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白のネクロマンサー ~死霊王への道~  作者: 秀文
第七章 ヴォルクス活性編
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継承される白き意思

 領主との会談が終わり、クランハウスへと帰宅した。すると、そこには想定外の人物が待っていた。


「お兄ちゃん! おかえりなさい!」


「アンナ? 今日は早いね?」


 場所はリビング。見渡すと、狩りに出たメンバーが全員揃っている。


 時間はまだ昼過ぎといった所で、狩りを切り上げるには随分と早い。いつも日暮れまで頑張るのに、今日に限って帰りが早いのである。


「もしかして……?」


「うん! これを見て!」


 アンナが差し出したのはギルドカードだ。ボクはそのカードを受け取る。そして、そのカードには、こう記載されていた。


==============

アンナ

所属:ヴォルクス魔術師ギルド

   白の叡智

白魔術師Lv30

黒魔術師Lv45

==============


「白魔術師がLv30になったんだね」


「うん! 私、やったよ!」


 アンナが目を輝かせている。ボクはその姿に、思わず手を伸ばしてしまう。そして、その髪を優しく撫でると、彼女は嬉しそうに目を細めた。


「これで、これで私も……!」


「うん、賢者に転職可能になったね」


 上級職である賢者への転職条件。それは、黒魔術師Lv30と白魔術師Lv30である。アンナはその条件を満たした。これで彼女は賢者へ転職可能となったのだ。


 ボクはアンナに笑みを向ける。すると彼女はボクに抱き着いて来た。そして、肩を震わせながら、小さく呟いた。


「何かあれば、私が助けるから……」


「ありがとう。そして、おめでとう……」


 ボクの胸に顔を埋めるアンナ。きっと彼女は泣いている。努力が実り、ようやく力が手に入るのだ。彼女が望んだ、蘇生の力が。


 ……まあ、賢者のレベル上げも大変なんだけど、今それを言うのは野暮ってもんだよね?


「ボクが賢者になったのは八歳の時だった。それを考えると、アンナはボクより凄い事になる。今のアンナはまだ七歳なんだからね」


「ううん、私はもうすぐ八歳だよ。それに、私は沢山の人に助けられたから……」


 アンナは抱きついていた手を放す。そして、後ろへ振り返り、彼女の仲間達に顔を向けた。


 そこに立つのは、ずっとアンナと共に戦って来た仲間達だ。ハティは満面の笑みでアンナを見つめている。ルージュは誇らしげに、アンナへ頷いて見せる。そして、ロレーヌは感極まって涙を浮かべていた。


 いずれも、アンナの事を祝福していた。共に戦った仲間として、彼女の事を誇りに感じているのが良くわかる。


 彼等が仲間で良かった。打算もあって選んだメンバーだけど、今では本心から仲間だと思える。彼等と一緒だったから、アンナもここまでやって来れたのだ。


「みんな、ありがとう……」


「いや、感謝される事じゃないって……」


「ええ、我々は仲間ですからね!」


「ぐす……。アンナちゃん、良かったね……」


 アンナの感謝に、皆はそれぞれの反応を見せる。そこには確かに信頼関係が見て取れた。彼等四人は、堅い絆で結ばれたパーティーだと言えるだろう。


 ……ちなみに、壁際にはドリーとグランも立っている。流石に付き合いが短いので、輪の中に入るのは遠慮したらしい。彼等はボクの視線に気付き、肩を竦めて笑っていた。


「アンナ……」


「なに……?」


 ボクが呼ぶと、アンナは振り返る。そして、ボクの目をジッと見つめる。


 ボクはマジック・バッグへ手を突っ込む。そして、用意していたアイテムを取り出した。


「これをアンナに……」


「あ、これって……」


 アンナはすぐに気付いたらしい。ボクが取り出した手帳の中身について。


「この手帳には、賢者の知識を書き込んである。爺ちゃんから受け継いだ知識。そして、ボクが経験した知識。それらを纏め、ボクが書き溜めた知識だ」


「私に……くれるの……?」


 アンナの目がキラキラと輝いている。以前、リア達が貰った手帳を、羨ましそうにしていたからね。自分も貰えるとわかり、喜んでいるのだろう。


 しかし、ボクは頷くが、すぐには手渡さない。アンナに伝える言葉があるからだ。


「ボクは爺ちゃんに師事し、手帳を貰って賢者になった。……いや、賢者だけじゃない。黒魔術師も、白魔術師も、爺ちゃんから教わった。そして、薬師の知識は手帳と共に受け継いだ」


「うん……」


 アンナは不思議そうに、ボクの事を見つめる。何を伝えたいのか、その真意を探っているのだろう。


「爺ちゃんは知識を与える際に、ボクに度々願った事がある。それは、この知識を『世の中の為に、役立てて欲しい』という願いだった」


「賢者様が、そう言ってたんだね……」


 アンナは爺ちゃんの事を良く知らない。アンナが三歳の時に、爺ちゃんは他界したからね。だからこそ、爺ちゃんの人となりも良く知らないのだ。


 逆に壁際のドリーとグランは、懐かしそうに頷いていた。二人は成人するまで、ずっと爺ちゃんと同じ村で過ごしていた。だから、爺ちゃんの人となりも良く知っている。


「爺ちゃんから受け継いだ知識を、ボクからアンナに引き継ぐ。だから、ボクもアンナに望むよ。受け継いだ知識を『世の中の為に、役立てて欲しい』と……」


「世の中の為に……?」


 アンナはピンと来ていない様子だ。具体的に、何をすれば良いかわからないのだろう。


 だからボクは、優しく微笑んで見せた。


「うん、急にはわからないよね? だから、まずは身近な人の為に、その力を使って欲しい。そして、アンナにとって大切な人を、少しずつ増やして行って欲しい。そうすれば、いずれは多くの人を助ける力になると思うから」


「大切な人を増やす……。うん、それなら出来ると思う!」


 アンナはニコリと微笑んだ。ボクの言葉を受け取ってくれたのだ。


 だから、ボクはアンナに手帳を差し出す。爺ちゃんから受け継いだ知識と願いを、アンナへと引き継ぐ為に。


「ありがとう。アンナがボクの妹で良かった」


「私もお兄ちゃんの妹で良かったよ!」


 アンナはボクから手帳を受け取る。そして、キラキラした目で、手の中の宝物を見つめる。


 しかし、アンナは手帳を開かない。真剣な目でボクを見つめると、ボク達に向かってこう宣言した。


「今から部屋で読んで来る! 読み終わるまで、誰も部屋に来ないでね!」


「え……? あ、うん……」


 アンナはボクの返事を待たず、リビングを飛び出して行った。そんな彼女の様子に、一同は苦笑を浮かべる。


「まあ、気持ちはわからなくは無いな……」


「ええ、私も盾を授かった際は、同じ様な気持ちでした」


「うんうん! アンナちゃんも、まだ子供だもんね!」


 アンナの仲間達は、彼女の良き理解者の様だ。皆が楽しそうに笑みを浮かべていた。


 ボクはそんな彼らに内心で感謝する。そして、彼らに労いの言葉を掛ける。


「皆もお疲れ様。今日は早いけど、もう休んで良いよ?」


 ボクの言葉に一同は頷く。アンナがあの状況では、今日は狩りにならないだろうしね。


 しかし、ボクは微笑んで、もう一言付け加える。


「それに、皆もLv50までもう少しだよね? 近い内に、最終追い込みツアーを企画するから、楽しみに待っていてね?」


「「「最終追い込みツアー……?」」」


 ボクの言葉に、三人の顔色が変わる。明らかに警戒している様子だ。そして、そんな三人を、ドリーとグランがニヤニヤしながら見つめていた。


 まあ、こっちは追々という事で。ボクもクランリーダーとして、早く現場復帰しないとね。


 新たな決意を胸に、ボクは付け加える次の計画を練りこんで行くのだった。

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