王国の舞台裏(メリッサ視点)
現在はペンドラゴン王国の王城会議室にて、王国の首脳陣が招集されています。この世界で起きている、神々の対応について極秘の情報伝達を行う為です。
招集を行ったのは女王であるアンリエッタ様。集まった中で見知った顔だと、ポルク公爵に商人ギルドのトップであるハンスさん。
それに王国騎士団の団長であるルージュさん。王都のギルドを代表してはハスティールさん。そして、王都の顔役であるこの私――メリッサと言う顔ぶれです。
「――この様に、異世界の神がこの世界を破滅に導かんとしています。しかし、現在は神々が協力してその居場所を探り、使徒ミーアがその眷属の排除に動いており……」
集められた一同の顔色は悪い。話の内容を考えれば当然でしょう。下手をすればペンドラゴン王国のみならず、この世界が崩壊するかもという内容なのですから。
しかし、やはりと言うべきか、見知った顔ぶれは表情が違う。何かあれば協力しようと、決意を秘めた眼差しをしていますね。
アンリエッタ女王の説明が終わり、一同は口外禁止を言い渡される。そして、解散と同時にルージュさん、ハスティールさんが私の元へやって来ました。
「メリッサ殿、何かあればすぐにお声かけ下さい」
「俺達で出来る事があれば、何でも行ってくれ!」
陰では私は『女王の懐刀』と呼ばれており、王都各所の連絡掛かりも務めています。それ故に、緊急の連絡が必要な際は、二人への連絡は私からだと理解している為です。
私は笑みを浮かべて小さく頷く。そして、いつも通りの冷静な口調で二人に告げます。
「ええ、わかりました。その時は宜しくお願いします」
私の返事に二人は満足そうに頷く。そして、私の元から去って行きました。
その入れ替わりとして、ポルク様とハンスさんがやって来ます。どうやらお二人は、アンリエッタ女王への挨拶を終えたみたいです。
「大変な事態になりましたね。立場上、表立っては言えませんが……。正直、アレクさんが居てくれて良かったと思っています」
「ポルク様、それは仕方ありませんよ。普通は神々の事情なんて伝えられません。アレク君は本当に特例みたいな感じですから」
ヴォルクス公国の設立準備中であるポルク様からすれば、問題を神頼みにするのは許せないのでしょう。出来る事なら自分達の危機は、人間の手で何とかしたいと考えている人です。
けれど、これは人間の手に負える事態ではありません。本来ならば神々が秘密裏に処理する事案。それを知らずに人類が被害を受けても、それは天災と思って諦めるしか無い状況なのです。
「市政に影響が出た際は、速やかに援助を行える様に。私達は私達で、出来る準備を進めましょう」
私の言葉に二人は力強く頷きます。神々の対応には手を出せない。けれど、自分達に出来る事はある。そう信じている瞳です。
二人は私に挨拶をすると、この場から急いで去って行きます。今からヴォルクスへ戻り、人員と資材をの手配を進めるのでしょう。
「メリッサさん、ひとまず皆への説明は終わりましたね……」
声を掛けられて振り返ると、アンリエッタ王女が歩み寄って来ています。どうやら、他の人達からの挨拶は全て終えられたみたいですね。
「はい。国内については、ですが。この後は、各国の首脳陣への連絡も必要となります」
私の返答を聞き、アンリエッタ様がむくれます。まだまだ重圧が続く事を理解している。けれど、それをわざわざ口にするのを、意地悪だと言わんばかりの態度です。
けれど、まだ人目があると気付き、すぐに女王の仮面を被ります。そして、そっと私の手を取り、彼女の胸元に抱き寄せます。
「メリッサさんが側に居てくれて、本当に良かった……。貴女の存在が、私にとってどれだけ大きい事か……」
「過分なお言葉恐縮です。共に国を想う者として、尽力出来ればと存じます」
これは演技であり、周囲に対するアピールです。平民である私が力を持ち過ぎる事に、不満を持つ貴族が少なからず居る為です。
転生神の妻である私に、直接手を出す者はいません。しかし、不満を持つ者は地味な嫌がらせをする事がある。
そういった者達へのけん制として、女王が度々周囲へと信頼を強調してくれている訳ですね。これまでその気遣いを、私もありがたく利用させて貰っていました。
しかし、アンリエッタ王女はすっと身を寄せ、私の耳元で小さく囁きます。
「本心ですからね……? 貴女が居てくれて、本当に救われています……」
「アンリエッタ……。そいうことは、二人だけの時って約束でしょ……?」
私が窘めると、彼女はペロッと舌を出す。私にだけ見せる様に、悪戯っぽい顔を覗かせました。
王女の仮面を被る彼女が、本来のお転婆っぷりを見せるのは限られ人物のみ。その内の一人が、この私と言う訳です。
「それでで後をお願いします。私は各国の大使の方々と面談を予定していますので」
「承知ました。王都側の手配はお任せ下さい。全てつつがなく進めさせて頂きます」
私が頭を下げ、臣下の礼を取ると、アンリエッタは去って行く。それと同時に、彼女と連携が必要な人材も揃って部屋を去りました。
部屋に残されたのは私一人だけ。私はゆっくり顔を上げ……。
――メリッサと言う、仮面を外す……。
「ひ、ひひひ……。面白い……。実に面白い……!」
何故か惹かれる物があり、隠れ家に選んだメリッサと言う人間。その思考回路は、実に我と良く馴染んだ。
情報を集め、ルールを把握し――その弱点を的確に突く。
そんな遊び方があるなんて知らなかった。この人間は必要ならばルールに従う。しかし、不要と思えば簡単にルールを放棄する人間なのだ。
「ん~……。実に良いぃぃぃ……!!! これならべフェールも手を出せまいぃぃぃ……!!!」
秩序ある行動は、我にとって相容れないもの。けれど、秩序を崩壊させられるなら、この世界に居る一時程度は遊んでみるのも悪くない。
それにこの世界の理に逆らえば、我の力は大きく減衰してしまう。それでべフェールに滅ぼされ、力の一部を失うのだけは我慢がならなかった。
「ひひ、ひひひ……! 理解したぞ? この世界の弱点を! この世界の神々を、出し抜く為の方法をぉぉぉ……!!!」
そう、これは遊びなのだ。秩序は私の敵であり、決して相容れない物。けれど、これは敢えてそれを取り込むという遊び。
『混沌』たる我が『秩序』を受けれいれない。それはある種の『秩序』と言える。『混沌』たる我は、『混沌』故に『秩序』的な行動を取る時がある。
それこそが、真の『混沌』! そんな発想は、今までの我には無かった物だ!
ああ、実に素晴らしい。このメリッサと言う人間の思考は、私に更なる成長を促すだろう。全ての秩序を虚言で弄する……。
――そのあり方は実に『混沌』である!
「ひひっ、それでは始めるとしよう……。このケイオスによる――世界征服をっ……!!!」
我は再びメリッサの仮面を被る。そして、王城の会議室を後にする。
この世界を混沌に染める為、ぽとり、ぽとりと、小さな種を一つずつ蒔きながら……。
これにて前編は終了となります。
次の中編はゴールデンウイークを予定しています!
それまで続きをお待ち頂ければ幸いです♪




