平穏は終わりを告げて
四十一話
◆キーア暦 2月10日◆
その日は朝はから、城の中は慌ただしかった。リビアの出発を明後日に控え、準備をしていたのだ。それは同時に、暗殺期限が残り少ないことを意味していた。
「ここだ」
ウィルは手伝いとして城内を探し続け、日が傾きかけた頃、ついに三階の一室に浴室を発見した。泳げるほどの巨大な湯船があり、浴室というよりはまるで温泉だ。
「さっそく取り掛かるか」
ウィルは誰もいないことを確認すると、湯船の端に持っていた銅線を貼り付け、窓の外に垂らす。後は夜になってから、作戦を実行するだけだ。
「えらくあっさりと終わったな。逆に不安なくらいだ」
ウィルは手伝いの続きへと戻る。その影でウィルを見ている者がいることに、ウィルは気付かなかった。
「今日はありがと」
城の前までリビアはウィルを見送りにきていた。なんとか準備の大半は終わらせられたが、辺りはすっかり暗くなっていた。
「私は明後日にこの町を出ていくけど、このままこの城で働いてもいいわよ」
自分は戦地に向かうというのに、残る人間の心配をするとは、リビアはつくづくお人好しだった。
「いや、実はオレも近々この町を出ていく。どうやら国に帰れそうなんだ」
「そう、よかったじゃない! また路頭に迷ったら来なさい、いつでも雇ってあげるから」
リビアは笑顔で見送る。ウィルはいつものように、遠回りして隠れ家に帰った。
明日は手伝いは必要ない。次にこの城に来る時は、リビアを暗殺する時だ。
四十二話
隠れ家に戻ったウィルはリークの手入れをしていた。壊れたり無くしたりで、残りのリークは十七本だ。
「やっぱり冷静だな、オレ」
振り返ってみると、これまで数々のイレギュラーに見舞われてきたが焦ったことがない。学校のテストの方が緊張したかもしれない。
「ウィル」
ドアの近くにシズネが立っていた。
「どうした?」
シズネはウィルの近くに座った。いつになく真剣な表情に、ウィルも向かい合って座る。
「一つ確認しておきたい。ウィルはリビア=カーナディアを殺せる?」
「可能だ。ウィザードといえど動きさえ止まっていれば、喉を掻き切るくらい造作もない」
当たり前の質問に、ウィルは迷わず答える。
「そうじゃなくて…。リビア=カーナディアを殺すことに、迷いはないの?」
シズネは不安そうだが、ウィルには何が言いたいのか分からなかった。
「情が移ったとでも思っているのか? それなら心配はない。公私の区別くらいはつける」
「…そう」
シズネは依然暗い表情のまま、立ち上がる。
「いまはその方がいい。でも、ウィルはちゃんと後悔するべきだと思う」
言い残すと、シズネは部屋を出ていく。
ウィルは最後まで、シズネの真意を理解することはできなかった。
この町に来て五日。明日はついに決行の日だ。




