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白のネクロマンサー ~死霊王への道~  作者: 秀文
第十四章 ヴォルクス帰還編

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道に迷いし者

 結婚式の翌日。ボクは、完全に二日酔いになっていた……。


 二次会が、ヴォルクスの街全体で行われた宴会だったのだ。主役のボクが逃げれる道理も無い。


 まさか、朝まで付き合う事になろうとは……。もう二度と、こんな無茶な飲み方はしないぞ……。


 ボクは痛む頭を押さえ、クランハウスの廊下を歩く。今の目的地はリビングである。


 そこに辿り着けば、メアリーがいるはず。彼女に頼めば、水が貰えるはずだからね……。


「ん……?」


 リビングに入ると、そこには先客がいた。部屋着姿のロレーヌだ。


 ただ、何故かアクアを抱きしめ、一人で天井を眺めている……。


「邪魔するよ……」


 ボクはロレーヌの向かいのソファーに座る。そして、テーブルの上を確認する。


 そこには紅茶のポットが置かれていた。空のカップもあるので丁度良い。求める水分には違いないからね。


 ボクはカップを手に取り、ポットの中身を注ぐ。ややぬるいが、今のボクには飲みやすくて丁度良い。


「ねえ、ボス……」


「ん……? 何かな……?」


 ロレーヌは天井を見つめたまま。ボクは首を傾げ、彼女へ問い返す。


 すると、ぼんやりした口調で、ロレーヌは難解な問いを投げて来る。


「アタシって……。何がしたいのかな……?」


「いや……。そんなのボクに聞かれても……」


 呆れ気味に返事を返すが、ボクは再び首を傾げる。どうも、ロレーヌの様子がおかしい……。


 ボクは紅茶を口に含み、ロレーヌの様子を観察する。すると、彼女はポツポツと語り出した。


「ギリーも、ルージュも、ギルも、ボスに仕える事が喜びだよね……。でも、アタシってそんな感じじゃないしさ……」


「確かに、あの忠誠心は、ボクも時々戦慄するね……」


 あの三人は、どこで道を間違えたのだろうか?


 場合によっては、命を投げ出す気配すらある。なので、ボクとしては、逆に気が気でない……。


 まあ、彼等が特殊な例ってだけで、ロレーヌは至って普通だと思う。


「ドリーも、グランも、シアちゃん達も、自分の道を見つけたよね……。でも、アタシは暗殺者アサシンに生きがいを感じないしさ……」


「それは普通の事だと思うよ……?」


 暗殺者アサシンに生きがいって、どんな殺人鬼だよ……。そこは、仕事と割り切って良いと思う……。


 というか、彼等と同列に同列に考える内容なのだろうか……?


「ハティも休みは、武闘家ギルドに入り浸って、新人育成に力を入れてさ……。あんな感じで、引退後の道ってのも見えないし……」


「へぇ……。ハティがねぇ……」


 王都での経験が、ハティの考えを変えたのかな?


 以前は自分に自信が無くて、人を育てよう何て発想は無かったからね。これは良い兆候と言えるだろう。


 ただ、ハティも将来まで考えて、活動してる訳では無いと思うけど……。


「かといって、ボスやアンリエッタ様みたいに、結婚ってのもピンと来ないし……。アタシって、何がしたいのかなって思って……」


「ふむ……」


 これはアレだな……。周りが変わり始めて、焦りを覚えた感じかな?


 ボクは痛むこめかみを押さえながら、ロレーヌへと言葉を投げる。


「ロレーヌは元々、孤児院の為にクランに入ったでしょ? 今まで通り、孤児院の支援で良いんじゃないの?」


 王都に移った後も、仕送りは続けていたはずだ。院長のラーナさんや、孤児院の子供達も、ロレーヌには感謝している事だろう。


 しかし、ロレーヌはゆっくりと首を振る。


「確かに元々は、ね……。ただ、最近はそれも、必要無いかなって思ってさ……」


「必要無いって、どういう意味……?」


 ボクの問いに、ロレーヌは顔を下ろす。初めてボクと視線を合わせる。


 そこで初めて、ボクはロレーヌの変化に気が付く。


「王都に行ってる間にさ……。マリアさんが手伝い始めたでしょ? 今の孤児院って、人手も寄付金も集まるし、アタシが居なくても平気なんじゃない?」


「あー、マリアさんかぁ……」


 ロレーヌの瞳は暗かった。いつもの元気が、微塵も感じられなかった。


 そして、その無気力さの原因は、自分の価値に疑問を持ってしまったからだ。


 園長先生への恩返し。そして、子供達の為に頑張って来た。それが、これまでのロレーヌのモチベーションに繋がっていた。


 しかし、自分より価値ある存在に――少なくとも、ロレーヌ自身がそう思う存在に、自分のアイデンティティが揺らいでしまったのだろう。


「比べる必要なんて無いと思うけどね? これまでのロレーヌの助けが、それで無くなる訳じゃないんだしさ?」


「そうだけど……。これからも、続ける意味は無いでしょ……?」


 ロレーヌはボクへと問い掛ける。否定的な言葉を使って。


 しかし、その瞳の奥には、縋る様な思いがあった。その考えを打ち砕く、強い肯定を求めていた。


 ……ただ、そこまでの強い言葉は、今のボクには思いつかなかった。


「まあ、意味が無いとは思わないけどね……。ロレーヌが本当にやりたい事が見つかるまで、とりあえず続けたら良いんじゃない?」


「うん……。そうだね……」


 無気力に返事するロレーヌ。その言葉には、微かな失望が含まれていた。


 そして、再び天井を仰ぎ見て、ロレーヌは小さく呟いた。


「とりあえず……。そうするかな……」


 先程同様に、一人でぼんやりと天井を見つめるロレーヌ。そんな彼女に、腕の中のクラゲが触手を伸ばす。


 肩をポンポン叩くが、それはアクアなりの慰めだろうか? 相変わらず、妙な所で人間臭いんだよな……。


 さて、良い案は浮かばないが、どうしたものだろうか……? アンリエッタやヴェインさんに、それとなく相談してみるかな……?


 ボクは何となく居心地が悪くなる。そして、カップを置いて、そっとリビングを後にしたのだった……。

第十四章は以上で終了となります。

次回は一話だけ、閑話を挟みます!

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