アレク、伝言を受け取る
ボクとアンリエッタの結婚式から五日が過ぎた。結婚式の様子は、今のヴォルクスで最もホットな話題となっている。
そして、今日のボクは、アンリエッタと家の見学を行っている。それも、『白の叡智』の仲間全員から嘆願されてだ。
何故こうなったかは、まったくもって不明。ただ、恐らくは皆からの気遣いなのだろう。
新婚であるボク達に、もっと夫婦らしい時間を、と……。
なので、ボクはその好意に甘える事にした。新しい家が決まるまで、クラン活動は休暇扱いとなった。
「先ほどの屋敷は良かったですわね? 次の屋敷も楽しみですわ!」
「いや、あれは広すぎじゃない? ボクとしては、もう少し狭くても……」
クランハウスのリビング。そのソファーに並んで座るボク達。今は午前中に回った物件について、意見交換をしている所である。
クラン事務局から紹介された不動産屋は、誠実そうな中年男性だった。実に丁寧に物件の説明を行ってくれる。
ただ何故か、紹介物件が全て屋敷なのが謎である。夫婦二人が住むにしては、明らかに広すぎるのだ。
夜に帰って寝るだけなのに、二十部屋もある屋敷なんて必要無いのにね?
「何を言っているのです! 今後の事を考えれば……って、アンナちゃん?」
アンリエッタは話の途中で、急に扉の方を向いた。ボクもそちらに顔を向ける。
すると、そこには微妙な表情のアンナが立っていた。半分背中を向けている事から、引き返そうとして見つかったっぽいな。
アンナは諦めた表情で、ボク達の方へと向き直る。そんな彼女に、アンリエッタが手招きをする。
「ふふふ、どうしたのです? こちらで一緒に、お茶でも飲みませんか?」
その誘いに、困った表情を浮かべるアンナ。やはり、未だに気持ちの整理が着いていないのだろう。
しかし、チラリとボクに視線を送る。そして、小さく息を吐き、ボク達の向かいに腰を下ろした。
「お兄ちゃん達は、午後も部屋を探すの……?」
「うん、早く部屋を決めてしまいたいしね……」
「ふふふ、アンナちゃんも一緒に回りますか?」
アンナの問いに答えるボク。そこへ、更に誘いを掛けるアンリエッタ。
アンリエッタはアンナを気に入っているみたいで、普段からこの位はグイグイ攻めている。
そんなアンリエッタに、アンナは笑みを浮かべる。向けられる行為に、アンナも悪い気はしていないのだろう。
「ううん、今日は止めとく……。あ、それと、お兄ちゃんに師匠から伝言……」
「師匠って……ワトソンさんから?」
アンナの師匠と言えば、ボクを除けばワトソンだけだ。彼は魔導士の師匠として、今でもアンナの指導を行ってくれている。
しかし、伝言とは何なのだろうか……? わざわざ、アンナに頼むなんて……。
「フェリシアの事で話がしたいって……。師匠の過去に関係するみたい……」
「「えっ……!?」」
フェリシアと言えば、カーズ帝国の大将。エクストラスキル『魔王召喚』の使い手である。
敵国の中でも圧倒的な脅威度を誇る存在。そんなフェリシアとワトソンさんに、どんな関係が有ると言うのだろうか……?
「――アレク。午後の予定はキャンセルですわ」
「アンリエッタ……?」
静かな落ち着いた口調。見ればアンリエッタの表情は、キリリと引き締まっていた。
普段の天然モードでは無い。重要な場面でのみ顔を出す、アンリエッタの本気モードがそこにあった。
「私もワトソンさんに伺いたい事があります。ご一緒させて頂きますね?」
「あ、はい……」
質問形式の様で、実は質問では無い。アンリエッタの中で、同行は既に決定事項なのだ。
こういう時のアンリエッタには、逆らうだけ無駄である。素直に応じておくのが得策だろう。
……何というか、時々妙に男らしいんだよな。
「それでは、出かける準備を致しましょう。ギルにも伝えねばなりませんね……」
アンリエッタはテキパキと行動に移る。そんな彼女の様子に、ボクは苦笑を浮かべた。
そして、二人揃ってソファーから立つ。すると、アンナが小さく手を上げた。
「あ、そういう事なら一緒に行きたい……。駄目かな……?」
ボクとアンリエッタは、共に顔を合わせる。アンナの反応が意外だった為だ。
伝言を預かった以上、久々に顔を合わせたい等の理由ではないだろう。それ以前に、アンナの表情は神妙で、強い意志を瞳に宿していた。
「アレク……。どうしますか……?」
「うん。それじゃあ、一緒に行こう」
ボクの返事に、アンナがパッと笑顔を浮かべた。その変化に、アンリエッタも微笑みを浮かべる。
アンナの考えはわからないが、彼女なりに考えがあっての事だろう。ならば、ボクはその意思を尊重するだけだ。
エクストラスキルこそ未収得だが、自分の将来を考えろと伝えたばかり。なのに、アンナの意思を蔑ろにしては、彼女の今後に悪影響を与えかねないからね。
「とはいえ、急に押しかけて大丈夫かな? 一応、ワトソンさんも忙しい立場だからね……」
「大丈夫だよ! 仕事で忙しくても、私が行けば優先してくれるから!」
屈託のない笑顔のアンナ。その表情を見れば、普段の二人の関係が良くわかる……。
……というか、ボクの周りの女性は、強引な人が多い気がするな。ミーアにも、そういう節があったしね。
「まあ、いいか……。それじゃあ、魔術師ギルドまで行くとしますか」
ボクの言葉に二人は頷く。手土産の一つも無いけど、特に気にする必要は無いだろう。
顔を出すだけでも、いつも喜んでくれる人だからね。
こうして、ボク達三人は連れ立って、ワトソンさんの元へと向かうのだった……。




