アレク、思考に没頭する
――旅に出て十四日目。
明日の昼前には、商業都市ヴォルクスに到着出来るだろう。
アンナも想定以上に頑張り、今では黒魔術師Lv15だ。……そう、七歳の少女がLv15なのである。
恐らくは、魔術師ギルドで大きな話題を集める事になるだろう。変な虫が着かない様に、しっかり目を光らせないとならない。
ちなみに、今のボクはいつも通りの火の番である。ギリーと交代でのこの番も、今日で最後と思うと感慨深い。
ボクはチラリとアンナに目を向ける。彼女は寝袋の中で、スヤスヤと眠っていた。
しっかりと眠れている様で何よりだ。初めの数日は、寝付きが悪そうだったからね。
「とはいえ、これで終わりじゃない……」
そう、ヴォルクスに着いたら、そこから新しい生活が始まるのだ。冒険者として、戦い続ける日々である。
ボクはマジックバッグにそっと触れる。これは爺ちゃんに作って貰ったバッグである。
そして、その中には爺ちゃんが残してくれた、数々の遺産が入っている。
役立つアイテムが沢山だ。様々なマジック・アイテム。マジック・アイテム用の素材にレシピ本。それに、アイテム作成の為の道具もある。
しかし、悲しい事ではあるが、一番助かるのはお金だ。爺ちゃんが残してくれたお金は、五百万G以上もある。
平民の年間の稼ぎが十万Gらしいので、質素な暮らしをすれば、五十年近く生きられる金額である。
「ただ、足りないんだよな……」
ボク達は冒険者として生きる事を決めた。
五百万Gという金額は、上級クラスの装備を整えれば、あっという間に消える金額でしかない。
ボクの装備する賢者シリーズなら、五百万Gでも足りないくらいだ。
そして、今後はギリーとアンナの装備も整える必要がある。クラン結成にもお金を使うし、クラン維持にもお金を使う。
もっと言えば、クランを続けるならメンバーも増やしたい。
ボク、ギリー、アンナの三人は全て後衛職だ。この編成のままでは、いずれ壁にぶつかる時が来る。
それを考えると、五百万Gというお金は十分と言えない。不足分を補う為に、効率良く稼ぐ事を考える必要がある。
「ポーション作りだけでは辛いよな……」
下級回復ポーションの販売額は100Gだ。中級で500G、上級なら1500Gである。精神回復ポーションなら、それぞれのランクで五倍の値段となる。
数を捌ければ、そこそこの値段にはなるだろう。ただし、素材集めと作成に掛かる時間を考えると、時間効率が良いとは言えない。狩りのついでの小遣い稼ぎと考えるべきか……。
「しばらくは節約が必要だな……」
ボクは小さく息を吐く。
装備が整えば、それだけ良い狩り場に行ける。本音を言えば、効率良くレベルを上げる為にも、早く伝説クラスの装備を手に入れたい。
伝説クラスとは、エクスカリバーやゲイ・ボルクの様に、何らかの逸話を持つ武具の事だ。
鍛冶職というプレイヤーが作れる最高装備より上の性能を持つ。手に入れるには複数の高位クエストをクリアし、素材集めから行わなくてはならない。
しかし、今のボク達では、伝説クラスの装備に手が出ない。クエストに挑むには戦力が足りていない。購入するには手持ちの金額で足りない。
無謀なクエスト挑戦も、一気に稼ぐ為に危険を犯すのも、ボクの目的からすると本末転倒だ。
ボク達は生き残る為に強くなるのだ。今はコツコツと稼ぐしかないのだろう……。
「装備以外の強化も考えないとな……」
ボクはギリーに目を向ける。今は彼も寝袋で眠っていた。
ギリーは以前の会話で、スナイパーへの転職を決めていた。
彼がスナイパーとして成長すれば、ボク達のパーティーは更なる火力を手にする事になる。彼の転職は早々に済ませるべきだろう。
アンナも魔導師に興味を持っていた。まだまだ先の話になるが、こちらも確実に進めたい。彼女との約束なので、少しでも早く彼女を強くしてあげたい。
そして、ボクの転職も考えないといけない。
ボクはケトル村の戦いで、黒魔術師がLv50になっている。つまり、待望の死霊使いへの転職が可能になっている。
死霊使いは前衛役のアンデッド召喚が可能だ。更には状態異常が得意なアンデッドにより、パーティーでのサポートにも幅が広がる。
……ただし、死霊使いになるにはクエストのクリアが必要となる。
今のボク達では、達成が困難なクエストである。上級の前衛職を用意し、しっかりとパーティーを組まねばならない。
「それと、アレの事も考えないとな……」
ボクはチラリと背後に目を向ける。そこには木々が見えるだけで、他には何も見えない。
……ただし、ボクには何らかの強い気配が佇んでいるのを感じられる。
これはボクの持つユニークスキル『死者との交信』によるものだ。赤ん坊の時から感じていたので、気配自体は驚く事では無い。
しかし、ケトル村での戦い以降、その気配がはっきりと強くなった。
この原因がレベルアップの為か、多くの魂に触れた為か、今のボクには判断出来ない。
このスキルにも何らかの意味があるはずだ。ボクの助けになるかは未知数。だけど、死霊使いになれば、何らかのヒントは得られるかもしれない。
「はあ……。課題が多いな……」
明るくなりつつある空を見上げ、ボクはそっと息を吐いた。




