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6.筒抜けの心

 いつものように私の身体を縛りながら、亜希がとんでもないことを言い出した。

「縛るだけってのにも飽きてきたなぁ」

「そんなこと言わないで!」

 最近、どこかマンネリ化したような惰性感があったのは確かだ。だから怖かった。亜希が私から離れていってしまうことが。私を縛ってくれなくなることが。

 ついにこの時が来てしまった……!

「早とちりしないの。キィは私がずっと縛り続けてあげるから安心して。ほら」

 仕上げにぎゅっと締めつけることで縛りが完成する。

 どれだけ力を入れて身体を動かしても、縄は緩まないし解けない。

「嬉しそうな顔しちゃって。縛られるのってそんなに楽しい?」

「うん。ずっとこうしていたい」

「ふーん」

 すると亜希は私の頬を指でつまみ、左右上下にとむにむに動かしてくる。

「にゃにするの」

「キィばっかり楽しんでてずるいなーって思って。あはは、変な顔」

 やめてって言ってもやめてくれない。止めようと思っても縄に邪魔されて止められない。

 何をされても無抵抗でいるしかないなんて……そんなことを思うたびに身体がどうしようもない衝動に駆られて、嬉しいようで切ないような、不思議な気持ちになってしまう。

「何をされても喜ぶんだね。今のキィは」

「そんなことないし」

「例えばこうしてみると」

 亜希の指が私のスカートをつまみ、ゆっくり持ち上げていく。

「や、やめて……」

 太ももがさらけ出されようとするあたりで手を止め、見えるか見えないか分からない微妙な位置をキープされる。

「ほらほら、見えちゃうよー」

 女の子同士だし、二人きりだ。だから最後までめくり上げられても恥ずかしいことなんてない。そのはずなのに、私の心臓はうるさいほど高鳴っていた。

 いつも膝が隠れるほどの長さにしていたこともあって、太ももに触れる空気がくすぐったい。

 このままスカートの中を全てさらされてしまったら、どんな気持ちになるのかな……。

「ほら喜んだ」

「喜んでない!」

 亜希はきっと何か勘違いしてる。こんなに顔が熱くなるほど恥ずかしい思いをしてるのに、喜んでるはずなんか絶対にない。

「素直じゃないんだから。こないだはお尻叩いてくださいってお願いしてきたくせに」

「それは亜希がくすぐってくるから……!」

「そっか。大義名分が立たなきゃキィもやりづらいってことね」

 スカートから手を離した亜希は、指先をそっと私のお腹に触れさせる。

「くすぐるの……?」

「どうしよっかなー」

 服の上からどうして場所が分かるのか、指はおへその周りでぐるぐると円を描く。騒ぐほどくすぐったいわけでもないけど、むずむずしてしまって堪らない。

「思いついた。キィが素直になれる大義名分」

 すると亜希はいつも縄を隠している鞄を持ちだして小さめのスポーツタオルを取り出した。

「前から用意してたんだけど、キィが嫌がるかと思ってしなかった」

 それを大工さんが頭に巻いてるハチマキのようにねじると私の口元にそっと近づける。

 どういうつもりでこんなものを用意したのか。タオルが唇に触れた時、亜希の目は私のことを見つめていた。

「喋れなくなるけど、いい?」

「う……」

 お互いの心の中を覗き込むようにまばたきもせず見つめ合う。

 ああ、ここだ。こういう時に即答できないのがいけなかったんだ。

「分かった!」

 次の瞬間にはタオルを噛まされていた。まだ何も言ってないのに!

「ふぐぅぅっ」

「駄目とさえ言えないようにしてほしかったんだよね、キィは」

 後頭部でタオルをしっかり結び、どうあがいても外れないようにされてしまう。

 あごを大きく開かされたまま閉じることができなくて、何を話しても呻き声にしかならない。私がうーうー言っている間にも、亜希は私を抱きしめて耳元に囁いた。

「いいこと教えてあげる。キィってさ、クラスじゃ人気者なんだよ? なんでか分かる?」

 分からない。首を横に振ろうと思ったけど、亜希は構わず言葉を続けていた。

「いじめると可愛いんだって。キィが席を外してる間、女子グループと話してたらそう言ってた」

 言われてみると心当たりは確かにあった。いきなり背後からくすぐられたり、着替えの最中に体操服を取りあげられたり……じゃれ合う程度だけど、ささやかないたずらをよくされる。

「キィってクラスじゃ真面目な子って印象なのよ。そういう子ってからかうと怒るけど、キィは違う。だから可愛がられるのね」

 亜希は私の身体を這う縄にそっと指を添える。

「みんな知ったら驚くよー? キィが縛られて喜ぶような子だったなんてさ。今だって顔赤くして、私にいじわるされるのを待ってる」

 指は縄を離れ、私の首を撫でてくすぐった。

「んううっ」

 私が身体をよじらせて抵抗しているにも関わらず、指先はずっと顎の下で蠢き続ける。

「キィは聞いたことある?」

 やがて指の動きはぴたりと止まり、亜希の顔がぐっとこちらに近づいた。

 互いの吐息がかかる目と鼻の先。

 亜希は溜め息のように消え入りそうな声で、私の心に直接語りかける。

「そういう人を……マゾ、って言うんだよ」

 テレビなんかを見てて聞いたことのある言葉。

 それは、いじめられることが好きな人。

「自分のことをサドだって言う人はいるけど、マゾだって言う人はあんまりいないよね。それだけマゾのほうが変態的で、特殊ってこと」

 身体中がくすぐったいような、疼くような……。これ以上聞いていたらいつか心を壊されてしまいそうなくらい、亜希の言葉の一つ一つが染み渡る。

 息ができないほどドキドキしてて、今にも倒れてしまいそうだった。

「縛られて嬉しいんだよね。でも段々それだけじゃなくなってる。いじめられるのが嬉しいんだ。キィはどうしようもなくマゾなんだから」

 言わないで。もう分かったからぁ……。

「あらら、顔がトマトみたいに真っ赤だよ。そんなに恥ずかしかった? ごめんね」

 亜希の手が私の頭にそっと触れると、泣き虫を慰めるように優しく撫でてくれる。

 私は顔から火が出るんじゃないかというくらい熱くなってしまって、とても人に見せられるような状態じゃない。それなのに亜希は私が恥ずかしがってる顔を覗き込んでにやにや笑っている。

「むうう……」

「キィのおかげで楽しかったよ」

 はいはい、どういたしましてっ。

今回のテーマは「言葉責め」でした。

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