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アサシン クロニクル  作者: キツネ
前水の陣
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就職

第一章 蟻は象を殺す



一話


◆キーア暦144年 1月30日◆


「今回のはシャレにならねーよー」

綺麗に整った部屋にメガネを掛けた男が座っている。名前はケビン=ターカーという。ひげが少しあり、金髪の髪は短めで切られている。いわゆるこわもてな顔は、しかし今は苦笑いを作っている

「そう、ですよねー」

立たされているこちらの少年も苦笑いだ。名前はウィル=リーガス。茶髪の髪で、目にかからない程度に伸ばしている。声のトーンは少し低いだろうか。顔立ちは、決してイケメンではないが、かといって不細工でもない。少し鋭さのある目が、特徴と言えば特徴くらいの、普通の男性だ。ほどよく筋肉質な体のあちこちには湿布がはってある。

服装はどちらも緑を主とした軍服で、ケビンはウィルの上官だ。

「ウィル=リーガス君、成績が低いのは仕方がないことだ。魔術素質は生まれ持ってのものだからね。通常の学業は、問題なくこなしてるのも評価できる。でもね」

ケビンは書類を取りだし読み始める。

「『4学部所属ウィル=リーガスと1学部所属エリエッタ=ディーベルトによる、無断戦闘とその被害について』…これ何?」

苦笑いの原因である

「これはですね…。パンには、バターかチーズかを揉めて…ですね」

「パンで揉めて食堂潰してもらっちゃー困るだよ!」

「すいません!」

(潰したのはオレじゃないのに…)


ウィルがここにいる理由は、見ての通り説教である。

前日、武官学校高等部の食堂で二年一学部のエリエッタと、二年四学部のウィルによる乱闘騒ぎがあった。もっとも、実際はエリエッタによる一方的な暴力に近く、ウィルは手も足も出なかったのだが


「わかるよ。パンにはバターだよ。チーズなんて外道だ。オレもそう思う。でもね、相手を考えようよ。エリエッタって〈ウィザード〉候補生じゃん。戦下の今じゃあ、どっちが責任とらされるか、わかるよな」


ウィザードとは魔術の天才のことである。魔術武装の〈アイテム〉そのなかでも特別なものが使える人間のことで、一人で五兵団に相当する戦力とされる。戦時のいまでは、国が喉から手がでるほど欲しい人材で、候補生でさえ特別扱いされるほどだ


「…停学ですか?」

「退学」

「な!?」

ウィルは予想以上の罰則に声を荒らげていた

「ちょっとまってください! たかが喧嘩で退学はないんじゃないすか!?」

「落ち着けよ。話はこれで終わりじゃない。悪いことばかりじゃないぜ」

ケビンは新しい書類を机から出し、ウィルに渡し言った

「就職、おめでとう」



帰ると、ウィルの部屋はなかった。

「あっ、こんばんは先輩。一年 三学部のロイです。先輩の荷物は廊下に出しておくよう言われたので…」

ロイ後輩が言うには今日の朝までウィルの部屋だったそこは、昼頃にはウィル=リーガスのものではなくなり、夕方頃にロイ後輩の引っ越しが完了していた。

少ない荷物は廊下にまとめられている。仕方ないので廊下で寝ることにした。食堂の弁償金はウィル持ちで、足りない分をあろうことかエリエッタに借金する形で支払った。まさに屈辱の極みである。

今日の24時に退学が正式になり高校中退、晴れて宿無しだ。



二話


◆キーア暦144年 1月31日◆


朝5時。日が上がる前に武官学校を出る。着ているのはいつもの制服ではなく、暗い緑色のコートだ。

学校の門をくぐる。二年前ここにはじめて来た時、こんな形で出ていくことになるとは思わなかった。

乗る汽車はキーア国方面行きである。


今、ここ中央大陸は三つの国が三つ巴の戦争をしている。

その中でも最強とされるのは、ランドール帝国。資源が豊富な国で、大量の武器と兵士を持ち、加えて現国王は戦争の天才と言われてる。

二つ目がキーア教を国教としてるキーア国。宗教を重んじている。キーア教は、今最も使われている暦、キーア暦の元であるなど、影響力の高い宗教である。兵士の数は少ないが、魔術が最も進んでいて、質の高い兵士と多くのウィザードを持つ。

そして、三つ目がセントラル連合国。上の二国に属さない小国が集まってできている。そのため、さまざまなな人種が混ざりあっているが、内政については上手くいっていない。ウィルの属する国でもある。


ウィルが向かうのは、連合国の中でもキーア国に近い所にある、トリストと言う町だ。そこに就職先、〈シークレット〉の本部があるらしい。

甲高い汽笛を上げて汽車は走りだす。

「汽車で6時間か。それにしても胡散臭い話だな」

汽車の中で、ウィルは先日の会話を思い出していた。



「就職、おめでとう」

ケビンが笑みを浮かべて言う。

「知り合いの仕事場が人不足らしくてな。いきのいい奴を紹介してくれって頼まれてんだ。お前、魔術はダメだが運動と学はそこそこだろ。ちょうどいいと思ってな」

渡された書類を見る

「〈シークレット〉?聞いたことない部隊ですね」

通常、ウィルのような魔術素質の低いものの所属先は、第〇〇小隊というのがほとんどである

「ああ、敵の情報収集や破壊工作専門の部隊で、いわゆる裏の仕事なわけ。だから由緒正しい軍には所属せず、独立した組織になってる。」

見ると給料も悪くない。確かに、学校に残って一般兵になるよりも、こちらの方が待遇はいいかもしれない。

しかし、こんないい話があるだろうか。それも問題を起こした生徒にだ。

「ちなみに退学は決定事項だ。無職になるか少し早い就職か、自分で決めるんだな」

日頃から気をかけてくれるケビン上官を疑いたくはなかった。何よりもこのご時世だ。無職は避けなければならない。ウィルに選択の余地はなかった。



カラン、カラン。汽車のベルが聞こえる。出発から6時間余り。ウィルがトリストに着いた時、時計の針は11時30分をさしていた。

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