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白のネクロマンサー ~死霊王への道~  作者: 秀文
第十四章 ヴォルクス帰還編

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アレク、約束を果たす

 商業都市ヴォルクスの高級住宅街。そこに存在する一つの屋敷。


 そう、ボク達は戻って来たのだ。ボク達のクランハウスに。


「はあぁぁぁ……。落ち着く……」


 いつものリビングの、いつものソファー。ボクは身を預け、完全にくつろいでいた。


 離れていたのは、たったの一年。過ごした時間も、二年でしかない。


 なのに、この馴染み具合……。実家の様な安心感は何だろうか……?


「ふふふ。何かあればお声かけ下さい」


「うん……。ありがとう……」


 一礼して部屋を去るのはメアリー。このクランハウスの、住み込みメイドである。


 そして、メアリーの後ろには、一匹のクラゲが付き従う。アクアも変わらず、彼女の助手を続けていたらしい。


「いやぁ……。ハンスさんには感謝だな……」


 ボク達がヴォルクスに戻ると知り、ハンスさんが持ち掛けて来たのだ。クランハウスをボク達に返したいと。


 そして、その時に知る事になる。この屋敷を引き継いだのが、こうなる可能性を考えての事だったと。


 苦笑を浮かべ、ボクは部屋を改めて観察する。清掃が行き届き、まったく変わらない調度品。


 二階の部屋も、全員分が手付かずで残されている。返されたその日から、普通に生活が出来たくらいだ。


 ――ただし、変わった事もいくつかある。


 まず、ドリーとグランは、クラン『白の叡智』に戻らなかった。


 二人はクラン事務局の職員へと再就職した。恋人も出来て、新たな人生を歩み始めた為である。


 そして、二人に会った際に言われたのだ。「冒険者として、やりたい事はやり切った」と……。


 なので、ボクも無理に引き戻す事はしなかった。その新たな人生を、応援すべきと思ったのだ。


 次に、シア、リア、カイルの弟子達。彼女達も、クランハウスに戻らなかった。


 それも当然の事で、彼女達には自分の工房がある。既に彼女達は、独り立ちを果たしているのだ。


 一応、声は掛けた。しかし、リアですら躊躇い無く断ったのだ。もはや、ボクの助けは必要ない。


 ……正直、嬉しさ半分、寂しさ半分だったけどね。


 最後に、ハンスさんも残らなかった。ボクへ屋敷を引き渡すと、その日の内に部屋を引き払った。


 何でも、ヴォルクスの拡張エリアに、家を購入したらしい。ここ最近は、そちらメインで生活しており、ハンスさんとしては何も困らないとか。


 ギルドマスターを目指すらしいし、これもケジメだと言っていた。一番寂しかったけど、これこそ応援しない訳にはいかないよね?


「みんな……。前に進んでるって事か……」


 そして、ボクだって止まっていられない。やるべき事は沢山あるのだから。


 カーズ帝国対策に、エクストラスキルの習得は必須。その他にも、エド達との連携は、続けて行く必要がある。


 更には、冒険者としての活動。何とボク達は、復帰と同時に『オリハルコン級』へ昇格した。この国で、『ホワイト・オウル』に次いで、二番目の『オリハルコン級』である。


 これは、冒険者大半からの要望であった。ボク達が『ミスリル級』のままだと、同じ『ミスリル級』が可哀そう過ぎると……。


 ……まあ、そんな訳だ。『オリハルコン級』に恥じない活動も、今後は行って行かないとね。


 ――そして、一番大変なのが結婚式。


 アンリエッタは、ヴォルクス領主の姉。その為、ヴォルクス城での式は決定している。


 式場の準備はポルクとセスが取り仕切っている。これらは何も心配していない。


 では、何が大変かって? それは、招待状の送り先である……。


 エドワード国王とザナック侯爵は参加が確定。そして、それは周囲も薄々察している。


 そうなると、貴族関係者が動き出す。とんでもない数の祝いの品が、ヴォルクス城に届いていたりする。


 ……基本的には、全ての貴族はお断りだけどね。


 では、誰を招くかと言うと、マルコ団長は呼びたい。『白の叡智』関係者は必須だろう。


 しかし、ハワード家の人々は? これまで関わった、ギルドマスター達は?


 義理と人情。それに、今後の実益等で、範囲が決めきれずにいるのだ。


 貴族を止めても、こんな事で悩まないといけない何てね……。


「はあ、やれや……ん?」


 そこで、ボクは気付く。扉の側に佇む人影に。


 その人物は足元を見つめ、部屋に入る事を躊躇しているみたいだった。


「アンナ……?」


 その声で、アンナは顔を上げる。ボクの顔を真っすぐ見る。


 そして、ボクは眉を顰める。アンナの表情が、何故か追い詰められて見えたからだ。


「どうしたの? こっちにおいでよ?」


「う、うん……」


 呼ばれてようやく、アンナが歩き出す。ただし、その足取りは非常に重い。


 その姿はアレだな……。親に叱られる前の子供の姿みたいだ……。


「えっと、何かあった?」


「……ごめん……なさい」


 いつもより、ほんの僅かに開いた距離。そこでアンナは足を止め、小声で謝る。


 ボクは首を捻る。アンナが謝る理由に、心当たりが無かった為である。


「それは、何に対する謝罪なのかな?」


「……悪い子で……ごめんなさい……」


 その言葉で、ボクは更に混乱する……。


 アンナが悪い子だって? 常に我儘を言わず、ずっと良い子だったのに?


 茫然とするボク。すると、アンナは涙を零し、謝り続けた。


「ごめん、なさい……。悪い子で……嫌な子で……ごめん……なさい……」


 薄緑のローブを握り、アンナは謝り続ける。ボロボロと涙を流し続け……。


 ボクは慌てて立ち上がる。アンナの肩に優しく手を掛け、彼女へ問い掛けた。


「本当に、何があったんだい? アンナが悪い子だなんて、そんな訳が無いだろう?」


 しかし、ボクの言葉に、アンナは首を振る。


 苦しそうな表情で、ポツポツと語る。


「私、お兄ちゃんが大好き……。アンリエッタの事も、大好き……」


「うん、それは知っているよ」


 アンリエッタと共に過ごした一年。そこで二人の距離は近くなった。


 本当の姉妹と思える程に、二人は仲良くなったのである。


「だけど、お祝い出来ない……。二人の結婚を、喜べない……」


「え……? どうして……?」


 今のアンナなら、祝ってくれると思っていた。ボク達の仲を、何だかんだで認めていたから。


 それが、今になってどうしたのだろう? 何故、急にそんな事を言い出したのだろうか?


「だって……。お兄ちゃんの隣は……本当はお姉ちゃんの場所だった……! 私がいたから、お姉ちゃんの場所じゃ無くなった……!」


「そうか……。ミーアの事を……」


 またボクは、わかっていなかった……。アンナはまだ、姉の死を乗り越えていなかったのだ……。


 ――そして、その理由はボクにある。


 アンナの心に、あの日のボクが呪いを掛けたから……。


「……あの日、ボクはアンナに言ったね。弱い事は、悪い事だと」


「うん……。私が弱かったから……。だから、お姉ちゃんは……」


 ミーアの死は、自分の弱さが招いた結果だ。ボクはアンナに、そう言い聞かせた。


 あの日のアンナには必要だった。あの状況で、強く生きるのに必要な言葉だった……。


「その言葉に嘘は無い。だからボクは、アンナを強く鍛えた」


「うん……。うん……!」


 そして、その言葉は決して嘘にしては行けない。


 それはアンナの努力を否定する事になる。これまでの三年間を嘘にしてしまうのだから。


「だけど、ボクはアンナに、伝えていない事がある……。とても大切な、もう一つの真実を……」


「もう一つの……真実……?」


 アンナは不思議そうに呟く。濡れた瞳で、ボクの事を見つめながら。


 なので、ボクは力強く頷いて見せる。アンナの瞳を、しっかりと見つめ返しながら。


「あの日、ミーアは命を懸けた。アンナを守る為に、逃げずに立ち向かったんだ」


「私が、弱かったから……。だから、お姉ちゃんは……代わりに……」


 再び目を伏せるアンナ。やはり、彼女の思考は、そこで止まってしまっている……。


 だからボクは、アンナの目をのぞき込み、彼女に対して問い掛けた。


「だけど、どうしてミーアは命を懸けた? 死ぬかもしれないのに、どうして戦い続けた?」


「え……?」


 ボクの問いに、アンナが顔を上げる。目を丸くし、その考えに驚愕する。


 そして、アンナは察したはずだ。ボクが何を言いたいのかを。


 ただし、彼女の性格上、自ら口には出来ないはず……。


 ――なので、ボクが代わりに口にする。


「アンナに生きて欲しかったから。生き残って、幸せになって欲しかったから。……だから、命を懸けて、守ったんじゃないのか?」


「――っ!?」


 生まれてから、ずっとミーアの後を追い続けたアンナ。姉の優しさを誰よりも知っている。


 だからこそ、その言葉は否定出来ない。ミーアなら望むと、理解出来てしまうのだから……。


「ミーアは命を懸けて託した。ボクにアンナの事を……。そして、最後に願ったのは、アンナの幸せのはずだ。ボクには――そして、アンナには、その願いを叶える義務がある」


「う……うぅ……」


 顔をクシャクシャにし、アンナは涙を流す。これまで目を背けた、姉の優しさと向き合っているのだ。


 ボクはアンナを抱きしめる。そして、優しく語り掛ける。


「それと、あの日のボクは、こうも言ったね。『強くしてやる。もう、誰にも奪えない位に』と……」


「うん……」


 ボクの事を抱き返し、アンナは小さく頷く。ボクはその背を撫でる。


 そして、ボクの中で決まっていた、決定事項をアンナに伝える。


「いいかい? 賢者のエクストラスキル、『森羅万象オール・オブ・クリエイション』はアンナが習得するんだ」


「えっ……!?」


 予想すらしていなかったのだろう。アンナは思わずボクから離れる。


 そして、信じられない物を見る様に、ボクを見つめて固まっていた。


 ボクはニコリと笑って、アンナに対して思いを伝える。


「それで、ボクの約束は果たされる。もう誰も、アンナから何も奪えなくなるんだ」


「え……。でも……。そんな……」


 アンナも知っている。エクストラスキルを習得する事の意味を。


 フェリシアの『魔王召喚サモン・サタン』を目にしたのだ。それと同等のスキル等、人知を超えた域にあると。


 その為、自分が習得するとは考えてもいなかった。それは、ボクが持つに相応しい力と、考えていたはずである。


 ――だからこそ、その力をアンナへと贈る。


「そこから先、どう生きるかは、アンナが決めるんだ。その力をどう使うかは、アンナ自身が考えて行くんだ」


「お兄ちゃん……」


 ボクの想いが伝わったのだろう。アンナの混乱も薄れて行く。


 そして、涙も止まり、アンナはボクに微笑んで見せた。


「そんなの、もう決まってるよ……。私の力は、お兄ちゃんを守る為に使うんだよ!」


「そうか……」


 ボクはその言葉を否定しない。それが正しいかどうか、判断したりはしない。


 今のアンナは十歳。間違う事もあるだろう……。


 ――だが、それが今の彼女の答えなのだ。


 そして、この先に答えが変わっても構わない。アンナが決めたなら、ボクは全て受け入れる。


 それが、ミーアから託された、ボクの責任なのだから……。


 ボクはアンナに頷いて見せる。そして、アンナもボクへと頷き返す。


 こうして、ようやくアンナも、自分の足で前へと進み始めたのだった……。

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