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二話目

「先輩、最近暇って言ってましたよね。それならこのゲームとかどうです。なんか職業を作るのはプレイヤー。無限の職で世界を駆け抜けろ。とか書いてますけど」


 誰かのゲームを紹介する程度のブログの一角にある広告。そこで1つのゲームを見つけた。


「お前アホだろ。今暇って言ってんのによ。これ発売再来月じゃねぇかよ。そもそも広告出すの早すぎだろ」

「でも先輩の飽きやすさならこの頃も暇ですよ。次の次の次は決まってよかったですね」

「俺そこまで飽きっぽく見られてんの?」

「次が足りないくらいじゃないでしょうか」

「あまり言ってくれるとお前の話もう聞かねぇよ?」


 それでも先輩は俺から席を奪い取り、リンクの先のページへ移動する。


「なになに、リアリティと自由度、ね。可能なのかよ。出来てもそれだけで内容の薄いゲームになるんじゃねぇの?」

「ゲームのストーリーを読み飛ばす先輩には都合が良いのでは?」

「それでいてやり込まねぇから重症だな」

「これはもうゲームしなくても良いんじゃないですかね」


 そして2人揃って笑う。いつもの事だ。俺がゲームを紹介し、先輩がこのシリーズはどうとか、このジャンルは苦手だとか言って誤魔化して、俺が茶化して先輩が乗ってくる。


「ならさ、このゲームで実現不可能な職考えてみようぜ」

「それってどうやって作るかによるんじゃないですか」

「ならそこから考えるか? 結局2つしか無さそうだけどな」

「解りますよ。先輩がこう言う時の選択肢。最初は見栄張って言っただけなのに何時も使ってることも」

「うるせぇな。俺も知ってんだぞ。俺が2つあるって言う度にお前が3つ目もあるって指摘することもな」


 この会話に価値は無い。ただ、何もしなければ消える日常の1ページというだけだ。だが、この先輩との話の末に生まれたのが軽業師だ。




 決して強そうではない。が、俺は日常からなんとなく生まれたこれに命を託すことにした。


「脚力3倍、素早さの補正。ようするに飛べってことだろ?」


 だが、たとえこのシマウマの上から飛んだとしても周囲の魔物から10メートルも距離を離せるだろうか。試す価値は? 失敗した時、上手く着地出来るだろうか。着地した時点で周囲の敵に叩かれるとかならないだろうか。

 右から犬が接近してくる。左手に持った鉄の棒で体を捻りながら殴ると倒せた。


「よし、飛ぶだけ飛ぶか。後の事は失敗してから考える。情報がないんだ。やれるだけやる事しか出来ない」


 どう言う訳かシマウマは狙われない。ならば多少酷いかもしれないが使うしかないだろう。

 ジャンプを発動させる。シマウマの上に立つ。バランススキルの影響か問題なく立てる。そしてシマウマの上で一歩分の助走を付け、シマウマの頭の上に足を掛け、飛ぶ。


 一気に空が近くなる中、器用にゲーム機を操作し、モードを変更する。だが、記されるのは10メートル圏内にモンスターが存在しますの文字。


「足りなかったのか」


 すでに降下を始めている中、地面を見るとシマウマが動いているのが見えた。このままだとシマウマの後ろに着地することになる。


「馬の背後に立ったらダメなんだよな。シマウマだとどうなんだろ」



 嫌な予感がした為、鉄の棒を地面に突き立てそこから軌道を逸らしシマウマの背後に着地するコースを回避することにした。

 地面を鉄の棒で付く。次は思い切って重心を変える。


 行ける。そう思った時、衝撃が襲った。シマウマが重心を変えて傾いた鉄の棒を蹴り上げたのだ。

 シマウマから離れた地面、そこにいるゴブリンの上。そこに着地出来るはずだったのだが、現実に目の前に迫る地面はシマウマの背後。


「やばっ」


 そう思った時には俺は蹴り飛ばされていた。

 景色が流れる中にボーリングのピンの如く吹き飛ばされるモンスター達が見える。どんどん遠のくシマウマ。かなりの攻撃を受けたはずだがHPはどうなってる? 今は考えるべきでない考えが頭を過ぎる。


 今はどうやって生き残るのか考えるべきだ。

 だが、出来る動きと言えば鉄の棒で強引にブレーキをかけるか、体を捻って視野を変えるかくらいか。変わったとしても横を向くくらいが限界だろう。


 なら、どうする。考えている間にもモンスターが流れていく。ゴブリン、犬、犬、ゴブリン、ウサギ。

 ゴブリン以外はどんどん体長が大きくなっている気がする。たまたま目に入ったウサギなど1メートルを越え、目つきも凶暴だ。


 まだ流れる。ゴブリンもだんだんゴリラのようになり、ウサギの手足が強靭になっていく。更にサイのようなモンスターも見えた。サイは最初遠くに見えただけだったが、かなり遠くに来たようだ。



 あのサイかなり堅そうだな。飛ばされながら冷静になってきた頭がそんな事を思う。あれなら飛べるんじゃないか? 思った瞬間にはジャンプを使い何時でも飛べる状況にした。体を捻り首も回し、後ろを視界にギリギリだが、入れた。


 サイが一匹直線上に居る。近づいていき、そして残り数メートル。失敗は、出来ない。触れると同時は遅いかもしれない。一瞬早くジャンプを発動し、跳ぶ。多分、これだ。


 そしてジャンプを発動させた。


 結論から言うと、俺はネットワークモードに入れた。

 だが、ジャンプは失敗した。何がダメだったのか、それは数メートルは一瞬で埋まる速度だったということだ。思考の間に距離が詰まり、ジャンプを使った頃にはすでにサイに上空に跳ね飛ばされた後だった。

 軽く数十メートル飛ばされた俺は全身が痛い中ネットワークモードに入ることに成功したのだ。


「また空だ。今回は雲が多いな」


 俺が次に寝そべっているのは恐らく石の上だろう。視界には石積みの建物が1つ見える。あと嬉しいのは人の声がすること。なんの話をしているのかまでは聞き取れない。

 右手にナイフと共に握ったままだったゲーム機を操作し、ステータスを確認する。


 レベルは何故か13まで上がっていた。残りHPは1。最後に得たスキルを確認するとパッシブ。安全着地。効果は着地失敗時にはHPが0にならないという物。あと1つでも低ければ死んでいたのかもしれない。


「とりあえず脱ハードモードには成功したんだ。喜んで良いよな」


 ナイフと鉄の棒を装備から外し、ゲーム機を袋の中に仕舞うと俺は握り拳を作り空に向け突き上げた。


「脱ハードモードに成功したんだ。このままイージーモードで生き延びてやる」


 もう一度言って再確認する。やっと実感が湧いた。

 そんな俺の手を誰かが掴んだ。


「え?」

「よーぃっしょっと」


 そんな声と共に引かれ、体を持ち上げられる。

 俺を手を握っていたのは肩くらいの長さの茶髪をした少女。俺を起こしてくれたのだろう。


「んー。ありがとう?」

「えーっと、どういたしまして?」


 間違ってなかったのか? わからん。


「じゃなくてですね」


 どうやら違ったようだ。


「空から落ちて来ましたけど大丈夫です?」


 そう言う事か。


「あぁ、少しボーリングして遊んでてな。もう少しで死ぬところだったよ」

「死ぬって、リスポン地点の設定でも忘れたのでしょうか」

「と言うか設定出来なかったとか?」


 ハードモードの事は言うべきだろうか。最後の1人になった部分まで言うと何か問題が起こりそうだ。あの人がハードモードに入ってたのに、とかそんな感じで。


「もしかして開幕から高レベルマップだった人ですか? 何人か最初からレベルの高いところに放り出されてもう死んでるらしいんですよね」


 そう言う彼女の表情は見る見る内に暗くなっていった。俺は悪くないというのは言い訳だろうな。


「余計な事を思い出すのなら話さなくてもいい。何かあったのかは知らないが、俺はもう死ぬ予定ないし、何かあったんなら手伝わなくもないから」


 困惑顔だ。やはり人と話すなど慣れない事はするべきじゃなかったのだろうか。


「あ、あぁ。そう言うことですか」


 そして勝手に納得された。何を納得したのだろうか。


「うちのギルド、枠が1つしかないですけど入ってもらって適当にレベル上げしましょ」


 ふむ、確実に何か違う解釈をされたな。けど、ギルドか。ギルドに入れば安定して多人数プレイが出来そうだ。乗るべきだな。


「1人というのは厳しいからな。ありがたい。本当に助かる」

「それじゃぁ、招待状送りますね。参加するを押していただければおっけーですよ」


 メッセージが追加されていた為確認してみると、『一匹狼の家からギルドに招待されています』となっていた。ギルドレベル1で、5枠ある内1つしか埋まっていない。その1つがナツ、レベル3。


「リア友何人かが残りの枠予約してるから、まだ1つしか埋まってないんですよ」

「あぁ、そう言うことか。それならこれで5枠増えたな」


 メッセージに記されている参加するを押し、最終確認に出てきた参加するとやっぱやめるの二択も参加するを押すと、ギルドメンバー欄にハルトの名前が追加され、ギルドレベルが2に上がった。

ギルドメンバーの合計レベルが15でギルドのレベルが上がったからだ。5人揃えればそれぞれ3レベルで済む。


「え? ウソ、でも本当にレベル2に、と言うかレベル13って何者ですか」

「今思えばあのボーリングでレベルが上がったのか」


 死に掛けたけど、他にレベルが上がる要素が解らない。


「え、えっと。本気で?」

「あぁ、数え切れないほどのモンスターを蹴散らしたからな」


 それでもやっと13ってレベル上げハードすぎるだろ。いや、ハードモードだったな。


「えと、それじゃぁ凄く強いハルトさん。レベル上げ手伝って貰えますか?」

「あぁ、出来るだけ頑張らせてもらいますよ。ナツマスター」

「マスターなんてやめてくださいよ。ナツでいいですよ」

「なら凄く強いとかそう言うのやめてくれ」


 その言葉は恥ずかしい。


「解りましたよ。じゃ、行きましょう。ギルドメンバー募集だしておいたので途中で人が来るかもしれませんし」


 先に進むナツを追いかける。リスポン地点の事は忘れているようだ。




 街中を進んでいると商店のような場所が多い気がする。というかこの道ほとんど商店だ。野菜を売っている店が多い。

 この道がこの街の中心なのか。それとも他にもっと大規模な所があるのだろうか。


 お、果物売ってる店があるじゃないか。ナツを見失わないように気を付けつつ、その店の前へ行く。


「なぁ、この果物いくらだ?」


 それはどう見てもリンゴだ。ちなみに店の店主は太り気味のおじさんである。


「リンゴかい? リンゴは10ゴールドだな」


 ほらリンゴだ。支払いはどうするのかと思っていたが、ゴールドを実体化出来ないか試そうと袋の中を確認したら硬貨が1つ入っていた。それを出してみたら正解だったようだ。


「まいど」


 店主は短くそう言う。俺はリンゴを1つ受け取ると、ナツを追おうと立ち上がる。


「お、待っててくれたのか」


 そのナツは俺の横に立っていた。


「もぅ、勝手に寄り道しないでくださいよぉ」

「ゴメンゴメン。見失わない自信があったから大丈夫だと思ってな」

「もぅ、私なんて一度人だかりに入ってしまったらすぐに見失う自信ありますのに」

「ナツは小柄だもんな」

「きっと成長するので大丈夫ですよ。それよりも行きましょ。次こそ寄り道しないでくださいね」


 今度のナツは先に行かずに隣に並んで歩いてきた。俺はリンゴを頬張る。


「欲しくてもやらねぇぞ」

「それ、私が物欲しそうに見てたような言い草ですね」

「そうなのか?」

「違いますよ!」


 本屋とかあるのか。


「寄り道しちゃダメですよ」

「あれは香辛料専門店って奴なのか?」

「そうみたいですね。寄り道はしないですからね」


 むぅ、厳しいな。


「もう新規加入者が門のところで待ってるんですからね」


 それを早く言ってくれ。それなら無駄な時間は使わなかった。


「急ぐぞ!」

「え、ちょっと。待ってくださいよ」


 門の近くまで来ると目に見える商店の数が減り、看板は出ているが外に商品が出ていないような所が増えてくる。宿屋とか酒場とかそう言うタイプの店なんだろう。


「ハルトさん早いですよぉ」

「ギリギリ追いつける速度だったろ?」

「追いつけませんよ! 早すぎますって」


 のんびり歩いていた程度の速度からスキップ程度の速度まで速めただけなんだがな。


「素早さに補正かかり過ぎじゃないですか?」

「ボーリングの力だろうな」


 今思えばぶっ飛ばされてただけだ。他の行動はまったくしてない。素早さの補正は大変なことになっているだろう。そういえばあれでHPが1になってた気がするがこのまま戦闘なのだろうか。更に言えばHPについてちゃんと説明されてない。

 なんとなく怖くてステータス確認してみたらHPが半分程度まで回復していた。

 回復する要素はなんだ? リンゴか? 時間経過で回復するタイプだったのか? わからん。

 と気づいたら門の傍までやってきたようだ。門は木製で石積みの壁に後から付けたような印象を覚える。


「ハルトさん、3人はギルドハウスの中で待ってもらってますので、こっちですよ」


 ナツが俺を1つの建物に案内する。石積みの建物が多いなかで珍しい木製も家。上の方へ目を向けるとベランダまで完備しているようだ。


「これがギルドハウスか? 良いとこだな」

「ですよね! これもハルトさんのお陰ですよ」


 俺達のギルドハウスは門から入りすぐ左手。外で活動するなら最高のポジションに存在していた。

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