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白のネクロマンサー ~死霊王への道~  作者: 秀文
番外編17 異世界の侵略者(前編)

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静かなる侵略(ミーア視点)

 私の名はミーア。私は転生神であるアレク君の妻で、幻想神ヴィジョンの母親。



 ――そして、三体の魔王を配下に持つ、『闇』の魔王である。



 伝説級レジェンドである使徒の中では最強格の一人。私と同格の存在は、六竜の使徒たる竜王達しかいないだろう。


 そんな私でも、秩序の神べフェールさんは警戒すべき存在だった。この世界では一割にも満たない力しか使えないらしいが、それでも私が戦えば勝つのは難しい存在である。


『――撃破。眷属の消失を確認』


 ここはペンドラゴン王国の秘境とも呼べる森。そんな場所に出現した、異形の化け物をべフェールさんはアッサリと葬ってしまう。


 その化け物は、元々はこの森の主たる魔物だったらしい。しかし、黒い触手に取り込まれ、混沌の眷属と化してしまったそうだ。


 そうなると、その魔物は他の魔物を浸食し始める。混沌の眷属を更に増やそうとするそうなのだ。


 しかも、浸食された魔物は等級が一つ上がる。先程の魔物も元々はユニーク級だったが、伝説級レジェンド並みの強さを持っていたのだ。


 私であれば即座に見つけて駆け付けられる。そして、その眷属を一撃で屠るべフェールさんの存在で、今の所は被害を最小限に抑えられていた。


『この地にケイオスの気配無し。その他の場所の情報を求む』


「大丈夫だよ、べフェールさん。他に検知はしていないから」


 私の返事にべフェールさんの瞳が点滅する。青い輝きなので、感情的には落ち着いてるんだろう。トールが言うには、赤色の時は不機嫌だって言ってたしね。


 そして、アレク君やトールの言う通り、べフェールさんは扱いが分かれば上手く付き合える存在だった。


 べフェールさんには『秩序』と言う行動理念がある。相手の秩序を重んじれば、相手もこちらの秩序を重んじるみたいなのだ。


 つまり、こちらの世界のルールに従ってくれる。それがこの世界の秩序なのだと、理解を求めれば応じてくれるのである。


『懸念事項を提唱。ケイオスの動きに異常あり』


「えっ……? それって……どういう意味かな?」


 見ればべフェールさんの瞳が黄色く点滅していた。それが何を意味するかはわからないけど、落ち着いている状態でも、不機嫌な状態でも無いのは間違いない。


 戸惑いながら私が尋ねると、べフェールさんは先ほどの化け物が消滅した地点に視線を向けた。


『ケイオスが一定以上のエネルギーを保有する魔物を狙っている。『混沌』を原動とするケイオスにしては、余りにも行動が秩序・・立っている』


「行動が秩序立っているって、それの何が問題なの?」


 私には『混沌』の神についての知識が無い。それ故に、べフェールさんが何を感じているのか、私には理解出来なかった。


 べフェールさんは瞳を青色に点滅させる。そして、私にもわかる様に説明をしてくれた。


『混沌は常に一定の状態に無い。つまり、その性質上論理立った行動は取れない。しかし、今のケイオスは明らかに論理的な行動を取っている。この世界のケイオスに、何らかの変化が起きていると想定される』


 べフェールさんはこの世界に順応しているのだろう。会話を重ねる毎に、その説明はこちらの理解しやすい物へと変わって来ている。


 少しずつ会話がスムーズになっている事に驚きつつも、私は続けて質問を投げるかける。


「その変化は良い事? それとも悪い事なの?」


『――後者。ケイオスはこの世界に順応し、成長している。この先、どう成長するか推測出来ない』


 その言葉にハッとなる。べフェールさんがこの世界に順応する様に、ケイオスもこの世界に順応している。そして、成長している事に気付く。


 彼等の世界に無かった概念や知識を吸収し、互いに成長をし続けているのだろう。それは確かに、問題があると言える事柄だ。


「べフェールさんはどうすべきだと思う? どうすれば問題が解決するのかな?」


『最優先事項はケイオス本体の居場所を特定。その他の優先事項は眷属の増殖を阻止、ケイオスの行動パターンの解析』


 確かにべフェールさんの言う通り。それが私達の行動方針であり、現状取れる手段である。


 ただ、場当たり的な対処を続ける私は、変わらぬ状況に少しずつ焦りを感じ始めていた。


『現状のケイオスは、エネルギー保有量の多い魔物を狙っている。それはこの世界での保有エネルギー量を増やそうとしている為と考えられる。眷属が増えると言う事は、そのままこの世界の『混沌』浸食率が増加したと判断しても構わない』


「――世界の、浸食……?」


 その言葉に私はゾッとする。確かにこの世界で生まれる魔物は、個別には大したエネルギー量では無い。


 しかし、ユニーク級でも全て合わせれれば数パーセント程度になる。それだけのエネルギーがあれば、伝説級レジェンドを軽く上回るエネルギー量となるのだ。


 私は魔王三体分のエネルギーを捻出出来るので、まだ何とか出来るかもしれない。しかし、ギリーや他の使徒では、ケイオスに捕食される可能性が出て来てしまう。


 そうなると、本格的に歯止めが効かなくなる。神々が直接対処に動く事態になれば、それは世界の運航に支障をきたす事態を意味するのだから……。


『故に対処療法ではあるが、今の活動は非常に重要。ケイオス本体が見つかるまで、継続する必要がある』


 べフェールさんの青い瞳が私を真っ直ぐ見つめていた。そして、その言葉が私の焦りに対する釘刺しだと気付く。


 べフェールさんは異世界から来た、全く異なることわりで動く存在。そのはずなのに、即座にこの世界や私達の事を理解し続けている。


 それはべフェールさんが、この世界の最高神に相当する存在だから。全知全能に近しい存在なのだろうと、私は改めて理解させられる。


「うん、そうだね……。頑張らなくっちゃ!」


 今の私はやれる事をやるしかない。べフェールさんの目となり、足となり、そのサポートをする事しか出来ない。


 その事を嫌だと思っている訳じゃない。むしろ、その力を引き継がせてくれた、ガウルさんに感謝しているくらいだ。



 ――けれど、焦る気持ちは決して消えない……。



 今もヴィジョンがケイオスに狙われている。最高神に守られているとはいえ、娘が殺されそうなのに平静を保てる訳がない。


 それに、今もヴィジョンは一人でじっと耐えている。ケイオスが侵入したのは自分のせいだと、自分で自分を責めているはずだ。


 私もあの子の母親だからわかる。そして、今のヴィジョンにはどんな慰めの言葉も意味が無い。問題が解決するまで、彼女の心は重圧に押しつぶされたままなのだと……。


「――っ……⁈ ヒットしたよ! 次の場所に飛ぶね!」


『ああ、頼む。全ての眷属は我が必ず屠ってみせよう』


 力強く頷くべフェールさん。その頼もしい言葉に、私は少しだけ心が軽くなる。


 未だケイオスの居場所はわからない。解決の道筋が見えない状況かもしれない。


 けれど、べフェールさんのお陰で絶望せずに済んでいる。まだ何とか出来るはずだと、足掻き続ける事が出来ているのだ。


 私は指輪の力でゲートを開く。そして、役目を果たす為に、次なる戦場へとべフェールさんを運び続けるのだった。

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