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アサシン クロニクル  作者: キツネ
前水の陣
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呉越同舟

二十五話


「遅い」

シズネはベットから起き上がった。時刻は三時ごろだ。ウィルは昼には帰ると言っていたが、まだ帰ってこない。

しばらく考えたシズネだが、結局探しに行くことにした。クローゼットから厚めの服を取り出して着る。ヴァジュラをポケットに入れ、家を出た。まずは、調べているであろう城に向かってみる。

「ふらふらする」

体調は思ったより芳しくなかった。何とか歩けてはいるが、戦闘はとてもできそうにない。

「この辺りかな」

城の正面に着き、周りを見回してみる。しかし、ウィルの姿はどこにもない。教会の方にも行ってみようとした時、城の正面扉が開いた。

「!」

シズネは反射的に物陰にかくれて、門の方を見る。対象にも近くの人間にも、できれば姿を見られたくなかったからだ。城から出てきた人物を見て、さすがのシズネも驚きを隠せなかった。

「リビア=カーナディア、とウィル!?」

二人は何か話ながら、通りを歩いていく。シズネは後をつけてみることにした。


一時間ほど前。ウィルはリビアから仕事の内容を聞いていた。

「この頃、この町で悪い薬が流行ってるの。このままだと治安は悪くなる一方だけど、私自身も近々町を出なくちゃいけない。だからその前に、できるだけ出所を潰して回ってるの。君にはその手伝いをしてもらうわ」

「なるほど。オレのいた教会が薬の出所だったのか」

教会にいた男達は、ウィルが薬の取引を邪魔しに来たと思っていたのだろう。

「薬の名前はレッドアイ。ドーピングの一種よ」

「レッドアイ、目が極度に純血するやつか?」

「ええそうよ。知ってるの?」

「以前、中毒者に会ったことがある」

ウィルはてっきり、この薬物は連合国内での話と思っていたが、実際には複数の国に広がっているものらしい。

「知ってるなら話しは早いわ。今から探しに行くから付いてきなさい」

「今から!? さっき城に帰ってきたばかりじゃないか」

「文句は言わない! ジャックは今から私の部下なんだから。黙って従いなさい」

リビアは言うとさっさと部屋を出ていった。どうやら本気らしい。

「はぁ、元気な上司様だ」

ウィルも部屋を出ようとする。しかし、後ろからの声に呼び止められた。

「ジャック様、お待ち下さい。これをお返ししておきます」

振り返ると執事が立っていた。手にはウィルが教会で使ったリークがある。

「これ、わざわざ拾ってきてくれたのか?」

「ええ、先程後始末を行った際落ちておりましたので」

「後始末? 男達のことか?」

「はい、教会におりました男達は、地下の牢獄に収容しておきました。二週間後に本国へ輸送する予定です」

どうやらこの城は牢獄まであるらしい。原型をかなり残しているようだ。


「お気をつけて」

門を出て町に出る。執事はわざわざ門の前まで見送っていた。リビアはというと、教会で会った時のような質素な服を着ている。

「ころころ服を替えるんだな」

「あたりまえでしょ。ドレスで町中を歩けるわけないじゃない」

リビアには、城の中で質素な服を着るという発想は無いらしい。

(これだからお嬢様ってやつは。エリエッタを思い出す)

ウィル達は通りを歩いて行く。

「どこから当たるんだ?」

「そうね、まずは教会付近を洗ってみましょう。手掛かりがあるかもしれない」

「教会か。まあ妥当だが、さっきから行ったり来たりだな」

「文句は言わない!」

かくして、ウィルはつい数時間前にいた教会にとんぼ返りすることになった。もちろん、後ろを黒髪の少女がつけていることには気付いていない。



二十六話


日が傾きかけた頃、ウィル達は教会に到着した。辺りはリビアの魔術の痕跡以外には何もない。

「ここが薬の取引場所になっているのは間違いないわ。まずは教会の中を調べてみましょう」

リビアは中に入っていく。

「ここの教会はしばらく使われてないのか?」

荒れ果てた様子を見てウィルはたずねる。

「ええ。戦争が始まった二十年前から、訪れる人は少なくなっていって、ここ最近は誰も来なくなってしまった」

「キーア国は宗教大国なんだろ。お祈りは大切なんじゃないのか?」

武官学校でウィルは、キーア国は戦時でも定期的な宗教イベントがあり、いまだに続けていると教わっていた。

「確かに大切だけど、こんな前線近くの辺境の町では、その余裕はないわ。キーア教はお祈りの時に、必ず相応の供物を捧げるのがマナー。でも戦争になって、食べていくのさえギリギリのこの町には捧げられる供物がない。だから、教会に来る人も減っていくの」

かつては多くの供物が置かれていただろう祭壇には、今は埃がかぶさっているだけだ。

ウィル達は教会の奥の部屋に行ってみることにした。奥には神父やシスターなどが使っていたらしき部屋がいくつかある。一応家具らしきものがあるが、すべて使えないほど古びている。

「手分けしてしらべましょう。手掛かりになりそうな物があったら呼んで」

リビアは順にしらべていく。ウィルもリビアと反対側の部屋から調べ始めた。

「何もないな」

机や棚を見てみるが、それらしき物は何もない。いくつもの部屋をしらべたが、時間が過ぎていくだけだった。二時間ほど経ち、日も落ちてきたので、今日の捜査は打ち切りにすることにした。


「本当に泊まっていかなくていいの? 部屋はいくらでもあるんだけど」

教会からの帰り道、リビアは報酬として城に泊まることをすすめたが、ウィルは遠慮しておくことにした。まずはシズネに、今日の報告と今後について話して起きたかったからだ。

「家くらいはある。そこまでしてくれなくても大丈夫だ」

城の前までくると、執事が出迎えに門まで来ていた。

「じゃあ今日の賃金、はい」

リビアらポケットから札束を取り出し、ウィルに渡した。

「おいおい、いくらなんでも多すぎだ」

「そうかしら。一応、命懸けの仕事なんだからこれくらいだとおもうわ。受け取っておきなさい」

ウィルはしぶしぶ札束を受けとる。連合国とキーア国では通貨が違うのであまり使い道がないが、金は金だ。あって困ることはないだろう。

「明日は何時に来ればいい?」

「そうね、13時に門まで来て。午前中にこれまでの情報をまとめておくから」

ウィルは短く挨拶すると、隠れ家とは違う方向に歩き始めた。念のため、リビアには隠れ家の場所はばれないようにしておく。

「これからどうするか」

遠回りをする形で隠れ家に向かうウィルは、もう一度城に戻って、浴室の場所がわかるまで見張るか、まずはシズネに報告して方針を固めてからにするかを考えていた。

「…ん、雨か?」

ポツポツと水が頭にあたる。それほどキツイ雨ではないが、長く降りそうだ。

「今日は帰るか」

見張りを諦め、帰途につくことにする。少し大きめの通りから南側に続く道に曲がった時だった。

「こんばんは、魔術士くん」

後ろから声が聞こえた。

ウィルは咄嗟に前に転がり、リークを構える。目の前にはピエロの姿をした男が立っていた





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