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三話目

 酒場を模したようなギルドハウスの中には3人の男女が居た。その内2人は胸ほどの長さの黒髪でつり目気味。よく似た容姿をした女性。もう1人はツンツンヘアの男。すっごく睨んでくる。


「ハルトさん、この三名が新しく入ってくれた方々ですよ」

「あぁ、よろしく」

「「よろしくお願いしますね」」


 完璧に合った返答によく似た声音。アバターが偶々一致したとかそう言う次元じゃない気がする。リアル双子なのか、前々から練習していただけなのか。


「カミナシと言う名でやらせて貰ってますわ」

「カミアリと言う名でやらせて貰ってますわ」


 10月か。そうか。10月なのか。

 もう1人の方へ目を向けると相変わらず睨んできていた。少し怖い。


「彼はシンヤ君ですよ。目つきが悪いだけでシャイな子なので皆優しくしてあげてくださいね」


 紹介したのはシンヤ本人ではなくナツ。本当に恥ずかしがり屋なだけかもしれないが、怖い。


「ん? ナツとシンヤは知り合いなのか?」

「ほら、言ってたじゃないですか。予約している人が居るって。その1人ですよ」


 なんとなく納得した。シンヤはナツと仲良くなりたくて一緒にこのゲームをするところまで漕ぎ着けたが、今ナツの隣に居るのは俺だと。そう言うことか。


「それじゃ、簡単に自己紹介も済んだことですし、戦いましょうか」

「良いですわね」

「現状ゴールド集めるよりもレベルを上げる方を優先するべきでしょうか」


 10月コンビが最初から意見を出せるとは、ある程度まで規模が大きくなるまでは安心出来るかもな。


「じゃぁ、ウォードッグ50匹がいい感じですよね」

「おい、ちょっと待て、ウォードッグってまともに倒せるプレイヤーがまだ居ないんじゃなかったか?」


 お、シンヤも口を開いた。まぁ確かにまともに倒せるプレイヤーが居ないようなモンスターを大量に狩るとか正気じゃないように感じるだろうな。


「あぁ、ハルトさんが頑張ってくれるので大丈夫ですよ」


 そしてナツは俺を見ると、口だけで笑った。


「確か、鉄製の武器持ってましたよね」

「あぁ、そうだが」


 何やら他の面々が衝撃的なことがあったかのような顔をしている。

 俺としては初期から持っているだけのアイテムなのだが。


「待ってください。どちらのモードも鉄という素材は発見されてないはずです。現状の最高装備は初期の木製武器にウォードッグ製の素材をくっ付けた程度の物のはずですわ」


 詳しいな、と思うのは俺だけだろうか。それとも俺の知らない情報源があったりするのだろうか。


「なんて言うか、貰った?」

「それこそ納得出来ないのですけれど、でもそうでもしないとゲームバランスが……」




 ゲームバランスという単語を聞いて俺はまさか、と思った。

 ハードモード選択者に最初からある程度の力を与え、ノーマルモード選択者にはゲームの初期相応の装備を与えておく。そしてこのようにして投げ出された時、プレイヤーだ頼るのは同じ境遇の人間。そう、ネットワークモードだ。


 だが、ネットワークモードは多人数プレイ相応に高レベル、いや、ハードモードで特別に力を得たプレイヤーが参加する前提の難易度だとすれば、だ。

 ウォードッグがハードモードに居た犬だと仮定するとノーマルモードのプレイヤーはそれにすらまともに対抗出来ないという。が、ハードモードの俺はそいつを一匹だけ、普通に倒した。

 この戦力差を考えるに、このゲーム、いやこの世界は、ノーマルモードプレイヤーがハードモードプレイヤーにおんぶだっこ前提の世界という事になる。


 あれ、これ超絶クソゲーじゃねぇか。いや、そもそもノーマルモードで地道に力を付けるか、軽く初見で死ねるハードモードでサバイバルする二択だったんじゃ。俺は運良く生き残れたと。

 いや、もっと根本的な事を考えよう。



 もしこれが、本当に異世界にぶっ飛ばすという行為だった場合、何故わざわざ三つに分けたのか。

 都市があったりと色々すでに違うが、同じ世界だとして各モードでそれぞれやるべき事があるんだとすれば。いや、もし同じ世界だとすればノーマルとハードがソロプレイになっている辺りで矛盾が発生する。

 未来は分岐すると言われるが、過去は1つだ。


 いや、この話は後で良いだろう。問題は何がこの世界をクソゲーにしたかだ。

 はっ! ここでリアル異世界説が光るんじゃ。3つのタイミングでやらせたい事があり、最も難易度が軽いところをノーマル、どうしようもない高レベルの所をハード、そしてその間の難易度のタイミングがあり、そこがネットワーク。


 この世界には魔王という存在がいると言う。それらが攻め込んでくる予定だが、他の難易度で条件を達成しておけば、その活動を抑止出来ると、お、なんかそれっぽい。


 だとするとハードモードもプレイしないとネットワークモードが大変なことに。

 だからノーマルとハードがソロプレイ前提である時点で色々おかしいんじゃ――



「――ハルトさん? ハルトさーん」

「ん? あぁ、どうした?」


 思考に熱中してた。危ない危ない。いや、アウトか。シンヤの目つきが危ない物を見るものになっている。


「私そろそろ戦いたいんですけど、良いですか?」


 ナツは気にしてないようだ。と言うか戦いたいだけか。人は見た目と行動でも判断出来ないものだ。いや、判断出来たな。なら少し話したくらいじゃ人の本質は解らないものだ。こっちが正解か?


「あぁもぅ。また何か考えてますよ」

「いや、済まない。そうだな。これは今考えても仕方ないからな。行くか」

「悩み事なら相談に乗って差し上げてもよろしいですわよ」


 カミナシかカミアリかどっちか解らないが、どちらかがそんな事を口にした。


「あぁ、ありがとな。ナツの戦闘熱が冷めて、ギルドの方が忙しくなかったら話すことにするよ」

「えぇ、待ってますわ」


 話すべきなのは3つのタイミングでそれぞれやるべき事があると言う仮定だろう。

 だが、話せば唯一のハードモードの生き残りである俺はあのモンスターしか居ない世界で何かしなければ行けないと言う事になる。安易に約束するべきじゃなかったか。


「早く行きましょうって」


 どうやらナツはもう待ちきれないようだ。そうだな。戦闘でもこなせば雑念は消えるだろう。考える時に考えて、戦う時には戦う事だけを思う。そうしないと俺は三千人以上を殺したモードで倒れてしまうだろう。


 ハードモードでまともに戦ったのがチュートリアルのゴブリンだけなのだ。それじゃぁ全く経験が足りない。貴重な戦闘の機会を潰すのは勿体無いという物だろう。

 ギルドハウスから出て右手に少し進めばすぐに外だ。装備を選択しなおし、俺は街の外へ出た。




「お、ハルトさんも来ましたね」


 外に出てみると、ギルドメンバーが揃っていた。先に全員出るのを確認した為、当たり前と言えば当たり前だ。

 それぞれの装備はナツが自身の身長を越える杖、カミアリ、カミナシ共に弓、シンヤが木刀と言った感じだ。

 俺は右手にナイフ、左手に鉄の棒という現状持っている装備すべてという状況だ。

「本当に鉄製武器ですわね」

「このナイフなんて現状のプレイヤー総資産でも買取出来ないほどの質に見えますわ」


 俺の装備を見る2人の目はまだ良いが、他のプレイヤーらしき人の視線が怖い。


「この辺りモンスター寄って来なさそうじゃん。少し向こうに行こうぜ」

「ハルトさんも戦いたい人でしたか。解ってますね」


 ナツ、悪いが俺は人の目を避けたいだけだよ。




 街から離れて行くにつれ、モンスターが襲ってくる頻度が増えてくる。

 それを俺はある程度近づいてきた時点で叩きのめすだけだ。簡単な仕事である。あと、ウォードッグははやりハードモードで見たあの犬だった。


「このまま俺が1人で掃除してて良いのか?」

「「経験値は入ってるから大丈夫ですわよ」」


 そこの2人は仲が良いようで何よりです。


「そろそろナツのユニークスキルが発動するから問題無い」


 シンヤがサラりと言った言葉は聞き流して良いのだろうか。ダメだろう。


「ナツのユニークってなんだ?」

「え? あぁ、それは――」

「え? 私の話題ですか?」


 魔法使いっぽいのに先頭を歩いていたナツがこちらを振り向いた瞬間、地面からやや緑色を手や、ウォードックの頭が出てきた。

 これは、あれだな。ハードモードで見たやつだな。



「――魔物呼びだ。忙しくなるぞ」

「おっ、来ましたね。やっと楽しめます」

「「ハルトさんが9割引きつけてくだされば残りはどうにかなりますわ」」


 辺り一面モンスターの9割引きつけてもかなり残ると思うぞ。ってか俺HP回復してない。そして死ねないんですが。


「行きますよ。ファイヤーボム」


 ナツは火球を生み出し、カミナシ、カミアリ共に左右に弓を構える。シンヤは正面で木刀を構え、全員やる気だ。

 そして俺の実力を信用されている。とても逃げるに逃げられない。


「はぁ、また戦わないと死ぬ奴か」


 やっぱ後でしっかりハードモードについて説明してやろう。どんなに面倒な事があっても命とは天秤に架けられない。


「では、リスポン地点で会いましょ」

「「解りましたわ」」

「あぁ」


 あれ、皆死ぬ前提じゃねぇか。これは信用されているとしても討伐数を稼ぐとかそう言う意味か。



 ナツの火球が地に落ちた瞬間戦闘が始まった。俺は死ねない。全力で戦うしか無いようだ。逃げることも考えよう。

 火球が爆ぜた。これだけでそこそこ討伐数が稼げたようだ。確かに死に戻りマラソンには都合が良いな。ところで残されたモンスターは放牧してるのか? それは問題だぞ。


 と、考えている間にも戦闘は続く。

 カミナシが右、カミアリが左に弓を放ち、ナツが前、横に火矢をばら撒き、シンヤがモンスターを叩きつける。偶に切っているのはスキルによるものだろう。そして残った俺は後ろをやれと。

 手を抜けば、死ぬ。なら全力でやるだけだろう。


「なぎ払い!」


 まずは群れで接近してきたのを蹴散らす。13レベルまでレベルを上げるだけでそれなりにスキルを覚えた。使わせて貰おう。


「伸突」


 短剣でも棍系統武器、棒でも使える便利技。効果は接近して付くだけ。

 何が便利って両手に使用可能武器を持ってたら2回同時に発動出来ると言う点。そして別の武器で使えば、同じ技でも別物の性能を発揮する。

 1回目は正面から来るゴブリンをナイフで付いて倒した。


「伸突」


 2回目は右から来る犬を体を捻りながら鉄の棒で突いた。

 1回目のナイフは普通に刺すだけで、敵モンスターはそこに残るが、2回目の鉄の棒は、受けたモンスターを吹き飛ばす効果を持つ。

 ナツが3レベルで他の3人も同じ程度のレベルだろう。それでもある程度拮抗してるのだ。13レベルの俺がモンスターを吹き飛ばすつもりで吹き飛ばす技を使えばどうなるのか。答えは簡単だ。

 すっごく吹き飛ぶ。



 正面は壁と言う名の息絶えたゴブリンが居る。右は吹き飛ばした。次は左。


「なぎ払い!」


 なぎ払いの再使用までの時間はかなり短い。こう言う次から次へとモンスターが襲ってくる時はかなり強い。伸突となぎ払いで切り抜ける事が出来る気がするくらいには。

 右側に捻った体を逆に戻す。正面で壁代わりになったゴブリンとその後ろもモンスター諸共左側のモンスターが一掃される。

 と、同時に伸突となぎ払いで切り抜けられると言うのは幻想だったと言うお知らせが届く。斜め後ろからもモンスターが襲ってくるようになったのだ。

 他の4人か崩れた訳ではない。レベルが上がっている間に扱いに困るパッシブスキルを入手してしまったのだ。


 1つが売れっ子体質。何故こんなスキルが作られたのか問いただしたいが、効果は一定範囲内のモンスターのヘイトを魅力というステータスに応じて上昇させるという物。

 魅力というステータスそのものについては今は置いておこう。

 2つ目は芸人の宿命。これを見た時そっちで来たのか、と思ったがこれは軽業師を言う職にする事を決めた所を全部説明しなければ成らないので今度にしよう。


 このスキルの効果は、戦闘中モンスターにダメージを入れる度魅力を上昇させると言う物。



 俺には即死級のコンボに見えるから不思議だ。

 だが、仲間の負担が減ったのは事実だ。ハードモードに行けば1人で全部と戦う必要性があったが、こっちなら粘れば仲間が助けてくれる。俺はその時まで耐え忍べば逃げなくとも助かる。


 ナイフを逆手に持ち、背後から来る犬に突き刺す。そしてもう一度なぎ払いだ。

 全方位から来るなら前に重心が集中する伸突は危険だろう。もう1つの技はよく解らないからある程度余裕が出来てからだ。

 まだまだ大量にモンスターが居るが、終わりは見えている。


「てか、他のメンバーと固まってればもう少し楽出来るか」


 そう言えば1人他のメンバーと離れた位置で戦っている。

 なんで離れたんだったかな。伸突で少しづつ前進したのに後退しなかったからか。


「よし、合流しよう」


 振り向き、なぎ払いをし、もう半回転で再び後ろを向き、バックステップでギルドメンバーの背後に立つ。


「他のメンバーは?」

「ナツ様もシンヤ様もカミアリ様も落ちましたわ」


 困ったことに仲間と合流するには手遅れで、カミナシが1人生き残っていたようだ。


「魔物呼びだっけ? ほんと困ったスキルだな」

「私としては助かっておりますがね」


 俺は命が懸かってるから安全に行きたいんだがな。

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