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白のネクロマンサー ~死霊王への道~  作者: 秀文
第一章 ケトル村の日々編

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ワイバーン討伐戦(前編)

 何故か、ボクは村長であるビリーさんの家に呼ばれていた。


 ボクの隣には爺ちゃんが座っており、その隣にはリリーさんも座っている。


 爺ちゃんの向かい側にはビリー村長が座り、その隣には狩人であるウィリアムさんが座っていた。


「これで全員揃ったな。ウィリアム、状況を話してくれ」


「ああ、わかった」


 ビリー村長の言葉に答えるウィリアムさん。そして、その口からは緊急の知らせが語られる。


「森に異変を感じて調べていたのだが、ワイバーンの存在を確認した。場所は北の森の奥地だ」


「ワイバーン?」


 ワイバーンとは翼を持った、小さなドラゴンの様な魔物である。


 ただし、ドラゴンと違って知性は低く、魔法を使うわけでも無い為、中級魔物のカテゴリーに含まれている。


 上級職ならソロでも狩れる魔物である。ゲームではドロップの美味しさもあって、上級職へのレベル上げにPTを組んで挑んでいたな。


「流石に私一人では相手取るのが難しい。その為、村長か賢者様に対応をお願いしたい」


 ウィリアムさんがいかに熟練の狩人とはいえ、初級職である事に変わりはない。


 余程装備が充実していて、専用装備で挑まない限り、ソロで狩れる相手では無いだろう。


 ビリー村長は上級職の剣豪を習得しているらしく、爺ちゃんに至っては賢者を極めている。どちらかが出れば、討伐は難しく無い様に思える。


 しかし、当のビリー村長は渋い顔で爺ちゃんに告げる。


「現役時代ならともかく、今のオレでは腕も鈍ってる。流石にワイバーンはしんどい。討伐を頼めるか?」


「ふむ……。ワシも体にガタが来ておってのう……。森の奥地まで出向くのはキツイのう……」


 爺ちゃんは白い髭を撫でつつ、隣に座るリリーに目を向ける。そう、この場にはもう一人の上級職が存在しているのだ。


 リリーは爺ちゃんの振りに一瞬嫌な顔をした。しかし、何かを思いついたらしく、ニヤリと笑ってみせた。


「わかった……。討伐を引き受けた……」


「ほう……?」


 リリーさんの反応に爺ちゃんは意外そうな反応をする。どうやら素直に引き受けるとは考えていなかったらしい。


 そして、リリーさんは当然の様に条件を付けてくる。


「ただし、実際に戦うのはアレク達……。私は後ろで三人を見守っている……」


「何だと……?」


 一番に反応したのはウィリアムさんだ。三人の内の一人が、息子のギリーであると気づいての事である。


 当然ながら、ギリーの修行は知っているのだろうが、未だワイバーンと戦えるレベルとは考えていないのだろう。


「ふむ、大丈夫なのか?」


 ビリー村長は眉をしかめ、爺ちゃんへ問いかける。爺ちゃんも難しい顔ではあるが、決断した様に重く頷いた。


「リリーがそう言うからには、三人はその域におるという事じゃろう。確かに危険ではあるが、本当の意味の実践を積ませるには良い機会かもしれん。……それに、リリーがおれば、万が一も無いじゃろうしな」


「当然……」


 爺ちゃんの言葉にリリーさんは胸を張って答える。


 爺ちゃんとリリーさんが、過去に同じパーティーで冒険したとは聞いているが、爺ちゃんの信頼もかなり厚い様である。


「アレクは大丈夫かのう?」


 爺ちゃんは心配そうにボクへ問いかける。


 しかし、ボクは爺ちゃんの心配を他所に、別の事が気になっていた。


「えっと、倒したワイバーンの素材は貰っても良いかな? ウロコでスケールアーマーと、皮でマントを作って欲しいんだけど……」


「「「は……?」」」


 リリーを除く全員が、目を丸くしていた。


 そして、リリーはといえば、手で口元を覆い、笑いを堪えている。


「あれ? やっぱり不味かったかな?」


 周囲の反応にボクは狼狽える。しかし、爺ちゃんは困った様にぽつりと呟いた。


「不味くはないのじゃが……。既に倒した後の心配とはのう……」


 爺ちゃんの言葉に、ビリー村長とウィリアムさんも頷く。


 爺ちゃんは苦笑しつつも、すぐにいつもの笑顔に戻った。


「ほっほっほ、この調子なら大丈夫そうじゃな。ワイバーンを持ち帰って来たら、ワシが責任を持って装備を作ってあげよう」


「やった! ありがとう、爺ちゃん!」


 ワイバーン製の装備がここで手に入るのは大きい。上級職の中盤まで使える装備なので、防御方面の装備ではかなり助かる事になる。


 この辺りは他に強敵もおらず、中々に良い装備が作れなかったのだ。折角のチャンスを逃す手は無い。これで爺ちゃんに良い防具を作って貰える。


 ボクが内心でほくそ笑んでいると、ビリー村長は呆れ顔でボクへ尋ねて来た。


「所でアレク。随分と自信がある様だが、今のレベルはどの程度なんだ?」


 ボクはチラッと爺ちゃんに目を向けたが、爺ちゃんは構わないとばかりに頷いていた。なので、ボクは素直に今のレベルを伝える。


「黒魔術師がLv18で、白魔術師はLv17ですね。ちなみにミーアは白魔術師のLv16で、ギリーは狩人のLv16まで上がってますよ」


「何だと……?」


 ウィリアムさんは思わずといった様子で言葉を漏らした。


 どうやら、息子の成長を知らなかったらしい。ギリーがわざと隠していたのなら、悪い事をしたかもしれない。


「既に中堅の冒険者レベルとは……」


「え……?」


 ビリー村長の呟きに、ボクは目を丸くする。初級職という時点で、ボクの中では駆け出しレベルと考えていた。


 そして、中堅とは上級職で装備がまだ完成領域に無いという認識だった。


 しかし、この世界では上級職というだけで、ベテランに入ってしまうのだろうか?


 この辺りの情報は、改めて再確認しておいた方が良いだろうな……。


「まあ、ともかくだ……。中堅パーティーに上級職がサポートで付くなら、ワイバーン討伐も問題無さそうだな。アレクにリリー殿、後は任せたぞ」


「はい、わかりました」


「うん……任された……」


 ビリー村長の言葉に、ボクとリリーは答える。


 さて、明日からとうとう、格上との本格的な戦闘である。


 訓練とは勝手が違うだろうから、ミーアとギリーにも急いで伝えに行かないとな。

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