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虚飾のアリス ‐不死の少年と白黒の吸血鬼‐  作者: 竜馬
第1章 リジオンの村
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第1章:11 『飛べ』

「すっげぇ……」


 落下しながら繰り広げられるアリスとヒィースの戦闘。最早それは人ができる戦いの範疇を超えていた。

 それも当然だろう。一人は『吸血鬼』で、もう一人は『魔法』を使用しているのだ。


 だが、特筆すべきはヒィースだろう。彼は魔法の手助けを受けているとは言え、人間だ。それなのにアリスの動きに食らい付いていけるのは、傭兵稼業で培った経験の成せる技か。


「あ――!!」


 ヒィースがアリスの足技を利用して壁面近くに舞い戻り、その剣を突き立てて落下に制動をかけた。同時に、アリスは壁面から離れた空中に置き去りにされてしまっている。

 あのままでは、アリスは地面に叩き付けられてしまう。だが、例えシンゴに『吸血鬼』の怪力が備わっていたとしても、今さらどうこうできる距離ではない。


 アリスが地面に叩き付けられる寸前、シンゴは顔を青くして思わず目を瞑った。


 ――着地の轟音。


 もうもうと土煙が立ち込める崖下をゆっくりと覗き込む。

 上手く地上に降り立ったヒィースが、土煙の中に何ごとか言葉を投げかけた。

 すると――、


「――アリス!!」


 土煙の中から何やらむっとした表情のアリスが無傷でその姿を現した。

 アリスの無事な様子に安堵の息を吐くが、すぐさま崖下で二人の戦闘が始まってしまった。


「お、俺も……」


 シンゴは自らも何か手助けができないか思案する。とりあえず行動を起こそうと、フゥーロから奪い取った剣を拾い上げる。

 しかし、ここから正規のルートでアリスの元に向かうには時間がかかりすぎる。かといって、あの二人のように崖から身を躍らせるなどシンゴには――


「そういや――!!」


 シンゴは背後へ振り向くと、変わらず右肩でゆらゆらと燃えながら揺らめいている炎の翼に目を向ける。

 片翼しかないが、もしかしたらこの翼を使えば――


「よし……ッ」


 シンゴは意識を炎の翼に集中させる。しかし、炎の翼はぴくりともしない。

 そもそも動かそうにも、この翼には感覚が通っていない。これでは羽ばたくことも不可能である。


 やっぱり普通に下りて――。


 最初の案に従い、崖から離れようとしたときだった。

 アリスがヒィースの放った攻撃を宙に飛び上がって回避するが、フェイントを織り交ぜられ、ヒィースの足技がアリスの腹部を捉えた。


「アリス――ッ!?」


 見れば、アリスは地面に叩き付けられた衝撃で気を失っている。

 アリスには吸血鬼の再生能力があるだろうが、それでも死んでしまえば助からないかもしれない。


 自分の場合は何か事情が変わってくるのかもしれないが、アリスもそうだとは言えない。例え傷を負っても再生できるのだとしても、アリスが深手を負うことだけは断じて許容できない。


 だったら、もうここから飛び降りるしか――。


「…………ッ」


 極度の緊張で時間の流れが遅く感じる中、シンゴは崖下までのあまりの高さに思わず息を呑んだ。

 震え、口の中が干上がり、鼓動が速くなる。言い訳の言葉がぐるぐると頭の中を回り始める。


 ――大丈夫、アリスなら再生する。自分がそうだったのだから、自分を吸血鬼にした『親』である彼女もきっと死ぬことはない、と。


 極限の選択。ここから飛び降りれば、もしかしたらアリスを救うことができるかもしれない。だが、己が助かる保証はどこにもない。それに助かるのだとしても、普通の人間はこんな高さからおいそれと飛び降りることは普通できない。


 なまじアリスの到着で助かったと安堵した分、追い詰められていたときの覚悟など、とうの昔に霧散している。

 どうする。飛ぶか、飛ばないか。見殺しにするか、助けるか――。


『飛べ』


「――――ッ!?」


 どこかで聞いたことがあるような『声』が、頭の中で響く。


『飛べ』


 力強く、確信を持って訴えかけてくる『声』。


『飛べ』


「――ああ」


 不思議と、この『声』が言うなら大丈夫だと思った。

 これも確信のない、勘のようなものだ。平素なら絶対にこんな選択はしない。だが今は別だ。アリスが、あの子の命がかかっているかもしれない。低い可能性なのかもしれない。だが、ゼロではない可能性。だったら、自分は、キサラギ・シンゴは――。


「――――」


 がっと目を見開く。真紅に輝く右目が熱を発しているかのように熱い。

 体は未だに震えている。歯はかちかちと情けなく鳴り、目尻にはうっすらと涙が浮かぶ。

 だが、シンゴはもう決めた。だったら、あとはもう――、


「ぉ――あッ!!」


 咆哮と同時に体を崖下へと躍らせる。

 臓腑がかき混ぜられるかのような浮遊感の後、落下が始まる――。


「うぉぉぉあああああああああああああああああああ!!??」


 猛烈な風圧が顔を打ち付け、絶叫が置き去りにされる。


 怖い、嫌だ、死ぬ――。


 そんな言葉が胸を突くが、ふと高速で移り変わる視界の端に捉えた。

 倒れ伏したアリスに向かって、ヒィースが剣を突き立てようとしている。


「させ、ねえ――ッ!!」


 その光景を網膜が映した瞬間、シンゴの中で主張する恐怖が一つ下に押しやられた。

 恐怖の代わりに浮上してきたのは、何としてでもアリスを助ける――ただそれだけの、願いにも似た強い想いだ。


 シンゴはそっと左目を閉じると、より明るく、そして鮮明になった右目の視界に全神経を集中させる。

 遠近感が狂おうが、それは奥行きの問題だ。“投げる”だけなら、それは些細な誤差にすぎない。


 故に、シンゴは右目に集中することにした。

 外すことは許されない。絶対に成功させなければならない。

 だが、不思議と緊張感はなかった。


 意識が研ぎ澄まされていくのを感じる。

 ごうごうと鳴っていた風の音が徐々に遠くなり、やがて静寂に包まれる。

 外れるようなビジョンは――一切見えなかった。


 剣を持つ方の腕を大きく引き、狙いを定める。

 そして――、


「ふっ――」


 鋭い呼気と共に、腕を振り切った。

 投擲された剣は回転しながら飛翔し、寸分の狂いもなくヒィースに向かう。

 剣を振り下ろそうとしたヒィースの体が跳ねるように反応し、シンゴが投げつけた剣を叩き落とした。


 だが、アリスの首が両断されるのだけは防いだ。

 そう認識した瞬間、シンゴは遅まきながら自分が絶賛落下中であることを思い出す。

 思い出した途端――、


「うぉぁぁああああああああああああああああああああッ!!??」


 喉から絶叫が迸る。何故、自分は飛び降りたのか。今さらながら後悔の念が胸中を占めるが、それこそ遅すぎる後悔だ。

 シンゴの体が地面に近付き、近付き、近付き――、


 ――地面に鮮やかな赤を咲かせる、その寸前だった。


 あまりの恐怖に存在を忘れていた右肩の炎の翼がぴくりと反応し、地面にぶつかる寸前でシンゴの意思に関係なく動くと、真下に向かって勢いよく一羽ひとはばたきした。

 風圧が生まれ、落下のエネルギーを削り取る。しかし、完全に削り切るまではいかず、割と洒落にならない勢いで地面に落下した。


「あ、がぁぁ……ッ!?」


 両腕があらぬ方向を向き、シンゴは痛みと落下の衝撃で意識が白濁するように不明瞭になるのを感じた。

 しかしそれも一瞬で、衝撃から意識が回復したときには、両腕の再生は既に終わっていた。


「ぅ……アリス……今のうちに――」


 シンゴは喘ぎながらも、己より先にアリスの身を案じた。

 しかし――、


「ぅ……」


 アリスは苦しそうに喘ぐだけで、未だにその意識を回復しきれていなかった。

 その事実に愕然とする。シンゴの決死の行動は、確かにアリスに訪れるであろう惨劇を退けた。だが、それは先延ばしにしただけに過ぎず――。


「あ……り、す……ッ」


 シンゴは未だ浮いているような感覚に囚われながら、必死に這ってアリスに手を伸ばす。

 ――遠い。あまりにも遠い。二人を隔てるこの距離が憎い。シンゴの手が届かない所へと大切な存在を引き離す、この空間が鬱陶しい。


 ――何かが己の中で脈打つのを感じた。


 鼓動が速くなり、血液が沸騰するように熱を帯びる。

 無情にも振り下ろされる凶刃。同時に爆発しそうなほど声高に存在を主張する、己の中の何かが――。


「――――!?」


 刃がアリスの首を斬り裂くその寸前、何者かの影がアリスとヒィースの間に割り込み、その凶刃を防いだ。

 呆然と目を見開くシンゴの目の前で、その人物は錆び付いた大剣を払いヒィースをアリスから遠ざける。


 短く逆立てたオレンジ色の髪、その青年は――、


「カズ!!」


「わりぃ……待たせた」


 カルド・フレイズの参戦だった――。



――――――――――――――――――――



「すまねぇ! ユリカを安全なとこまで送るのに時間を食ったッ!!」


 そう吠えながら、カズは素早くこの状況に視線を走らせる。

 上体を起こし、ふらふらとする頭を振っているアリス。満面の笑みでサムズアップを向けて来ているシンゴ。そして、油断なく値踏みするような視線をカズに向けて来ているヒィース。


 カズはまず、シンゴに視線を向けると――、


「よぉ、シンゴ。元気そうじゃねぇか?」


「見た目は……な!」


 そんなシンゴの返しに、「そんだけ大声出せりゃ十分だ」と笑いかけ、次いで背後のアリスに手を差し出す。


「……ずいぶん派手にやられたな?」


「君は……遅いよ」


「はは……ちげぇねぇ」


 アリスはカズと不敵な笑みを交換すると、眼前に差し出された手を掴んで立ち上がる。

 二人はその表情を真剣なものに変えると、こちらの様子を窺っているヒィースへと鋭い視線を向ける。


 一方、向けられたヒィースは――、


「『エンチャント・デ・ウィンド』――」


 勢いの弱まっていた風が息を吹き返し、ヒィースの体を覆う。

 その様子を受け、カズは肩に担いでいた大剣の切っ先をヒィースへと向ける。


「やる気十分じゃねぇか、アイツ……」


「そのようだね……」


 カズの隣にアリスが立つ。

 カズは視線を眼前のヒィースに固定したまま、隣のアリスに告げた。


「やるぞ」


「うん」


「……そこのオレンジ髪のガキ」


 不意に、今まで沈黙していたヒィースが口を開き、カズに向けて話しかけた。

 突然声をかけられ、カズは不審げに眉を寄せながら「なんだ?」と返す。

 ヒィースはそれを受け、その口の端をにやりと歪ませると――、


「あのメスガキ……ちゃんと処女は確認したのか?」


「――――ッ!?」


 アリス、カズの目が驚愕に見開かれる。

 そしてそれはシンゴも同様だ。シンゴはユリカと一緒にいたが、意識が途切れて曖昧だった時間が長い。もし、もしも、その間に――、


「ぶっ――ころぉぉぉすッッ!!!!」


 青筋をこめかみに浮かべ、修羅の形相となったカズが怒声と共に飛び出した。

 真っ直ぐ突っ込んでくるカズを見やり、ヒィースは微笑と共に「青いな――」と小さく呟く。


 何も腕力や強力な魔法、卓越した戦闘技術だけで戦局の優劣は決まらない。

 時には姑息な手段や、今のように言葉を用いた戦いは“殺し合い”の中で前述したものらより優先される場合がある。


 ――そう、殺し合いだ。


 死んでしまえば、後から「卑怯だ」と罵ることもできない。死人がどうやって口を開くというのだ。

 ここでも、ヒィースの培った“経験”が優位に働いた。


 数で不利なら、その連携を乱してしまえばいい。孤立させて、各個撃破すればいいだけの話しだ。

 上段から振り下ろされる大剣を最小限の動きで回避し、隙だらけの懐に剣を一閃させる。


 本来ならこれで一人片付く、そのはずだった――。


「ぐ――ッ!?」


 剣を握る手に伝わる岩でも斬りつけたかのような手応えに、ヒィースは顔をしかめる。

 しかし動揺は一瞬。すぐさまその場から転がって離れると、一瞬遅れて大剣が地面を抉る。


 回避したヒィースが身を起こして己の獲物をちらりと見ると、刃先が刃こぼれしていた。

 咄嗟に先ほどの異様な手応えの正体を探るべく、ヒィースは目の前で振り返ったカズへと視線を送る。


「『エンチャント・ド・グランド』――」


 そう呟きながら振り返ったカズの服は切り傷で破れているが、その下の肌には傷一つ存在しなかった。

 それを受け、ヒィースは呻くように呟いた。


「硬化魔法……それも、刃を通さないほどの……ッ」


「まだまだ行くぞぉッ!!」


「ちっ――」


 再び突貫してくるカズの攻撃をいなしながら、ヒィースはもう一つの獲物である鉄線を振るいながら応じる。

 すると、その背後から――、


「ボクを忘れてもらっちゃ困る――な!」


「――――ッ」


 ヒィースの意識の隙間を突くように、アリスの足技が連続で放たれる。

 咄嗟にその場に飛び上がり、先ほど落下しながら学んだ方法で致命傷となるであろう数発を剣で防ぎ、『吸血鬼』の力を後ろへと飛ぶ力へと変換させて受け流す。だが、防ぎきれなかった攻撃が肩や手足に被弾する。


 顔を苦痛に歪ませながらさらに距離を取ろうとするが、カズとアリスはすぐさま距離を詰めて追撃を加える。


「クソがぁぁ――ッ!!」


 ヒィースは咆哮と同時に風を纏わせた鉄線を大きく薙ぎ払い、猛攻をしかけてくるカズとアリスをなんとか退かせて体勢を立て直そうとする。

 その攻撃に対し、アリスは連続で美しいバク転をしながら距離を取るが、カズは――、


「おぉ――ッ!!」


 その場に足を開いて腰を落とすと、迫る鉄線を己の体に巻き付けるようにして捕えてしまう。

 巻き付き、回転する鉄線の先がカズの胴を鋭く打ち付けるが、硬化魔法の力で耐え抜く。


 だが、これで実質カズの動きは封じられてしまったようなものだ。

 ヒィースはそこに勝機を見出し、咄嗟に頭の中で戦術を組み立て――


「――――!?」


 不意に、動きを封じられているカズの口の端がにやりと持ち上がった。

 あの束縛を抜け得る手段があるのか、それとも――と、ヒィースは視線をアリスへと向けるが、アリスがいる場所はすぐにどうこうできる距離ではない。であれば、魔法か――と、あらゆる可能性を瞬時に考慮する。


 しかしその“可能性”は、ヒィースの全く予期していないものだった――。


「俺のことも忘れてんじゃ――ねえよッ!!」


「が――ッ!?」


 背後から迫っていたシンゴが、ヒィースに渾身のタックルを繰り出した。

 森での鬼ごっこに加え、アリスとの空中戦、そしてカズとアリスの二人による攻撃。

 これらを経たヒィースの集中力は、さすがに脅威に成り得る全ての対象に割く余裕はなかった。故に、ヒィースは無意識のうちにもっとも戦力にならないであろう者――キサラギ・シンゴの存在を意識から除外してしまっていた。


 これは普段の彼なら絶対にしない失態だ。だが、あの『吸血鬼』に加え、強固な硬化魔法を扱うこの二人の攻撃に一人で対処していたヒィースは、その注意を全てこの二人に注いでいたのだ。


 ――そこに生まれた隙を、見事に突かれた。


 もつれるようにして倒れ込むシンゴとヒィース。

 だが、ヒィースはすぐさま刃こぼれした剣をひるがえすと、纏わり付くシンゴの顔面に向かって降り抜こうとし――、


「させるかよぉ――ッ!!」


「ぬぅ――ッ!?」


 カズは己に巻き付いている鉄線を、その体ごと全力で引っ張った。

 結果、手に巻きつけるようにして鉄線を装備していたヒィースの左手が引っ張られ、右手で振るわれた剣は軌道を逸れてシンゴの頬に一筋の切り傷を刻んで地面に突き刺さる。


 先ほどカズの硬化魔法を斬り付けた際、思っていたよりガタがきていたらしい刀身がその衝撃により、キン――という甲高い音を立てて折れた。

 しかし――、


「ああ――ッ!!」


「な――!?」


 シンゴが目を見開いた先で、回転しながら飛んで行こうとする折れた刀身を咄嗟にヒィースが素手で捕まえた。

 手から血しぶきが舞うが、そんなことなど気にした様子もなく、ヒィースは底冷えするような、そしてどこか自暴自棄に感じる笑みを浮かべると、唖然とするシンゴをぎろりと見下ろし――、


「ただじゃ――」


 シンゴの顔面を目がけ――、


「終わらねぇ――ッッ!!!!」


 振り下ろす――が、


「させないよ」


「おぶ――ッ!?」


 この数瞬のやり取りの間に距離をゼロにしたアリスが、ヒィースの顔面を蹴り飛ばした。

 猛烈な勢いで体を錐揉みさせながら、地面を何度もバウンドして吹き飛んだヒィースの体は、やがて地面を抉りながら制止した。


「――――」


 ――完全に沈黙。


 こちらを向くように倒れているヒィースは白目を剥いており、前歯は全て折れ、鼻からは大量の血が流れ出ていた。

 十秒に近い沈黙が場を包む。その沈黙を最初に破ったのは――、


「ば……ばふへおお(た……助けろよ)」


「「あ」」


 鉄線で繋がったままだったヒィースの体に引っ張られ、口の中を土と小石で一杯に満たされた簀巻き状態のカズが、顔面を地面に擦りながら訴えかけた。

 呆けた声を上げ、二人は慌ててカズの元へと駆け寄る。


 こうして『リジオン』の村で起きたシンゴとユリカの行方不明事件は、複雑に絡み付いた鉄線を解くのにシンゴとアリスが悪戦苦闘する間、口に入った土を飲み込んでしまったカズが盛大にむせるという、少々情けないやり取りで幕を閉じた――。



――――――――――――――――――――



「ふーん」


 ようやく鉄線を解き終えたカズに怒鳴られ、しゅんとなるアリスをシンゴが懸命に慰めるという残念コントを繰り広げる三人。そんな彼らから少し離れた所にある一本の木の枝に腰かける少女は、素足を前後へ交互にぷらぷら遊ばせながら、今にも鼻歌を歌い出しそうなほどの上機嫌で感心するように呟いた。


 その少女の髪は透き通るように白く、肩にかかるくらの長さだ。

 そして髪の色と同じく、着ているワンピースのような服は上から下まで白一色。


 上から下まで真っ白な少女は、その“真紅の瞳”を楽しそうに細めると、納得したように口を開いた。


「なるほど、アレが彼の言っていたアリスか。ふむ……これはとんだ拾い物だ。こちらとしては大変都合がいい」


 やがて、白い少女は艶やかな微笑を纏い――、


「いずれまた会おう。『怠惰』な少年。そして――『虚飾』のアリス」


 そう呟くと、木の枝からそっと飛び降り、少女は地面にぶつかる寸前――影に吸い込まれるようにして――消えた。



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