3.オヤカタとオットセイ ~ISOの壁を塗れ~
今回のお題
・ISO
・塗装
・おっとせい
ISO……国際標準化機構。
電気分野を除く工業分野の国際的な標準である国際規格を策定するための民間の非政府組織。本部はスイスのジュネーヴ。スイス民法による非営利法人。公用語は英語、フランス語、ロシア語。各国1機関が参加できる。
そのISOの会館の壁が、一部剥離してしまった。
これはそのISOの壁をもう一度塗りなおす、あるオットセイの物語である――。
「オットセイ。こっちだ」
「おうっおうっ」
オットセイは頭に刷毛の入ったペンキ缶を乗せながら、オヤカタについていった。
オヤカタは昔ながらの頑固な職人だ。
そんな彼がオットセイを自らの弟子にした、というのは各界に波紋を呼んだ。
「本当にオットセイにペンキ塗りなんてできるのか?」
しかし、その質問はオットセイの仕事ぶりを見て答えとされた。
オヤカタとオットセイの『塗り』は、見るものすべてを圧倒させたのだ。
「いらっしゃいませ。オヤカタさん」
オヤカタたちを迎えてくれたのはスーツをきっちりと着こなした男だ。
「おう。んで、どこが剥離したってんだ?」
「おうっおうっ」
「はい。あちらの壁になります」
と言って指したところはなるほど。すっかりと剥げ落ちている。
「数日前、あちらに雷が落ちまして……ご覧の有様です」
「なるほどな。んで、オレっちらに直してほしいと」
「そういうことです」
「ふむ。……おいオットセイ。できるか」
「おうっおうっ」
「決まりだ」
ニヤリとオヤカタが笑うと、
「早速仕事にとりかかる。ちょいと派手にやるから見物でもするか?」
さながらそれは、イタズラをするような子供のような微笑みだったという――。
「よーし、それじゃやるぞ、オットセイ、準備はいいか?」
「おうっおうっ」
周りがざわつくなか、オヤカタとオットセイはそれぞれ持ち場についた。
オヤカタは建物から左側に。
オットセイは右側についた。
そしてオヤカタは刷毛を取り出し、オットセイに投げた。
ペンキのついた刷毛は回転がかかっていないのか、そのままオットセイに飛んで行く。
「おうっ!」
オットセイは刷毛をヒレで天高く打ち上げた。
刷毛は壁にメタリ、と張り付いた。
「おうっ! おうっ! おうっ! おうっ!!!」
メタリメタリと、刷毛は張り付いていく。
やがてある程度張り付いたところで今度はオヤカタがボールを取り出した。
「おうっ!!」
オットセイはボールを見るやいなや、それを刷毛が張り付いているところに弾いた。
ボールは刷毛に張り付いた、と同時に他の刷毛を巻き込んで行く。
大量のペンキが付けられた刷毛は壁に張り付きながら、剥離した壁に色を塗っていく。
それを繰り返しているうちに、壁はあっという間に塗られた。
「いやぁ……大したものです。どうですか。このままISOの専属壁塗りとして……」
「悪いが。俺達は佐渡に帰るよ」
そう言うとオヤカタとオットセイはクールに去っていった。
オットセイとオヤカタ。
明日はどこの壁を塗りに行くのか。