さようなら僕、こんにちは僕
背景、神様。
気が付けばどことも知れぬ場所に居て、自分が誰だかわからなくなっている。
そんなこと物語の中でしか起きえないと思っていましたが現実でも起きるものですね。
とりあえず半身を起こし状況確認。
寝転がっていたのはベッドの上。
木組みの簡素な一室は、不思議なほど生活感を感じさせない。
造られて間もないのか、いやまるで先ほど作られたようで。
「お目覚めになりましたか」
突然背後からかけられた声に、驚きのあまりベッドから滑り落ちる。
けたたましい音をたて、背中に痛みを感じながら目を開くとそこに逆さまに映るのは侍女服を着込んだ白髪の若い女、メイド。
思わず目を閉じて夢の世界へ逃避を試みてしまう。
「お目覚めになったのでしたらまずはこちらを」
しかし目の前のメイドはこちらを気遣うことなく一方的に話し続ける。
渡す、というか顔の上に置かれるのはハードカバーの本。
「…なんです、これ?」
恐る恐ると言った調子で聞いてみると、以外にもメイドは素直に答えてくれる。
「貴方様のかつて書いていた手記です。目覚めたらお渡しするように言いつかっておりましたので」
かつての記憶の便りとは、随分とべたなものだ。
そう思いながら表紙をめくる。
そこに綴られた文字は日本語で、そうか自分は日本出身だったのだろうかとぼんやり思う。
っまず初めに名前、いりえ…けい?だろうか。
『これを読んでいるということは私は賭けに勝ったということだろうか。
いや、まだ始まったにすぎないのだろう。
君はおそらく現状をさっぱり理解できていないに違いない。
とりあえず、サテツに現状、当面のことについては説明を任せることにしてある』
「このサテツってのは…」
「貴方様が私に下さった名前です」
即答にどこかしら会話のしにくさを感じながらも、視線を戻し手記を読み進める。
『君には才能がある。
僕は君に今後僕が戻るまでのことを一切任せることにする。
押し付けてしまうようですまないとは思うが僕ももう限界だ
さようなら、まだいない人』
それ以降のページは手紙ではなかった。
それは子供向けの漫画や小説で目にするような絵空事。
魔法の使い方、そう銘打たれたそれをちらりと見て手記を床に投げ捨てる。
「えーっと、サテツさん?悪いけどいいって言うまで外に出て行ってもらえるかな」
返答は無言で、静かに戸を閉めいなくなった。
再び一人きりになったので、今度は目を閉じ、積極的に意識を手放した。
目が覚める。
窓のないこの部屋は空気が澱んでいて堪らない。
のろのろと身体を起こすと戸を開け放ち外へ一歩を踏み出す。
視界に広がるのは一面の森と、仕事を待ち続けるように直立不動のメイド服の女。
「手始めに、何をしろと?」
「まずは魔法の練習をします。そう言われましたので」
ドッキリ大成功の札は、出てこないようだ。
第二プロローグ的なものになります。