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五話目

「痛い」


 気が抜けて後ろに倒れてしまった。アーツ・インパクトで抉れた地表は堅く、無防備に頭を打ち付けると当然痛い。

 あぁ、今度の空は雲はあるが太陽が出ていて眩しい。短時間で3回こうして空を見たが、どれも違うな。当たり前か。


「動く気になれないな。どうするか」


 出来ることなんかこのまま空を見続けるか、そうだな。

 ナイフを手放し右側の腰に付いている袋に手を入れる。そこから出てくるのは当然ゲーム機だ。目の前に持ってくると太陽が隠れた。


「ステータスでも確認してみるか」


 まずは自分のステータスを確認するが見た限り変化はない。所持ゴールドが増えたくらいだろうか。


「あれだけ倒してレベルも上がってないとかね」


 レベル上げ辛すぎるだろう。

 もしかしたらレベル差があるとレベルが上がらない仕様なのかもしれない。


「何と言うか、納得したくないな」


 それでもとりあえず次。ギルドメンバーのステータスだ。カミナシが俺のスキルの俺の知らない情報を持っていたくらいだ。何か発見があるのかもしれない。

 だが、困った事が発生した。

 自分のステータスの所属ギルドからギルドページに飛ぶつもりでいたのだが、そこに表示される情報がギルド名、ギルドレベル、所属人数の3項目だけなのだった。


「どうなってんだよ。あれか。ギルド情報からギルドメンバーのステータスを確認するだけで条件があるとか、か?」


 それは問題だ。もし条件が街の外か中かと言った物だとすれば動く気になれないとか言う理由でここに居てはステータスを確認出来ない事になる。

 かと言って動こうにも体が上手く動いてくれないのだ。肉体を酷使しすぎるとペナルティがあるのか。

 それなら破壊の中心地である此処から動かないのが得策だろう。



 ゲーム機を袋に戻し、やる事の無くなった俺は戦闘を振り返る。

 まず、相手の数は多かったが、結局ダメージは無かった。

 無傷で戦闘を切り抜けられるのなら、それほど良いことはない。当然多少の被弾は覚悟するべき時はあるのかもしれないが、それでもダメージは少ない方が良い。


 ならなかなか上手く戦えたのかと言うとノーだ。

 まず1人前に出すぎた。もっと仲間に近い位置で戦っていたなら3人も倒れる事は無かったかもしれない。


 次に訳が解らないと言う程度の理由でアーツ・インパクトを使用しなかったことだ。

 あれを早い段階で使っていれば今は街に戻れていた気がする。

 しかも、だ。今思えばナイフを投げた後も素早さの補正は残っていた気がする。だが、武器を投げると言う行為は推奨されないだろう。ようするに、結局は俺の使いどころと言う訳だ。


 と言うか、逃げ出したモンスターを追ったのはダメだっただろう。かなりの数が残ってたのに何で追ったんだか。今はリスクを背負うべきではない。ゲームなのか1つの世界なのかすら解ってないが、命が懸かると言われては無茶をする訳には行かないだろう。



 そう考えると、俺がこのギルドで上手くやっていけるのか解らなくなってくるな。

 魔物呼びと言うのがどれほどの性能か解らないが、ハードモード以上にモンスターの壁があったように見える。

 ふと思ったが戦わなくても街の中で生活出来るだろう。が、すぐに否定する。


 そこで、ここが異世界だった。という風に考えてみると、ナツのスキルであれだけの数を呼べるほど、地中には大量のモンスターが居ることになるのではないだろうか。


 そうなると、色々な憶測が脳内に生まれる。

 魔王が居る世界。更に拠点が破壊されるというキーワードも見た。

 それだけで力を持たずにこの世界で生活するという行為の危うさに気づいてしまう。


「そうか。与えられた情報はプレイヤーを戦わせる為の布石だったのか」



 何も考えなければ、魔法もあり、魔王も居る。そして拠点さえあれば生き返れる。それだけで勇んで戦うだろう。

 そして考えてみれば、脆い生活基盤に気づき、何もしない訳にはいかないと最低限でも力を得ようと戦うだろう。

 何も考えず最低限の力を持たず平穏に過ごそうとする存在もいるかもしれないが。



「最低限?」


 それは、どの程度だ? この周囲のモンスターと問題なく戦える程度か? それなら俺は最低限を満たしているだろう。

 だが、最低限を最低限で無くすにはどうすればいい?

 簡単だ。最低限の基準を引き上げればいい。最低限に居た奴が停滞してる限りそれは不足となる。


 そうすれば、最低限の力を持とうとするプレイヤーは更なる力を求めるだろう。少し前まで最低限だと思っていた力は最低限では無かったのだから。

 だが、だとすれば更なる疑問が生まれる。


 最低限の基準を引き上げられるなら、何と戦おうとしているのか。

 魔王が居て、それと戦うだけか? それなら死に戻れてやる気のあるプレイヤーでも出来るだろう。そして死に戻る最低条件である拠点もそこを守るのは生活を守るのに最低限の力を持ったプレイヤーだ。


 いや、最低限だと思わせておいてそれを遥かに凌駕する何かを当てればそれは最低限では無いだろう。

 だが、魔王と戦わせるつもりなら何故最後まで平和という可能性を示したのだろうか。


 魔王以外が真の敵? 例えば人、とか。プレイヤー対プレイヤーの戦いが目的なら最低限の引き上げが行われる可能性が減るが、だとすれば異世界に引っ張り出す理由が解らない。

 何か戦わせたい何かがあると考えるのが自然なのだが。



「考えすぎか?」


 いや、考えられる時に考えられるだけ考えるべきだ。そして考えるには情報が必要だろう。


「情報を集めるには、まずは人の居るところだ」


 まだ体の動きは重いが、戻る分には十分に回復しただろう。

 体を起こすと近くにカミナシが居たことに気づく。


「待たせたか?」

「いえ」

「そうか。なら帰ろう」


 俺は進み始める。少し先をカミナシが進む。時折振り返り、また進む。

 やっぱ俺はこのギルド、一匹狼の家に居よう。際限なく引き上げられるかもしれない最低限の力を得るのには最高の居場所だ。


 更に一度、死のことは忘れよう。レベル上げはある程度安全に行っていくが、とりあえずハードモードとネットワークモードの関係性を確認することも必要だろう。もしかしたら最低限のラインを引き下げることが出来るかもしれない。


「ハルト様は何か決められたようですわね」

「と、言うと?」

「ふふっ。顔つきが変わりましてよ」


 頬を引っ張ってみる。ぐにぐにと。

 顔つきね。そんな簡単に変わるものだろうか。


「何かありまして?」


 何か、か。言うとすればこれだろう。



「運良く帰れる可能性を上げる為に活動することにしただけだよ」



 最低限を無くす方法は簡単だ。最低限の必要性を無くせばいい。それなら、帰るのが一番簡単に出せる答えだろう。間違っても魔王討伐とかは考えない。それが間違えている可能性もあるし、他にやる奴もいるだろう。


 先輩の教えの通りに、ひたすら動いて、頭も使って、最後には運にまで頼って他の選択肢も見つけ、試させる。俺が求めるのは目的を成すのに必要最低限の力だ。それ以上を目指す時間は調べるのに使う。それで俺は、生きて帰る。



「帰りは運頼みですの?」

「用も無く呼ばれるとは思えないからな。だが、用事が済むかどうかは、運の要素が強い。更に戻る手段が無い可能性も否定出来ない。そこも運次第だな」


 カミナシが足をとめた。俺は数歩追い抜いてから振り返った。

 カミナシは数度口を開いては躊躇うように口を閉じてを繰り返した。そして一度首を振るとついに言葉を発した。


「ハルト様はよく考えているお方ですわね。でしたらこの私が微力ながら力を添わせて頂きますわ」


 きっと最初に言おうとしたのは別の言葉だろう。

 そうでなくてはその台詞をそんな悲しげな表情で発する事はない。


「あぁ、助かる。ありがとうな」


 その表情は見なかった事にした。内心何を思っているにしろ、彼女が口にした言葉が彼女の答えなのだから。


「いえ、私はカミアリ様をお家までお返しする義務がございますので。それにハルト様はよく無茶をするようですし。恐らく現在最も帰る方法について深く考えているのはハルト様ですわ。その貴方が倒れる事があっては義務が果たせなくなるかもしれませんわよね?」


 義務という理由を出してきた。この理由でカミナシが動く場合、どれほど動けるかはカミナシの責任感次第。

 そしてその責任感が強ければ俺に彼女達を帰すという義務が発生する。丁度良い。俺が帰る為に動く理由が弱かったところだ。利用しよう。


「あぁ、任せろ。俺が皆を元の世界へ帰す」


 俺を追い込めば、俺の最も得意な理由が出来る。これで俺は帰る為には全力を出せるだろう。

 俺の得意な理由。それは先輩の二の舞にならないようにする事。先輩の言葉は先輩の経験を元に生まれる。何かあった後に何も考えずに口にする感じだ。だから言う事が一転二転する。五回転くらいするかもしれない。

 そんな先輩が唯一意見を転じなかった事。


 この世で馬鹿にしちゃいけない物はいくつかあるが、俺が思うに本当の馬鹿と何か大きなことを決意した人間の行動の理由は絶対に馬鹿にしちゃいけない。本当の馬鹿を馬鹿にすると絶対に後悔する。もう片方はな、保険だよ。大事を決意させるほどの理由を馬鹿にした所で揺るがない可能性が高い。それが決意だからな。だけどな、もし理由を壊せてしまえばな、そいつは本当の馬鹿より性質の悪い馬鹿になる。後悔も凄いぞ。



 どうせこれにも先輩の失敗談が付きまとうのだろう。人を馬鹿にしてキレられて、痛い目を見たとかそんな。

 普通、意見が変わりやすい人間の信用は低い。だが先輩の言う事には失敗が付きまとう。しかも毎日とは言わずとも毎週5回は失敗してるんじゃないかというくらい色々な事を言う。そんな先輩との付き合いが長くなると、先輩の失敗を知る事があるのだ。


 というか本当に先輩が何かやらかせば、何故か色んな人がその話を教えてくれる。決して先輩が嫌われており、こんな事する奴とは縁を切っておけとかそう言う事ではない。先輩は多くの人に好かれていた。だが、先輩は明るいキャラではあるが、周りと距離を置くようだ。自分と他に1人を除いて。


 先輩は失敗しても明るく振舞う。だから慰めの言葉も軽い物になる。しかし同時に回りは先輩は物事を大きく受け止めすぎる性格であることを知っているのだ。だから代わりに先輩を慰めてくれとかそんな感じで失敗を聞く事が出来る。そして話を先輩の周りの人から話を聞いた後、先輩に合ってみると大抵落ち込んでいる。


 話を聞く事無く先輩が落ち込んでいる時は回りが気づかないくらい些細なミスをした時だ。まぁ、最初は落ち込んでいる先輩と落ち込んでない先輩の区別が出来なかったのだが。

 そして先輩の話と先輩の周りの人から聞く失敗談の両方を聞いていると先輩が前をしっかり反省していることに気づくのだ。


 だから、と言う訳では無いが先輩の言うことは信用している。多すぎて全部を覚えて行動に移すことは無理な為、先輩が深い落ち込みから帰ってきた時に約束させられる事を都合良く解釈した物となんとなく共感した物だけ覚えるようにしているのだが。


 まぁ、長くなったがより強い理由を作れば後は動くしかない。


「まず街に戻ったらこの世界について調べるだけ調べよう。更にハード、ノーマル、ネットワークの関係も確認したいな」

「何もヒントが無いのですから、身の回りから確認するのですわね。解りましたわ。私も存分に動きますわよ」

「それなんだが、カミナシは一旦キャラレベルを上げ、ギルドレベルを上げる事に集中してくれ。ギルドメンバーが増えればそれは人手の増加になる。他の拠点があるなら、そこでの情報も欲しい。少し大所帯になるが、ナツのユニークを考えると戦力は多い方が良いだろう」


 それにギルドメンバーを増やし、全員ある程度まで戦えるレベルまで鍛えられれば最低限、またはそれを越える戦力が出来る可能性が上がる。戦えると戦えないのとでは、根本的な所で違うのだ。


「ナツ様抜きで考えてもよろしくて?」

「俺からも頼むが、何より俺は帰る為の手段は選ばないぞ。使える物は全部使う。使えない物もどうにか利用するくらいの気持ちでな」

「それなら私が使えない物もハルト様が使いやすいようにしますわ。人も、物も。」


 他のギルドメンバーが全滅した中、唯一残っていた事も相まって凄く頼もしい。だから俺は彼女の期待に応えるしかない。そう言う風に追い込むのだ。


「あぁ、俺は絶対にその働きに応える。まずは、一歩だ」

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