第2章:21 『奥の手』
「くそッ!!」
暗い洞窟に、怒声と壁を蹴りつける音が無数に反響する。
洞窟内の空気はひんやりと冷たく、奥に進むほど徐々に狭くなり、入り口から遠ざかるにつれて光は闇に飲まれ、その先を見通す事はできない。
まるで、今現在の彼、または彼女達の心を表すように――。
「ちょっと! あんまり大きな音を立てないでよ! 奴らにバレるじゃない! ……あと、カズも早く“匂い消し”をして――」
イレナはそう言うと、手に持っていた植物をカズに差し出した。
カズは鼻を「ふんっ」と鳴らすと、その植物をイレナの手から乱暴にひったくる。
そして、手の平でこすり合わせるようにしてすり潰すと、出てきた汁を体中に塗りたくった。
――『消臭草』。その名の通り、消臭効果がある植物だ。本来は加工され、さまざまな匂い消しの効力を持つ製品となり、生活用品として売られるのが一般だ。当然、その汁等を体に塗り付けても消臭効果はある。
運が良く――と言っていいのかは分からないが、この洞窟に来る道中で自生している野生の『消臭草』を見つけ、採取してきたのだ。
“オール・イン・ワン”の鋭い嗅覚から逃れるための策だが、この『消臭草』自体が奴らの根城となっている森の中に生えているなど、なんとも皮肉な話だ。
“匂い消し”を既に済ませていたアリスは、しかしその顔は浮かない様子。
肩を落とし、目は伏せられている。
そんな彼女の脳裏で再生させられている映像を推測する事は、この場にいる者にとっては容易い事だった。
「アリス……」
そんな彼女に対し、イレナは近寄ると、そっと肩に手を置いた。
そして優しく微笑むと、姉が妹に接するように声をかけた。
「……大丈夫よ」
しかし、そんなイレナの言葉に対し、苛立ちを含んだ反応が後ろから返ってきた。
「何が大丈夫なんだ? オレらは、アイツの事を見捨てたんだぞ? ……“見殺し”にしたんだぞ? それのどこが大丈夫なんだよ……?」
イレナとアリスが視線を向けると、その表情を憤怒に染め上げたカズが、怒りに肩を震わせながら立っていた。
もちろん、カズの怒りは彼女たちに向けてのものではない。
そう、この怒り。後悔の念は、あの一瞬の間に“逃走”という選択肢を選んだ、己に自身に向けられたものである。
カズはやがて息を吐くと脱力し、イレナの方へと弱々しい視線を向けると、自嘲するように――それでいてどこか懺悔するように呟いた。
「……あの時オレは、お前に“行くな”と言われて、心のどこかでホッとしたんだよ……。理由があるから仕方がねぇ……。あいつらの群れの中に飲まれたのが、オレじゃなくて良かった――ってな……。虫唾が走る……ッ!!」
カズは俯くと、ぎりっと音を立てて歯を食いしばった。
そんなカズを見て、アリスは「カズ……」と心配するように、同情するように声をかけようとした。しかし、そんなアリスのどこか覇気のない声を遮るように、強い芯の通った声が発せられた。
「大丈夫って言ったでしょう、あたし。それに、シンゴは無事よ。――まだ……ね」
アリスとカズは揃って目を見開くと、イレナの方へと視線を向ける。二人の目は、微かな希望を見せられたように揺れる。
カズは一度、唾をゴクリと飲み込むと、逸る気持ちを抑えきれずに早口で問いかけた。
「オイ……今の話は本当だろうな? アイツが無事だっていうのは……!」
「ええ……あいつらの習性を考えれば、可能性はあるわ」
イレナの強く頷く様子を見て、カズの口は自然と笑みを形づくり、その目には生気が戻ってくる。
しかし、そんな彼の気持ちに水を差すように、アリスから疑問の声が上がる。
「イレナ。君は今、“まだ”って言ったね? つまり、シンゴは無事。――でも、タイムリミットはある……と」
「――! オイ、あいつらの習性とやらを教えろ!」
「分かってるわよ! だからちょっと静かにしなさいって!!」
「イレナ……君も少し……」
シンゴが無事かもしれない。それだけの情報で、皆の顔にやる気が――前を向こうという気概が溢れてくる。
そのおかげか、先までの葬式のように暗く、張り詰めた空気はいい意味で緩み、軽い冗談を交えられるまでになる。
イレナは「いい?」と腰に手を当て、人差し指を立てると、
「あいつらは仕留めた獲物を、まず最初に親玉――“特異種”の所に持っていくの。所謂、徹底した縦社会っていうやつね」
「じゃあ、シンゴは今頃……」
「うん、シンゴはたぶん今頃、“特異種”の所に運ばれている最中のはずよ」
イレナの話に相づちを打つアリスだったが、そんな二人の会話を黙って聞いていたカズが突如はっとして、イレナを見る目を細める。そして、
「お前があの時、咄嗟に“逃げる”事を選んだのは、この習性を知ってたからって事かよ……」
「当たり前でしょ。じゃなきゃ、こんな事するわけがないじゃない」
「…………お前は、一言が足りねぇんだよ……」
「……ボクもそう思うな……」
二人に揃ってジトっとした視線を向けられるイレナは、唇を尖らせながら、
「しょうがないじゃない……。だって、あんな切羽詰まった状況じゃ全部なんて説明できないわよ……」
若干、拗ねたようにぶつぶつ呟く。
シンゴが無事――と言っても、シンゴには吸血鬼の再生能力とやらがあるらしいのだが、カズからしたらそんな得体の知れないものに全幅の信頼を置くなど、とてもではないができない。
だから、今すぐ行動を起こし、あの馬鹿を助け出さなければならないのだが、カズには最後に一つだけ、イレナにどうしても訊いておかなければならない事があった。それは――、
「イレナ」
「――? 何よ?」
「お前はもし、あいつらの習性を知らずに“あの場面”に出くわしていたら――どうした?」
「飛び込んでたわ。奥の手を使ってでもね」
「…………即答……か」
表情を一つも崩さず言い切ったイレナに、カズは満足そうに――そしてどこか、羨ましそうに目をつむる。
己が躊躇した事を、なんの気負いなくやってのけると言った少女。そしてそれは、今すぐシンゴを助けに行きたいのか、落ち着きなくそわそわしている隣の少女にも言える事だ。
なにせ、彼女もまた、イレナの制止がなければ躊躇いなく灰色の地獄に飛び込んでいたのだから。
吸血鬼の再生の力があるから――なんて事を言うのは、彼女にも失礼だろう。
治るからといって、痛みを感じない訳ではないのだから――。
年下の、それも二人共――女。それに対し、自分は男。その男の自分が、一番びびっているという現実。こんな気構えでは“いざ”という時、躊躇いが――恐怖が真っ先に出て、取り返しのつかない――それこそ、一生かかっても消えない後悔をしてしまう。
それでは駄目だ。そんな生半可な覚悟では、自分は――カルド・フレイズは、必ず仲間を見捨ててしまう。そうならないためにも――
カズはニヤリと笑うと、「あの馬鹿を見習うか――」とこぼす。
そんなカズの様子に二人して顔を見合わせていた女性陣に対し、カズはキッと覚悟を決めた顔を向けると、どんっと己の胸を叩き、懇願するように吠える。
「頼む! オレを……だらしねぇオレの顔面を、思いっきりぶっ叩いてくれ!」
「分かったわ!」
「え? は――」
イレナのノータイムの承諾にカズは呆けた顔を晒すが、その顔面にすぐさまイレナの鉄拳が突き刺さり、カズは鼻血をまき散らしながら吹っ飛ぶ。
地面を数回バウンドして、やがて洞窟の出口から数メートル飛び出したカズは、背中を滑らせながら、やがて静止する。
さすがに少し力を入れすぎたと思ったのか、イレナが慌てて飛び出してくる。――が、その表情が突如、凍り付く。
イレナを追って出てきたアリスもまた、同じように目を見開いて固まる。
「ぐ……おぉ、いってぇ……。めちゃくちゃ効いたが、もう少し加減を――どうした?」
鼻を押さえて立ち上がったカズは洞窟の入り口付近で固まるアリスとイレナに気付き、表情を真剣なものに切り替え、同時に周囲に気を配る。
そして“それ”はすぐ近く。――カズの真後ろに数メートルの位置に“いた”。
「――!?」
すぐさま振り向いたカズが目にしたのは、顎を上げ、今にも遠吠えで仲間を呼ぼうとしている一匹の“オール・イン・ワン”の姿だった。
対処――間に合わない。それでもカズは、体を跳ね上げて遠吠えを防ごうと――
「伏せるんだ!!」
「――!?」
カズは起き上がりかけていた動作を中断し、咄嗟に地面に身を伏せる。すると、その頭上を“風”が通過していった。
――――な……?
カズは伏せた顔のみを上げると、その先では“風”を纏ったアリスが“オール・イン・ワン”の脳天にかかとを振り下ろす瞬間だった。
アリスのかかとが顔面にめりこみ、脳漿をまき散らしながらトマトのように潰れる“オール・イン・ワン”。
――一瞬の出来事だった。
アリスは咄嗟に呪文詠唱。素早く“風”を見に纏うと、空中で前転をするように脱兎の如く飛び出すと、その回転を生かしたかかと落としを“オール・イン・ワン”に叩き込んだのだ。
カズは唖然としたまま身を起こすと、その隣におそらく同じ顔をしているであろうイレナが並ぶ。
そんな二人に、今しがた“オール・イン・ワン”の頭部を肉塊に変えたアリスが身に纏っていた“風”を――魔法を解除しながら、ゆっくり振り返った。
「「――――ッ」」
振り返ったアリスの、返り血に濡れた顔。真紅に輝く瞳に射抜かれ、カズとイレナは揃って息を飲む。
それは、恐怖したからではない。ただ純粋に――“美しかった”からだ。
「――――?」
そんな二人の反応に、瞳を黒く変化させ直したアリスが可愛く首を傾げる。
しかし、アリスはそのきょとんとした表情をすぐさま鋭くさせると、そのまま辺りに視線を彷徨わせる。
やがて、とある方向に視線を固定したアリスは目を細め、次には驚きに目を見開く。
カズとイレナも、アリスの視線の先を追うように確認すると、同じように目を見開いた。
「どうして……。遠吠えは阻止したんじゃねぇのかよ……」
カズがそう呟く先では、徐々に大きくなってくる“灰色の波”が――。
「――! 走るわよ!!」
真っ先に硬直から脱したイレナが、額に汗を浮かばせながら咄嗟に叫ぶ。
カズもその声で我に返り、先に駆け出したイレナを追うようにして走り出す。
そんな二人を追うように、アリスも駆け出す。
カズは鼻血を手で乱暴に拭きながら、
「なんでバレてんだよ!? 遠吠えはアリスが防いだ――……まさか、オレの鼻血が原因か?」
カズはそう言うと、手に付着する己の血液を見やる。
すると、横のイレナから、
「分からないけど、それだったらごめん! あと……一応これ!」
イレナは強く殴った事についての謝罪を述べると同時に、ズボンのポケットの中から『消臭草』を取り出し、カズに手渡す。
カズはそれを受け取ると、血が付着している部分にこすり付ける。
同じようにアリスもイレナから『消臭草』を受け取ると、器用にジャンプして空中で靴を脱ぎ、なるべく凸凹していない所を走りつつ、先ほどのかかと落としで付着した“オール・イン・ワン”の血液の上から『消臭草』をこすり付ける。
そして“匂い消し”を全て済ませると、再び空中で靴を履き直す。
これで三人は“オール・イン・ワン”の嗅覚から“消えた”。
三人は木々の死角、高低差を上手く利用しながら疾走する。さらに段差を飛び降りた際には方向転換し、“オール・イン・ワン”達の視界から外れる。
先導するのはイレナだ。
イレナはこういった入り組んだ土地を得意としている。さらに、幼少の頃に一度だけこの森に――“オール・イン・ワン”が住み着いていない時――遊びにやってきているので、全くもって土地勘がないという事でもない。
目指すのは川のほとりにある、さっきまでいた場所より小さい洞窟だ。
イレナはチラリと背後を見やる。
イレナ達の急な方向転換や、死角を上手く用いた逃走が――そしてなにより、『消臭草』の効果で嗅覚による追跡を阻害している事が功をなし、どんどん灰色の波を引き離している。
――いける!イレナがそう確信し、前を向こうと顔を動かした時だった。
「――――!!」
――――なんで……そんなとこにいんのよ!?
イレナの視線の先には不自然に孤立した“オール・イン・ワン”が一匹いて、こちらをその視界に収めていた。
“オール・イン・ワン”は体をピクリと動かした。
しかし、イレナの対処の方が速かった。
「『アイシクル・ズ・インジェクション』!!!!」
詠唱と共に生成されたつららが射出され、“オール・イン・ワン”の脳天に突き刺さる。
ゆっくり倒れるその姿を確認する事すらせず、イレナは視線を背後に向ける。
その様子を見ていたアリスとカズも、イレナの動きに倣って背後を見やる。
――遠く。明らかに三人の姿を見失い、追跡を諦めていた“オール・イン・ワン”の群れが突如、一斉に三人の方へと顔を向けた。
「な!? 明らかに吠えられる前に倒したろッ!?」
「もしかして……魔法に反応して……?」
「ううん、たぶんそれはないはず! だってあたしが今使った魔法は、最少規模の魔法なのよ! これだけ距離が開いていれば、いくか『フィラ』に敏感な魔物でも察知は難しいはずよ! しかも、発動時間も極端に短くしたのよ! だから……」
分からない――といった表情で、イレナが苦渋に顔を歪ませる。
しかしそんなイレナに対して、カズは動きだした“オール・イン・ワン”達を額に汗を滲ませながら見据えると、
「こんだけ距離が開いてれば、もう一回巻く事はできるだろ!?」
そんなカズの言葉にイレナが何か言おうとした瞬間だった。アリスが何かを感じ取ったのか、“オール・イン・ワン”を見据える目を細める。次の瞬間――
「――――!?」
「なんだアレは!?」
「――――来たわね……『風纏』……ッ!!」
突如、“オール・イン・ワン”達は一斉に遠吠えを上げると、その声に呼応するように“風”がその体を包み込んだ。
先頭の一頭が三人の方向を見据えると、尋常ではない速度で駆け出した。
それを合図に、他の“オール・イン・ワン”達も一斉に駆け出す。
まるで小さな嵐が迫ってくるようなその光景に、アリスは咄嗟にイレナに問いかける。
「あれが、奴らが使う魔法なんだね?」
「ええ、そうよ! 魔物とあたし達ではちょっと魔法の性質が違ってくるんだけど、結果的にはあたし達の使う魔法と一緒よ! ……そしてあいつらの『風纏』は――」
「ボクが使える『エンチャント・デ・ウィンド』と同じ……という事だね」
「そういう事!」
そんな話をしている間にも、背後から迫る脅威はどんどん距離を詰めて来ている。
しかし、ふとカズが前を向いた瞬間、遠くに一匹の“オール・イン・ワン”がこちらに気付き、走ってくるのが見えた。これもまた不自然に一匹だ。
「コイツ等……オレ達を追いかける奴らとは別に、捜索目的で個別に森全体に配置してやがんじゃねぇのかッ!?」
カズは推測の言葉を述べると同時に、飛び掛かってきた“オール・イン・ワン”を横から叩きつけるようにして大剣で吹き飛ばす。
首があらぬ方向を向いた“オール・イン・ワン”は、転がるようにして地面に叩きつけられ、口から鮮血を漏らす。
「確かに、さっきから変に孤立した個体が多いね……。でも、ボク達は仲間を呼ばれる前に対処しているよね?」
「それはそうだが……くそッ! 考える時間もねぇのかよ! すぐそこまで来てやがるッ!!」
振り返れば、灰色の波はすぐそこまで来ている。第一波が三人を飲み込むのも、時間の問題だ。
つまり――絶体絶命である。
「こうなったら……オレが硬化魔法を使って……!」
「ダメよ! 今のあいつらの牙や爪には、“風”の加護が加わっているのよ!? それに、たとえ耐える事が出来たとしても、群がられて、最終的には魔法が切れたところを襲われるのがオチよ!!」
「だったら……どうすればいい……!?」
カズの焦燥感にまみれた声に対し、イレナは唇を噛みながら考えるように俯く。
その間にも、あと十秒もすれば追い付かれてしまう程の距離まで詰められてしまっている。
アリスは背後の異様な光景に対し、なにも打つ手がない自分に憤る。
正直、アリスには“風”を纏い、“オール・イン・ワン”より速く動ける自信がある。
しかしそれでは、アリス“だけ”しか助からない。傍らに存在する二人を見捨てる事なんて――一日に二度も仲間を見捨てる事なんて出来るはずもなかった。
いや、そもそも自分には、こんな事を考える資格なんてないのかもしれない。
自分は――アリス・リーベは、キサラギ・シンゴを見捨てたのだ。
確かに、シンゴが奴らの群れの中に飲まれた時、アリスは咄嗟に助けようと――灰色の波の中に飛び込もうとした。
しかし、イレナに止められた。――問題はここからだ。
アリスには、その制止を振り切る事が出来た。なのにしなかった。アリスは、逃げる事を――シンゴを見捨てる道を選んだのだ。
結果的に見れば、それは正しい判断だったのだろう。
しかしそれはあくまで結果であって、それをアリス自身がどう捉えるかはまた別の話だ。
そしてアリスが己に下した結論は、自分はシンゴを見捨てた――だった。
幸い、シンゴは無事だという。だから、今度こそは必ず助けようと決めた。たとえその先に、耐えられない程の苦痛が待っているのだとしても。
異世界に来てからずっと一緒にいた少年を、今度こそ見捨てないために。
――アリスは、己の胸に手を当てる。何か、何か空洞のようなものが己の中にできてしまったような感じがするのだ。
アリスには、これがどういった感情なのかはまだ分からない。でも、きっと大切な感情だという事は分かった。
アリスは輪郭の曖昧な己の感情を、ひとまず心の片隅に押しやる。
今は、この状況を乗り越えなければ未来は訪れないから。
策は――ない。
しかし、必ずどうにかする。
隣を走る仲間と共に、必ずシンゴを救い出す。
アリスが密かに決意を固め、訪れるであろう“オール・イン・ワン”達との激突に備えていた時だった。
先導し、先から黙って何か考え事をしていた様子のイレナが顔を上げた。そして後ろのアリスとカズを見ると、ふっと微笑んだ。
アリスには何か察せてしまった。イレナのその表情は――覚悟を決めた者の顔だ。
イレナは速度を緩め、アリスとカズの間に挟まれるように位置取ると、並走しながら横の二人の肩に手をぽんと置いた。
そして改めて二人の顔を覗き込むようにして見ると、言った。
「いい? これからあたしは奥の手を使う。これを使えば、とりあえずはこの状況を脱する事ができるはずよ。……その後は、ボスを――“特異種”を探して! そこにシンゴがいる。それにそいつさえ倒してしまえば、他の“オール・イン・ワン”達はこの森を離れるわ!」
早口で一方的に、質問を一切許さないように言い切ったイレナは最後に――。
ちょっと迷惑かけるかも――といった、どこか申し訳ないように笑って、言った。
「あたしの体……よろしくね?」
アリスとカズが何か声を発しようとした瞬間。とうとう三人に追いついた灰色の波の第一波が地面を這うように、さらには木々の上からも襲い掛かり、後ろの空間は灰色で塗り潰される。
次の瞬間――三人は灰色に飲み込まれた。




