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虚飾のアリス ‐不死の少年と白黒の吸血鬼‐  作者: 竜馬
第4章 とある兄妹の救済
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第4章:84 『後始末②』


「――で、これはどういう事なのよ?」


「どういう事なのよ、って言われてもな……」


 眼前、腕を組んだイレナが半眼で睨んでくる。

 だが、困り顔で後頭部を掻くシンゴは返答に窮して唸る事しか出来ない。


「正直、俺にも何がなんだか……」


「じゃあ、なんでアリスがこんな事になってんのよ!」


 そう言って、イレナが肩越しにちらりと後ろを振り返る。

 そこには、イレナの背中にぴったりと張り付いて、シンゴから見えないように縮こまりながら隠れるアリスの姿があった。


「あたしと一緒に作業してた時は、こんな小動物みたいに怯えてなかったわよ?」


「という事は、やっぱ俺と会ってからか……」


 イレナの言う通り、二人はペアを組んで今回の作業にあたっている。

 そして今の話が本当なら、アリスの異変はシンゴと遭遇してからという事になるのだが、やはり心当たりなど全くないのでどうしようもない。


「おーい、アリスさーん?」


「――っ!?」


「ちょっとシンゴ! 怖がらせちゃダメじゃない! ああもう、こんなに震えちゃって……っ!」


 回り込み、アリスの顔を覗き込もうとしたシンゴだったが、怯えるように肩を跳ねさせたアリスがよりいっそう縮こまるのを見て、イレナが憤慨。

 シンゴから隠すようにアリスを己の胸に抱き、その背中を優しく撫でながら、シンゴに糾弾するような視線を向けてきた。


「納得いかねえ……」


 まるで悪者のような扱いに、シンゴは不満の表情を浮かべる。

 とはいえ、シンゴからの不用意なアクションは控えた方がいいみたいだ。

 正直、小動物のように怯えるアリスを見ていると、ちょっかいを出したくてうずうずしてくるのだが、今はさすがに自重する。


「えっと……イレナ、こっちの方の作業は順調か?」


 話題を切り替えようと作業の進捗について尋ねると、イレナもあっさり乗せられてくれて、「ええ」と頷きつつ力こぶを作り、


「あたしがほとんど運んじゃったしね! もうほぼ終わりよ!」


「……ほんと、ますます便利な力になったよな、お前のそれ」


「ふふん、まあね!」


 腰に手を当て、得意げに胸を張るイレナの姿にシンゴは苦笑する。

 どういう訳か、イレナは『ゼロ・シフト』を使っても全く疲れなくなったらしく、『奥の手』を遠慮なく披露して瓦礫の運搬作業に多大な貢献をしていた。

 この復興作業で一番の功労者は、おそらく満場一致でイレナだろう。


「にしても、なんで急にそんな便利な事になったんだ? まさか、例の秘薬の使い過ぎが原因って事はねえよな?」


「あの薬が原因……なのかしら?」


「だってお前、あの戦いの後に副作用でぶっ倒れたのに、たった一日で完全復活してんじゃん。薬とかと相性がいいんじゃねえの?」


「ちょっとやめてよ!? なんかあたしが危ない人みたいじゃない!」


 握った両拳を振り下ろして抗議してくるイレナだが、実際ラミアにも軽く人外認定を受けるほど、イレナの薬への耐性は高いらしい。

 というより、良い部分も悪い部分も効いてはいたようなので、ただ単に体力があり余っていて復活が早かっただけのような気もするが、これは言わぬが花か。


「ねえ、シンゴ。今、何か失礼なこと考えてない?」


「お前は凄い元気で羨ましいなって考えてた」


「え、あ、そう? えへへ、ありがと」


「…………」


 褒めたつもりはないのだが、本人が嬉しそうなのであえて言及はしない。

 と、生暖かい目で見ていると、不意にイレナが「あ」と声を上げ、


「もしかしたら、トゥレスって人に触ったのがきっかけかも」


「……トゥレス、ね」


 あの戦いの最中、イレナはトゥレスと接触していたらしく、『ゼロ・シフト』を使っても疲れなくなったのは、彼女との身体的接触の直後だったらしい。

 トゥレス・デトレサス、彼女もまた『ゼロ・シフト』に似た能力を備えていた。案外、イレナの推測は的を射ている気がする。


 ――と、そこでシンゴはふと片眉を上げた。


「イレナ、お前……なんか、無茶してねえか?」


「…………」


 唐突なシンゴの問いかけに、イレナが真顔で黙り込む。

 今の会話の流れから、何について聞かれたのかは察したらしい。


 そんなイレナを心配するように、背中に張り付いていたアリスがぎゅっと後ろから腕を回し、イレナを優しく抱き締める。

 そのアリスの腕に指で触れ、ふっと表情を緩めたイレナが目を閉じながら、


「大丈夫よ、アリス。あたしは、大丈夫。シンゴも、心配してくれてありがとね」


「……辛かったら、ちゃんと言えよ。一人で背負い込もうとすると、ろくな事にならねえからな」


「ふふ。なんだか、妙に説得力あるわね」


「まあ、当事者は語るってやつだな。少しケースは異なるけど」


 おどけるように肩を竦めてみせると、イレナも弱々しくだが笑ってくれた。

 多少の無理は見えるが、釘は刺したので大丈夫だろう。無論、深刻な事態にならないよう、周りの人間が注意して経過を見る必要はあるだろうが。


 ――アルネ・ラドネス。


 イレナは彼女と戦い、そして討ち果たした。

 あの、どこか抜けたところのある修道女が実は『星屑』で、リドルを連れ去った張本人だと聞かされた時は、シンゴ達も驚くと同時にショックを受けた。

 だが、一番ショックを受けているはずのイレナが気丈に振る舞っているのだ。ここは、シンゴ達の方がしっかりしなければならない。


「あー、やめやめ! こういう湿っぽいのって、あたし苦手なのよ! ほら、二人もそんなどんよりしてないの!」


「……だな」


 手を叩き、重い空気を吹き飛ばそうとするイレナの言葉と態度に、毒気を抜かれたシンゴが苦笑しながら頷いた時だった。


「――よぉ、お前ら。なんだ、揃いも揃ってサボりか?」


「カズ……と」


「よ、茶髪。あん時は世話になったな。おかげでこの通り、完全復活だ」


「だから、茶髪はやめろって……」


 にしし、と歯を見せて笑うのは、カズの隣に立つリンだ。

 どうやら、協力して廃棄物の運搬をしていた最中に通りかかったらしい。廃棄物の入った木箱を二人で支えながら立つその姿は、まるで――、


「なんか、新居に引っ越したばかりの新婚夫婦みたいだな」


「なっ!? シンゴ、てめぇ、何抜かして……!」


 ニヤニヤしながらからかうと、カズが慌てたような反応を返してきた。

 だが、いい反応を見せてくれたカズに対し、リンは――、


「お、そう見えっか? だってよ、カルド。結婚するか?」


「軽ぃな!? しねぇよ!」


「んだよ、アタシじゃ不満だってのか? 見てくれは悪くねぇ方だと自分でも思ってんだけどなー」


「そういう問題じゃねぇって何度も言ってんだろぉが……!」


 辟易とした様子で語気を荒げるカズと、そんなカズを親しげに見上げるリンという構図に、シンゴ達三人は揃って唖然とする。

 幸いと言うべきか、不幸にもと言うべきか、最初に再起動してしまったシンゴがおそるおそる尋ねるように――、


「えっと……お二人は、どのようなご関係で?」


「あ? どのようなもクソもねぇよ。よく分かんねぇが、ずっとこの調子だ。いい加減、オレもうんざりしてるんだが……」


「ひっでー言い方だな。アタシのどこが気に入らねぇってんだ?」


「あのなぁ!」


「「「…………」」」


 不満げに唇を尖らせるリンに、カズが怒鳴り声を上げる。

 そんな二人の様子を見て固まるシンゴ達だったが、やはりここは男の自分が矢面に立つべきだと判断し、前に進み出たシンゴはカズの肩にぽんと手を置く。

 振り返るカズに向け、シンゴはグッとサムズアップし、


「幸せにな!」


「……そうか。喧嘩売ってんのかそうなんだな?」


 選択を誤ったらしく、青筋を浮かべたカズがシンゴの胸ぐらを掴んでくる。

 慌てたシンゴは視線を泳がせ、咄嗟に目にとまったカズの肩上――そこに見えている剣の柄を指差しながら言った。


「そ、そういえば、その魔剣……だったっけ? また最初の錆び錆びな大剣状態に戻ってるけど……」


「…………」


 露骨な話題転換にカズは無言でシンゴを睨み付けていたが、やがてため息を吐いてシンゴを解放すると、背中から大剣を引き抜いた。

 そしてスッと目を細めると、まるで呪文を唱えるように――、


「――ベリアル」


「おお……!」


 錆びが、大剣の不要なパーツごと剥がれ落ち、虚空に溶けるように散っていく。

 その下から現れたのは、闇を彷彿とさせる一本の黒い長剣だ。


「普段は、今までと同じ錆び付いた大剣の状態で『眠って』いるみたいでな。オレの呼び掛けに応じて、こうして魔剣としての姿を現すみてぇだ」


「かっけぇ……!」


 中二心をくすぐるその演出に、シンゴは感動を覚えて思わず前のめりになる。

 カズの手に現れた漆黒の長剣は、『価値』を斬る事が出来るらしい。魔剣と呼ばれる特殊な剣で、その名を『ベリアル』と言うのだとか。

 正直な話、『価値』を斬ると言われてもいまいちピンとこない。ひとまず、『無効化』系の能力が付与されたカッコいい剣だとシンゴは認識している。


「はぁ……オレはもう行くぞ。お前らもサボってねぇで、さっさと作業に戻れよ。じゃねぇと、あっという間に日が暮れちまうぞ」


 そう言って、カズが魔剣を背中に戻す。

 それに伴い、魔剣が急速に錆で覆われていき、大きさも大剣へと変化した。


「行くぞ、リン」


「おう、カルド」


 地面に置いていた木箱を持ち上げ、二人は歩き去って行く。

 その背中を見送り、シンゴは二つ目の懸念事項が解決を経た事実を確認した。


「悩みは、吹っ切れたみたいだな……」


 結局、カズが何について悩んでいたのかも、どうやって解決したのかも分からず仕舞いだ。だが、本人に語るつもりがないのなら、問い質すのは無粋だろう。

 それに、カズの抱えていた悩みの解決にリン・サウンドが大きく関わっている事は、なんとなくだが察する事ができた。


「さて、問題はこっちだな……」


 小さくため息を吐き、振り返ったシンゴの視線の先では、二人が去って行った方角を未だに呆然とした面持ちで見ているイレナとアリスの姿がある。

 どう声をかけるべきか迷っていると、シンゴの視線に気付いたアリスがハッとして、再びイレナの背中に隠れてしまった。


「これ、まともに会話が成り立つ状態じゃねえな……」


「そうね……」


 困り顔で頭を掻くシンゴに、イレナも同じ表情で頷いて同意してくる。

 念の為に『激情』を発動してみるが、アリスからシンゴに対する悪意は微塵も感じ取る事が出来ない。とはいえ、原因がシンゴにあるのは明白で――。


「ま、仕方ねえか。俺は他の所を見に行くけど、アリスも落ち着いたらイレナに事情とか話しといてくれよ。じゃねえと、俺もどうしていいか分かんねえし」


「ぜ、善処、します……」


 消え入りそうなアリスの声に苦笑し、シンゴはその場をあとにした。

 問題の先送りではあるが、悪い方に転びそうな問題ではない気がした。それに、時間はたっぷりあるのだ。なにせ、アリスとは――、


「たぶん、長い付き合いになりそうだしな」


 そうこぼし、シンゴは手の足りていない所はないか集落をうろつく。

 途中で何度か廃棄物の運搬に手を貸しつつ、集落の中を歩き回っていると――、


「えっほ! えっほ! ――あべりゃ!?」


「…………」


 廃棄物を運搬していた愛しの妹が、躓く物など小石すら存在しない平坦な場所で盛大に転倒するという悲しい場面に遭遇してしまった。

 すると、転んだイチゴの下へ小走りで駆け寄る人影があった。イチゴに手を差し伸べるのは、すぐ近くにいたらしいリノアである。


「これは……」


 見た目年下の少女に助け起こされる涙目の妹という光景に、シンゴは無性に悲しい気分になって、その場を黙って立ち去るべきか本気で迷う。

 が、迷っている間に、二人に見付かってしまい――、


「あ、お兄ちゃん!?」


「シンゴ」


「あー……」


 視線を明後日の方にやり、頭の後ろを掻いたシンゴは、このまま立ち去るのは無理だと判断して二人に近付く。


「よ、よお。二人とも、作業の方は――」


「今の、見てた!?」


 食い気味に、イチゴがずいっと顔を寄せてくる。

 その鬼気迫る表情に、シンゴは軽くのけ反りながら頬を引き攣らせ、


「み、見たって、何をだよ……?」


「……見てないの?」


「だから、何をだよ……?」


 咄嗟にとぼけるシンゴを、イチゴが疑わしげな眼差しで見てくる。

 その探るような視線に、シンゴは必死にポーカーフェイスで対抗。おそらく、事実を打ち明ければ泣かれるか、八つ当たりが待っている気がする。

 前者も怖いが、後者も恐ろしい。なので、ここは誤魔化し切るしかない。


「……本当に、見てないの?」


「だから、俺が何を見たってんだよ? 逆に聞くけど、何か俺に見られたらマズい事でもしてたのか? まあ、お前もお年頃だしな。一応、兄として忠告しておいてやるが、そういう事はなるべく人目につかない所で――」


「ちょっとなに言ってんの!? 私そんなイヤらしい事なんてしてないよ!?」


「――俺、イヤらしい事なんて、一言も言ってねえんだけど」


「…………」


 真顔で指摘してやると、イチゴは赤くなった顔を両手で覆って俯いた。

 墓穴を掘って自爆した妹を見て、シンゴは心の中でガッツポーズを掲げる。イチゴには悪いが、面倒ごとは御免なので容赦はしなかった。


「さて、リノア、こっちの作業は順調か?」


 ここぞとばかりに、シンゴは満面の笑みでリノアへと振り返る。

 普段なら、こういった強引な話題転換はイチゴには通じない。しかし、今回はイチゴの方にメリットがある形だ。シンゴの目論見通り、妨害はなかった。


「問題ない。順調そのもの」


「そっか。お前って最初、集落の人から避けられてた……いや、近寄り難い存在だと思われてたのか? ともあれ、浮いてたからなぁ……」


 そう言うと、リノアの無表情が微かに動いたのをシンゴは見た。

 少しむっとした、不服そうな表情である。


 些細な表情の変化が読み取れるほどシンゴがリノアの顔を見慣れたのか、それともリノア自身の変化か、はたまたその両方か。

 どちらにせよ、喜ばしい変化である事実に変わりはないだろう。


「我、ずっと城にいた。集落には、基本ガルベルトが来てた」


「ああ、なるほど。矢面に立つのは、基本的にガルベルトさんだった訳か」


 納得して頷くシンゴに、リノアもこくりと小さく頷き、


「我、甘えてた。全部、ガルベルトに任せてきた。背負わせ過ぎた」


「……ああ」


「これからは、我が背負う。これは、その第一歩」


「……そっか」


 真っ直ぐ目を見て告げてくるリノアに、シンゴは優しく相好を崩す。

 ガルベルトの記憶喪失を受け、リノアも彼女なりに考えたのだろう。その上で出した答えなら、それを否定するつもりはシンゴにはない。

 ただ一つ、助言のようなものをするとするなら――、


「リノア、全部を背負おうとするのはなしだぞ。ガルベルトさんを見てお前が背負わせ過ぎたって思ったんなら、自分の事もちゃんと考えろな?」


「でも、我は……」


「たった一人の真祖で、大神官様だから、とか言うなよ? 重い荷物はみんなで分けて持った方が楽ちんだし、適度に楽する事を覚えねえと、ちっこいお前は速攻で潰れるぞ。――だから、周りの奴を頼れよ。遠慮なく、こき使ってやれ」


 そう助言し、ウィンクとサムズアップで締めるシンゴを見上げながら、リノアはその真紅の瞳を微かに見開き――、


「――我、ちっこくない」


「あー、そっちに反応すんのね……」


「でも、シンゴの言うこと、分かった。周りの者、こき使う」


「……程々にな?」


「無論」


 素直に頷くリノアだったが、似たようなシチュエーションで、シンゴの念押し虚しくお空をかっ飛んだ前科があるので、今さらながら不安になってきた。


「……お兄ちゃん。なんか、変わった?」


 過労死する者が出ないよう密かに祈っていると、きょとんとしたイチゴがシンゴの顔をまじまじと見つめながら、不意にそんな事を聞いてきた。

 その妹の問いかけに、シンゴは「ん?」と片眉を上げ、


「変わったって……?」


「えっと、なんて言うか……上手く言葉には出来ないんだけど、憑き物が落ちたみたいっていうか、元に戻ったというか、ぐにゃぐにゃ歪んでて気持ち悪い感じが消えて、一本の真っ直ぐな線になったっていうか……」


「――ああ。そういう意味なら、確かに変わったかもな」


 顎に手を当て、首を捻りながら例を列挙するイチゴの所感を聞き、妹の言わんとしている事を察したシンゴは、静かに相好を崩しながら肯定した。

 もちろん、外見の話をしているのではない。これは、内面的な話だ。


「――イチゴ」


「なに?」


「愛してる」


「……うっわ、お兄ちゃん。それはないわ。本気でない。え、ちょっと、それ以上は絶対に近付かないで」


 己の肩を抱き、本気でドン引きするイチゴにシンゴは苦笑する。

 苦笑するが、心に受けた傷は深刻で、油断すると今にも泣きそうだった。


 でも、違うのだ。今の言葉は、シンゴの言葉ではない。

 そう、それは――、


「今のは、母さんの言葉だ」


「え……お母さん、の?」


「ああ。母さんから、俺とお前に向けられた、最後の言葉だ」


「お母さんの、最後の……」


 眉を寄せ、イチゴはどこか困惑したような面持ちで下を向く。

 あの時、母の魂が最後に残してくれた言葉。きっとシンゴは、その言葉を受け取ると同時に、託されたのだと思う。


 母の声ではなく、女性の声ですらない。

 そんな母性の欠片も感じられない兄の声で申し訳ないが、それでも言葉に込められた想いは、余す事無く全て伝えたつもりだ。


「……そっか。私、愛されてたんだね」


「ああ、そうだ」


「私も、伝えたかったな。お母さん、愛してるよ、って」


「……ああ、俺もだ」


 囁くように呟き、兄と妹の視線が絡んで、どちらからともなくふっと微笑する。

 今の会話を玄武が聞いていて、母に届けてくれる事を祈りつつ――、


「――さてと!」


 湿っぽくなった空気を入れ替えるように、腰に両手を当てながら、努めて明るい声で切り出したシンゴは――、


「イチゴ。お前、なんで魔法使えんだよ?」


 ずっと気になっていた事をストレートに尋ねたのだった。


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