アレク、魔法を覚える
今のボクは、爺ちゃんと草原に来ていた。ボクは赤い石の付いた、小さな杖を手にしている。
そして、服装はいつもの村人の服では無く、明るい若草色のローブだ。いずれも、爺ちゃんお手製の、魔術師見習い装備である。
「さあ、アレク。いつでも始めて良いぞ」
「う、うん……」
爺ちゃんはニコニコと、いつも通りの笑顔である。それに対して、ボクの表情は引きつっていた。
何故なら爺ちゃんは、沢山のスライムに絡まれていたからだ。
「じゃ、じゃあ、行くね……」
「うむ。思いっきりやりなさい」
爺ちゃんの態度は、完全に余裕であった。必死に爺ちゃんを溶かそうとするスライム等、まったく眼中に無い様子である。
余り爺ちゃんをスライム漬けにしても可哀想なので、ボクは思いきって杖を掲げた。
「ファイアー・アロー!」
ボクの声に反応し、杖の先に付いた石が輝く。すると、ニンジン程の火矢が生まれ、一匹のスライムへと飛んで行く。
「ピキィ……!」
表面を焦がされたスライムは、怒った様に鳴き声を上げた。どこから声を出しているかは謎である。
そのスライムは、爺ちゃんから剥がれてボクに向かう。しかし、爺ちゃんが手にした杖を振り下ろした。
「ほいっ!」
「ピギャ……!?」
爺ちゃんの攻撃により、スライムは爆散する。
装備の性能か、爺ちゃんのレベルか、見た目に反して爺ちゃんの攻撃はエグい威力であった。
「さあ、遠慮無く続けなさい」
「あ、うん……」
ボクは再び杖を掲げ、火矢を撃ち続ける。
そう、今のボクは黒魔術師のレベル上げを行っていた。爺ちゃんが魔物のタゲ取りを行い、ボクは安全な場所から攻撃する。
ゲームとしては良く有る光景だが、リアルでやると中々にシュールな絵となる。
「お? 矢が二本になったのう」
「あ、本当だ」
十匹のスライムを倒した辺りから、ファイアー・アローのレベルが上がった。
ちなみに、その直前にジョブレベル上昇を知らせる通知が、ボクの脳裏に浮かんでいた。
しかし、どうもこのシステムはボク固有の物らしく、周りの人には隠す事にしている。
「アレクや。そろそろ、精神力が尽きて来る頃じゃ。精神ポーションを使いなさい」
「うん。わかったよ」
ボクは爺ちゃんの指示に従い、マジック・バッグから青いポーションを取り出す。これは爺ちゃんお手製の精神力回復アイテムである。
魔法職には必須のアイテムで、買うと体力回復アイテムの数倍の値段となる。貴重な品のはずだが、爺ちゃんは自分で作れるから、大量に用意してくれていた。
ボクは精神ポーションを一気に飲み干すと、空の瓶をバッグに戻した。
「じゃあ、続けるね」
「うむ。ドンと来なさい」
ボクは二本になった火矢を、爺ちゃんに向けて飛ばして行く。ボクのコントロールはまだまだだが、爺ちゃんが上手く動いてスライムに当ててくれる。
ちなみに、先程から際限無くスライムを狩っているが、これには爺ちゃんの仕込みが色々とある。
まずは、魔物寄せの強烈な臭い袋を爺ちゃんが所持している。これにより、先ほどから途切れる事無く魔物が寄って来ていた。
スライム以外の魔物は、爺ちゃんが魔法で仕留めている。視界に入る度に消し炭となるので、ボクは安全にスライムだけを相手に出来た。
そして、爺ちゃんは自身にバリアの魔法を掛けている。バリアは一定威力ダメージまで攻撃を無効化する魔法だ。
これにより、爺ちゃんはスライムの攻撃を完全に防いでいた。
爺ちゃんは賢者を習得している。なので、ゲーム知識としては、この程度の事が出来るのは知っていた。
しかし、ボクはこの世界に生まれて六年が経つ。爺ちゃんが一般人からしたら、規格外の存在であると、今なら理解する事が出来る。
「お? 矢が三本になったのう」
「あ、本当だ」
無心でスライムを狩っていたら、いつの間にかレベルが上がっていた。
先程と同じく十匹程で上がったのは、与えるダメージ量が増えたからだろう。それだけ、一匹辺りの経験値効率が上がったという事だ。
「そろそろ、アイス・ブリッツも使えるのう。しかし、今はファイアー・アローの強化を優先するとしよう。今日の目標は、矢を五本にする所までじゃ」
「うん、わかったよ」
黒魔術師は、ジョブレベルが二つ上がる度に、新しい魔法を覚える。
そして、まずは火、水、風、土の基本属性攻撃が揃う。この四属性を使いこなす事で、黒魔術師は高い攻撃性能を誇る事が出来るのだ。
また、本来ならばジョブレベルが上がる際に、スキルポイントが手に入り、好きなスキルのレベルを上げて行く。
しかし、ゲームと違い、この世界にはスキルポイントの概念は無い。
スキルの熟練度があがるとスキルレベルが上がり、それに伴いジョブレベルも上がるらしい。この辺りの違いは注意する必要がありそうだ。
ちなみに、黒魔術師がファイアー・アローを最大のLv5まで上げるのは、ゲームでもセオリーとなっていた。森や草原には火が苦手な魔物が多く、最大効率でレベル上げが可能になるからだ。
後は好みで、残り属性から一つを選んでLv5まで育てる。全てを鍛えると、後半の魔法が鍛えられ無くなるので、このスタイルを選ぶ人は多い。
ちなみに、ボクはゲームで雷魔法を選んでいた。海底洞窟には水の魔物しかおらず、全て雷魔法で有利に戦えるからだ。
しかし、海底洞窟は海の底にある。ゲームの様に、自由に行き来するのは難しいだろう。
それに、当面は村の周辺でレベル上げをする事になる。土魔法が有利な、水属性の魔物は数が少ない。
ここは汎用性の高い、風魔法が無難な気がする。
「さあ、アレクや。どんどん来なさい」
「うん、わかったよ」
ボクは三本になった火矢を、スライムに向けて飛ばして行く。スライムはこの三本の火矢により、蒸発して消えて行った。
どうやらダメージ量が、スライムの体力を上回った様だ。
「ほっほっほ。アレクの魔力は中々に高いらしいのう。これなら、ゴブリンも一撃じゃな。次からはゴブリンも相手にしてみなさい」
「うん、わかったよ」
ボクは爺ちゃんの指導の元に、黒魔術師のレベルを上げて行く。
爺ちゃんの安全第一の狩りの元に、ボクは半日で黒魔術師をLv5まで上げる事が出来た。
ちなみに、明日はミーアと一緒に訓練だ。教わるのは白魔術だけど、きっと今日みたいに順調なんだろうね。




