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白のネクロマンサー ~死霊王への道~  作者: 秀文
第十四章 ヴォルクス帰還編

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閑話:帰って来たメリッサ

 ヴォルクスよ! 私は帰って来た……!


 久々に歩くヴォルクスの街並み。私は懐かしい空気を、胸いっぱいに吸い込みます。


 そして、やはりここが私の故郷なのだと実感します……。


「しかし、口惜しい……」


 現在は、アレク様が貴族の地位を捨てて十五日。結婚式を挙げて三日後となります。


 余りにも早い、アレク様の決断と行動。その結果、私の帰還は結婚式に間に合いませんでした……。


 とはいえ、私も二週間足らずでの帰還。王都クランの立て直し計画を、短期間で引き継いでみせたのです。


 それは半年前に呼び寄せた、クラン事務局の後輩のお陰です。こんな事もあろうかと、半年前から仕込んだ甲斐があったと言うものです。


 ……まあ、去り際には号泣されましたが、きっと彼女なら強く生きて行く事でしょう。


 私はどうでも良い事を頭から追い出します。そして、私は目的地へと足を進めます。


 一年前は毎日歩いていた道。通い慣れたその道を進み、すぐに目的地へと到着です。


 ――そう、私の主、アレク様の待つ屋敷へと!


「おや? メリッサ様?」


 呼ばれて振り返ると、そこには執事姿のギルバート様。


 どうやら、丁度外出から、帰って来た所の様ですね。


「お久しぶりです、ギルバート様。アレク様はご在宅でしょうか?」


「いえ、現在はヴォルクス城へ訪問中です。お戻りは夜になるかと」


 なるほど、ポルク様の所ですか。今は昼過ぎの為、待つにしても微妙な時間……。


 メアリーに挨拶だけして、今日の所は出直すべきでしょうか……?


 そんな風に考えていると、ギルバート様より声が掛かります。


「そうだ。お時間があれば、相談に乗って貰えないでしょうか?」


「ギルバート様が、私に相談ですか……?」


 珍しい事ではありますが、決して悪い事ではありませんね。


 ギルバート様は、アレク様の片腕。恩を売っておいて、損はありませんから。


「わかりました。それでは、お話を伺いましょう」


「ありがとうございます。それでは、中へどうぞ」


 私はギルバート様に案内され、クランハウスへと足を踏み込みます。


 そして、私はある問題に、対処する事となるのでした……。



 クランハウスのリビング。そのソファーに、私はアンリエッタ様と向かい合って座ります。


「それで、お話ししたい事とは何でしょうか?」


「ええ、アレク様との関係で、お話が少々……」


 私の言葉に、片眉を跳ねるアンリエッタ様。しかし、笑顔のままで首を捻ります。


「はて……。それは、どの様な内容なのでしょうか……?」


 噂には聞いておりますが、アンリエッタ様の交渉術は超一流だとか。


 柔和な笑みを浮かべていますが、それは演技だと思うべきでしょう。


 私はまず反応を確かめる為、軽く一当たりしてみます。


「なんでも、アレク様との距離が近く、お仲間の皆さまが困っているとか……。共同生活の場ですので、ある程度の配慮は必要では無いでしょうか?」


 ギルバート様の話では、常にアレク様の横に寄り添っているとか。片時も側を離れようとしないとか……。


 更には、入浴や就寝まで共にしようとする始末。ギルバート様とアンナ様が、必死で止めている状況だとか……。


「あら、そういうお話ですの? でも、それは夫婦として当然の事ですから……」


 ニコニコと笑みを浮かべ、動揺する気配は微塵もありません。


 ……これは間違いない。確信犯です。


 ならば、正攻法で攻めても効果は無いでしょうね。ここは絡め手で攻めるとしましょう。


「それはそうでしょう。お二人は結婚したばかりのご夫婦。それは当然の流れですとも」


「……ええ、やはりそうでしょう?」


 私の返しが予想外だったのでしょう。返答までに若干の間がありました。


 私はアンリエッタ様の動揺を見て取り、ここが攻め所だと確信します。


「しかし、今の状況は不便では御座いませんか? アンリエッタ様――失礼。奥様としても、アレク様と二人の時間がもっと欲しいのでは?」


「え、ええ……。それは、今の私が最も悩んでいる事ですわね」


 動揺しつつ、口元がにやけるアンリエッタ様。思わず、本音も出て来ましたね。


 やはり、この時期の女性は、『奥様』という言葉に過敏に反応しますから……。


「そこで、私からのご提案なのですが、マイホームをご購入されては? シルバー級以上のクランでは、結婚後のマイホーム購入は良くある事ですので」


「マイホームですか……?」


 目を丸くし、驚きを示すアンリエッタ様。やはり、この発想はお持ちで無かった様です。


 そして、ハッキリわかる好奇心。目の色が完全に変わって来ましたね。


「クランハウスは、当然ながら共同生活の場。夫婦で生活するには、適した環境では御座いません。やはり、夫婦となった以上は、二人の時間は大切にしたいですからね」


「ええ、ええ。二人の時間は、とても大切ですわね」


 熱心に頷くアンリエッタ様。完全に術中にハマりましたね。


 これなら、あっさりと決着が着きそうです。


「そこで、オンとオフの切替です。夜になれば帰る、二人だけの愛の巣の登場という訳です」


「二人だけの……愛の巣!?」


 クワっと目を見開くアンリエッタ様。『愛の巣』というパワーワードが、見事に刺さりました。


 ……というか、こちら方面は本当に乙女うぶなのですね。


「アレク様は貴族では無いので、場所としては市民街の高級エリア……。今後のお子様を考えると、広いお屋敷など如何でしょうか?」


「アレクとの子供……!? 確かに、広い屋敷が必要ですわ!」


 恐らく、今のアンリエッタ様の脳内では、妄想が膨らんでいる事でしょう。


 将来は子供を何人作ろうか、等と……。


「クラン事務局でも、提携している業者が存在します。宜しければ、そちらの者達をご紹介致しましょうか?」


「是非、お願いしますわ!」


 即決で返答するアンリエッタ様。これで、マイホーム購入は確実。そして、ギルバート様の悩みも解決です。


 自宅で思う存分甘えられるのです。オン・オフの切替も、自然と出来る様になるでしょうから。


「それでは、私は事務局へ戻り、早速手配を行って来ますね」


「ええ、お待ちしておりますわ!」


 ソファーから立ち上がり、私はアンリエッタ様へ一礼します。そんな私に、アンリエッタ様は満面の笑みを向けていました。


 ……どうやら副産物として、アンリエッタ様の信頼も得られた様ですね。


 私は内心でほくそ笑みながら、玄関へと向かいます。すると、私の後を追って、ギルバート様がやって来ました。


「メリッサ様、ありがとう御座います。これ程あっさりと、問題が片付いてしまうとは……」


「いえいえ、大手クランでは良くある問題ですので。お役に立てたなら何よりです」


 私は爽やかな笑みを見せます。ギルバート様の好感度を上げる為に。


 そして、ギルバート様も、爽やかな笑みを返します。非常に満足そうに頷いていますね。


 まあ、今回の件は、私の将来にも関係する事です。別の意味でも介入するべき問題でした。


 ……そう、将来の愛人計画の為に。


「それに、良いタイミングでした。今後を考えると、広い屋敷は必須でしたからね。……何せアレク様は、これから多くの側室を迎えるでしょうから」


「…………は?」


 私の言葉に、ポカンと口を開くギルバート様。どうやら、側室の想定が、彼には無かった様ですね。


 そして、ギルバート様は戸惑った様子で、私に説明を始めます。


「爵位返上はご存知でしたよね? 貴族では無いアレク様が、側室を迎えると言うのは……」


 世間一般に言えば、その認識は間違っていない。側室を迎えるのは、力ある貴族と王族のみだから。


 その理由は、家を継ぐ後継者を残す為。そういう名目で、世間的には認められているのです。


 ですが、それは世間一般の常識でしか無い……。


「……アレク様程の英雄が、常識の枠内に収まると?」


「――っ!?」


 私の返しに、目を見開くギルバート様。


 私はふっと笑みを浮かべ、ギルバート様へと説明を続けます。


「アレク様には能力があり、多くの人々が活躍を望んでいます。この先の未来、アレク様の後継者は、多くの人民が望むのでは無いでしょうか?」


「た、確かに……」


 私の言葉に、ギルバート様が同意を返します。感心した様子で、私の事を見つめながら。


 私は内心でほくそ笑み、説明を続けます。


「そして、アレク様には財があり、今後も多くの富が集まるでしょう。多くの妻を娶ったとしても、その全ての女性に幸福を与えるでしょうね」


「ええ、アレク様なら、身内を不幸にする事は無いでしょう……」


 これにも同意を返すギルバート様。何度も小さく頷いてすらいます。


 そして、私はギルバート様へと、最後の一押しを行います。


「更に、アンリエッタ様は公平なお方です。この国の未来の為なら、側室を認める度量もお持ちですよね?」


「はい、アンリエッタ様なら間違いないでしょう!」


 力強く頷くギルバート様。これで、彼も無事に陥落です。


 私は笑みを浮かべ、ギルバート様へとアドバイスを送ります。


「アレク様は奥手ですからね……。執事であり、側近であるギルバート様が、しっかりサポートしてあげて下さい。それが、アレク様と、この国の未来の為なのですから」


「ありがとう御座います! 私の全てを掛け、アレク様をサポート致します!」


 熱い心意気で、ギルバート様が決意を述べます。その瞳には、やる気の炎が見て取れるくらいです。


 私は満足げに頷き、そして一礼してその場を去る事にしました。


 そして、私はクランハウスから十分離れると、一人で小さく呟きます。


「……本当に、皆さん素直ですね」


 それが彼等の美徳。人々から好まれる人柄なのでしょう。


 しかし、私の様な人間から見ると、とても危うく見えます。悪い人間の前には、簡単に騙されるのでは無いかと……。


 それと同時に、思い浮かぶ何人かの面影。彼等の周りには、それを補う大人が多い事に気付きます。


「仕方ありませんね……。私もそちら側に回るとしますか……」


 この街のギルドマスターに、領主の側近や、亡き前領主の友人達……。


 それに、かつての英雄、賢者ゲイル様の仲間だった面々……。


 人の汚い部分を知る人達が、陰ながら若い彼等のサポートを行っているのです。


 心の汚れた私では、彼等の中には入って行けません。陰からのサポートが丁度良いのでしょうね。


「まあ、まだ数年は大丈夫です……よね?」


 現在の私は二十六歳。婚期としては、かなりのギリギリと言えるでしょう……。


 もう数年なら、まだアレク様に女性として見て貰える……。しかし、三十を迎えると、流石に厳しいでしょうか……?


「はあ……。早くこの国が、平和になる良いのですが……」


 それまでは、私の愛人計画も先延ばしです。子供を産むなら、平和な世であって欲しいですからね。


 私はゆっくりと首を振り、ヴォルクスの街を一人で歩くのでした……。

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