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白のネクロマンサー ~死霊王への道~  作者: 秀文
第一章 ケトル村の日々編

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収穫祭(当日)

 ボクとコルドは村の外を歩いていた。魔物避けの臭い袋を置いて回る為である。


 ギリーはグランと、ミーアはドリーと一緒に、別れて活動している所だ。


「さて、ここらで良いかな」


 一定の距離を歩くと、ボクは臭い袋を落として行く。既に四つ落として、残りは一つとなる。


 皆のノルマが五個づつで、作業としては一時間程で終わる予定だ。


「…………」


 先程からコルドは無言だ。むっつりと難しい顔をしている。静かなのは助かるが、ウザく無いコルドというのも気持ち悪い。ボクは溜め息を吐いて、コルドに尋ねる。


「今日はどうしたの? 朝から難しい顔して?」


「……アレクは、いつになったら魔法を使える?」


「……はぁ!?」


 コルドがボクに、後衛職をさせたいのは聞いていた。コルドが前衛として剣で戦い、ボクが後ろから魔法でサポートする形だ。コルドは剣の効きにくいスライムが苦手で、何かにつけて愚痴を聞かされている。


 ……とはいえ、それが不機嫌な理由か?


 ボクはまだ五歳だ。決して魔法を覚えるのが遅い訳では無い。急かされるのは心外である。


 そもそも、この世界では十五歳で成人となる。その為、何かのジョブに着くのは十二歳から十五歳の間が一般的だ。流石に十歳以下で、職を得た人がいるのは聞いた事が無い。


「爺ちゃん次第だけど、早ければ来年には使えるかもね」


「そうか……」


 ボクの返事に、コルドは静かに答える。


 六歳で魔法が使えるのは、この世界でも異例のはずだ。コルドはきっと喜ぶと思ったのに、この反応は少し意外である。


「どうしたのさ? 今日のコルドは変だよ?」


「昨日、ドリーとグランから話があったのだ……」


「ドリーとグランから?」


 あの二人は楽天的な性格だが、コルドを怒らせる様な事を言うとは思えない。


 何だかんだで、コルドとは仲良くやっている。それとも、裏ではそれほど仲が良く無いのかな?


「二人は来年で十五歳になる。来年の春になったら、村を出るそうだ……」


「へぇ! そうなんだ!」


 コルドの言葉に驚いたが、それは別に特別な事では無い。将来、一旗揚げたいと考える若者は、成人と同時に村を出る事が多い。


 ドリーとグランもそうする気はしてたが、やっぱりかという感じである。


 恐らくは、ペンドラゴン王国の剣士ギルドに所属して、ギルドクエストを繰り返すのだろう。


 ゲームでは、薬草採取やゴブリン退治からスタートするので、二人は無理無く成長する事が出来るはずだ。


「なので来年から、自警団の正団員が一人になってしまう……」


「え……。気にする所って、そこなの?」


「何を言う! 村の警備力が落ちるんだぞ! これは由々しき事態だ!」


「は、はあ……」


 コルドの目は本気だ。彼は自警団が村の役に立っていると、本気で思っていたらしい。


 これは、本当の事を言っても、怒らせるだけだろう。なので、いつもの奴で話を着けるか……。


「……コルド。こうは考えられないかな?」


「うん……?」


「二人はきっと成長して帰って来る。一時的には自警団が縮小してしまうけど、これは自警団の飛躍に必要な事なんだよ」


「うーむ……」


 ボクの言葉に、コルドは腕を組んで考えだす。一理有ると思ったのだろう。


 しかし、目の前の戦力低下と天秤に掛けて、メリットとデメリットの狭間で揺れている。


「二人の成長には、団長の後押しが必要なんだと思う。コルドが後を任せろと大きく構える事で、二人はコルドの事をもっと信用する。そうすれば、二人は必ず村に帰って来るし、自警団も強固な物になる。ここは、コルドの男気が試される場面だね」


「二人がもっと信用……。オレの男気……」


 コルドはボクの言葉を反芻している。その口元はすっかりと緩んでいた。


 何と言うか、コルドは相変わらずチョロいな……。


「うむ、アレクの言う通りだな。ようやく踏ん切りが付いた。苦労を掛けるが、アレクも自警団として、二人の代わりに頑張ってくれ」


「あ~、うん、わかった……」


 どうやらコルドは、元からそのつもりだった……と言う事にしたらしい。


 まあ、ボクが村を出るまで十年はあるし、その間は諦めてコルドの相手をするとしよう。村の警備もウィリアムさんが元気な間は安全だろうし。


「そういえば、コルドって今の剣士レベルはいくつなの?」


「さあ? 知らんな」


「え……?」


 確かにギルド所属で無いと、ステータスの記載されたギルドカードは手に入らない。


 しかし、レベルアップの際には、頭に知らせが浮かんで来るはず。それとも、このシステムは転生者のみなのか?


「えっと、コルドが使える剣士スキルって何?」


「バッシュとウォークライだな」


「そ、そっか……」


 バッシュは剣士Lv1の初期スキル。ウォークライは剣士Lv5で覚えるスキルである。


 つまり、コルドは剣士Lv5~9の可能性が高い。剣士Lv10なら、シールドバッシュも覚えられるはずである。


 でも、バッシュとウォークライは、去年から使えてた様な気がする。コルドは一年間、レベルが殆ど上がって無いのか……。


 ボクは残念な気持ちでコルドを見つめる。コルドはボクの気持ちが通じず、不思議そうな顔をしていた。


 しかし、ふと何かを思い付いたらしく、重々しく口を開く。


「時にアレクよ。来年から魔法を覚える様だが、アレクは何の職を選ぶつもりなのだ?」


「黒魔術師と白魔術師と薬師だけど?」


「は……?」


 ボクの答えに、コルドは目を丸くする。彼はしばらく呆けた後に、何故か優しげな目をボクに向ける。そして、ボクの肩に手を置いた。


「子供の内は、夢が大きい方が良い。しかし、一つの職を極めるのも大切な事だ。まずは、一つだけ選ぶ方が良いと思うぞ?」


「えっと、忠告ありがとう……」


 現実を知らない子供と思われた様だ。何とも失礼な話である。


 単に、朝から昼まで森で黒魔術を鍛え、昼からは村人相手に白魔術を鍛える。そして、夕方からは薬師を鍛えるというプランなだけだ。


 これなら、時間を無駄にせず、全てのジョブを効率的に育てる事が可能となる。


 ボクは、爺ちゃんが賢者と錬金術師を習得しているのを知っている。可能ならば、十歳までにその二つのジョブの習得条件を満たしておきたい。


 そうすれば、後は二つのジョブを育てながら、十五歳で世界を回る事が出来る。その状況なら、死霊術士ネクロマンサーを目指すのも、実にイージーと言える。我ながら完璧なプランニングだ。


「さて、そろそろ行こうか。皆も戻ってる頃だろうしね」


「うむ、戻るとしよう。そして、オレのオススメは黒魔術師だ。覚えておくと良い」


 スライムの相手をさせるつもりか。まあ、黒魔術師も極めるし、その位は構わないけど。


 とはいえ、ゴブリンやスライムではあまりレベル上げにならない。パーティーを組むなら、コルドのレベルも上げて、オーク位は相手出来る様になって貰わないとな。


 そんな事を考えていると、コルドは前を歩き出した。ボクは最後の臭い袋を弄びながら、コルドの後を着いて歩いた。

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