侵入者
今回の番外編は、前編、中編、後編の三つに分かれる予定です。
各六話ずつ更新予定で、今回は12/29~1/3で更新します!
それでは、今回の前編をお楽しみください♪
俺の名はトール。転生神の息子にして転生者。そして、ペンドラゴン王国の騎士だ。
任務は神様絡みの特殊案件を担当しているな。その中でも最近は、妹ヴィジョンに関する仕事が多い気がする。
「うん、今日のデータ取りはこんなものね」
アンナさんの声に、俺は構えていた剣を下ろす。それと同時に周囲の景色が、どこかの遺跡から真っ暗な闇へと変化する。
振り返ると、俺の元へと歩み寄るアンナさん。白衣姿の知的なお姉さんであり、俺にとっては叔母さんでもある。
彼女は満足そうに微笑み、俺の隣に視線を移した。
「本当に異世界って色々とあるのね。どういう理屈で動いているのか、まったくわからない生物も沢山いるし」
「うん、異世界は星の数ほど存在するね。それぞれに独自の進化を遂げ、異なる理で世界も回っているよ」
アンナさんに返事を返したは妹のヴィジョン。いつの間にか、俺の隣に姿を現していた。
ヴィジョンはこの世界で最も新しい神様。そして、『仮想空間を司る』神様でもある。
その能力で仮想空間を生み出せるだけでなく、あらゆる世界への扉を開く事が出来る。イメージ的には彼女の世界がサーバーであり、そこに他の世界がクライアントとして接続しに来れる感じらしい。
更にヴィジョンにはもう一つ特別な力がある。それが一度見た物をデータとして保持し、この仮想世界で再現出来るというものである。
俺とアンナさんは現在、その能力の検証に付き合っているのだ。異世界を覗いて来たヴィジョンが、どれほど正確にデータを再現出来るかの試験である。
「それにしても、とんでもない力だよな。その力を使えば、俺も転生前の世界に行けたりしないのかな?」
「それは出来ない。互いにこの世界に接続して、この世界の中で顔を合わす事なら出来るけど」
ヴィジョンの回答に俺は納得する。やっぱり、この仮想空間はサーバみたいな場所なのだろう。
オンラインでの顔合わせは出来ても、接続した人を転送する力は無い。それは司る力とは別種の能力と言うことになるのだ。
「そういえば『知恵』の神が、この世界に『ディスガルド戦記』の知識を取って来たんだよね? その際に僕の魂も迷い込んだって聞いたけど、そういう異世界に干渉出来る力って他にもあるの?」
「知恵の神は特別だね。異世界の神にコンタクトを取り、許可を得て閲覧してるから。知恵を重視する神様なら話を聞いてくれるけど、全ての世界がそうじゃない。それ以外の権能を持つ神々では、コンタクトを取る手段すら無いんだけど」
どうやら、異世界と繋がるのはかなり難しいみたいだ。現状だとヴィジョンと知恵の神だけが特別って感じかな?
「ねえ、ヴィジョンはどうしてるの? 異世界の神々に許可を取っているのよね?」
不安そうな表情で、アンナさんが話に割って入る。そして、俺はアンナさんの懸念に気が付いた。
ヴィジョンが不正に異世界へ干渉していないかが気になったのだ。それによって、異世界の神々と揉め事になっても困るだろうしね。
けれど、ヴィジョンはゆっくり首を振ってこう告げた。
「私は受付口を開いて、それを異世界の神々へ通知してるだけ。興味を持った異世界の神々は、こちらへと接続して来る。興味が無い神々は、私の通知を無視するだけ」
「なるほど。接続しに来るかは、相手側次第って感じなのか」
それならば、異世界の神と揉め事にはならないだろう。繋げるかどうかの選択権は、あちら側に有るわけだしね。
しかし、俺の考えとは別に、アンナさんの顔は険しい。どうしたのかと思っていると、彼女はヴィジョンへとこう問いかけた。
「異世界の神が友好的なら良い。けど、好戦的な神が接続して来たらどうなるの?」
「あっ、そうか……」
確かに神様には色々な考えを持つ存在がいるだろう。しかも、異世界ともなれば、どんな思考回路を持つ神が居るかわかったもんじゃない。
変に戦争を吹っ掛けられても困ったことになる。俺もどうなのかとヴィジョンを見ると、彼女は微笑みながらこう答えた。
「相手側からの接続があった際に、私とおばあちゃんでチェックしてる。問題が無いと判断した時だけ、最終的な扉を開くようにしてあるね」
「なるほど。スレイン神もチェックしているのね」
ヴィジョンの言うおばあちゃんとは、『闇と死を司る』最高神、スレイン神の事だ。俺達の父さんである転生神アレクの生みの親。そして、ヴィジョンはその子なので孫と言う訳である。
アンナさんもその言葉に胸を撫で下ろす。この実験はアンナさん監修の元に行われているからね。何かあったら責任が取れないと、少しばかり怖くなっていたのかも。
「それじゃあ、特に問題は――って、アレなに……?」
俺は視界の端で動く物を見つけ、そちらへと視線をやる。闇の中で見え辛いけれど、何か黒っぽいものがウネウネと動いている。
「え? 何も無いけど?」
ヴィジョンは不思議そうに首を傾げ、そこに何も無いと言う。けれど、俺の目にはやはり何か黒い物がうねっているのが見える。
俺はアンナさんへと視線を向ける。すると、彼女は戸惑いながらもこう口にした。
「うん、何かあるね。こう、黒くてウネウネした、触手みたいなのが……」
アンナさんの言葉に、ヴィジョンは眉を顰める。そして、ゆっくりとそちらへと近寄って行く。
何故だかヴィジョンには、その黒い物体が見えないみたいだ。ここは彼女が作った仮想世界。それなのに、その管理者が把握出来ない何て事があるのだろうか……?
「――っ……?! 氷の棺……!!!」
――ギンッ……! バキキ……!!!
アンナさんの叫び声と共に、黒い触手が氷漬けになった。振り返ってみると、アンナさんは真っ青な顔で黒い杖を握っていた。
その杖は神器『魔導王の杖』。スレイン神に認められた、究極の魔導士だけが扱える神殺しの武器だ。
アンナさんが神器を持つのは知っていたけど、使っているのを初めて見た。どうして、それをこの状況で使ったのだろうか?
「えっと、アンナさん……。何を……?」
「ヴィジョンを、喰おうとしてた……」
アンナさんが何を言ったのか、俺は一瞬理解出来なかった。あの黒い触手が、神様であるヴィジョンを喰おうとしていた?
混乱しながらも、俺は再び黒い触手を見る。触手は氷漬けで最早動いていない。生きているとしたら、既に凍死している事だろう。
ただ、その氷塊のすぐ側で、ヴィジョンは青い顔で震え出した。
「あ、あぁ……。なん、で……? なんで、こんなものが……?」
僕は戸惑いながらも、ヴィジョンの側まで近寄る。そして、その振るえる肩を抱きよせながら、落ちつかせようとその背中を撫でた。
「落ち着いて、ヴィジョン。この黒い触手は何なの?」
俺の言葉にヴィジョンは顔を上げる。そして、その手が縋る様に、俺の腕をギュッと握りしめる。
ヴィジョンは涙を浮かべ、恐怖に瞳を揺らしながら、泣きそうな顔で俺にしがみつく。
「この気配、間違いない……。これは、ここにあってはいけない物……」
こんなに怯えが妹を、俺は初めて見た。俺は大丈夫だと、優しくその背を撫で続けた。
すると、ヴィジョンは俺の胸に顔を埋めながら、掠れた声でこう呟いた。
「これは、この恐ろしい力は――異世界の神器だ……」
「異世界の、神器……?」
あの黒くてウネウネした触手が? あれが異世界のとは言え、神器だって言うのか?
俺は信じられずに氷塊へ視線を向ける。しかし、その氷塊は魔法の効果で、氷諸共粉々に砕け散ってしまった。




