アレク、尋問を行う
ボクは召喚術士の様子を窺う。
彼はこのまま血を流し続ければ死ぬ。助かる為には、ボクのヒールが必要な状況だ。
それは相手も理解しているだろう。ボクは杖を突き付けたまま、地面に倒れた男に尋ねる。
「何の目的で、ボクの家を?」
「賢者ゲイルの遺産だよ……」
「爺ちゃんの遺産?」
もう少し抵抗すると思ったが、相手はあっさりと口を割る。
まあ、確かにこの状況では、早く治療が必要だから当然か。彼はペラペラと話し続ける。
「賢者ゲイルは、賢者の石を持っていた……。それを、手に入れるのが目的だ……」
「賢者の石?」
ゲーム内に同名のアイテムがあったな。確かそれは、賢者がエクストラスキルを覚える為のアイテムだ。
正確には、前提条件となるクエストを発生させる為のキーアイテムである。手に入れるにはレイドイベントで、レイドボスを倒す必要があった。
しかし、そんなアイテムが家にあっただろうか? 爺ちゃんの遺品は整理したけど、それらしいアイテムを見た記憶が無い。
「そんな物は記憶にないけど……。ちなみに、それを何に使うつもりなの?」
「くくくっ……。賢者の石があれば、世界の理に辿り着ける……。この世界を、支配する事が出来る程の知識が手に入ると言われているのだよ……」
「え、マジで?」
あれって、そんなアイテムだっけ?
クエスト内容は覚えていないけど、賢者を極めた者の試練とか、そんな内容だった様な……。
死霊術士のクエスト内容なら、よく覚えてるんだけど……。
「でも、あなたは召喚術士ですよね? 手に入れるなら、竜王の魂なのでは?」
「……何だそれは?」
しまった。素で尋ねてしまったが、相手はその存在を知らないらしい。
竜王の魂は、召喚術士がエクストラスキルを手に入れる為のアイテム。
しかし、ネットの無いこの世界では、皆が知っている知識では無いはずだ。発言には気を付けないとな……。
「気にしないで下さい。こちらの勘違いですので」
「ふん……。だが、良いのか……?」
召喚術士は引き攣った様に、顔を歪めて笑う。その顔には、何故か勝ち誇った様な色が滲んでいた。
「どういう意味ですか?」
「悠長にしているが……。村の方は、どうなっているかね……?」
「何だって?」
ボクはハッとなり、村の方に視線を向ける。
改めて見ると、村から煙が立ち上がっているのが見える。また、耳を傾ければ、微かに悲鳴の様な物が聞こえてくる。
「どういう事だ!?」
彼らの目的は賢者の石では無いのか?
だとしたら、村を襲う理由がわからない。ボクは殺気の籠った目で、相手を睨みつける。
「賢者の石はついでだよ……。我々の目的は、王女の身柄……。あるいは王女の蒔いた種を刈り取る事……」
「王女だって……?」
そして、ボクは昨日の来客を思い出す。訪ねて来た少女は、確かに王族だろうと思っていた。
しかし、それによってこの村が襲われる等、その関連性がまったくわからない。
「我々の活動に気付いた王女は、単身で行動を起こした……。彼女がここで何をしたかは知らん……。しかし、我々の不都合となる可能性がある以上、無視する訳にはいかん……」
「可能性があるから……」
ボクはその言葉に怒りを覚える。
人の命を何だと思っているんだ……。そんなくだらない理由で、今も村が襲われているだなんて……!
しかし、ボクの怒りは唐突な悲鳴に水を差される。
「ぐわ……!」
「ぎゃ……!」
背後から聞こえる声に、ボクは思わず振り返る。
すると、そこにはグリフォンに喉を切り裂かれた、二人の剣士の姿があった。
グリフォンは仕事を終えたとばかりに、その場で立ち尽くしている。
「一体、何を……!?」
召喚術士に目を向けると、彼は魔法陣の光に包まれる所だった。その手にはスクロールが握られている。
彼は顔に笑みを、瞳に怒りを浮かべながら、ボクに向かって叫んでいた。
「ここは引かせて貰う……。貴様への復讐は、いずれ果たさせて貰うぞ……!」
そして、召喚術士は魔法陣の中に消えて行く。
恐らく使ったのは帰還のスクロール。スクロールに記録されたポイントへ、利用者を転移させるマジック・アイテムだ。
「くっ……!」
逃げるだけなら、いつでも出来たという事か……。
恐らく彼が話し続けていたのは、グリフォンのバインドが解けるまでの時間稼ぎ。
そして、そうする必要があったのは、残された剣士二人の口封じが必要だったからだろう。
今は召喚術士を気にしても仕方が無い。ボクは気持ちを切り替えると、自らにヘイストを掛け直す。
そして、今現在襲われているケトル村へ、急いで駆け出した。




