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アサシン クロニクル  作者: キツネ
火に飛び入る砂漠の虫
35/46

開幕

三話


「ふう」

シークレットの隊長ローラは、これから会う人物のことを考えて、扉の前で重い息を吐く。ここにくるのは三度目だが、何度来ようと慣れれそうにはない。

「失礼します」

扉を開け、中に入る。そこには一人の男が腰かけていた。

「おう来たか。早かったな」

男の名前はケビン。ウィルの元教官でもある。

机にはチェスと将棋が、同じ盤に並べられている。

「緊急の案件とのことでしたので」

ローラは最低限の会話で対応する。

ローラはどうにもこの男が好きになれない。まるで蛇にまとわり付かれてる気分がするのだ。

「緊急、というまでではないんだがな。カンミア砂漠とは別口で任務を頼みたい。少々面倒な仕事だが、《死神》と呼ばれたお前なら問題ないだろう」

ケビンは資料を取り出しローラに渡す。それは《死者の町とレッドアイの関連性について》という見出しであった。



◆キーア暦144 4月16日◆


炎天下の中、ウィルは町を歩いて、否迷っていた。

明日の出発に備え、道具の買い出しをしていたのだが、なにぶん似た建物、似た景色ばかりで、今いる場所が分からなくなったのだ。

「くそ、この道もさっき通った気がするし…」

周りを見回してみると、ウィルの他にも道に迷った様な人が何人かいる。彼らは恐らく避難民だろう。元々砂漠に住んでいた連合国の人々は、この町を経由して本国に帰る。そのため、町に慣れてない人間は珍しくない。

「仕方ない。見回りの兵士に…」

「あ、あの、すみません」

歩き出そうとしたウィルは、後ろからの声に引き留められた。

振り返って見ると、一人の少女が立っていた。

「道に迷ってしまって、よければ、その、教えて…」

おどおどとした様子で少女は話す。

青がかった黒の長髪、背丈はごく普通、服はウィル達と同じ、砂漠用のコートを着ている。一際目を引くのは体格に合わないサイズの大きなリュックだ。

「悪いな。俺もこの町には詳しくない。他をあたってくれ」

「え、そ、そんなぁ」

少女はずるずると崩れ落ちる。

よほどの人見知りなのだろう。決心して話しかけた結果がこれで、見るからにガッカリしている。

「…わかったよ。一緒に探してやるから立て。ほら」

見かねたウィルは、少女に手を差し出す。

「え、いいんですか!? ありがとうございます!」

少女はウィルの手を握ると、ブンブンと振り回す。

「私、カノンと言います。よろしくお願いします!」

「俺はウィ…ジャック=リーガスだ。よろしく」

手を引いてカノンを立たせる。


ー彼女が、ウィルにとって生涯の敵となることを、この時はまだ知らないー



四話


兵士に聞いた通りに道を歩く。少女の目的地はそれほど遠くなさそうだ。

「ところでお前、カノンだっけ? カノンも避難の途中なのか?」

ウィルはカノンのリュックを指差して言う。

「い、いいえ。ここには私用で来ました。この荷物は、その、仕事道具みたいな物です」

「へぇ。大変だな」

戦場での私用という事に少し引っ掛かったウィルだったが、カノンがあまりにそういう雰囲気ではないので、追求はしなかった。

「ん? ここは」

「ど、どうかしましたか?」

「いや、何でもない」

十分ほど歩くと小さな宿泊施設についた。ここがカノンの目的地だ。

「つ、つきました! 本当にありがとうございます!」

「まあ、教えてくれたのは見回りの兵士だけどな」

「それもありますが、私一人では聞いてもたどり着けたかどうか…。と、とにかく、ありがとうございます。また会うことがあれば、その時はぜひお返しをさせていただきます!」

カノンは何度も礼を言ってから、建物に入っていく。

「さて、俺もそろそろ戻らないとな」

カノンが建物に入ったのを見届けてから、ちょうど反対の建物へと歩き出す。

(まさか向かいだったとはな)

目と鼻の先にありながらたどり着けないでいた自分にあきれて、思わず溜め息が出る。

「気が緩んでるのか。引き締めていかないとな」

ドアを開けて中に入る。作戦決行は明日に迫っていた。



◆キーア暦144 4月17日◆


人民保護法と言うものがある。これは人民の生活を最低限守るためのもので、そのなかには『戦時のいかなる場合でも、人民に対する過剰な害、また人民を盾にする行動の一切を禁じる』と言う一文がある。これはつまり、一般人への無差別攻撃や、一般人に紛れた破壊活動を禁止すると言うことだ。

人民保護法は国際的に定められた規約で、これを破った者は逆に人権の一切を失う。戦時であれば捕虜の権利はおろか、兵士として所属することも許されず、例え敵兵を殺しても殺害とみなさる。

ウィル達がこれから行うのは、一般人に紛れた暗殺。もちろん規約違反である。

「といっても、前回も似たような物だったがな」

ウィルは荷物の最終チェックをしていた。

時刻は夜。場所はシダの隠れ家。隣ではシズネもチェックを行っている。

「これと、これと、あと水も…」

先の砂漠越えがよほど効いたのだろう。食料に関しては、ぬかりないようだ。

ふと時計を見ると、出発まであと十分になっている。

(マックスの奴、遅いな)

連絡をとると言って出ていってから、かなり時間がたっていた。

(最悪、マックスを待たずに出発を…)

「っ、悪い、遅れた!」

息を切らせながらマックスが帰ってきた。

「どうだった、何か情報はあったか?」

「その事だけど、先遣隊が帰ってこない。何かあったことは確かだけど、どうする?」

確実性を考えれば、延期すべきだろう。しかし、暗殺の機会がそう何度もある訳ではない。これを逃せば次がいつになるか分からない。

「…シズネはどう思う?」

考えたすえ、ウィルは経験のあるシズネに聞くことにした。

「決行すべき」

意外にも即答だった。

「暗殺が遅れれば、無駄に戦闘が長引く。それだけ犠牲者も増える」

シズネはすでに答えを決めているようだった。

「僕も同意かな。今回は潜入に持ってこいのシチュエーションだし、これを逃すのはもったいないかな」

マックスも答える。情報の専門家が言うなら確かなのだろう。

「…決まりだな。時間だ、行こう」

ウィル達は立ち上がると、隠れ家を出ていく。

これから向かうのは、キーア国の難民が集まっている集落。そこがウィル達の潜入先だ。

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