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一話目

 なんの変哲もない日本の一角の一風景。数名の少女が纏まって話している光景が見られない方が珍しいだろう。


「それでお兄さんは今日休みなの?」

「えー、体育楽しみだったのに」

「面白いのにねー」

「あはは、お兄ちゃん今日ゲームが届くって張り切っててね。多分今週は出てこないよ」


 3人の少女がその内の1人の兄について話題にして休み時間を潰していた。そこに好意は見えても、恋愛感情等と言う物は欠片もない。


「ゲームって最近CMでやってるやつ?」

「世界中で発売されるんだよね」

「そうそう。なんて言ったかな」

「えーっと、あれ? 忘れちゃった」

「あ、そろそろ授業始まるよ?」


 その時時計は12時を示していた。3人とも、今までの会話など意識から無くし、次の授業の用意をする。





「んーっと、キャラクター名は、ハルト、っと」


 携帯ゲーム機に表示される入力項目を前々から決めていた通りに入力していく。


「バトルスタイルってのはメイン職業か。事前情報と少し違ってるのか」


 ここでまずこのゲームの特徴が上がって来る。職業は選択せずに入力する。ようするにこの時点で実際に選択出来る職業の選択肢が解らないのだ。


「プロダクションってのは、えーっと、ん? 多分生産職の方か、入力必須じゃないけど手品道具とでも入れとくか。後は性別男っと。手品道具ってなんか違う気がするな。ま、いっか」


 次へ進む。


「アバターを作る、ね」


 各パーツに幾つも種類が存在し、それらを組み合わせ1つのキャラクターを作る作業だ。

 公式サイトでは時間が掛かるこの作業を事前にしておくことが出来た。そこで作ったアバターは、数値化し保存できる。そして、その数値を入力すると、公式サイトで作ったアバターがゲーム内にも登場する。

 そこに現れたアバターは、何時間も考えただけはあって、納得のいく出来だ。


「しかし、無駄にリアルだよな、これ」


 と言いつつキャラを確定する。

 本当に人間をパーツを組み合わせることによって作ったかのようなそれは、このゲームをする人口を少しは減らしたような気がする。世界観までリアルに作られてたら長持ちしないかもな。

しかし、すでに公式では怖いくらいにリアルな世界観と宣伝し、ビデオで撮ったかのようなムービーも公開されていたのだが。


「んーっと。先輩との待ち合わせは1時だったかな。一時間か。それまでシングルモードで流してからオンラインに入るかな」


 まず真ん中にノーマル、上にネットワーク。下に何故かハードモード。どう言う訳かローカル通信には対応してない事はゲームパッケージをよく見れば判明してしまう。

 そしてノーマルモードでゲームを始めようとゲームを操作する。決定を意味する一番右のボタンを押した時、視界が暗転する。そして、意識が途絶えた。




 かなり寝心地が良い。太陽は雲が隠しているが、漏れ出ている光からそこにあることが知れる。空は綺麗な水色。そして俺が寝そべっているのは、巨大で横に大きいシマウマ。

 俺は世界中で使われている携帯ゲーム機の新作、フレンドリーワールドを始めたはずだ。


 それがどうしてこうなった。考えてもわからん。


「よっと」


 体を持ち上げ、シマウマに座った大勢になる。


「おぉ」


 短く感嘆の声をあげてしまう。

 そこにあるのは、目に入る限り広がる地平線。そして緑一色なのだが、光を反射し、色合いの変わっていく、草原。

 映像ですら、滅多に見ない光景に、少し感動したが、やはり何故ここに居るのか解らない。1つ解ることはシマウマの進むペースが遅いからしばらく地平線を見なければいけないという事。


 前から目を逸らす。側面を見ると、やや後方に山や森がある事に気付いた。だが、そちらに何かがあるとも思えない。



 更に自分の服装を確認した。長袖のシャツに長ズボン。どちらも安そうだ。ふと腰に巻かれたベルトに小さな袋が付いていることに気づく。


 他に何かが出来る訳でも無い為、それを開けてみた。中には光の反射で、赤く光る角の丸まった長方形。モニターに8つのボタン。そしてアナログパッド。更に見逃しやすいスタートボタンとセレクトボタン。電源は側面。これは少し前まで触れていたゲーム機と同一だ。見間違えるはずがない。一度は俺を絶望させた傷も付いている。


 ゲームソフトはスロット内に入っている。抜こうとしても抜けないが。そして、SDカード。こっちも抜けない。

 やることと言えばシマウマと戯れるかゲーム機を起動するかの二択。こいつと戯れるのは後でも良さそうだ。


 なのでゲーム機の方を起動してみると見慣れた壁紙のホーム画面が開いた。そこで入っているソフトの情報を確認すると、フレンドリーワールドになっていた。起動してみる。


 ロードなど一切無く出てきたのは幾つかの項目。

 当然、少し前に同ソフトを起動した時とは、かなり違う。

 ステータス、モード、そしてチュートリアル。うん。これがゲームなら怖いな。ゲームの開始時と言えばこれだろうと、チュートリアルを選択してみる。


「えーっと? 戦闘チュートリアルに、採集チュートリアル。二種類か。ま、先に戦闘だな」


 押して後悔した。地面から小さな腕が生えたかと思うと、次から次へと謎生物が出てくる。二足歩行でやや緑色の肌に潰されたような鼻。更に大きな口と、髪は無く、小さな角が2つ。まるで俺の想像するゴブリンのような。それが軽く30。


 シマウマも震えている。

 咄嗟にゲーム機のモニターを確認する。


「ステータス画面から装備の設定か。持ってる武器が鉄の棒って、防具も布の服とか」


 鉄の棒を装備する。すると空から鉄の棒としか表現出来ない何かが落ちてきた。不思議と自然と受け取る事が出来る。こうして見ても鉄の棒だ。


「次は、コレで戦えって投げやりだな」


 リアルすぎて殴りづらい。とりあえずシマウマから降りるか。一度跨ぐようにして両足を揃えると、飛び降りた。

 ゴブリンは襲ってくる様子は無し。鉄の棒は届きそうだ。とりあえず、目を閉じて、思いっきり、振る。


 何か堅い物を殴ったとかそんな感じ。ゆっくり目を開くと、ゴブリンが少し離れたところで倒れていた。

 そして周りのゴブリンがギャーギャーと騒ぎ出す。


 一匹やった。行ける。俺はもう何も考えない。近くの一匹を真っ直ぐ、突く。そしてゴブリンが動き出す。


 標的は俺だけ、シマウマは狙われないようだ。シマウマの裏に居た奴も回りこんでくる。

 そんなゴブリン達を鉄の棒の射程ギリギリでたたき続ける。10匹倒した辺りで、攻勢が止んだ。


 そしてピコンと言う場違いな電子音。ゲーム機を見てみるとレベルアップと表示されていた。ボタンを押すとレベルアップのチュートリアルが始まっていた。


 それによると、レベルアップ時に各ステータスにバトルスタイルによるが、1以上割り振られ、それとは別に行った戦闘時の動きによってボーナスが加算される。

 例えば今回その場を動かずに殴り続けた為、バトルスタイル補正以外に攻撃に関するステータスが主に上がっているはずだ、と。

 次に獲得スキルを表示された。内約はこちらで意識させて発動させるアクティブスキルがジャンプと、なぎ払い。そして常に発動し続けるパッシブスキルがバランス。らしい。


 バランスというのがよく解らないが、とりあえずチュートリアルだ。アクティブスキルは意識すれば自動で発動し、プレイヤーにそのスキルの動きを覚えさせるようだ。そして覚えさせられた動きを実行すれば良い。使い慣れればそこからの動きの幅が広がるようだ。


 ただし、アクティブスキルは使えば覚えた事を忘れ、また発動しなければならず、一定時間立つことでも忘れる。

 更にほとんどのスキルはスキル毎にステータスに補正を掛け、超人的動きを可能にするんだとか。

 更に無茶しなければスキルの組み合わせも自由自在。

 特別に覚えたスキルを発動状態にしておく。

 そこまで読んでチュートリアルが終了した。


 そして、ゴブリンが動きだした。


「って、うぉ!? スラッシュ!」


 チュートリアルが終わった瞬間ゴブリンが飛び込んで来た。驚くのも仕方ないと思う。そして発動状態になった棒を横に広く高速で振るなぎ払いをスラッシュと叫びながら発動した事も仕方ないと思う。


 4匹ほど纏めて殴り飛ばしたが、全く負担が掛からずに振りぬけたのが、補正って奴か。そして横から殴られたゴブリンが真後ろに飛ばされたのもスキル補正だろう。


「うぉぉぉおおおぉおお」


 あとは以下略だ。とっさにスキルでなぎ払った後はひたすら何も考えず殴るだけ。途中でもう1回レベルが上がり、少し楽になったとだけ言っておく。


 ジャンプの方はレベルが上がる前に左右から迫られた際に使ってみた。シマウマを越えて飛べた。着地する時に左右から来ていたゴブリンを両方踏みつけてやった。


「お、なんかスキル覚えてるな。んーと、ダッシュ? ダッシュってダッシュだよな。走るんだよな」


 そしてチュートリアルは進んでいる。


「モンスターを倒すとゴールドと素材が手に入る。それらはステータスで確認出来るっと」


 自動でステータス欄に飛んだ為確認すると、上からジョブ、装備と来てその下に所持品とあり、中にはゴブリンの爪、ゴブリンの歯と言った微妙な素材が並んでいた。

 そう言えばゴブリンは飛び込んで来ていたが、手に何も持たずにどうやって攻撃するのだろうか。

 殴ると言うのが最も解りやすいが、ドロップを考えると引っ掻くや、噛み付くという可能性もある。あの見た目じゃどれも嫌だが。


 所持品のページを閉じると、チュートリアルに戻った。だが、何か文章を残しすぐに終わる。

 そこには、「以上で戦闘チュートリアル(ハードモード)を終了いたします。ノーマルモードの敵と戦いたい場合は、ネットワークモードに移行して頂けば、1人で戦闘しない限り可能となります。なお、移行の際、半径10メートルほどのモンスターをすべて倒さなければ移行は出来ません。では、異世界の生活をどうぞ、お楽しみください」


 うん。色々と言いたい。まず、ハードモードの文字だ。確かにチュートリアルにしては相手が多かったが、俺はノーマルモードで始めたはずだ。


 次にネットワークモードの存在。恐らく、トップ画面に存在していたモードという奴だろう。そもそもネットワークと言う時点で突っ込みどころなのだろうか。

 そして異世界の文字。ゲームとしての定型文だろうか。でもそこはフレンドリーワールドと書くと思う。そして本当に異世界ならネットワークモードと言うのはやはり突っ込みどころなのだろう。


「はぁ、まじ、どうしろって言うんだよ。いや、ネットワークモードに行けってことなんだろ?」


 とりあえずモードを変えようとして、トップ画面に行くと、メッセージというのが増えているのが見えた。確認してみる、前にシマウマに乗る。勝手に進む。


「よし、メッセージ確認するか」


 メッセージは3通。不吉な題名の最新を無視し古いのから目を通す。

 一番古いのはチュートリアル達成。内容はチュートリアル達成記念に装備をくれると、その装備は派手な服。ふざけているのかと聞きたいが、装備した。鉄の棒を振り回す派手な服の男と言ったところか。ふと思うと初期装備が鉄製と言うのは地味に恵まれている気がする。


 次に古いのは各モードについて。内容はネットワークモードとハードモードの違いを書き記した物だ。


 ハードモードは山、森、草原、海と様々なところに魔物が住んでいるが、人は居ない。ハードモードプレイヤーはそこでノーマルや、オンラインではどうしようもない速度で力を得ることが出来る可能性があるのだとか。

 だが、そこで死ねば死ぬ。理由は、死に戻れるリスポーン地点が設定出来ない為とか言うがなんか納得できない。


 ネットワークモードは、巨大な拠点から始まり、各方面に存在する別の拠点にも移動出来る。が、稀に拠点に入れなかったりするらしい。また、そこに居る様々なプレイヤーや、住民と共に活動することが主な目的となる。

 注意点としては、魔王などの存在は居るが、死ぬまで何もないかもしれないし、人類が滅びるほどの事があるかもしれない。


 また、ノーマルモードの人は戦闘中に限り死んでも拠点で死に戻れるとか。うん、そこにハードモードも加えて欲しかった。どうしてハードモードプレイヤーは死に戻り地点の設定が出来ないとかなっているのか。ただし、最後に死に戻り地点に選んだ拠点が制圧されれば、死ねば死ぬとか書かれても死ぬまで何もない可能性を示してる辺りまだ納得でない。


 だって最新のメッセージが最後のハードモードプレイヤー様へってなってるもん。唯一じゃなくて最後ってどう言うことだよ。

 まさかね、2人しか居なかったとかそんなのありえないよね。開くよ! 読むよ!


 3403名のハードモードプレイヤーが死亡し、最後にダイチ様の完全な状態での生存を確認した為、バトルスタイルに合った特典を送ります。


 と言う内容があっさり書いてあった。このゲーム、のハードモードプレイヤーの人口が少ないのか多いのか知らないが、俺がチュートリアルをしている間に死んだのか?


 確かに自分が始めたのが遅かったのかもしれないが、俺が始める前の時点ではネットを少し回れば実況が行われていた。もし仮にゲームを始めた瞬間異世界に連れてこられるとすれば、実況なんて出来ないだろう。


「まさか、でも、それなら死ねる」


 ふと頭を過ぎった可能性に装備を受け取るが、付け替える手間を惜しみネットワークモードへ移動しようとする。が、10メートル圏内にモンスターが居ますというアナウンスだけで移動が出来ない。


「嘘、だろ。くそ、もっと早くモード変えるんだった」


 モードを変えれないなら戦闘しざるを得ない。装備を変える。派手な服よりかは少し地味だが、かなり大きいと思われるステータス補正や脚力3倍と言ったパッシブスキルの発動する、服に素早さ系のステータスに補正のかかるナイフ。


 周囲は草原だが、ゴブリンは地面から現れた。今モンスターが視界に入らなくても、視界の外に居る可能性ならいくらでもある。

 そう、地面からとか。

 次々と現れるゴブリンや犬。遠くの方には巨大なサイまで見える。よく見るとどの方位を見ても地平線だったのが、山や森まで地面から現れているようだ。


「半径10メートルの空間を作ればネットワークモードに逃げられる。とりあえずここを切り抜けさせてもらう」


 俺は右手の『最後の軽業師のナイフ』を正面のゴブリンに向け、左手の鉄の棒を地面に付き、構えた。


「1回戦闘をこなした。冷静になった。普通に戦えば確実に志望者数を増やすだけ、なら俺の思うこの職、軽業師の戦い方で自由にやってやるよ」

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