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アサシン クロニクル  作者: キツネ
前水の陣
31/46

二月十二日

五十九話


最初に見えたのは夜空だった。リビアは、自分が仰向けで倒れていることに気付く。

立とうとするが足の感覚がない。見ると、腰よりしたが血の海だった。

「わたしは、負けたの…?」

「ああ、俺たちの勝ちだ」

次に見えたのは、リビアを見下ろすウィルだった。隣には白いマフラーの少女、シズネが立っている。

「…そう。魔術士がウィザードに勝つなんて、前代未聞ね。…あの爆発の正体、教えてくれるかしら?」

「昨日の晩、シズネの魔術でこの城の貯水池に仕掛けをした。電撃を使った、簡単な電機分解装置だ。井戸が貯水池に繋がってることは、すでに調べがついてた」

貯水の場所は地下、牢獄があるエリアの隣に位置していた。ウィルは昨日の内にその貯水池を使い、大量の水素を作り出していたのだ。

「とすると、あれは水素爆発か。魔術士の戦術ではないわね」

「それしかなかっただけだ。魔術で勝てないなら、勝てる物を用意するしかないだろ」

町には明かりが戻りはじめていた。リビアの魔術といい、先の爆発といい、かなりの騒音だったはずだ。駐屯兵が来るのも時間の問題だろう。


「ところでウィル、あの言葉の意味教えてくれない? これが本当に最後だから」

「言葉通りなんだがな。…エルが俺達を殺そうとしていたこと、気づいてたんだろ。お前はあえて見逃した。それは自分の手を汚したくなかったかだ」

「自分の手を、汚す?」

驚いたのはシズネだった。

「つくづくいっていたな、自分の力は他人のために、と。それも本当のことではないな。お前が本当にしたかったのは、綺麗な自分、理想の自分を守ること。俺と同じ、お前の行動は一貫して、全て自分のためだった」

「…やっぱり、ウィルはわかってたのね」

シズネと違い、当人のリビアに驚く様子はない。茫然と、ウィルの言葉を聞いている。

「仇を取るといっていたが、あれも虚勢。結局お前は最後まで、俺を殺す決心ができなかった。自分勝手な理想を捨てることができなかった。それがお前の敗因だ」

ウィルが話終える。

今日の朝、広場で会った時には、すでにウィルの正体を知っていたのだろう。最初にウィルを捉えた一撃、普通なら肋骨が折れる程度ではすんでいないはずだ。ウィルが接近に持ち込んだ時、身体強化を最大で使えば、拮抗するなどあり得なかった。

そう、考えて見ればウィルを仕留める機会はいくらでもあったのだ。


リビアは目を閉じると、ゆっくり話し始めた。

「自身の行動は、自身のためでなければならない。その理由を責任を、他人や理想に求めるのは間違いだ。そうやってわたしは生きてきた」

「生きてきた?」

「ええ。そうやって生きてきて、事実正いことも知った。でも…」

リビアは夜空の月に手を伸ばす。

「彼女の様に、誰かのための自分でいれたら、どんなに素晴らしいかと。…わたしは憧れただけ。根っ子の所は何も変わらなかった。結局、自分勝手なの紛い物でしかなかったけど、それでも、最後までこの理想を追い続けられたことに、後悔はないわ」

リビアはウィルを見る。今にも息絶えそうだったが、その目はしっかりとウィルを捉えていた。

「ウィル、自身のためだけに生きることは簡単で楽だけど、何も残らない。あなたもきっと後悔する」

「…それでも構わない」

ウィルはリビアに背を向け歩き出す。

「後悔なんて、どんな生き方を選んでもするものだ。なら、今の自分が納得できる道を歩く。じゃあな、リビア=カーナディア」

ウィルは振り返ることなく海岸へと歩いていく。

「あなたの言ってること、少しわかる気がする。でも」

ふと、シズネがリビアに話していた。

「何も残らないなんて言わないで。あなたが気付かなくても、確かに残したものがあるはずだから」

言い残すと、シズネもウィルの後を追い歩き始める。

「残したもの、か。フフッ、そうならいいな」

リビアは再び目を閉じた。

「ごめんなさい。やっぱり、あなたの願いは叶えられなかったわ」

リビアはそのまま、静かに息を引き取った。星が綺麗な、夜のことだった。


◆キーア暦144 2月 12日◆


リビア=カーナディアの死亡確認 任務完了

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