表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アサシン クロニクル  作者: キツネ
前水の陣
8/46

長い一日

十三話


時間は少し戻って事務室、部屋に戻ったローラはシズネを呼び出していた。顔は真剣といった風だ。

「ウィルはまともじゃないわ」

ローラが話す。

「少なくとも、今まで見たことの無いタイプ。正直、想像以上だわ。シズネはどう思う?」

ローラはウィルについて、マックスに調べさせていた。報告から、変わった人間とは思っていたが、実際はそんなものではなかった。

「私もそう思う」

シズネは答える。

「ウィルは、人殺しに対しての抵抗が、まるでない」

今日の喫茶店でのことを思い出す。

「あの時、男を殺すことに少しも迷いがなかった。迷いどころか、なんの感情も無いみたいだった。普通ならあり得ない」

人殺しをする時、人は何かしらの感情が沸き上がってくる。普通なら嫌悪感で踏みとどまる。兵士なら葛藤と罪悪感を背負いながら。狂人なら高揚感を求めて。それはシズネ達も例外ではない。しかし、

「ウィルはまるで、息をするように殺そうとしていた」

それは当然のことだと。考えるまでもないことだとでも言うように。

「…私が初めてウィルに会った時のこと、おぼえてる?」

ローラは言う。

「彼、初対面の私を見て、とっさにナイフを握ろうとしたの」

ローラが握ったウィルの手。まさにその手がコートの裏、つまりナイフに伸びていたのだ。相手がウィザードで、警戒したとしても普通はあり得ない。

「マックスが調べた限りでは、殺人の前科はない。人殺しに慣れすぎているということでもないし、特別な教育を受けた訳でもない。つまり」

ローラはシズネの目を見て言う。

「他人とのコミュニケーションに、デフォルトで殺人という選択肢がある。それがウィル=リーガスという人間」


ウィルは事務室の前に来ていた。ドアを開ける。

「ローラさん、アイテム決まったんですけど。あれ、なんでシズネが居るんだ?」

部屋にはローラではなくシズネの姿があった。

「ローラは用事があるって出ていった」

シズネはドアの方に歩いて行く。

「来て、案内する」

「案内ってどこに?」

ドアを開けて言う。

「ウィルの部屋」

そう言うと、シズネはすたすたと歩いて行った。


事務室と同じ屋敷を三階に上がる。長い廊下があり、部屋がいくつか並んでいる。造りは宿舎や寮と同じだが、壁や所々にある装飾は高そうなものばかりだ。

「三階が男性、四階が女性のフロア」

シズネは、階段から右に三つ目の部屋で足を止めた。

「ここがウィルの部屋」

そう言って鍵を渡す。

ウィルは鍵を受け取ってドアを開ける。

「広いな」

扉の正面に広いリビング、横に一つ寝室がある、トイレと風呂も完備されていて、おまけに最低限の家具までついてある。

「一人でこの部屋か?」

「そう。準備して、次は町に出る」

「町? 用事でもあるのか?」

部屋を見回しながらウィルは聞いた。

「食事は当番制。今日は私とウィル」

シズネは言うと、またすたすたと歩いて行く。

「あ、おい、ちょっと待て」

荷物を置くと、ウィルは急いで、ナイフのかわりにリークを四本、コートの裏に引っ掻ける。服はそのままでシズネを追いかけた。



十四話


「はぁ…」

買い出しから帰ったウィルは、一階にある厨房で溜め息をついていた。時刻は六時で、辺りも暗くなってきている。

町の店に行ったのはいいが、そこからが大変だった。シズネは店を選んで勝手に入って行く癖に、店員と全く話さないのだ。結局、シズネと店員の間を行ったり来たりして、なんとか買い物を終わらした。加えて言うと、荷物は全てウィルが持たされていた。

「で、何を作るんだ?」

具材がバラバラで想像がつかない。できるだけ簡単なものがいいと思いながら、シズネに問いかける

「カレー」

(まぁ、無難だな)

ウィルはカレーを作り初めた。武官学校の食堂でバイトしていたこともあり、順調に進めていく。シズネも意外と手慣れた手つきで、具材を切っていた。

(思ったより早く出来そうだな)

ウィルはこの機会にいろいろと聞いてみることにした

「シズネは魔術士なんだろ。どのくらいのランクなんだ?」

ウィルの感知能力では、魔力量を正確に計れない。悪寒が走る感覚で判別してるだけなのだ。強盗の時見た限りでは、ウィルよりもかなり上のはずだ。

「ランクはB」

「!、それは驚いたな」

Bというと、分隊長クラスだ。天才とは言わなくても、充分なほどの才能がある。

「なんで、シークレットにいるんだ?」

「…」

(しゃべらないか)

やはり謎が多い。話せば話すほど分からないことが増えていく。

「おー、今日はカレーか」

マックスが見に来ていた。

「もうすぐ出来るけど、みんなは?」

「ローラさんなら事務室にいたよ。他の人も自室にいると思う。呼んでこようか?」

「ああ、頼む」

マックスは二階に上がっていった。

カレーもあとは弱火で煮込むだけだ。

(?、具が少ない気が)

「シズネ、具材ってこんなに少なかっ…」

言葉がつまる。シズネはいつもしているマフラーは外していた。

「もとからこの量だった」

口もとにはカレーのルーがついている

「その口の周りのものは何だ」

「…よだれ」

「黄色いよだれがあるか! もう少しましなウソ言え!」

タオルを投げつける

「味見してただけ」

シズネは口をふきながら言う。

「どれだけ味見してるんだ。半分近く無くなってるぞ!」

仕方なくそのまま盛りつけることにする。ウィルは釜から米をを皿に分けていく。しかしこれも量が少ない。

「まさかとおもうが、これも味見したのか?」

「した。問題なく炊けてた」

「問題なのはお前だ! いくら食えば気がすむんだ」

見積もっていた量より、少ない物になってしまった。ウィルは仕方なく、適当な野菜炒めを作ることにした。


そのあと全員が集まり、夕食となった。ここでもバタバタがあったのだが、それはまた別の機会に話そう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ