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虚飾のアリス ‐不死の少年と白黒の吸血鬼‐  作者: 竜馬
第3章 誘蛾灯に魅入られし少女
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第3章:32 『人外列挙』

「ふっ――」


 鋭い呼気と共に氷剣を振り下ろし、剣で防がれると同時にもう片方の氷剣を振り下ろす。そのまま上から体重を加えて、鍔迫り合いに持ち込む事で反応速度の差を帳消しにしようと企てるも、相手はこちらの思惑にはそう簡単に乗ってくれない。


「――――」


 無言で、幾何学的な模様が浮かび青白く発光する目が瞬かれた――次の瞬間だ。

 紅の髪を翻しながら、上からの加重を横へと受け流された。

 同時に、片方の氷剣の表面を削るように這わせ、すれ違い様にこちらの顔面に向かって剣を一閃してきた。


「――ッ」


 咄嗟に反応して躱すも、頬に鋭く突き刺すような痛みが生じる。

 苦渋に顔が歪むが、後悔はすぐに振り捨てる。ちらと手元に視線を落とすと、片方の氷剣が今しがたの交錯で折られてしまっている。


 そして目の前には、体が流れ、決定的な隙を晒す敵の姿がある。しかし、これがカウンターを狙ってわざと作られた隙なのだと、幾重にも重ねた剣戟から予測できた。

 片側の得物が使えない以上、ここで欲張って踏み込めば、確実にその目で見極められて手痛い反撃を貰うだろう。


 それに何より、あの目――特殊魔法を使われてからというもの、こちらの攻撃は未だに一度も届いていない。

 ここで攻撃へと踏み切るにはリスクが高すぎる。即座にそう判断すると、体重を後方へと移動。仕切り直すために、後ろへ飛んだ。


「――ふぅ」


 腰を落として着地すると、詰めていた息を吐き出す。その間も、使い物にならなくなった氷剣を放棄し、新たな氷剣を生み出す事も忘れない。

 そうして新たに生み出した氷剣を掌の中で動かし、握り方を微調整。満足できる位置を見付けると、そのまま足を開いて腰を落とし、真っ直ぐ腕を伸ばして左の氷剣を相手に、もう片方の氷剣はこめかみ付近で構える。


 ――そうして闘気を全身へと巡らせるイレナ・バレンシールを、首を振って紅の髪を後ろに流したテラが正面から見据えてくる。


 イレナは深く息を吐きながら、テラに向かって油断のない鋭い視線を向ける。やがて、先ほど視界の端で捉えた一つの終局について言及した。


「あなたの弟、モプラが倒しちゃったみたいよ。助けに行かなくていいの?」


「ええ、必要ありませんので」


 いっそ冷酷とも取れるテラの返答に、イレナは訝しげに眉を寄せた。

 つい先ほど、モプラ対シアの戦いは、『肉欲』の権威で作った穴にシアを落とす事で、モプラが勝利を収めている。


 勝者であるモプラはいがみの治療のために倒壊した玄関を潜り、家屋の奥へと姿を消したが、いずれ治療を終えて戻ってくるだろう。いがみが目の前の女から炎弾を貰い負傷してから、既にかなりの時が経過している。どうか間に合って欲しいと願うと同時に、想う事しか出来ない自分が何とも歯痒かった。


 ともあれ、イレナの胸中は別として、弟が敗北しても平静を保っているテラの態度が腑に落ちない。些か感情的な面が目立つ彼女の性質から推察するに、普通なら激高してモプラへと向かって行ってもおかしくないはずだ。しかし、この異様な落ち着き具合。警戒しない理由が見当たらない。


 ――ここでイレナは、一つ失敗を犯した。


 警戒するまではよかったのだ。しかし、警戒すべき相手を間違えた。

 つまるところ、意識を眼前のテラに集中しすぎた所為で、全く別の所から放たれた攻撃に対し、即座の反応ができなかった。


「――ッ!?」


 不意に微笑んだテラに、イレナが眉を顰めた時だ。何の前触れもなく、突然の轟音と震動が辺りを席巻した。

 予想外の衝撃に踏鞴を踏みつつも、イレナは慌てて首を横へ向けた。次の瞬間、イレナの双眸が驚愕に押し開かれる。


 ――すぐ目の前まで、圧倒的な不可視の暴力が迫ってきていたのだ。


 ただそれは、不可視といえども、限定的だが不可知ではなかった。

 イレナが振り向いた先で見たもの。それは、見えない何かが地面を抉りながら己に向かって直進してくるという、即座に受け止めて理解するのが困難な光景だった。


 凝然と目を見開いて硬直するイレナに向かって、破壊の暴力がその猛威を振りかざしながら猛然と迫ってくる。

 ようやく我に返り、イレナは全力でその場から飛び退くも、直後に悟った。このままでは、確実に下半身が挽肉になる、と。


 この状況では今更どうする事もできない。魔法も間に合わなければ、既に空中にいる身体を動かす事も――


「イイイィィィィィ!!」


「――!?」


 直後、目の前をピンク色が覆った。

 破壊の嵐が、そのピンク色の化け物――『シャミール』にぶつかり、無残にも切り刻んでいく。

 体液をまき散らし、断末魔も上げる事無く、『シャミール』が光の粒となって弾け飛ぶ。その光の粒子をも巻き込みながら、破壊が迫りくる。


 ――しかし、その速度は僅かながらに落ちていた。


 まるで、地の底から斜め上に向かって放たれたかのような角度で迫る蹂躙の嵐は、イレナの真横スレスレの位置を通過し、やがて石畳を巻き上げながら背後の家屋に直撃した。

 派手な破壊音を辺り一帯に轟かせ、家屋の半分以上を抉り取り、瞬きの間に背後の景観が全く別のものへと変わる。


「――!? 『アイス・ズ・ウォール』!!」


 目の前に広がる、壮絶な破壊の余波が生み出した土煙の壁を突き破り、突如として飛来した複数の炎弾がイレナを襲った。

 咄嗟に氷壁を張って防ごうと試みるが、元々『フィラ』が底を尽きかけているこの状況に加え、あまりにも展開が急だった事もあり、魔法の構築が不十分だった。それが災いしたのか、飛来した炎弾が氷壁を呆気なく爆散させ、後続の炎弾がイレナへと襲い来る。


「ま、だぁぁあああ――ッ!!」


 咄嗟の判断で投擲した二振りの氷剣と炎弾がぶつかり、空中で後続の炎弾を巻き込んで連鎖爆発を引き起こした。

 紅蓮の衝撃波によって吹き飛ばされ、悲鳴を置き去りに宙を舞うイレナの身体。

 そのまま背中から地面に叩き付けられ、肺の空気が押し出される。しかし、激しく咳き込むイレナに目立った外傷は見られない。


 ――どうやら、氷剣の投擲が間一髪、間に合ったらしい。


「ごほっ、けほっ……ぅ」


 やがて、イレナは衝撃で眩む頭に手を当てながら、首を振って顔を上げた。

 その瞬間、目の前に広がる土煙を突き破って姿を現したテラの、その幾何学的な模様の浮かぶ青白い目と視線がぶつかった。


「――終われ」


 短く告げられる死の宣告。同時に砲弾のように放たれる、鋭い殺気を込めた刺突。

 それは寸分の狂いなく、尻もちを着いて完全に無防備なイレナの顔面を目がけ、土埃のカーテンを割りながら突き抜けた。

 そして瞬きよりも短い未来、真っ赤な花が飛び散る――はずだった。


「な――」


 テラが驚愕の声をこぼすのをどこか遠くに聞きながら、イレナは眼前数センチの位置でピタリと静止する刃先を、限界まで押し開かれた目で見詰める。

 やがて乾燥からくる痛みに負けて瞬きし、次に開いた時にじんわりと浮かび上がる涙を意識しながら、更に数度、瞬きをする。


「――?」


 そこでようやくイレナは、目の前で静止したまま微動だにしない刃先――その先で、刀身を素手で掴み止めている大きな手がある事に気が付いた。

 涙で滲む視界をずらし、手首、腕、肩と順に視線を巡らせ、やがてその人物の顔へと焦点を結ばせた。


 そこにいたのは――。



――――――――――――――――――――



 ――同時刻、王都『トランセル』。


 ここは、王城から少し離れた位置にある練兵場だ。

 王家直属近衛騎士団――上から団長、副団長、上級騎士、中級騎士、下級騎士、そして見習い騎士という具合に階級が分かれており、この練兵場を使用するのは基本的に下級騎士以下だ。


 別に、中級以上になると練兵場を利用してはいけない決まりがある訳ではない。ならばなぜ下級騎士以下が多いかと言えば、単純に仕事の問題だ。

 正式な騎士には違いないが、所詮は下級騎士。中級騎士に昇格して初めて一人前として認められる、そんな暗黙の了解が騎士団には存在する。


 そして一人前の騎士には、その能力相応の仕事が与えられる。

 つまり、練兵場に下級騎士と見習い騎士が多く、中級騎士以上がほとんどいないのは、身も蓋もなく言えば、暇人と忙しい者との差である。


 現在、練兵場では、一対一の実践形式での訓練が行われていた。

 どこを見ても手を抜いている者など見当たらず、誰もが真剣そのものであり、その溢れ出る気迫がぶつかり合い、その余波がこちらにまで届くほどだ。


 そんな騎士達とは対照的に、大口を開けて欠伸をこぼす男がいた。

 紺色の着流しを雑に着崩し、片手には焼き菓子が詰められた紙袋を携えたその出で立ちは、この場から完全に浮いてしまっていた。


 普通なら部外者以外立ち入り禁止のこの場所だが、誰も男に注意をしようとはしない。

 そんなイレギュラーを詰め込んだような男は、寝癖の付いた茶髪に指を差し込んで乱暴に掻き回し、木剣で打ち合う騎士達へ寝ぼけ眼を向けながら、隣に立つ初老の男に気の抜けた声で話しかけた。


「どーすか、ゴーシュさん。金の粒は見つかりそうで?」


「はは。私に聞くより直接、貴方が見繕った方が早いのでは? ――団長殿」


「いや、俺、こういうの向いてねーし」


 団長殿と呼ばれた男――ベッシュ・ウゥユ・ヴジトが憮然と言い捨てると、初老の男が「ご謙遜を」と笑う。

 この初老の男は名をゴーシュと言い、上級騎士でもある。別に暇だからここにいる訳ではなく、練兵場の管理を任されているのだ。


 あと、腕の立ちそうな者を見極め、上へと引き抜く役割も担っている。端的に言って、人事のお偉いさんである。

 そんなゴーシュがひとしきり笑い終えると、やがて微笑をその顔に浮かべたまま問いかけてきた。


「――して、今日はどのような御用で?」


「んにゃ、特に。散歩がてら寄っただけ」


「……仕事の方は?」


「うちの頼りになるマスコット騎士筆頭、シャルナ・バレンシール嬢に然るべき報酬の提示後、その目に余る向上精神に感服し、私の後継者育成の為の修行を――」


「つまり、丸投げですか」


「否定はしねぇ」


 今頃は机の上に山積みされた書類を見て、報酬との釣り合いが取れていないと気付いた頃だろう。報酬額を聞いただけで食付いてきたのだから、業務内容の確認を怠った奴が悪い。


「ま、文句垂れ流しながら、ちゃんとやるだろうよ。意外とそういうとこ、真面目だし」


「シャルナ副団長は、根はしっかりしてますからねぇ」


「逆に言えば、根だけなんだよな、アイツ。普段から真面目であって欲しいよ、俺は」


 ベッシュがこうしてシャルナに仕事を押し付けたのには、実のところ特に理由はない。金をちらつかせれば、シャルナは簡単に飛び付くのでお手軽だというのもある。

 強いて理由を挙げるとすれば、“日課”が行えなくてモチベーションが上がらないから、と言ったところだろうか。


 すると丁度、その“日課”についてゴーシュが言及してきた。


「ところで団長殿。最近はもっぱら『酔いどれ亭』には通っていない様子で」


「あー、そうだな。おう、行ってねぇ……かな」


 白々しい言い方で返答を濁しながら、ベッシュは晴れ渡る空へと視線を向ける。

 脳裏にちらつくのは、元気よく跳ね回る茶色いツインテールだ。

 よく笑い、よく怒り、とにかくやかましいが、見ているとどこか懐かしくなるような、そんな――、


「――イレナ・バレンシール、ですか」


「……俺の心、読みました?」


 ノータイムで言い当てられ、ベッシュは頬を引き攣らせながら質問を投げる。

 するとゴーシュは、顎に手を当てながら「いえ」と前置きし、


「あの店によく顔を出す面子の中で、彼女だけがしばらく顔を出しておりません。そして顔を出さなくなった時期と、団長殿が足繁く通われていたのをパタリと止めた時期とが一致しておりますので、その繋がりを手繰ってみただけです。――なに、ちょっとした推理ってやつですよ」


「……俺は、俺の部下が優秀で嬉しいよ」


「ありがとうございます」


 皮肉も通じないとなっては、もうお手上げだ。ベッシュは渋い顔で頬を掻きながら、少女――イレナ・バレンシールの事を思い浮かべた。

 ベッシュの“日課”とは、『酔いどれ亭』によく顔を出すイレナ・バレンシールを観察、悪く言えば監視する事だ。


 しかし、今しがたゴーシュが述べたように、少女の姿は現在この国にはない。

 とある少年について行ったと『酔いどれ亭』店主であるシモアに聞かされた時には、開いた口がしばらく塞がらなかったものだ。


 なぜならイレナ・バレンシールは、ベッシュ・ウゥユ・ヴジトがここにいる意味――その手がかりとなるかもしれない少女なのだ。

 ただ残念な事に、その可能性は限りなく低い。しかし、あの少女の存在に助けられているのも事実なのだ。そう、彼らとの繋がりがあのような歪な形で提示されれば、ベッシュとしても無視は出来ない。


「アイツ等……結局、どうなったのやら……」


 どこか寂寥感を漂わせながらそう呟くと、ベッシュは「いや……」と苦笑し、


「一人、いたか」


 一人だけその消息が掴めている者がいる。そしてその人物に繋がるのが、イレナ・バレンシールなのだ。


「つっても、ありゃツウの片鱗すら見当たらん。似てるのは、見た目と性格くらいか。あとは、あれを継いでるかだがなぁ……」


「――ツウ、とは、もしや初代の事で?」


 独り言に反応が返ってきて、しかもそれが的確過ぎる指摘であり、ベッシュは思わず苦笑いを浮かべて隣を――ゴーシュを見た。


「優秀過ぎて怖いって、ゴーシュさん。ほんと、部下で嬉しいよ」


「ありがとうございます」


「皮肉だって……」


 再びその優秀さを発揮する頼もしい部下に、ベッシュも再び渋い顔。

 そんなベッシュから視線を外したゴーシュは、木剣で切り結ぶ騎士達を見ながらも、その意識はどこか遠くを見据えながら――、


「――ツウ・レッジ・ノウ。建国者であり、最初の王であり、『金色こんじきの巫女』の異名を持つ偉人。その方の名が、どうして出てくるので? しかも、まるで知り合いのような言い方ですね、団長殿?」


「ああ、知り合い知り合い、旧知の仲だ」


 素直に知り合いだと認めるベッシュに、ゴーシュはしばらく沈黙。やがて苦笑すると、首を振りながら、


「嘘が下手ですな、団長殿。貴方は一体、何百歳なのですか?」


「俺か? それはほら、ご想像にお任せするよ。ゴーシュさんとさほど変わらん、とだけ言っておくかな」


「そうですか」


「そうなんですよ」


 そうして二人は顔を見合わせると、声を揃えて笑った。

 模擬戦を行う騎士達が、一体何事だと見てくるが、ベッシュを視界に収めた途端に表情を引き締めて模擬戦へと集中する。


 団長の前でアピールをして、直接引き抜いて貰おうという魂胆なのか。

 そんな微笑ましい騎士達の様子をゴーシュと並んで見ながら、ベッシュは紙袋から焼き菓子を二つ取り出し、一つをゴーシュに渡し、もう一つを一口で頬張った。


 優しい甘味と芳醇なバターの香りが口いっぱいに広がり、ベッシュはおよそ団長という肩書きを持つ者が見せてはいけない緩みきった表情を覗かせる。

 そんなベッシュに苦笑しながら、ゴーシュも焼き菓子に口を付け、その美味さに思わず目を見開いた。


 ようやく一矢報いる事が出来たと感じられ、ベッシュは気分よく口の中の焼き菓子を飲み込み、ふとイレナを掻っ攫って行ったあの少年の事を思い出した。

 まだ確信はない。確信はないが、キサラギ・シンゴ――木更木心護。その名前が妙に引っかかる。それに確か、探しているという妹の名前が、一護いちごだったはずだ。


「やっぱ、アイツだよなぁ……」


「今度は何を考えておいでで?」


「ん? んー……まぁ、アイツが関係してるなら、何か色々と集まってきてるなー、と。継いでるかどうかは分からんし、もしかしたら両方ハズレって可能性もある。ようするに、だ。俺も本格的に動かにゃならんのかー、嫌だなー、と」


「なるほど……さすがに今回はさっぱりですよ、団長殿」


 両手を上げ、降参の意を表明するゴーシュに、ベッシュは肩を竦めて苦笑すると、


「俺の全てを丸裸にしようなんざ、それこそツウでも連れてこねぇ限り無理だな」


「この世の全てを網羅したと言われる初代ですよ。丸裸どころか、骨の髄まで剥かれてしまいますな」


「――はっ、違ぇねぇ」


 ゴーシュのジョークに吹き出し、ベッシュはいい気分転換が出来たなと残りの焼き菓子を一気に頬張り、咀嚼後に嚥下。

 そして「よーし」と腕を回し、首の骨を鳴らすと獰猛な笑みを浮かべ、


「そんじゃいっちょ、俺が直々に次世代をしごいてやるかー」


「ちょっ!? だ、団長殿! さすがにそれは止めてください!」


 慌てて縋り付いてくるゴーシュに、ベッシュは不満げに唇を尖らせると、


「えー」


「えー、じゃないですって! 人外の域にいる『無刀の鬼』が相手では、いくら手加減しても人死にが出ます!」


「人外……」


 さらっと人間性を否定され、ベッシュは不満顔で渋々引き下がる。

 その様子を受け、ゴーシュが露骨な安堵のため息をこぼした。


「あぁ……寿命が縮まる」


「ゴーシュさんやい。俺だって、手加減って言葉くらい知ってるぜ? それに、俺とやり合える奴なんざ、ごろごろいるじゃねぇすか。『英雄』とか、『結い柱』とか」


 指折り数えるベッシュに、ゴーシュはくわっと目を見開くと、


「どちらも人外です!!」


「お、おぉ……」


 ゴーシュの剣幕と心無い一言に圧倒され、割と本気でショックを受けたベッシュは、せめて人外認定だけは取り下げて貰おうと考えた。

 腕を組んで唸りながら、やがて、己の上がりすぎた価値を下げればいいのでは、と思案の末に思い至り、ベッシュは生贄を探すべく記憶を引っくり返した。


「……そういやいたな。一人、俺に勝った奴が」


「なんですとぉ!?」


 ベッシュの一言に、ゴーシュが過剰なまでの反応を示した。おかげで訓練中の騎士達がざわめきながらこちらをチラチラと見てくる。

 一方ベッシュは好都合だと悪い笑みを浮かべ、目を見開くゴーシュの前で人差し指を立てると、片目を瞑り、


「ああ、素手での殴り合い限定なら、俺でもアイツには勝てねぇ」


 聞き耳を立てている下級騎士と見習い騎士にも聞こえるように、ベッシュはボリュームを上げると――、


賀茂龍我かものりゅうが――うちの副団長様は、ちょー人外だぜ?」


 とある任務でこの国にはいない男に、人外認定をなすり付けた。


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