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グランドクエスト  作者: アムリタ
5/8

クエスト005 魔王を討伐せよ!

この作品は、細かなステータスを表示して数字で成長を楽しむ系のお話ではないです。

 次の瞬間、トライヴは道の真ん中に呆然と突っ立っていた。


 様々な人が行き交い、馬ではなく牙のないマンモスのような動物の引く車が何頭も走っている。

 道はとても広く、賑やかで、道の両脇に軒を連ねた露店から客引きの声が飛んでいた。


「そんなとこで突っ立ってんじゃねえ! 死にてーのかぁっ!」

「うおっとっ、とっ」


 急にかけられた荒々しい怒声とは裏腹に、車を引く動物が長い鼻で優しくトライヴを道の脇へと押しやった。

 長いもふもふの毛の間からのぞく優しげな瞳がトライヴを見ながら、見た目よりも速い速度で力強く車を引いて通りすぎる。

 トライヴは、それを呆然と見送った。


 ハスミの口付けは、頬に触れた……ように思う。あるいはここへの転送の方が先で、触れていないのかもしれない。

 だが、守護天使があんな行動をするなんて聞いたことはなかった。


 とりあえず、気を取り直して周囲を見る。

 グランドクエストのスタート地点はいくつかの都市からランダムに決められるが、この特徴的な大通りはトライヴも動画で何度も目にした、王都グランダーナの大央道に間違いない。


 車を引くあの動物は、この世界で馬の代わりに使われているバナムという温厚な草食動物だ。バナム車を略してバ車という。


 ぱぱぱぱー、ちゃらららー


「うおっ!?」


 そんな世界設定を思い出していたトライヴに突然ファンファーレが鳴り響き、目の前に大きなウィンドウが開かれた。


┏───────────────────┓

│  グランドクエストが発生しました  │

│      魔王を討伐せよ!     │

┗───────────────────┛


 グランドクエストは、クエストと呼ばれるお使いをクリアすることで様々な報酬を得ることのできるタイプのゲームだ。

 クエストにもいくつか種類があり、中でもタイトルにもなっているグランドクエストは魔王に関する重要クエストである。

 この「魔王を討伐せよ!」はゲーム開始直後に全プレイヤーに課される、いわばゲーム自体の目的とも言えるクエストだ。


 ただし、その魔王がどこにいるのかは、未だに明らかになっていない。


 ともあれ、まずはこのゲームで何ができるか、そのシステムを理解しなければならない。

 メニューを開こう、と意識するだけで、目の前にぱぱぱっ、とウィンドウが開いた。


「ふむふむ、なるほどなるほど…… 結構、ベーシックなシステムだな」


 アイテムボックスの中には何も入ってないが、1スタックが99個まで、それが100スタックまで入る。ひとまず課金で拡げなくてもやっていけそうだ、と思った。

 お金に関してはアイテムにはカウントせず、いくらでも持てる。上限は未確認だが、一億以上は余裕らしい。

 今の所持金は1000となっている。単位はシルバー。


 ステータスは…… 見るだけで嫌になるほど、ずらっと数字が並んでいる。たとえば能力値ひとつとっても、筋力体力持久瞬発器用魔力精神集中忍耐知恵信仰幸運、12種類もある。

 さらにステータス異常に対して抵抗率・耐性・回復力があり、それが毒・猛毒・致死毒・麻痺……と多種多様な異常の種類それぞれに設定されている。

 項目はさらに多岐にわたり、とてもではないがすぐに理解できるものではない。今はざっと流し読みをするだけに留めておく。このデータキチめ、とトライヴは内心毒づいた。


 初期装備は、デザインに関わらず全て「旅立ちの~」という名前の最低限の性能のものになる。

 下着みたいなデザインでも、いかつい鎧でもだ。

 装備箇所は、頭・首・上半身・腰・下半身・脚・腕・下着・アクセサリ三ヶ所と、かなり多い。

 武器や盾は左右の腕にひとつずつ。左利きや二刀流、あまり意味はないけど二盾流も可能だ。


 今は、上半身・下半身・脚・右手に、それぞれ初期装備が装備されていた。

 下着はつけていない……わけではなく、防具としてカウントされない程度の衣服は表示されていないだけである。


 なお、このステータス画面から直接装備を付け外しして早着替えができるが、公の場では迂闊に装備をはずさないこと、とされている。

 街角で装備を吟味して付け外ししながらステータスを見比べていたところ、うっかり装備を外して街中で下着姿になったまま考え込んでしまい、騒ぎになって兵士に連れていかれた、という案件があった……らしい。


「……なあ兄ちゃん、うちの店の前で変なパントマイムやめてくれよ。客が寄り付かなくなっちまわぁ」


 あれこれとメニューを確認していると、青果を並べた露店の店主から迷惑そうな声をかけられた。


「ん、ああ。……じゃあ、リンゴ一つもらおっかな」

「あいよ、まいどあり。せめて客が呼べる芸なら、助かるんだけどねえ」


 アイテムボックスから20シルバーを取り出して渡すと、店主は渋い顔をしながらリンゴを投げて寄越した。

 そんなところにいるからには、プレイヤーではなくNPCだとは思うのだが……かなり自然な受け答えだ。中に人がいるみたいだな、と思いつつリンゴをアイテムボックスに投げ入れた。


「……あん? おい、兄ちゃん、今どこにリンゴをしまったんだ?」

「え? どこって言われても……」


 ひょい、とアイテムボックスからリンゴを取り出してみせると、ううむ、と店主は首をひねる。


「どこから出したのか全然わからん!

 なんだなんだ、さっきのパントマイムより立派な手品じゃねえか!」


 手品なんかではないのだが、ここでトライヴはピンと閃いた。

 いたずら心を刺激された、と言い換えてもいい。


 右手からアイテムボックスに入れたリンゴを、左手に取り出す。

 左手からアイテムボックスに入れたリンゴを、右手に取り出す。

 ぽんと口の中に放り込んだリンゴが、また口から出てくる。


「お、お、おお!?」


 右手に持ったリンゴを上着の左側の懐にぽんと投げ入れる。

 そしてまた右手から出し、上着の懐に投げ入れる。

 さらに右手にまた出して、上着の懐に投げ込む。

 さらにさらに、もう一丁。


「ええええ!? リンゴ何個あんだよ! そんで何個入るんだよ! すげええええ!!」

「はっはっは、種も仕掛けもございません」


 リンゴは勿論一個だし、種も仕掛けも確かに無いのだが、店主は拍手喝采だった。

 

 その反応に気をよくして立ち去ろう、と思った途端、ぴろりん、と軽い効果音と共にウィンドウが開く。


┏─────────────────────┓

│  インスタントクエストが発生しました  │

│     露店の客を楽しませよ!     │

┗─────────────────────┛


「え、マジで」


 振り向いてみると、なんだなんだと騒ぎを聞き付けて軽く人だかりが出来ている。

 この客に手品を披露しろ、とでも言うのか。


 インスタントクエストは、その場で発生する小さなクエストだ。クリアしなくてもいいし、その場合は消滅してしまう。

 だが、クリアすれば些細ながら報酬がある。


「しゃーないなあ…… じゃあちょっと張り切っちゃおうかな!」


 ぱしん、とキャッチボールの球のようにリンゴを左右の手で投げ渡す。

 投擲スキルのせいか、現実よりも若干コントロールがいいような気がした。




┏─────────────────┓

│  クエストクリア!       │

│   ・露店の客を楽しませよ!  │

│                 │

│  報酬を入手しました      │

│   ・リンゴ 3個       │

│   ・500シルバー      │

┗─────────────────┛

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