白騎士
父さんから解散を言い渡され、俺は騎士団長の元を訪ねた。この国の騎士団長と言えば、ルージュ=ハワードその人である。
事情を説明して、当面は任務を免除して貰った。今は父さんからの連絡待ちで、王都から離れる訳にもいかないからね。
そんな訳で、俺は一先ず訓練場へと向か事にした。任務に従事していないなら、いつも通りに訓練に参加と思っての事だけど……。
――何故だか訓練場に知らない人が居る。
全身真っ白な鎧に身を包んだ騎士。ペンキでも塗ってるのか、それは金属っぽさの無い鎧であった。
「……アレ、誰なの?」
俺は知人を見つけて問い掛けた。その知人とは幼馴染でもあり、同僚騎士でもあるマグナとホリーだ。
二人はこちらに振り返ると、困惑した表情で俺へと説明を始める。
「いや、急に現れて俺達も驚いてたんだよ……」
「ずっとああして、身動き一つしねぇしよ……」
訓練所のど真ん中で直立不動の人物。その周囲には、数人の騎士が遠巻きに様子を伺っていた。
――ギンッ……!
不意にその白い騎士に動きがあった。頭部だけを動かして、こちらに視線を向けて来たのだ。
そして、唐突に現れる巨大なランス。その真っ白なランスを手に、俺に向かって突撃して来る。
「――ちょっ、何なんだ……?!」
俺は腰の剣を抜き、咄嗟にその勢いを逸らそうとする。しかし、相手の馬鹿力に押され、その勢いで転倒させられる。
俺は勢いに沿って転がり、勢いによって起き上がる。だが、ランスの切っ先が既に目前に迫っていた。
その攻撃を紙一重でかわすが、嫌な汗が背中を流れる。一秒遅ければ、俺の頭は確実に貫かれていた。
「早っ……⁈ 人間の動きじゃないぞ……!」
明らかに身体能力が高過ぎる。これでも俺はLv50の騎士だ。身体能力で言えば、人類でもトップクラスと言う自負がある。
それにも関わらず、フィジカルで圧倒されている。俺は堪らずにユニークスキル『英雄』の効果を発動させた。
「これならっ……!」
『――っ……⁈』
五分と言う制限時間はあるが、今の俺はステータスが二倍に強化されている。この状態の俺はまさに無敵。レイドボスすら一人で倒せる強さを持つ。
そんな俺の強化を察したのか、白騎士は瞬時に距離を取った。そして、何故だかその手から巨大なランスを消した。
「なんだ……? 戦闘終了か……?」
いきなり襲われた事はあれだけど、戦わずに済むならこちらも助かる。何せ相手は、ユニークスキル無しでは相手にならない強者だからだ。
そんな相手と殺し合いをしたいはずもない。俺は念の為に剣を構えて警戒を続ける。すると相手は右手を掲げ、俺へと手のひらを向けて来た。
――ガンッ……!!!
「――がはっ……⁈」
気付くと俺は地面に叩き付けられていた。白騎士の腕が俺の頭を掴み、俺の上に馬乗りになっている。
硬質なガントレットが俺の頭を押さえつける。抵抗を試みてみたが、まったくびくともしなかった。
――マジかよ……。
Lv50の騎士でステータスが二倍。ハッキリ言って、人間が到達出来る最高地点のはずなんだけど?
なのにまるで歯が立たない。つまり、相手は人間では無く……。
「貴方は、神の使徒ですか……?」
神の使徒と言ってもピンキリだ。俺やアンナさんみたいな、力を与えられた人間もいる。
けれど、上位の使徒は完全な人外である。六竜の使徒である、竜王なんかがその最たるものだ。
そちら側の使徒ではないか? そう思って問い掛けた俺に、相手は瞳を輝かせて反応を示す。
『言語解析完了。コンタクト可能。『ケイオス』では無いと判断。貴殿はこの世界の神か?』
「――はっ……? いや、人間だけど……?」
何やら思っていたのと違う反応が返って来た。俺が戸惑っていると、相手は目をチカチカ瞬きながら、俺へと再び問い掛けて来た。
『検索完了。人間について理解。貴殿は『ケイオス』を認識しているか?』
「――ちょっ、待って待って! 先に状況を説明してくれないかな……⁈」
この状況は何なんだ? どうして俺は地面を押さえつけられ、質問をされているのだろうか?
それにどうも、怪しい流れになって来た。もしかして、この白騎士って……。
『要求を了承。我が名は『べフェール』。『ケイオス』を追って、この世界へやって来た。『ケイオス』を知るなら情報提供を求む』
「この世界へ、やって来たって……」
やはりそうだ。この白騎士べフェールはこの世界の住人ではない。異世界からやって来た存在なのだ。
というか、父さん達は把握してる? この世界のセキュリティ甘くて、侵入し放題って事は無いよね?
色々と気になりはしたが、俺は相手の要求について確かめる事にした。
「その『ケイオス』って、もしかして黒くてウネウネした触手みたいなのかな?」
『――該当。『ケイオス』の情報を要求する』
べフェールの腕に力が籠る。目も赤色に光って、もの凄い圧力を掛けて来る。
「は、話す! 話すから、拘束は解いてよ!」
『――要求を拒否。情報提供後に開放予定』
マジかよ……。この状況のまま、話し続けないといけないのか……。
俺は助けを求めて視線を周囲へ向ける。しかし、多くの騎士は遠巻きに様子を伺うだけだった。
そして、マグナは消えている。代わりにホリーは視線が合うと、俺へとサムズアップしていた。
これはマグナが助けを呼びに行った感じかな? なら、時間を稼げば援軍も来るかも?
俺はその状況に安堵しつつ、今はべフェールの要求に従う事にした。
「俺の妹が『幻想神』って神様で、異世界と繋がる門を開けるんだ。その門に忍び込んで来たのかな? 妹の作った世界にその『ケイオス』ってのが居たんだよね」
『――『幻想神』? 『仮想空間を司る』神の別称?』
おっと、そういえばヴィジョンは『仮想空間を司る』神様だった。この世界には仮想空間の概念が無いので、わかりやすく『幻想神』って名乗ってるんだったな。
俺は頭を押さえつけられながらも、コクコクと頷いてみせる。すると、白騎士はしばらく黙考してから、俺へとこう告げた。
『理解不能。貴殿は人間でありながら、神を妹と呼ぶ。そして、人間でありながら、神の力を所持している。極めて不可解な存在』
「いや、不可解って……」
俺からしたらこの状況が不可解だよ。いや、むしろ理不尽と言うべきか?
とはいえ、相手は俺より強いし、逆らっても碌なことにならなさそうだ。今は大人しく要求に従うしかないんだけどさ……。
「えっと、妹に会いに行く? 俺はこれ以上知らないよ?」
『――提案を了承。更なる情報取集の為、貴殿に同行する』
べフェールはようやく拘束を解き、俺の上から離れてくれた。俺はほっと胸を撫で下ろしつつ、ゆっくり起き上がり服の汚れを落とす。
そして、俺はべフェールを改めて観察する。初めは白騎士と言う印象だったけど、今は何だかロボットっぽく見えて来たな。
「とりあえず、宜しく。俺の名前はトールだ」
俺は右手を差し出した。相手に握手と言う概念があるか、若干の不安を感じながら……。
『友好的接触と判断。その提案を歓迎する』
べフェールも右手を差し出し、俺の手を握った。どうやら握手は理解して貰えたらしい。
というか、何とかコミュニケーションは取れそうだな。まったく会話にならない訳じゃなくて助かった。
「さて、まずはミーアさんの所かな?」
ヴィジョンは父さんと共に、スレイン神の元を訪ねているはず。直接向かう事は出来ないけれど、ミーアさんなら連絡位は取ってくれるだろうしね。
俺はそう考えて、白亜の塔を目指す事にした。父さんが住まうこの国の聖域。奇妙な異邦人と共に、俺はその塔へ向かって歩き出した。




