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虚飾のアリス ‐不死の少年と白黒の吸血鬼‐  作者: 竜馬
第4章 とある兄妹の救済
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第4章:81 『第二回戦』


 カズの求めに応じ、宙に舞い上がった大剣が回転しながら落ちてくる。そのまま目の前に突き立った大剣を、カズは歯で噛んで引き抜く。

 次の瞬間、あれだけ磨いても落ちなかった錆が剥落を始めた。いや、錆だけではない。刀身にもヒビが走り、バラバラと剥がれ落ちていく。それはまるで、剣そのものがカズに合わせて最適化されていくようでもあり――。


 ――やがて、現れたのは一本の漆黒の長剣だ。


 同時に、鉛のように重かった身体にふっと力が戻る。

 踏ん張る足に安定感が戻った事で、カズは腰を落としながら軽くなった漆黒の長剣――魔剣・ベリアルを顎の力でぶら下げるように構えた。


『――さあ、行きなさい!』


「――ッ!!」


 頭の中で響く『声』に背中を押され、カズは魔剣を口に咥えたまま弾かれるようにして駆け出した。雪煙を舞い上げ、低い姿勢で地を這うように駆ける。

 そんなカズを見て、目を見開いていた捏迷歪が慌てたように腕を持ち上げた。その、立てられた人差し指と中指がカズの眉間を正確に照準する。


「ヴァーミリオン・レイ――!」


 詠唱と同時に、捏迷歪の指先から紅蓮の熱線が放たれた。

 射線上の雪を全て蒸発させながら猛然と迫る極太い紅蓮のラインに対し、カズは首を大きく振って真下から魔剣を跳ね上げる。

 紅蓮の熱線と漆黒の刀身が衝突――次の瞬間、まるで火の粉を散らすように呆気なく、紅蓮の熱戦が縦に切り裂かれた。


「――ッ!?」


 真っ二つに割れた熱線の先で、驚愕に目を押し開いた捏迷歪が見える。その顔を鋭く見据えながら、熱線を切り裂いた勢いのままカズは疾走を再開する。

 再び熱線が放たれるが、振るわれた魔剣が紅蓮の熱線を難なく切り裂く。その間、足は止まらない。確実に距離が詰まっていく。


 自分の魔法が通じないと見るや、捏迷歪はその昏い瞳をぎょろりと横に向けた。

 その視線の先には、ラミアを抱えたガルベルトがいる。おそらく、二人を盾にでも使おうとしたのだろう。だが、その目論見が叶う事は無い。


「そう何度も、その卑劣なやり方が通用すると思わないで下さい!」


「――やるじゃん」


 毅然と言い放つのは、隙を突いて死角から回り込んでいたレミアだ。

 彼女は『堕落』の影響で弱体化しながらも、その細腕で懸命にガルベルトとラミアの二人を引き摺って運び、既に十分な距離を稼いでいた。

 そんな彼女のファインプレーに捏迷歪は薄く笑って賞賛を口にする。そして、その顔が再び正面に向くのと、カズが魔剣を振り下ろすのは同時だった。


 ――咄嗟に展開された黒炎の片翼と漆黒の魔剣がぶつかる。


 そこに拮抗は発生しなかった。まるで薄い紙を引き裂くように容易く、漆黒の刀身が黒炎の壁を分断――斬撃はそのまま捏迷歪を斜めに切り裂いた。

 首から脇腹にかけて深々と刻まれた裂傷から、一拍遅れて鮮血が噴き出す。己の返り血で顔を真っ赤に染めた捏迷歪が、ゆっくりと後ろに倒れ込んだ。


「――その剣、切れ味よすぎだろ」


「――――」


 その声に振り向くと、少し離れた位置に立つ捏迷歪と目が合った。魔剣が付けたはずの裂傷は見当たらない。例の蘇りだ。

 警戒の面持ちで魔剣を構え直すカズに対し、捏迷歪は薄気味悪い半笑いを浮かべながら、その昏い目を剃刀のようにスッと細めた。


「やっぱり、君にかけた権威が消えてるね。それさ、魔剣だろ? しかも、無効化系の厄介なヤツ。なるほどなるほど、つまり君も特別だった訳だ。こりゃ一本取られたぜ。でもさ、そんな隠し玉があるならもっと早く出しとこうぜ? おかげで偉そうに見下し発言してた歪さんは赤っ恥さ。恥ずかしくて顔から火が出ちゃうぜ。ああ、あとその魔剣、何でもかんでも無効化できる訳じゃないんだろ?」


「――っ」


 大げさな身振り手振りを交えながらぺらぺらと口を回す捏迷歪、そのまま世間話をするような軽い調子で確信を突く推察を放り込んできた。

 楽しそうに口端を引き裂きながら、汚泥のように絡み付く不快な眼差しを向けてくる。堪らず、カズの眉間に深い皺が寄った。


 だが、捏迷歪の推察は正しい。この魔剣・ベリアルは『価値』を斬る事が出来る。しかし、どうやら斬れる『価値』と斬れない『価値』が存在するらしいのだ。

 魔法と権威は斬る事が出来たが、あの不可解な不死性は斬る事が出来なかった。おそらくだが、カズの『認識』が関与しているのではないだろうか。


 魔法は魔法と、権威は権威と正しく『認識』していたのに対し、あの厄介な蘇りに関しては全くと言っていいほど原理が分かっていない。

 必要なのは、対象の『価値』を正しく『認識』していること。憶測ではダメだ。確信し、確定させなければならない。


「――――」


 変幻自在の黒炎翼に、相手を弱体化させる『堕落』の権威。多種多様な特殊魔法を行使し、極め付けは魔剣の効果が及ばない謎の蘇りだ。魔剣があるとはいえ、依然として油断ならない状況である事に変わりはない。

 それに、先ほど捏迷歪が放った紅蓮の熱線――詠唱から察するに、火の上位魔法だ。どうやら多彩な特殊魔法だけが売りではないらしい。


「…………」


 ――待て。何かが引っ掛かる。


 あれだけ魔法を行使すれば、フィラ切れを起こして然るべきはずだ。シンゴからも、捏迷歪は早々にフィラ切れを起こしていたと聞いている。

 なのに、捏迷歪は平然と魔法を行使し続けている。この戦いで消費したフィラの総量は、軽く見積もっても一人の人間が保有できる量を大きく逸脱している。


 妙な点は他にもある。上位魔法だ。上位魔法は、才能に恵まれた者が、血の滲むような努力の果てにしか得る事が出来ないものだ。そう、聞いた事がある。

 それでも、上位魔法ならまだ納得の余地はあるだろう。だが、それが特殊魔法となれば話は別だ。あれは後天的なものではなく先天的な魔法で、言ってみれば生まれ持った個性に近い。才能や努力で習得できるような代物ではないのだ。


 そして何より、特殊魔法とは一人につき一つ。これが基本ルールのはずだ。

 仮に複数持ちが存在したとしても、二つか三つが限界だろう。それを十種類以上も保有しているというのは、いくらなんでも異常だ。普通ではない。

 そう、普通ではないのだ。つまり、何かしらのトリックが存在する。


「そういや……」


 ふと気付く事があり、カズは静かに目を細めた。

 この戦いが始まってから、捏迷歪は同じ魔法を連続して使用してくる事はあっても、それ以前に使用していた魔法を使ってきた試しが一度もない。


 仮にそれが、使わないのではなく、使えないのだとしたら。まるで使い捨てるように、魔法を切り替えているのだとしたら、果たしてどうだろうか。

 そう仮定してこの戦いを振り返ってみると、捏迷歪が魔法を切り替える際、必ず間に挟まるとある事柄が存在する事に気付ける。


 ――それは、死んで、蘇ること。


 捏迷歪は、死んで蘇る事で、魔法を切り替えている。

 そしておそらく、一つの命につき、使える魔法は一つだけだ。


 それと、これは憶測の域を出ないのだが、死んで蘇る度にフィラの残量もリセットされている可能性が高い。その証拠に、捏迷歪が同じ魔法を連発した回数は、平均的なフィラの保有量でも十分に耐えられる範疇に留まっている。

 魔法の行使回数とリセットの間隔から見ても、辻褄は合っているだろう。


 だが、『死』を起点として魔法の切り替えとフィラの補充を行っている事が分かったところで、肝心の蘇りの原理については依然として不明だ。

 おそらくこれでは、魔剣の力は発揮されない。そして、あの蘇りが健在な限り、持久戦になるのは明白だ。リーシャの助力で出血も痛みも抑えられているが、それもいつまで持つか分からない。既にリーシャの声は聞こえなくなっており、両肩の傷口がじくじくと痛みを主張し始めている。


 カズに残された時間は残り少ない。更に使える手札も心許ないときた。

 思わず笑えてくる。絶望的なこの状況にではない。こんな苦境にありながら、微塵も諦める事を考えていない自分自身に、熱い笑みが込み上げてくる。


 ――上等だ。やってやろうではないか。


 下を向くなと、前を向けと背中を叩いてくれた少女がいる。

 価値を説き、こんな男に命を預けてくれた女性がいる。


 筋の通し方は学んだ。筋を通す為の力も貰った。

 なら、あとは押し通すだけだ。


「行くぞぉ――ッ!!」


 気合一声、カズは勢いよく雪を蹴り付けて駆け出した。

 真っ直ぐ、正面から自分に向けて走ってくるカズを見て、ポケットから片手を引き抜いて構えた捏迷歪が仄暗い微笑を口元に刻み――。


「……うん?」


 その微笑が、困惑に塗り変わる。カズが急に方向転換したからだ。

 そのままカズはあらぬ方向へ走り続け、やがて雪の上を滑りながら急停止。首を捩じり、口に咥えた魔剣で『それ』を真上から突き刺した。


「――ああ、なるほどね」


 魔剣を引き抜くカズ、その不可解な行動の意味を理解したらしく、納得の声を漏らした捏迷歪の視線の先で、魔剣に貫かれた『彼女』がゆっくりと立ち上がる。


「――乱暴ね。瀕死の、それも女性に向かって躊躇なく剣を振り下ろすなんて」


 皮肉げにカズを糾弾するのは、服に付着した雪を払いつつ、大人びた微笑と共に流し目を送ってくる吸血鬼の少女――ラミアだ。

 その言葉の通り、彼女はつい先ほどまで瀕死だった。だが、彼女を死の淵まで追いやっていた負傷の数々は、現在進行形で再生が進められていた。


 ラミアを蝕んでいた『堕落』の権威、その『価値』だけを斬ったのだ。

 魔剣・ベリアルは『価値』を斬るという特殊な性質を持つ。それ故に、斬るべき『価値』を正しく『認識』さえしていれば、他の『価値』との境界線を明確にし、浮き彫りになった『価値』のみを斬るという芸当も可能なのである。


「ふ、ぉ――ッ!」


 続けて、レミアとその腕に抱かれたガルベルトに向けて魔剣を一閃――二人を蝕んでいた『堕落』の権威、その『価値』をまとめて両断する。


「飛びなさい――ッ!!」


「――ッ!」


 直後、ラミアの鋭い声が飛ぶ。その声に従い、カズは転がるように離脱。レミアはガルベルトを抱えて後ろに飛んだ。

 寸前まで四人がいた場所の中心地から、雪を突き破って極細の黒炎が幾本も噴出――禍々しい、黒い剣山を形成する。


「あは。ハズレ」


 左肩の黒炎翼を地面に突き刺しながら、捏迷歪が薄く酷薄な笑みをこぼす。

 難を逃れたカズは、ちらりとラミア達を見た。どうやら三人とも無事なようで、合流して一か所に集まっている。が、何やらガルベルトの様子がおかしい。

 全身に刻まれた夥しい量の傷は徐々に再生しているにも拘わらず、その右腕だけが一向に再生する気配がない。目を凝らせば、右の瞼も落ち窪んだままだ。


「――――」


 その様子に、ラミアが一瞬だけ目を細める。だが、すぐに無言で背を向けた。

 そんな姉の背中を、レミアが不安そうに見上げる。


「――その人のこと、任せるわね」


「……え?」


 背中越しに告げられた姉の言葉に、レミアの口から疑問の声が漏れる。でも、すぐにその言葉の意味を理解したようで、どこか嬉しそうに力強く頷くと、


「はい! お父さんの事はレミアに任せて下さい!」


「……ええ、お願いね」


 振り返り、小さく口元を綻ばせてから、ラミアは一歩前に進み出た。そして、不敵な笑みを浮かべながら悠然と捏迷歪を見据え――、


「私、遊ぶのが大好きなの。だから貴方、ちょっと付き合いなさい。――お姉さんが、遊んであげるわ」


「いいね。歪さんも遊ぶのは大好きだ。そうだね、おままごとして遊ぼうか。僕がパパで、君が娘だ。腐るまでたっぷり甘やかしてやるよ」


「悪くない提案ね。私も好きよ、おままごと。でも、生憎と父親役は既に埋まってるの。他の役を当たりなさい」


「ありゃ。そりゃ残念」


 軽口の応酬。捏迷歪が肩を竦めたタイミングで、ラミアがちらりとカズに目配せしてきた。それに頷き、駆け出す。直後に、ラミアと捏迷歪がぶつかった。

 言わずとも、カズの考えを察してくれたらしい。ラミアが捏迷歪を抑えてくれている間に、カズは次々と倒れ伏す吸血鬼達を斬り付けていく。


 そう、あの蘇りの正体が分からない以上、捏迷歪は倒せない。なら、倒さずに勝つしかない。方法は簡単だ。拘束するか、意識を奪えばいい。

 だが、それは捏迷歪自身も警戒しているはずだ。正直、カズ一人では厳しい面がある。だから、それを可能とするだけの戦力を充実させるしかない。


 捏迷歪は、死んで蘇る事で魔法を切り替えている。カズの推測が正しければ、切り替わる以前の魔法は全て使い捨てだ。つまり、あの厄介な等価交換の『呪い』は打ち止めだと言うこと。もはや、攻撃を躊躇する必要はない。

 魔剣の力で権威の影響から脱した吸血鬼が、次々と戦線に復帰していく。


「意識を飛ばすか拘束を狙って! 自害を許してもダメよ! あと、あの黒炎は必ず避けなさい!」


 戦力が増えた事で余裕が生まれたラミアが仲間達に指示を飛ばす。

 『堕落』の権威は初見殺しの面が強い。しかし、注意していれば吸血鬼達の身体能力なら回避はそう難しくないだろう。

 初戦とは違い、吸血鬼達は不殺と自害の妨害で意思を統一。魔法の切り替えが滞り、捏迷歪の対応が後手に回り始める。その間、吸血鬼側の増員は止まらない。


 対応が困難な特殊魔法に関しては、カズが臨時で参戦する事で『金色の加護』の代わりを務めた。捏迷歪を殺す事で、意図的に魔法を切り替えさせる。

 だが、圧倒的な劣勢に立たされてなお、捏迷歪に慌てた様子は見られない。その余裕の表情が崩れる事は無く、常に笑みが浮かべられている。




 ――その意味を、もっと深く考えるべきだった。




「――道化が。雑魚ども相手に何を遊んでおるのぇ?」


「――!?」


 不意に響いた女の声と共に、捏迷歪の頭上に黒い物体が落下した。

 鮮血と肉片が飛び散り、雪煙が舞い上がる。その白い壁が取り払われた時、そこには一匹の黒い怪牛と、その背に優雅に足を組んで腰掛ける一人の女がいた。

 突然の乱入者に、カズを含めてその場にいる全員が動きを止める。


「――――」


 女は首を振る動作で長い金髪を後ろに流し、口元を金の扇子で覆いながら、肉食獣を思わせる鋭い金眼で睥睨するように戦場を見渡す。

 やがてその視線がカズで止まり、金眼がスッと剃刀のように細められた。そして、音を立てて閉じられた扇子がカズを指し示し、


「『死ね』。メー」


「……?」


「無価値の魔剣……なるほど、そういう事かぇ」


「――っ!?」


 一瞬で魔剣の事を看破され、カズは驚愕に息を呑む。

 一体、何者だ。それに、あの四足歩行の黒い怪牛は――。


「気を付けなさい。あの女は『罪人』よ。イナンナ、とか言ったかしら」


「『罪人』……ッ!」


 駆け寄って来たラミアの口から、あの女の――イナンナの正体が明かされる。

 そして、そのまま敵を鋭く見据えながらラミアは続ける。


「一度、城の前で交戦したわ。あの女の武器は『言葉』よ。相手をその『言葉』で意のままに操る言霊と、おそらくもう一つ、『言葉』によって事象を改変する力を持ってるわ。そして、あの牛の化け物は、『四皇魔』の一角……グガランナよ」


「……ッ」


 手短にラミアが敵の情報を伝えてくる。その厄介極まりない能力と、『四皇魔』という最悪の響きに、カズは思わず咥えていた魔剣の柄を強く噛み締めた。

 そんなカズの視線の先で、畳んだ扇子の先端を唇に当てて何かを考えるように黙り込んでいたイナンナが、不意にその口端を酷薄な笑みで引き裂いた。


「気が変わった。あの魔剣を手土産にするぇ」


「手伝いますよ、イナンナ様」


「阿呆が。貴様が余の手足となって働くのは当然の事ぇ。それを手伝うなどと、思い上がりも甚だしい……身の程を弁えろ」


「あっは。手厳しいなぁ」


 そう言って、当たり前のように蘇った捏迷歪が、イナンナの苛烈な言葉を受けて軽く肩を竦める。それを無視して、イナンナは捏迷歪の横に飛び降りた。

 並び立った二人の『罪人』、その金眼と黒瞳が同時にこちらを見据えてくる。二人の背後に控えたグガランナが、威嚇するように低い唸り声を上げる。


「……ッ」


 その威圧感に、何人かの吸血鬼が怯んだように後ずさる。

 無理もない。捏迷歪一人でさえ、あれだけ手こずっていたのだ。それが今や、『罪人』が二人と『四皇魔』が一体である。はっきり言って、絶望的な状況だ。


「――――」


 ――だが、そんな絶望の中、カズは一人、前へと進み出た。


 息を呑む気配を背中に、まるで絶望を押しのけるようにして、一歩、二歩と、その歩みを確かな足取りで重ねて行く。

 やがて、中間地点で立ち止まったカズの隣に、誰かが音もなく降り立った。足を深く折り曲げ、全身のバネを使って巧みに衝撃を殺した、静かな着地だ。


 ――紅蓮の炎が風に揺れる。


 ボタンが全て弾け飛び、前が全開となった黒い上着を風に遊ばせながら、炎の如き赤い頭髪をした少年が、膝に手を置いてゆっくりと立ち上がる。


「――よぉ、随分と遅い参上じゃねぇか?」


「『無茶言うなって。これでもかなり飛ばして来たんだぜ?』」


 前を見据えたままのカズの軽口に、少年は長い犬歯を覗かせながら笑った。

 不機嫌そうに眉を寄せるイナンナと、目を丸くする捏迷歪の二人を、少年の血のように真っ赤な真紅の双眸が真っ直ぐ射抜く。

 そして、ニッと太々しい笑みを浮かべ、少年は手の平に拳を打ち付けると――、


「『さて、第二回戦と行こうぜ――ッ!!』」


「ああ――ッ!!」


 頼もしい援軍――キサラギ・シンゴの高らかな宣言に、カズも負けじと声を張り上げ、力強く応じるのだった。


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