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二十五話
手に握る銃の感触がなくなってから数秒後、カルマは肘から吹き出す血を見て、ようやく痛みを思い出した。
「ぎ、ぎゃあああああ!!」
燃えるような痛みに右腕を抱えながら、床を転がり回る。魔術で出血を止めるべきだったが、ろくに戦場で戦ったことのないカルマは出来るはずもなかった。
「機転の効く名将のようだが、それ故に戦闘は不向きなのか。斬られる瞬間まで気付かないとはな」
ウィルはカルマにリークを向ける。
「ぎ、貴様…!!」
カルマはなんとか立ち上がると、懐からもう一丁の銃を取り出した。
「よくも私の腕を、このカルマの腕を!」
「それも貴様のアイテムか。またも飛び道具とは、よほどの臆病者と見える」
「黙れ!!」
冷静さを失くしウィルの安い挑発に乗ったカルマは、ウィルに向けて立て続けに魔弾を打ち込む。しかし狙いは甘く、ウィルに軽々と避けられる。
(属性は風。風圧を弾として発射しているのか)
銃撃の間にリークを投げるが、カルマの近くであらぬ方向に曲がり外れる。
「馬鹿め! このような攻撃が、通用するとでも思ったか! これこそ我が魔術、矢避けのカーテン!」
ウィルの攻撃を防いだことで調子に乗ったのか、カルマは立て続けに魔弾を打ち込む。
(周囲に風のカーテンを張ることで、飛び道具を無効化している。理にかなった戦いをしているが)
ウィルは防戦一方となり、物陰に押しやられる。
「あまり図に乗るなよ。私も上級の魔術師なんだ! ウィザードならいざ知らず、貴様ごとき有象無象に後れはとらん!!」
「はっ、腕を切り落とされた分際でか。笑わせるなよ指揮官」
ウィルは隙を衝いてリークを投げる。
「無駄なことをー」
「術式付加・爆」
風で逸らされるはずのリークが、その前に爆発し、爆風により風のカーテンが僅かに綻ぶ。その瞬間をウィルは逃さなかった。
「術式付加・風!」
ウィルの放ったリークは、風のカーテンごとカルマを貫いた。
「ご、が!!」
何が起きたのかもわからぬ様子で、カルマは血を吐きながら倒れる。
ウィルは倒れたカルマに近づくと、銃のリークを蹴り飛ばした。
「お前の負けだ」
「くそ、が…」
カルマは小さく言い残すと、地面にうつ伏したまま動かなくなった。
二十六話
「なんで…、ウィルが?」
呆然としてエリエッタが呟く。
目の前にいるのは、すでに死んだはずのウィルだった。
ウィルは、そんなエリエッタの様子に気付くこともなく近づくと、さも当然の様に話し始めた。
「久しぶりだな。三ヶ月ぶりか。まさかこんな所で会うとは思わなかったぞ」
見返して見るがやはりウィルだ。口調も容姿も以前と同じく変わっていない。
(と、いうことは)
「お、おば、…お化け?」
「…は?」
エリエッタの言葉に、ウィルが珍しく素っ頓狂な声をあげる。
「いや、違う違う! 半透明じゃないし、ちゃんと足もあるし。って、そうじゃなくて」
頭の混乱が治らず、見当違いの言葉しかでてこない。
「あんたこの前死んだはずじゃ。そう、転属先で事件に巻き込まれて。薬物の」
「死んだ? 事件に巻き込まれて? …ああ、そうだった! そういうことになってるんだったか」
「??」
ウィルは得心した様だったが、エリエッタは相変わらず混乱したままだ。
「あー。説明はあとでするよ。だから今は黙ってついて来てくれないか?」
ウィルが檻を開けて、手を差し出す。
「…本当にウィルなの?」
「借金の額でも言えば納得するか?」
慣れた話の切り返し方。学生だった頃を思い出す。
「…ふふっ、さっきのでチャラにしたんじゃなかったの?」
エリエッタも同じ様に切り返すと、ウィルの手を取り立ち上がった。




