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白のネクロマンサー ~死霊王への道~  作者: 秀文
第十四章 ヴォルクス帰還編

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アレク、結婚する

 結婚式に誰を招待するか。正直、それが一番の悩みだった。式の準備は、ポルクとセスが張り切っており、ボクの出る幕は無かったしね……。


 そして、結論から言えば、招待状は送らない事にした。まさに、逆転の発想と言えるだろう。


 ……とはいえ、これでは何の事かわからないよね?


 それを理解するには、今の状況を説明するのが手っ取り早いだろう……。


「お二人とも、準備は宜しいですか?」


 ヴォルクス城を背後に、笑みを浮かべて立つマリアさん。彼女が結婚式の神父役である。


 何故、マリアさんかと言うと、それがこの世界の常識だから。結婚式は司祭プリーストが取り仕切るのが一般的なのだ。


 そして、今のヴォルクスで司祭プリーストと言えば、やはりマリアさんだろう。ボク達にとっても、馴染みのある人でもある。マリアさんも依頼を快諾してくれた。


 ……ちなみに、リュートさんとマリアさんの式は既に終わっている。


 ボクが王都に移動した半年後、孤児院院長のラーナさんの元で執り行われた。貴族となったからと、呼ばれなかったのが少し寂しい……。


 ――と、ボクは気を取り直して、マリアさんへと返事する。


「ええ、いつでも問題ありませんよ」


「はい、宜しくお願い致します……」


 マリアさんに向かい、並んで立つボクとアンリエッタ。勿論、今日の主役である。


 そして、ヴォルクス城の敷地内には、ボク達の関係者が立ち並ぶ。ギリーやアンナにハンスさん。それに、メリッサ、メアリー、シア達を含め、仲間は全て揃っている。


 当然ながら、ポルクやセス、エド、ザナック侯爵、マルコ団長も並んでいる。全員が笑みを浮かべ、ボク達に祝福の眼差しを向けていた。


 そして、参列者はそれだけでは無い……。


 ――城門から先、貴族街、市民街には、多くの人垣が出来ていた。


「「「アレク様、万歳……! アレク様、万歳……!」」」


「「「アンリエッタ様、おめでとうございます……!」」」


 この街の住人ほぼ全てが、表通りに集まっていた。ヴォルクス領の領民全てが、ボク達の結婚式を祝福していた。


 そう、ボク達の結婚式は、完全なオープン・スタイル。誰でも参加可能な形式にしたのだ。


 ……ちなみに、領民以外は申請制。事前の申請が無いと、今日のヴォルクスは立ち入り禁止だったりする。


 商業都市ヴォルクスを貸し切りでの結婚式。前代未聞だが、ボク達らしいとも言える。


 なお、こうなったのは、ポルク発案で話が盛り上がった為。そのまま、流れで押し切られるのも、もはやいつもの事である……。


「――それでは、これより式を執り行います」


 回想に浸っていると、マリアさんの声が響いた。流石は司祭プリーストだけあり、良く通る声をしている。


 そして、マリアさんの声で、周囲のざわめきが消える。ヴォルクスは静けさに包まれた。


 皆の注目が一斉に集まる。マリアさんは静かに笑みを湛え、ボクへと真っすぐな眼差しを向けた。


「新郎アレク、あなたはここにいるアンリエッタを、病める時も、健やかなる時も、富める時も、貧しき時も、妻として愛し、敬い、慈しむ事を誓いますか?」


「はい、誓います」


 ボクは誓いの言葉を口にする。その言葉に、マリアさんはゆっくりと頷いた。


 続いて、マリアさんの視線がアンリエッタに向かう。緊張した様子の新婦に、厳かな問いが向けられる。


「新婦アンリエッタ、あなたはここにいるアレクを、病める時も、健やかなる時も、富める時も、貧しき時も、夫として愛し、敬い、慈しむ事を誓いますか?」


「は、はい……。誓います……!」


 アンリエッタは緊張しつつも、しっかり誓いを口にする。マリアさんは、その様子にニコリと微笑む。


 そして、ボク達の元へやって来る、セスとギルの親子。その手には、相手へ贈る指輪があった。


「新郎アレク あなたはこの指輪をアンリエッタに対する貴方の愛のしるしとして彼女に与えますか?」


「はい、与えます」


 マリアさんの問いに、ボクは答える。ここで、肯定以外の言葉は有り得ない。


 そして、マリアさんは、アンリエッタにも同じ問いを投げ掛ける。


「新婦アンリエッタ あなたはこの指輪をアレクに対する貴女の愛のしるしとして彼に与えますか?」


「はい、与えます!」


 相変わらず、アンリエッタは緊張した様子だった。


 ボクは苦笑を浮かべ、アンリエッタを見つめる。そんなボクに、彼女もぎこちなく笑みを返した。


「では指輪を交換してください」


 マリアさんの言葉で、まずはボクが指輪を受け取る。ギルは指輪を手渡す際に、満面の笑みをボクへと向けていた。


 ちなみに、この指輪はボクが作った。オリハルコンの台座に、時空の欠片を嵌めた逸品である。


 黄金のリングに、虹色に輝く石。芸術的な価値もかなりの物だろう……。


 その上、完全オリジナルなマジック・アイテムでもある。超小型の収納ボックスになっているのだ。


 ボク以外に作れるとしたら、ガウルくらいのものだ。その希少性から、値段は天井知らずと思われる。


 これは今のボクに用意出来る、最高の結婚指輪だと自負している。


「アンリエッタ……」


「は、はい……」


 ボクはアンリエッタの左手を取る。そして、その薬指へと指輪を嵌める。


 その指輪を一撫でし、アンリエッタは笑みを浮かべる。うっとりと指輪を見つめていた。


 そして、セスの咳で、ハッとするアンリエッタ。セスの手から、同じく指輪を受け取った。


「アレク……」


「うん……」


 アンリエッタがボクの左手を取る。そして、先程同様に指輪を嵌めた。


 これで、指輪交換も無事に終わりである……。


「それでは、誓いのキスを……」


 ――来た。最大の難関が……。


 ボクとアンリエッタは、互いに見つめ合う。見れば、彼女の顔は真っ赤に染まっていた。


 そして、恐らくはボクも同じ状況だろう。何せ自分でも、顔が熱くなっているとわかるのだから……。


 それというのも、ボク達のキスはこれが初めて。これまで、一度もキスをした事が無いのだ。


 それは、アンリエッタの拘りである。この世界でも守る人の少ない、古い仕来りなのである。


「じ、じゃあ……」


「は、はい……」


 ボクとアンリエッタは、堅い動きが距離を詰める。そして、躊躇いがちに相手の背中に手を回す。


 ――近い。


 アンリエッタの顔を、これ程近くで見たのは初めてだ。彼女はこんなに、整った顔をしてるんだな……。


 これは、やばいな……。こんな綺麗な人は、他に見た事が無い……。


「ごほん……。アレク様……?」


 背後から届くギルの声。どこか、呆れの色が含まれていた。


 そこで初めて気が付く。ボクがジッと、アンリエッタの顔を見つめ続けていた事に……。


「ご、ごめんなさい……!」


 しかし、謝ったのはアンリエッタだった。彼女は申し訳なさそうに、ギルへと視線で謝る。


 ……ああ、なるほど。アンリエッタも、ボクを見つめ続けていたらしい。


 ボクは苦笑を浮かべる。そんなボクに、アンリエッタも似た様な笑みを浮かべる。


 似た者同士と思えば、何だか気が楽になった。程よく緊張感も解けた気がする。


 そして、ボクはそっと顔を寄せ――アンリエッタと唇を重ねた。


「「「おおおぉぉぉ……!!!」」」


「「「おめでとおー……!!!」」」


 周囲から溢れ出す歓声。万雷の拍手が、ボク達の事を包み込む。


 ボクは唇を離し、そっと身を引く。激しく叩く鼓動を感じながら、ボクは大きく息を吸おうとした。


 ――しかし、ボクの体がグッと引き寄せられる。


「――なっ!?」


 強い力により、ボクの体は抱きしめられる。そして、ボクの唇が再び重ねられる。


 ボクは驚いて身を引こうとする。しかし、まったくビクともしない……。


 流石はLv50の聖騎士クルセイダー……。筋力ステータスに差があり過ぎる……。


 ――そして、周囲から聞こえる爆笑の声。


「ん……? んん……!?」


 横目に見ると、笑っているのは身近な関係者のみ。敷地外の観覧者は、戸惑った様子を見せていた。


 もしや、これは……。計画的犯行かっ……!?


「んん……! んんん……!!」


 ボクはアンリエッタの背中をタップする。ボクは必死に、抗議の声を漏らす。


 しかし、彼女の力は弱まらない……。


 そして、ボク達の視線がふっと交わる。アンリエッタの瞳は、楽しそうに笑っていた。


「んん……」


 顔を真っ赤にしての、捨て身の悪戯……。ボクを困らせる為なら、ここまでやるのか……。


 そして、ボクは抵抗を止め、アンリエッタの好きにさせる。そうすると、彼女はようやくボクを開放してくれた。


「いや……。あのさ……」


 呆れた口調でボクは呟く。一言位は、皮肉を言わないと気が済まない。


 しかし、それより早く、アンリエッタは微笑んで告げる。


「これから、宜しくお願いしますわね?」


「あ、はい……」


 その真っ直ぐな瞳に、ボクは思わず返事を返す。そして、ボクは理解した……。


 きっと、この先もボクは、アンリエッタには勝てないのだろうと……。


 なるほど……。エドの言っていたのは、こういう事だったのか……。


 ボクは苦笑を浮かべ、アンリエッタを見つめる。そんなボクを、彼女は嬉しそうに見つめ返す。


 まあ、こんな関係も悪くないのかもね……?


 クスクスと笑うマリアさん。そして、ボク達に祝福を送る、仲間や街の住人達。


 そんな感じで、ボクの結婚式は無事に終える事が出来た。

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