クエスト003 初期スキルを選択せよ!
「はい、それでは貴方に祝福を与えます。新たな英雄の雛として、その手に振るう武器を授けましょう」
まだ若干おこなのか、幾分か投げやりな感じの守護天使に苦笑いしながら、青年は新たに開いたウィンドウに目をやる。
ここでプレイヤーが最初に手にする武器を選択するのだ。
もらえる武器は最低限のものだが、何気に耐久力が無限に設定されていて、何があっても絶対に壊れない唯一品でもある。
また、選べる武器の種類もやたら豊富だ。
剣に分類されるだけでも、長剣、刺突剣、両手剣、太刀、小太刀、曲刀……と、全部抜き出せば眺めるだけでもうんざりするほど多種多様である。
もしもこのゲームに存在する全種類の全武器をリストアップしたら、それだけで本が作れるのではないだろうか。
なお、中には地雷とされる武器もある。
例えば光線銃。
……念のため言っておくが、グランドクエストはファンタジーものである。
だが、この初期選択でのみ、光線銃が手に入るのだ。
飛距離、攻撃力、命中精度、いずれも申し分なく、序盤では無双状態になれる武器なのだが、よく考えてみて頂きたい。
光線銃のエネルギーが切れたらどこで補充するのか。
重ねて言うが、グランドクエストはファンタジーものである。
……現時点で、光線銃のエネルギーを補充する手段は一切発見されていない。
これは、他にもいくつかある機械系の武器の大半が同様である。
地面に突き立てれば人間が丸々隠れることが可能なほどの巨大な鉄塊である、巨大剣も地雷武器として名高い。
初期装備でも非常に高い攻撃力を持っているのだが、あまりに大きすぎて重すぎるため、持ち上げるだけのことすら困難なのだ。
その存在は浪漫そのものだが、人間に浪漫は重すぎた。
なお、ここで選んだ武器と同じ種類の武器を使う際に、攻撃力や命中率が高まるアビリティを同時に取得することになる。
ゲームは最初の武器選びから始まっているのだ。
「えっと、質問してもいい?」
「……セクハラはいけませんよ?」
「しないって。オススメの武器って何かある?」
青年が声をかけると、守護天使は軽く目を見開いた。
守護天使に意見を求めるプレイヤー、というのは聞いたことがなかったのである。
多くのプレイヤーは事前に攻略wikiで情報を仕入れてくるため、悩むにしても一人で悩むか、あるいは全く悩まずさっさと導入を済ませてしまう。
早くゲームを始めたい、と誰しもが思うのは仕方ない。
守護天使に全く話しかけないプレイヤーさえ珍しくないのだ。
「……そうですね。貴方がどのような道を選ぶのか、にもよりますが。
無難なところをあげるのなら、長剣、片手槍、弓、杖のいずれかが良いでしょう。どんなスタイルでも役に立つ筈です」
「うーん、なんという面白味のない選択……」
「ですが、使いやすいのは確かです」
王道、オーソドックス、というのは効果的で汎用性が高いからこそそう呼ばれるものなのだ。
青年は少し考えた結果、長剣を選択した。
使いやすく、種類も豊富で、後で魔法を使いたいと思っても両立も比較的簡単である。
仮想ウィンドウの中から、鞘に納められた剣が飛び出してきて、青年の手に収まった。
程よい重みを手の中に感じる。抜き放ってみると、これといった飾り気のない普通の剣だ。耐久力が無限とはいえ、少しすれば買い換えることになるだろう。
だが、誰しもここから始めるのだ。
┏────────────────┓
│ アビリティを修得しました │
│ ・長剣マスタリー │
│ │
│ スキルを修得しました │
│ ・長剣Lv1 │
┗────────────────┛
短めのファンファーレが鳴り響き、ウィンドウがポップアップする。
アビリティは、持っているだけで意味がある特殊効果だ。
長剣マスタリーは、長剣に分類される武器のステータスが15%もアップする。いわば長剣の才能と言ってもいい。
対してスキルは、プレイヤーが何か行動するときに効果を発揮するものだ。
長剣スキルがあれば長剣で攻撃した時の攻撃力や命中率が高まり、長剣を使い続けることでレベルが上がって更に効果がアップする。
スキルは手に入りやすいが、鍛えなければ効果は低い。
アビリティは手に入りにくいが、すぐに大きな効果を発揮する。
スキルを覚えて鍛えていくのがグランドクエストの基本である。
青年は、ひとまず長剣を鞘に納めた。
リアルでは剣なんて触ったこともないのに、その動作が特に意識することもなくすんなりと出来たのは、ゲーム補正なのやらこれもスキルの恩恵なのやら。
「そして、私から貴方に更なる祝福を授けます」
守護天使が言うと、また新たなウィンドウが開いた。
武器のスキルとは別に、ランダムで武器以外のスキルを三つ入手できるのだ。
ランダムといっても、何度でも再抽選できるので、根気さえあれば狙ったスキルを手にいれることが可能だ。
中には入手しにくいスキルや、あまり役に立たないスキル、使い道は限定的だが強力なスキルなど、武器の種類と同様に無駄なほど多様なスキルがある。
グランドクエストのデザイナーはデータキチに違いない、と青年は思った。
ともあれ、ここは魔法系のスキルが出るまで粘るのがwikiでも推奨されているのだが、青年は再抽選せずにそのまま選択する。
┏──────────────┓
│ スキルを修得しました │
│ ・水泳Lv1 │
│ ・投擲Lv1 │
│ ・愛撫Lv1 │
┗──────────────┛
水泳は、当然ながら水中に入らない限り意味のないスキルだ。
ただし、水中では逆にこのスキルがなければまともに戦うことも出来なくなる。
レベルを上げていけば、水中で重装備を着込むことも可能になるが、無くても水中に入らなければいいので外れスキルに分類される。
投擲は文字通り、物を投げるスキルだ。
レベルを上げるほど、威力、命中率、飛距離が上がっていき、手に持った武器を投げることすら可能になる。石など、そのあたりでいくらでも手に入るもので遠距離攻撃が出来るのも強みだ。
が、遠距離攻撃をしたいなら最初から弓なり魔法なり光線銃を使えばいいので、ごく一部の物好き以外は見向きもしないスキルである。
そして愛撫だが、まずそう聞いてエロいことを想像した者はアカウントが凍結されないうちに反省すべき。
これは、撫でることで動物から好かれやすくなる効果があるスキルだ。調教、飼育などのスキルと組み合わせることで、犬などのモンスターではない動物を仲間にして戦わせることが出来るという。
だが、動物はあくまでただの動物で、それほど強くないため、利用する者は少ない。そもそも調教スキルが必要で、愛撫はその補助的なスキルだ。
「なんというか見事に外れスキルばかりだなー」
とは言いつつ、青年は楽観的であった。
粘ったところで、所詮はLv1。必要なスキルは行動していけば自然と手に入るので、あまりこだわる必要はないと考えていた。
「ま、天使ちゃんが選んでくれたスキルだしね。
ところで、愛撫のスキルが手に入ったんだけど、試してみていい? さっきより気持ちいい感じで触れると思うんだけど、手以外のところとかどうかなー。これもテスト、テスト!」
「やめてください。その手つきをしないでください。アカウント凍結しますよっ」
「あはは、冗談冗談」
顔を真っ赤にして睨み付ける守護天使に、青年はひらひらと手を振った。