アレク、初心に帰る
ペンドラゴン城の一室。人払いをしたその部屋で、ボクとエドワード国王が向かい合って座る。
「――という訳で、ボクは只の冒険者に戻ろうと思います」
「待て待て待て……! さっぱり、意味がわからん……!」
ボクの説明を聞いたエドは、混乱した様子で立ち上がる。
そして、間に挟んだテーブルをバンバン叩き、ボクへと更なる説明を要求して来る。
「そもそも、カーズ帝国の備えはどうする! アレク主体で計画は進んでいたのだぞ!」
「大丈夫ですよ。それぞれの活動にはリーダーがいます。ボクが離れても、既に問題無い段階まで来てますので」
宮廷魔術師団であれば、マルコ副団長を昇格させれば良い。彼なら団長としても、引き続き上手くやってくれるだろう。
クラン事務局の立て直しも、メリッサが何とかする。いずれはボクの元に戻るだろうけど、その時はしっかりと引継ぎが行われているはずだ。
貴族の対処は、ザナック侯爵が掌握済み。騎士団の増長は、ヴェインさんと共に鼻を折った後。
今ならエドを中心に、全てが上手く噛み合うはずだ。
「っ……! そもそも、どうして爵位を返上する必要がある! 今のままで、何が問題だと言うのだ……!?」
「どうもボクは、周りの環境に流されやすいみたいで……。貴族の立場だと思うと、必要以上に責任を背負ってしまうんですよね……」
ボクはやれやれと肩を竦める。我が事ながら、本当に困った性格だと思う……。
そして、チラリとエドの様子を伺う。彼は言葉を失い、ワナワナと震えていた。
なので、ボクはニヤリと笑って見せた。
「それに……。今のボクに爵位が必要ですかね? 例え爵位を返上しても、何も困らないと思うのですが?」
「あ……う……ぐぅ……」
爵位を失っても、ボクと敵対する貴族は居ないだろう。エドワード国王、ザナック侯爵、ポルク公爵との関係を、知らない者は居ないだろうからね。
それに、武力も意味を成さない。エクストラスキルを習得すれば、相手を出来る者は居なくなる。それこそ帝国の大将しか相手にならないだろう。
更に、お金もこの一年で十分に稼がせて貰った。それが無かったとしても、国一番の冒険者として稼ぎに困る事もないのだ。
そう考えると、ボクは十分に目的を果たせたと思う。ヴォルクスで初めに立てた誓い。何者にも奪われない環境と言う奴をね……。
「勿論、この国が亡びるのは困りますからね。冒険者に戻ったとしても、エドの手伝いは続けるつもりですよ?」
「……はあ。なるほど……。こういう事だったのか……」
エドは疲れた様に椅子へと座る。彼は背もたれに身を預け、天井を仰ぎ見た。
そして、遠い目をして、何事かをブツブツ呟き始めた。
「お爺様から聞いていた……。賢者ゲイルはジョーカーだと……。切り札になり得るが、決して思惑通りに動かない……」
おや……? 二世代前の国王と、爺ちゃんの話しかな……?
エドの口から、こんな話が飛び出すとは思ってなかったな。
「おのれ、親父殿め……。これを見越して、早々に引退しおったな……」
ああ、あの時の傲慢そうな前国王の事ね。確かに彼は、アッサリと身を引いたと思った。
そして、それは爺ちゃんの件を知っていて、早めに逃げ出したと言うのが真相だったらしい。
……そう考えると、思ったより頭の良い人だったのか?
「ええい……! どうせ、お前達は我を通すのだろう……! 最早、何も言わん……! 好きにするが良い……!」
やけくそ気味にエドが叫ぶ。そんなエドの態度に、ボクは苦笑を浮かべた。
しかし、エドの言葉は、それだけで終わらなかった。
「ただし、私とアレクは親友だ……! それは変えんからな……! 忘れるでないぞ……!」
「は……?」
あれって……。まさか、ずっと本気だったのか……?
エドの人気を落とさない為……。王国の情勢を安定させる為と思っていたのに……。
「何だ、その顔は……!? これで別れては、本当に演技だったと思われるだろう……! 結婚式にも、必ず呼ぶのだからな……!」
身を乗り出し、にじり寄って来るエド。これは本気で、間違い無さそうだ……。
この反応は、正直想定外である。とはいえ、決して悪い気はしないのだけどね。
ボクは込み上げる笑みを堪え、エドに対して悪戯っぽく訊ねる。
「わかったよ。……ただ、友人枠でも良いけど、親戚枠ってのも有りなんじゃない? 一応、アンリエッタとは親戚関係にあるんでしょ?」
その言葉で固まるエド。どうやら、その考えはなかったらしい。
そして、腕を組んで真剣に悩み始める。今のエドの頭の中は、重たい天秤が揺れ動いている事だろう。
――と、そこでエドが、ハッと何かに気付く。
「そういえば、アレクに忠告する事があった……」
「え……?」
このタイミングで、忠告とは何のだろうか……?
ニヤリと笑うその表情に、ボクは何となく嫌な予感を覚える……。
「お前の選んだ相手は、相当に強かな女だ。尻に敷かれん様に、十分に気を付けておけよ?」
「…………は?」
それは、アンリエッタの事を言っているのか……?
あの天然っぽい女性が、強かと言われてもピンと来ないのだが……。
「くくく……。これは一つ、私にも楽しみが出来た様だな……」
「は、はあ……」
悪戯っぽく訊ねたら、逆に悪戯っぽい返しが待っていたよ……。
とはいえ、これでボクは後腐れ無く、王都を去れる事となった。
最後に何故か、モヤモヤした物を残す事にはなってしまったけどね……。




