No.2 目覚めて
勇者が召喚された同時刻、彼は目覚めた。いや意識が突然発生したと言えるだろうか。数秒無反応だったが寝起きに似た状態だったからだろう。周りを見渡そうとして自分の身体が動かないことに気づき、どういう状況か聞こうとして、
『あ、夢だ。』
彼がこう思っても不思議ではないだろう。感覚の無い世界といえば夢か全身麻酔を受ける病院内ぐらいである。彼は自分が入院する程の怪我をした覚えはないし、そもそも怪我も病気も無縁なのである。また彼にしかないであろう、ある感覚が此処が現実でないと教えてくれる。厳密に言うと地球上ではないという事を教えてくれている。
『にしても実際には見た事ない景色だな。
あるっちゃあるんだがな。
まさかあの二人もここまでは出来ないだろうし。
・・・出来ないよな?
だって此処は普通だったらゲームの画面でよく見る光景だしな。』
黒を基調とした暗く広い部屋。その広さは家一つ余裕で建てられる程である。壁際に松明のような物があるが火は灯されていない。その壁にはまるで地獄の光景を映し出しているような気持ち悪い装飾がされており時折ピクッと蠢いているような気がしないでもない。自分のいた所は鉱物で出来ているような光沢のある無駄に大きな椅子。此方にも悪趣味な装飾がされていて気の弱い人が見たら気絶してしまうだろうと予測が出来る程だ。上を見上げれば無駄に遠くに天井が見える。天井にも以下同文。前には廊下と思う程長い間を空けこれまた無駄に大きな両開きの扉。これにも以下同文。画面上でしか見ることが出来ない一部屋。彼には馴染みがあるが普通はまだ見れない筈の光景である。こんなことをしそうな人物に心当たりがあるが出来ない事を願いつつ目の前の景色を言葉に表す。
『これは、まさしく魔王の部屋でしょう。
恐ろしいデザインの模様がそこら中にあり禍々しくも何処か気品に溢れる雰囲気。
絶対戦闘を意識して作っているだろう広さ。
まさに魔王部屋、ボスがいる部屋です。
ゲームの知識が役立つ瞬間だな。
どんだけゲーム好きなんだよ、俺。』
さて、夢と自覚出来る夢って初めてだな、白昼夢っつうんだったっけ?と思いながらなんで動けないかを考え、そういう夢かと思ったその時!
バタバタバタッ!
ギギ〜ッ!
彼が自問自答をしていると何かが走ってくる音が段々近づいてきて扉の前までくると無駄に重そうな音を出しながら扉が開いた。そして扉と同じくらいの大きさの何かが、
「魔王様!お目覚めになられたのですネッ!」
最後だけ高くする喋り方をしてきた。これには彼も堪らず驚きの声を上げた。
『うぉっ!なんだっ!』




