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グランドクエスト  作者: アムリタ
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クエスト001 グランドクエストを開始せよ!

『第32次プレイヤー選考当選のお知らせ』


「よっしゃ来たあぁ!!」


 ここ数日、一日に何度もメールをチェックしていた青年は、興奮のままに叫び、椅子を蹴立てて立ち上がった。

 逸る気持ちを抑えもせずに、無駄に顔を近づけてマウスを連打してメールを開く。




第32次プレイヤー選考当選のお知らせ


 この度、グランドクエスト第32次プレイヤー選考にご応募頂きありがとうございます。

 厳正なる抽選の結果、あなたのアカウントが当選致しました。

 以下の専用アドレスより、クライアントをダウンロードしてください。




 グランドクエスト。

 今や巷間にありふれた、仮想現実型(VR)大規模マルチプレイ(MM)オンライン()RPGのタイトルのひとつである。

 最初はマイナーな弱小タイトルだったのだが、何やら漫画家がハマってると呟いたところから評判が広がり始め、今では押しも押されもせぬ有名タイトルだ。


 だがしかし、プレイヤーは完全抽選制。

 何十万人も登録してはいるが、実プレイヤーは未だ数万人程度。

 しかも抽選は完全に運で、最初期から登録しているがまだプレイできない人もいれば、先日登録したばかりなのに当選した者もいる。


 幸い、この青年は運が良かった方である。

 利用規約を読まずに飛ばし、クライアントをダウンロードする。

 今時、高速光回線がデフォルトだ。VRMMORPGは容量が大きくなりがちだが、30分もあればダウンロードは終了する。パッチも含めて一時間はあればゲームが始められるだろう。


 一世紀も前は、VRでないMMOのクライアントをダウンロードするだけで一晩かかり、インストールした後のパッチあてで四時間かかり、ゲームを開始するまでに下手すると三日はかかる、なんて時代もあったらしいが……

 技術の進歩した現代っ子で良かった、と思う青年である。


 とはいえ、一時間も待つのははやはり手持ち無沙汰だ。

 パソコンに接続した、ヘッドホンに似た形のVR機器を頭にセットし、楽な姿勢で深く椅子に腰かける。




 現実の感覚から離れ、起動するのはグランドクエストのキャラクタークリエイションシステムだ。

 抽選に当選したアカウントしかダウンロードできないクライアント本体とは違い、キャラクタークリエイションは誰でもダウンロードできる。

 そして、ここで作ったキャラクターはそのままゲームで使用できるため、予めキャラクターを作っておけばスムーズにプレイが開始できる。


 それに、キャラクタークリエイションだけでも非常にクオリティが高い。

 顔立ちも体型も直感的に自由自在に作れる上、ひょっとするとゲームであることを忘れるくらいリアルなキャラクターが作れるのだ。


 このリアリティの高さが、グランドクエストの最大の特徴である。

 グラフィックの良さで定評のある大手メーカーの最新作にも勝るとも劣らないクオリティ。

 リアル過ぎて趣味ではないという人もいるが、青年はそれほどビジュアルには拘らなかった。


「まあ…… こんなもんだよな」


 とっくに作り終えて、もう何度も念入りにチェックしたキャラクターを、最後にじっくりと確認する。

 無難に、黒目黒髪のこれといった特徴のない青年だ。

 心持ち背を高めでスマートに、ややイケメンにしてはあるが、極端にしないように気を付けて、モデルをひたすらぐるぐる回して頭の先から爪先までバランスよく作り込んである。

 種族も選択できたが、こちらも無難に人間だ。


 キャラクタークリエイションは何パターンでも作ってデータを保存できるが、ゲーム本編に持ち込めるのは一体だけである。

 しかも、一度使用したキャラクターの外見を変更することはできない。

 さらに、データを消してやり直す機能もない。

 ずっとプレイするキャラクターなのだから、異様な外見や、女性キャラクターでプレイするつもりは青年にはなかった。


「おっ、クライアントのダウンロードが終わったか」


 ふと気付くと、いつの間にかダウンロードが終了していたので、仮想ウィンドウを展開して操作し、解凍して起動する。

 開かれたメニューから、早速ゲームスタートを押す。


 常ならばまたここから、膨大な最新パッチを当てる作業が始まるところだ。

 新しいネトゲを始める時の洗礼のようなものである。サービス開始から時間が経ったゲームほど、パッチの大きさも相応になるものだが……


「ん、あれ? パッチはないのか?」


 最新パッチを適用する作業に入る様子もなく、仮想ウィンドウが暗転する。

 少し不審に思ったが、ダウンロードするクライアントそのものが適宜に最新版にアップデートされていたのかもしれない、と考えて納得した。

 いずれにせよ、早く遊べるに越したことはない。


『このプログラムはフルダイブモード専用です。フルダイブモードを起動するまで開始できません』


 フルダイブモードとは、仮想ウィンドウを通さずに直接操作する方法のことで、ゲームの中に入り込んで遊ぶVRMMOはそのほとんどが当たり前にフルダイブモード専用だ。

 フルダイブモードとはいえ、他の作業を仮想ウィンドウで開くことは可能なので、青年も躊躇することなくフルダイブモードに移行した。


 グランドクエストの仮想ウィンドウに両手で触れ、ぱっと放り投げるように両手を広げる。

 警告文の表示されていた仮想ウィンドウがぶわっと大きく広がり、周囲を包み込んで視界を暗転させる。

 それはまるで、闇が全てを飲み込むかのようでもあった。

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