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白のネクロマンサー ~死霊王への道~  作者: 秀文
番外編16 黒峯徹の人生

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第二の母

 トールとして生まれた第二の人生。この世界での俺の母さんはメリッサと言う名だ。


 母さんは転生神アレクの二番目の妻。そして、冒険者ギルドの統括をしながら、城下町も実質的に取り仕切っている女傑である。


 母さん曰く、自分は目的の為ならば何でもする人間。必要とあらば汚れ仕事も喜んで引き受けるとの事だった。


 ただ、最近はそんな危険を冒す必要も無くなって来た。今の立場なら正規の手順で、大抵の問題は解決可能になったと笑いながら続けていた。


「――トール。始めますよ?」


「はい。宜しくお願いします」


 俺と母さんは共に王宮に暮らしている。転生神である父さんが、王宮側の塔に住んでいるからだ。


 アンリエッタ伯母――女王の計らいで、親族は全員王宮内で生活していると言う訳である。


 そして、そんな俺と母さんの昔からの日課。今日も夜明けと共に、誰も居ない騎士団訓練場での手合わせを開始する。


「構えなさい、トール」


 母さんは木剣を真っ直ぐに構える。いつも通り綺麗な立ち姿だ。凛とした母さんには、剣を構える姿が似合う。


 そして、かつての騎士団が腐っていなければ、母さんは女騎士になっていたそうだ。今でもLv50の剣士なので、成ろうと思えばいつでも騎士になる事は出来る。


 ただ、今更そこに未練は無いらしい。自分は自分にしか出来ない事をする。騎士の夢は俺に託すと話していた事がある。


「ふぅ……」


 俺は母さんと同じ型で剣を構える。流派がある訳ではない。母さんが若い頃に編み出した、我流の剣術である。


 ただし、この剣術は恐ろしく合理的だ。レベルが上がって騎士になった今だからこそ、その剣術を編み出した母さんの凄さがわかる。


「今更、私から剣術を語る必要は無いでしょう……」


 母さんはゆっくりと木剣を振り上げる。俺もそれに倣って、まったく同じ動きで木剣を振り上げた。


 そして、振り下ろしもゆっくりだ。俺もそれに合わせて振り下ろし、母さんの木剣と軽くぶつける。


「ですので、心の在り方を語りましょう。恐らくはこれが最後でしょうから……」


「えっ……?」


 俺は驚きで目を見開く。ずっと続けていた日課。そこに終わりが有るとは思っていなかった。


 ただ、母さんは気にせずに剣を引き寄せる。俺も動揺を押し殺して、母さんの動きに合わせる。


「幼い私は賢者ゲイル様に憧れました。強き力を持ち、それを人々の為に振るう英雄の在り方に……」


 母さんがゲイルじいちゃんを大好きなのは知っている。周囲の色々な人からも、母さんも過去を聞かされているしね。


「けれど、成人後に騎士になる目前で、私は現実に絶望しました。騎士の国と謳われたペンドラゴン王国。されどその騎士団が、完全に腐敗していたからです」


 俺は母さんの動きを模倣し、ゆっくりと剣を振るい続ける。そして、母さんが何を伝えようとしているのか、そこに意識を集中し続けた。


「ここでは夢が叶わない。そう思った私は、冒険者ギルドへと入りました。本物の英雄は騎士団から生まれない。外から見つける必要があると考えたからです」


 その辺りの経緯も聞いた事がある。母さんはそのお陰で父さんと出会え、結婚まで出来たと笑って話していた。


「けれど、そこでも私は絶望しました。夢を見て冒険者となる若者達。されど、その多くは命を落とし、残りの者達も夢が叶わず去って行く。現実はかくも厳しいのかと、私は自分の無力さに嘆きました」


 俺は母さんと剣を重ねる。それと同時に、微かな動揺を感じていた。俺は母さんの弱さを知らない。俺にとっての母さんは、いつだって強い存在だったからだ。


「私は手を尽くしました。彼等の命を、夢を守る為、汚い手段も使いました。それでも私の努力は焼け石に水……。――そんな状況の中で、アレクが現れたのです」


 母さんの口元が綻ぶ。いつも凛とした母さんだけど、父さんの話になると嬉しそうに微笑む。そこには父さんへの愛が溢れていた。


「賢者ゲイル様の孫。その肩書に期待したのは確かです。けれど、アレクはそんな期待を易々と超えて見せました。彼の活躍により、多くの冒険者は救われ、望みを叶えられる様になったのです」


 俺の元居た世界の知識を活用したらしい。転生物に良くある知識チートち言う奴である。転生神である父さんは、人の姿で人々をそうやって導いたそうだ。


「そして、アレクは人々を救い、国を救い、最後は英雄を超えて神になりました。その後、私は妻の一人に認められ、彼に代わって人々を導く役目を引き継いだのです」


 神である父さんは、簡単に動けない立場にある。父さんの発言は女王よりも重い。たった一つの呟きで、世界の行く末を決めかねないからである。


 だからこそ、人前には滅多に姿を見せない。白亜の塔に一人で暮らし、父さんの身近な存在がその代わりに動いているのだ。


「崩壊した王都を復興させました。多くの人々の助けになったと自負しています。ですが、いつまでも私がそれを為すべきではない。次の若い芽を育てて行かねばならないのです」


 確か今の母さんは四十五歳だったはず。見た目は若々しくて、まだまだ三十代にしか見えないけどね。


 ただ、母さんの言う事もわかる。母さんがこれから何十年も、国を支え続ける事なんて出来ないだろうし。


「だから、次はトール、貴方の番です。貴方がその力で、人々と国を守るのです」


「えっ……?」


 気付けば母さんは木剣を収めていた。俺もそれに倣い、稽古はこれで終わりとなる。


 母さんは今まで、俺に自由に生きろと言っていた。英雄なんて目指す必要は無いと……。


「貴方は私とアレクの子です。口にしなくてもわかりますよ。貴方は当たり前の様に、その力を人々を守る為に使うのでしょう」


「母さん……」


 確かに俺は神の子として特別な存在だった。そして、チート能力を与えられ、英雄になれるだけの力も持っている。


 その力を欲望のままに振るおうと思った事は無い。俺は俺を大切にしてくれる、周囲の大切な人達の為に、この力を使い続けて行くつもりだった。


「――貴方は私の誇りです。私の元に、生まれてくれてありがとう」


「あっ……」


 母さんの言葉に、俺は強い衝撃を受けた。感情が溢れて言葉にならず、力が抜けてその場で膝を付く。


 前世の記憶が蘇って来た。一人目の母さんから言われ続けた、あの言葉が脳裏に浮かんできた。



 ――ごめんね、徹。弱い体に産んでしまって……。



 母さんはいつも俺に謝っていた。俺はいつも笑顔を返したが、心の中では傷ついていたんだ。


 俺は生まれて来てはいけなかったのだろうか? 両親を不幸にするだけの存在なのだろうか?


 そう、俺は謝って欲しくなんて無かった。ただ、俺の存在を認めて欲しかっただけなんだ。


 生まれて来て良かったんだと。俺はずっと、それを両親に認めて欲しかったんだ……。


「かあ、さん……。ありがとう……。俺のことを、産んでくれて……」


 俺は嗚咽を漏らし、涙ながらに感謝を伝える。すると母さんは、そっと俺を抱きしめてくれた。


 言葉なんて必要ない。その温かさだけで、俺は母さんに愛されているんだって理解出来た。



 ――ああ、生まれて来て良かった……。



 俺はこの第二の人生で、初めて自分が生れた事に感謝する事が出来た。

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