壁は嘘の様にすっと消えてしまった。


「行け……! ハスティール……!!」


 アレク殿の叫びが響く。それに合わせて、一陣の風が吹いた。銀色の輝きが、私の横を駆け抜けたのだ。


「エアロ・バースト!」


 それと同時に放たれるアレク殿の魔法。ゴブリンキングの取り巻き達が、その魔法によって吹き飛ばされて行く。


「爆裂波動拳……!!」



 ――ズドン!!



 それは、ほんの数秒の出来事だった。余りに一瞬で、誰もが事態に着いて行けなかった。


 皆の視線の先には、ハスティール殿が立っていた。そして、拳を振りぬいた姿勢から、ゆっくりとその拳を戻していく。


 更にその先に目を向ける。そこには王の成れの果てが転がっている。


 鎧は砕かれ、身体は真っ二つだ。どう考えても、拳によって引き起こされる状態では無い。


 しかし、今の光景を見れば、それが何を意味するか容易に想像出来る。


 ハスティール殿は顔を背後に向け、茫然とするゴブリン達にニヤリと笑う。そして、自らの拳を掲げて見せた。


「……オレの……勝ちだ!!」


 それは勝鬨である。勝利に対する宣言である。


 それにより、ゴブリン達は理解した。王が打ち破られたのだと。そして、彼らが我々に敗れたのだと。


「……くっ……あははははっ……!」


 ハスティール殿の笑いが木霊する。それは凶悪な笑いでは無い。心底楽しそうな、明るい笑い声である。


 しかし、ゴブリン達にはそう聞こえないだろう。彼らは恐れをなす様に、一匹、また一匹と逃げ出し始めた。


「ヒール」


「あ……」


 アレク殿の回復魔法が飛んで来る。礼を言おうとしたが、アレク殿はハスティール殿へ向かって歩き出していた。


 私は主の行動を、ただ静かに見守っていた。


「ハスティールさん、おめでとうございます。今日のMVPは貴方で間違い無いですね!」


 アレク殿の嬉しそうな声が響く。


 しかし、ハスティール殿は何故か不満そうな顔をしている。先ほどの笑い声が嘘の様に顔を歪めていた。


「ハティだ……」


「え……?」


 ハスティール殿の呟きに、アレク殿が不思議そうな顔をする。


 それを見て、ハスティール殿はニヤリと笑う。これまでの彼とは別人かと思う程、自信に満ちた顔をしていた。


「親しい奴は、オレをハティと呼ぶ。リーダーには、そう呼んで欲しい」


「……わかった。ハティ、これからも宜しく!」


「ああ、こちらこそ!」


 ハスティール殿が拳を突き出す。アレク殿も拳を出して、二人の拳がぶつかり合う。


 それは、共に戦った戦友が行う儀式である。


「ぐ……ぐぬぬ……」


 ……まさか、一番に戦友と認められるのがハスティール殿とは誤算である。


 努力をしているのは知っていたが、ここで化けるとは思っていなかった。


 その姿の、何と羨ましい事であろうか……。


 私は感じていた疲労も忘れ、ハスティール殿に激しく嫉妬していた。


 こうして、私はハスティール殿に対し、初めてライバル認定を行ったのである。

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