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虚飾のアリス ‐不死の少年と白黒の吸血鬼‐  作者: 竜馬
第2章 王都トランセル
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第2章:27 『亜種』

箸休め的な

「ん……?」


 イレナは自分の体を揺らす振動に、うっすらと目を開ける。すると、なにやらオレンジ色の物体が視界いっぱいに映り込んだ。

 イレナは目覚めてすぐのためかぼんやりとする目をすがめながら、眼前のそれをなんとなく引っ張ってみた。

 すると――、


「い――ってぇ!?」


「――――!?」


 すぐ近くから聞こえた悲鳴に、イレナは体をビクッとさせて硬直する。しかし、すぐさま自分が何者かに負ぶわれているのだという事を理解する。

 イレナを負ぶっているのは、頭髪の色から察するにおそらく――


「……変態」


「目覚めて最初の言葉がそれかよ!?」


 イレナはジトっとした目で、自分を背負う青年――カルド・フレイズに開口一番でそんな罵倒を浴びせた。

 そんなイレナの理不尽な言い分にツッコミを入れるカズだったが、イレナはそれを無視して、自分が何故カズに背負われて運ばれているのかと頭に疑問符を浮かべる。


 すると、そんなイレナに、前方から二人分の聞き覚えがある声がかけられた。


「イレナ、目が覚めたんだね。……体調の方はどうだい?」


「え? イレナの奴、起きたのか?」


 イレナはカズの肩越しに、自分を心配そうに見詰めるアリスとシンゴの顔を確認する。そして、アリスに言われた通り、自分の体の状態へと意識を向けてみると――。


「つ……疲れた……」


 意識した途端に、イレナの体を物凄い虚脱感が襲う。

 何故?と首をひねる。そして、目的の記憶を掘り当てた瞬間、イレナの双眸が大きく見開かれた。


「“オール・イン・ワン”は!? あれ!? どうしてシンゴがここに居るのよ!? “特異種”は!? そもそもここはどこなのよ!?」


「そんないっぺんにガーッと言われても……」


 シンゴはそう言って呆れた表情を見せるが、「あ」と何か思い出したのか、何やらポケットの中を漁ると――、


「どうよ?」


 ドヤ顔で、なにやら赤い色をした円錐形の物体を取り出した。

 イレナは目を細めてシンゴの手の平に乗るそれを見やり、数秒固まる。

 そして、ドヤ顔継続中のシンゴの顔へと視線を移すと、


「何よそれ?」


「角だよ! “特異種”の角!」


「……嘘」


 シンゴのオーバーリアクション気味な身振り手振りを交えた訴えを聞き、イレナは驚愕に目を見開く。

 イレナの反応に渋い顔をするシンゴの横では、アリスが苦笑しながらも、シンゴの言っている事が本当であると頷いている。


「え? じゃあ、依頼の方は……もう……」


「そ! このシンゴ様の華麗な活躍によって、無事達成!」


 再びドヤ顔でサムズアップをかますシンゴに対し、カズは片眉を上げると、


「おいシンゴ、確かにお前の活躍はあったが、ほとんどはオレとアリスの功績だろ」


「何を!?」


 言い合いを始める二人を苦笑しながら見守るアリス。そんな三人に、イレナは自分が寝ている間に全てが終わっていたという事実に驚きを感じると共に、未だに内にくすぶるやる気をどうしたものかと渋面をつくる。


 そんな時、ふとシンゴの腹部に視線が行き、イレナは呆けたように口を開ける。


「ね、ねえシンゴ、そのお腹……」


「ん? ああ、これか? いやなに、ちょっと“特異種”にモツ齧られてな」


「「「モツ!?」」」


「うお……何でアリス達も?」


 首を傾げるシンゴに、アリスは「やっぱり……」と下を向き、カズは「マジかよ……」と顔を歪ませる。

 途端に暗くなる面々に対し、シンゴは慌てた様子で、


「ちょちょ! ほら、俺はこの通り無事だからさ! そんな雰囲気にならなくても――イレナ?」


 シンゴの言葉の続きは、震えながら顔を伏せたイレナが視界に映った事によって、霧散した。

 そんなイレナに、アリスとカズも視線を向ける。

 三人の視線が集まる中、イレナはポツリと言葉を紡ぎ始める。


「ごめん……こんな事になるなんて……。あたしがあの時、依頼を受けるなんて安請け合いしたから……」


 懺悔の言葉を口にし出すイレナ。そんな後悔の念が伝わってくる言葉を聞き、イレナとカズも無言で顔を伏せる。

 より重くなってしまった空気に、シンゴは「はあ……」とため息を一つ吐くと、


「あのさあ……そもそもな話、この依頼を選んだのって俺じゃね? それに、なんやかんや言ってもこうして皆が無事なんだし、それでいいじゃん」


「でも……」


「シンゴ……オレ達はお前を見捨てて――」


「だああっ!! うるさい! やかましい!! そしてうるさい!!!」


 とうとうこの重苦しい空気に耐えかねたシンゴが爆発した。

 言葉の区切りごとに地団太を踏むシンゴを目をパチパチさせながら見詰める面々に、シンゴは順番に指を突き付ける。


「アリス!」


「は、はい」


 ビクリと肩を震わせるアリスに、シンゴは指を突き付けながら、


「アリスは俺の事、助けたいと思って助けに来てくれたんだよな?」


「う、うん!」


 シンゴの言葉にコクコク頷くアリス。

 そんなアリスにシンゴはくわっと目を見開くと、


「凄く嬉しい! んで、結果的に俺は助けられたんだから、それで終わり!」


「で、でも――」


「終わり!!」


 強引にアリスの言葉を遮って話を終わらせると、続いてシンゴは、カズに指を突き付ける。

 そしてそのまま数秒固まると、


「よく頑張りました!」


「特にねぇのかよ!?」


「野郎は知らん!」


 早々にカズとの会話を終わらせると、シンゴは最後――イレナへと視線を向ける。

 イレナは、どこか覚悟決めたような表情をしており――、


「おっぱい触らせてくれたら許すぞ?」


「嫌よ!?」


 疲労感はどこへやら、シンゴが手の平をわしわししながらのセクハラ発言を受け、イレナはカズから上体を離すと同時に胸を両手で覆い隠す。

 そんなイレナの反応に若干傷付きつつも、シンゴは「なら――」と真剣な瞳を向けると、


「それが嫌なら、この話は忘れる事!」


「…………」


「返事は!?」


「……本当に、それでいいの? あた――」


「*@>*%&#<¥ッッ!!!!」


「――え?」


 ヒートアップしすぎて、およそ人の言語から逸脱した言葉を発したシンゴは一旦、自らを落ち着かせるために深呼吸をする。

 そして戸惑いの表情を浮かべるイレナを見据えると、


「……返事は?」


「……………………うん」


「よろしい!」


 シンゴは一つ頷くと、三人の顔を見渡し、左手を腰に、右手の人差し指を立てると、


「これでこの話は終わりな! 結論は、みんな悪うございましたが、結果的にはみんな無事で、めでたしめでたしって事! 以上! 帰ります!」


 一息にまくし立てて、この話を無理やり締める。そんなシンゴを見て、アリスとカズは渋々といった様子で納得の意を示してくる。

 そしてイレナは、目を閉じて頷くと、次に開眼して、


「うん、分かったわ!」


「え? あれ? 笑顔?」


「何よ? あんたがこれでお終いって言ったのよ?」


「いや、うん、そうだけど……」


「さ、なら早く帰りましょうか! あたし、お腹減って死にそうなのよ……」


 切り替えの早いイレナが遠くに見える王都をずびしっと指差し、馬であるカズを急かす。

 その後ろを、シンゴはアリスと共に並んで追いかける。

 そんなイレナの背中を見詰めるシンゴの脳裏に、ユピアとの会話がかすめるのだった。



――――――――――――――――――――



「あんた達……これは“特異種”の角なんかじゃないよ!?」


「「「「え?」」」」


 王都に帰還したシンゴ達は、早速“オール・イン・ワン”討伐の証拠である角を持って『酔いどれ亭』を訪れていた。

 そして入店早々、ドヤ顔のシンゴがシモアに向かって“特異種”の角を差し出したところ、先ほどのような反応をされたのだ。


 驚く面々をよそに、シモアはシンゴから受け取った角をまじまじと見詰めると、大きくため息を吐き、シンゴ達の状態に視線を向ける。

 一人は負ぶわれ、一人の服の腹部は無残に破け、アリス以外はなんらかの戦闘の傷跡を体に残している。


 そんな彼ら彼女らのぼろぼろな状態を確認して、シモアは再び深いため息を吐いた。


「あんた達なら、この依頼をこなすだけの力はあると思っていたんだがね。まさか『突然変異種』が頭を張ってるとは……。ほんと、よく生きて帰ってきたもんだよ……。それに、ちゃっかり討伐までしてくるとはね……」


「えっと……『突然変異種』?」


 シンゴが首を傾げてシモアに問いをぶつけると、シモアは今しがたシンゴが渡した、“特異種”のものだと思っていた角を手の平の上で転がし、それを顎でしゃくって指し示すと、


「本来、“特異種”の角は“赤”じゃなくて“白”のはずなんだよ。……一つ訊くけどね、アンタ達が戦った“特異種”は、口から風の塊みたいなものを撃ち出してこなかったかい?」


「ああ、とんでもねぇ威力のを……な」


 その“風の塊”を正面から受けたカズが、その時の衝撃を覚えている己の手の平を見詰め、渋い顔で答える。

 それを受け、シモアは「やっぱりね……」と神妙な面持ちで頷く。


「間違いないね。アンタ達が戦った“特異種”ってのは、その“特異種”の中でも稀に出てくる亜種――『突然変異種』だよ。そしてその風を撃ち出す魔法は、“風杭かざくい”って言って、亜種のみが使える技だよ。……しかし、そうなると今回の依頼は、あの時あった三枚の依頼書の中でダントツの難易度って事になるね……」


「え、マジすか……?」


「マジだよ……」


 真面目な顔で返され、シンゴは決してシモアが冗談で言っているのではないという事を悟る。

 他の面々も、それぞれ驚きを秘めた目をシモアへと向けている。


 そんな視線を注がれる中、シモアは腕を組むと、人差し指だけを立てて、「そもそも……」と言うと、


「アンタ達は、“オール・イン・ワン”について、どこまで知ってるんだい?」


「どこまでって……嗅覚が鋭くて、群れで行動して、その群れのボスである“特異種”がいて、その“特異種”はランダムで“オール・イン・ワン”の中から決められる。……あとは、“風纏ふうてん”って魔法を使うって事くらい……よね?」


 おそらく四人の中で一番“オール・イン・ワン”について詳しいであろうイレナが、目をつむって眉間にしわを寄せ、指でこめかみをぐりぐりして記憶の中の“オール・イン・ワン”の情報を引っ張り出す。


 そんなイレナの答えに、シモアは「だいたいその通りだよ」と頷くと、


「じゃあ、なんで“オール・イン・ワン”なんて呼ばれてると思う? ヒントは、アンタ達も経験しただろう、めちゃくちゃな連携と超反応だよ」


 唐突なクイズのような質問に、面々が頭をひねる中、アリスが「あ……」と声を上げた。

 自然と皆の視線が集まる中、アリスはシンゴに一瞬だけ目くばせをしてくる。しかし、シンゴにはその意が汲み取れず、疑問符を浮かべて首を傾げるだけだ。


 そんなシンゴの様子にアリスはため息を一つ吐くと、「ボクの考えが正しければ……」と前置きして、


「英語……ですよね。“オール・イン・ワン”って」


 英語――という言葉が通じるのかを確認する目的で、アリスはシモアに首を傾げながら問いかける。

 そんなアリスの質問を受け、シモアは生徒の答えを見守る教師のように優しく頷いた。


 それを受け、アリスは英語という概念がそのままの名称でこの世界でも通じる事を確認。それを踏まえた上で、自分の推論を語り始める。


「“オール・イン・ワン”。ボクも、どこかで聞いた事があるなとはずっと思ってたんだけど、今になってようやくその記憶に辿り着いたよ。――シンゴ」


「え、はい、なんでしょう?」


 そろそろ会話に付いていけなくなってきていたシンゴは、突然、自分の名前を呼ばれてキョドった返事を返してしまう。

 そんなシンゴの態度には特に言及せず、アリスは「聞いた事ないかな?」と首をこてんと倒すと、


「ワン・フォー・オール、一人はみんなのために――っていう言葉を」


「ああ、それなら聞いた事あるな。ってか、さすがにそれを知らないほど俺は馬鹿じゃないって」


「なら、“オール・イン・ワン”と“ワン・フォー・オール”。この二つって、どこかニュアンスが似ていると思わないかい?」


「……言われてみれば確かに……」


 顎に手を当て、アリスの言葉に納得の意を示すシンゴの横では、カズが「ああ、なるほど」と答えに辿り着いたような反応をしている。幸いと言うべきか、イレナは未だに「う〜ん……」と首を傾げている。


 仲間がいた事に安堵を覚えつつ、シンゴは一つ頷いて、キリっとした顔をアリスへ向けると、


「アリス先生、自分、そっから一切分かりません」


「うん、だよね」


「え? 今なんて?」


 シンゴの言葉を無視して、アリスはまず結論から述べる。


「個にして全、全にして個――って言葉がある。英訳すると、ワン・イン・オール、オール・イン・ワンだ。――つまり、ボク達が戦った魔物のオール・イン・ワンは、全てで一つだって事……ですよね、シモアさん?」


「そういう事だよ」


 よくできました――と言った様子で優しく頷くシモア。

 そんな二人の会話を受け、シンゴとイレナは「なるほど……」と呟くと、お互い顔を見合わせて、頷く。そして同時に首を傾げ、口を揃えて、


「「つまり?」」


 そんな馬鹿二人に、呆れた視線が突き刺さる。

 シンゴとイレナは、その視線にだらだらと変な汗を流す。

 そんな二人の反応を受け、シモアは盛大にため息を吐くと、「ようするに……」と答えを簡潔に纏めて、


「“オール・イン・ワン”ってのは、群れ全体で一つの意思を持っているって事だよ」


「「…………」」


 シンゴとイレナは、シモアの答えを聞き終えると同時に無言でアイコンタクトを交わすと、お互い同じ見解に至った事を察する。

 ――つまり、なんでそんな情報から、結論まで推測を持っていけるんだ――と。


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